新仁義なき戦い 組長最後の日 | 俺の命はウルトラ・アイ

新仁義なき戦い 組長最後の日

『新仁義なき戦い 組長最後の日』

 

 

映画 トーキー 91分 カラー

昭和五十一年(1976年)四月二十四日封切

製作国 日本

製作言語 日本語

製作会社 東映京都

 

企画 日下部五朗

    橋本慶一

    奈村協

 

脚本 高田宏治

撮影 中島徹

 

音楽 津島利章

美術 雨森義允

照明 増田悦章

編集 市田勇

助監督 野田和男

スチール 中山健司

進行主任 伊藤新将

 

 

 

出演

    

 

菅原文太(野崎修一)

 

松原智恵子(中道麻美)

 

和田浩治(中道努)

桜木健一(西本明)

 

地井武男(寒川松蔵)

尾藤イサオ(加田伸吉)

南条弘二(鹿田功男)

 

川谷拓三(津川一成)

衣笠恵子(初恵)

曽根将之(庄司常雄)

林彰太郎(潮見俊也)

三上寛(ター坊)

 

山本麟一(栗原岩男)

汐路章(小坂市兵衛)

八名信夫(根本鶴吉)

梅津栄(山田東吉)

江幡高志(杉本刑事)

西田良(重松秋良)

小林稔侍(柴田巡査)

南道郎(河原玄次)

 

片桐竜次(田中好美)

内村レナ(宮本幸子)

成瀬正(吉田忠吉)

大木晤郎(藤沢徹治)

幸英二(川谷末松)

松本泰郎(隅田)

笹木俊志(川崎進三)

芦田鉄雄(山下捜査四課課長)

 

岩尾正隆(中原保明)

丘路千(前田政吉)

秋山勝俊(若衆)

白川浩二郎(若衆)

衣竜快二(塚口隆)

五城影二(松村武夫)

志茂山高也(常本政吉)

小田真二(塚本次郎)

 

司裕介(武井伸司)

堀めぐみ(奈美)

寺内文夫(今村正人)

鳥巣哲生(月田八郎)

小田正作(塚本次郎)

細川ひろし(畑中利男)

疋田泰盛(朝海部長刑事)

簑和田良太(中野刑事)

酒井哲(ナレーター)

 

福本清三(松岡若衆)

波多野博(新聞記者)

森源太郎(野村刑事)

浅川志織

北川俊夫

矢部義章

奈辺悟(少年)

 

 

唐沢民賢(新聞記者)

前川良三(安田刑事)

白井孝史(警官)

藤沢徹夫(関本)

野口貴史(パトカー警官)

中村錦司(桜井)

 

多々良純(岩木定春)

郷鍈治(ジョー)

中原早苗(岩木久乃)

横山リエ(小中み鈴)

名和広(船田政男)

織本順吉(本山孝夫)

 

藤岡琢也(米元政夫)

成田三樹夫(松岡光治)

小沢栄太郎(坂本英光)

 

監督 深作欣二

 

和田浩司=和田浩二

 

曽根将之=曽根晴美

 

成瀬正=成瀬正孝

 

名和広=名和宏

 

小沢栄太郎=小沢栄=小沢英太郎

        =小澤英太郎

 

深作欣二=ふかさくきんじ

 

鑑賞日時場所

平成十三年(2001年)二月二十三日

日劇会館

 感想文では物語の結末まで言及します。

未見の方はご注意下さい。

 ☆

 閏年の二月二十九日の尼崎において一人の

売春婦が殺害された。

 真犯人はやくざ西本明の情婦売春婦小中み鈴

であった。明を巡る嫉妬を根とした殺人事件を契

機にして大阪坂本組と尼崎の河原組の抗争が激

化する。

 

 仲間を殺された坂本組系米元組中道努は河

原組を銃撃する。

 

 中道は九州岩木組に所属していた際に、兄

貴分野崎修一の妹麻美と恋におちた。

 

 岩木貞春親分は二人の愛を知り成就に尽力

した。だが、野崎は妹麻美を溺愛しており、中道

の顔に斬り付けて九州から追放することで仲を

許した。

 

 米元政夫親分は警察官に尋問されるが白を

切る・河原組は、岩木を含む九州・広島・下関

の七人会の力を背後に米元を襲い、坂本組事

務所も爆破する。

 

 坂本英光組長は日本最大の組織坂本組の

頭領である。還暦祝いの席で米元は「サツが

うるそおまんね」とマークされ厳しい取り調べを

受けていることの苦渋を語る。

 

 坂本は「警察恐ろしかったらヤクザ辞めてまえ」

と冷厳に語って突き放す。 

 

 大幹部の栗原は「親分怒ってはんな」と坂本

の機嫌が悪いことへの恐怖感を述べる。

 

 追い込まれた米元は組内の形勢逆転を図る

ことを決意する。

 坂本組の内部では松岡が外交で勢力を伸ば

す方法を模索している。

 

 九州玄竜会の会長船田と副会長岩木は七人

会のメンバーでもある。

 

 岩木貞春親分は口のきけない子分東吉を将

棋を指す。堅気の仕事は建設業である。

 野崎は建設現場で指導者でもある。岩木は野

崎の独身を気にして縁談を持ちかけようとする

が、妻久乃は野崎の独身主義を確かめる。

 

 七人会の親分衆は阿蘇温泉のホテルで宴会

を催し、上機嫌の定春親分は「男は筑豊たい」

と宣言し、子分野崎の男気を絶賛する。

 

 別室でマッサージを受けていた岩木貞春は

女装した男の殺し屋に刺されて死亡する。

 

 七人会の他の親分達は「殺されたのは儂らだ

ったかもしれん」と恐怖に震える。実行犯は消さ

れてその遺体の発見者はオカマと呼ぶ。

 

 野崎は殺された岩木貞春親分の無念を晴らす

為に真犯人である坂本英光親分暗殺の課題を

示す。

 

 船田政男会長は坂本組の威勢に怖気づき、

復讐を思いとどまり、「無用の血」をこれ以上流

すべきではないと野崎を説得しようとする。

 

   「無用?親父の血が無用と言われると

   ですか?」

 

 岩木貞春暗殺事件を無用の血の流れと評さ

れ、野崎の怒りの炎は更に燃えた。

 

 舎弟の寒川・伸吉を協力者にして野崎は坂

本襲撃計画に執念を燃やす。

 

 中道は野崎と再会し飲みに誘い、岩木親分

死亡に哀悼の意を表し、「信用しちゃりない。米

元の親分はあんな卑怯な事する人じゃなか」と

真犯人黒幕は米元ではないと説く。

 

 仲間のター坊から韓国人の凄腕殺し屋ジョ

ーを紹介された野崎は、米元暗殺を依頼する。

 

 松岡は玄竜会・七人会と戦闘を交え若い者

の血を流すよりも対話で傘下に置き従えるほう

が得策と考え、米元を連れて船田ら九州の親

分衆を宴席に招待する。

 

 米元は若くて綺麗な妻初江を自宅に残して

いた。

 初江は夫の留守に若い愛人と抱き合う。潜

んでいたジョーに気付いた愛人の男はジョー

と戦い、ジョーは銃弾を受けながら初江とその

愛人を射殺して息絶える。

 

 寒川は米元の女房が男と浮気しとった現場

でジョーがぶっ放してしまいましたと野崎に電

話する。

 

 坂本組・七人会の宴席で初江殺害事件の知

らせが入る。

 激怒した米元は煮えたぎる鍋を船田にぶっか

ける。松岡は驚く。

 

   「こいつら、儂のカカ、殺しおったんじゃ!」

 

 米元は激怒する。野崎の名を聞いた松岡は

暗殺者としてマークする。

 

 野崎はダンプカーで坂本を襲うが紳吉が運転

を誤り、取り逃がす。

 

 米元は破門され、一連の抗争事件の責任を

負わされる。

 

 西本は大阪に来た野崎を嗅ぎまわり、逆に

捕えられ、寒川・紳吉に糾弾され、情報を喋ら

ないことを確約するが、彼の情報量の多さは

野崎に睨まれる。

 

 野崎の命令により、寒川と紳吉はおしゃべり

男西本を処刑する。

 

 野崎は夜の屋台で「執念深い男」と自己確認

し、幼い頃炭鉱事故で死んだとされた亡父を求

め、幼い麻美を負ぶって探した事を寒川に語る。

 

 復讐に燃える野崎は絶対に諦めない男であ

る。寒川は恐怖感を覚える。野崎に従う限り、

坂本組からは狙われる。

 

 松岡協力者となった船田の部下根本のもと

に行った寒川は、裏切ることを宣言し、野崎の

情報を喋る。

 

 その動きを野宿生活をしている東吉が見て

いた。

 

 根本は寒川と部下を引き連れ、野崎・紳吉を

襲撃するが、東吉は寒川を刺殺し、根本らの銃

弾に身を晒し野崎を助ける。

 根本を倒した野崎と紳吉は銃弾を浴び致命傷

を負った東吉に深謝しその最期を見届ける。

 

 中道は九州の抗争で足を痛め、松葉杖をつい

ている。酒浸りになりながら、「野崎の兄妹はでき

とったと評判やったな」と麻美に実の兄との仲を

疑い嫉妬する。

 「あんたまでそんな噂を」と麻美は悲しむ。

 

 野崎の姿を見つけた中道は銃を持って決戦を

挑むがトラックに轢かれて死亡する。麻美は衝撃

を受け、修一は妹を抱きしめる。

 

 復讐戦で紳吉は恐怖に怯え錯乱状態になりつつ

あった。死の恐怖で心身の疲労は重い。

 

 麻美は何としても兄の復讐に協力したかった。紳

吉に離れられては兄の命がけの大望は果たせない。

 

 野崎は大阪天王寺駅で坂本英光を狙い狙撃

しようと機会を窺うが、坂本は体調不良で倒れ

病院に搬送された。

 

 警備・警察は野崎を発見し捕えた。

 

 麻美は紳吉を誘い、兄を助けて欲しいと頼む。

紳吉は麻美に抱き着き、野崎救出を確約する。

 

 紳吉は病院で野崎を脱出させ、自身は暴れ

警官に銃殺される。

 

 坂本入院先の病院に潜入した野崎は遂に

英光病室にたどり着き拳銃を構える。

 

 その坂本はベッドに横たわり、鼻や口にチュ

ーブを挿入されて呼吸する程重篤であった。

 

 松岡は「野崎、親分はもう助からん身体や。

手遅れやねん。このまま静かに死なせてあげ

くれ」と頼む。

 

 病症の坂本が断末魔の目で野崎を見つめる。

 

 野崎修一は拳銃を握り、静かに腕をあげ、銃

口を坂本英光に向ける。

 

 ☆任侠に回帰した実録☆

 

 菅原文太四十三歳・深作欣二四十八歳。昭和

五十一年(1976年)四月当時、東映実録路線の

みならず、日本映画界・日本芸能界を代表する

コンビであったと言える。

 

 暴力に生きて傷つきのたうち回り苦しむ。妥協を

排して暴力描写を徹底して、逆説的に暴力への悲

しみを伝える。

 

 観客はただ一つの命の尊さを暴力への悲嘆に

よって学び確かめる。

 

 東映実録路線における暴力を探求してきた、文

太主演・欣二演出の映画大傑作シリーズの歴史

は集大成の時を迎えようとしていた。

 

 菅原文太は昭和八年(1933年)八月十四日宮

城県に誕生した。

 平成二十六年(2014年)十一月二十八日、八十

一歳で死去した。

 

 野獣の暴性を探求した演技は銀幕に輝いてい

る。一方で寡黙で忍耐深い男の道を鋭く映し出し

た。

 

 深作欣二は昭和五年(1930年)七月三日茨城

県に誕生した。

 平成十五年(2003年)一月十二日、七十二歳で

死去した。

 

 シャープで鋭いキャメラワークとアクションの徹

底により白熱の演出をスクリーンに燃え上がらせ

た。

 

 ウィキペディアによると『新仁義なき戦い

組長の最後の日』は深作欣二・菅原文太が作りたい

映画であったという。

 

 『新仁義なき戦い』シリーズ第三作であり、最終

作品である。

 物語の関連はない三つの物語なのだが、深

作欣二の演出、菅原文太の演技の双方に集成の

ムードを感じる。

 

 主人公野崎修一は真面目で義に篤いやくざ

である。自身を育てた岩木定春親分の知遇に

応えようという義に燃えている。

 

 復讐の大義に命を賭けつくす。 『新仁義なき

戦い』の三好万亀夫や『新仁義なき戦い 組長

の首』の黒田修次とは全く違う。

 ダーティーヒーローから忠義一途な英雄へ。

 

 実録路線作品史の中で、野望物語から忠義

物語への転換があり、作り方は東映任侠路線

に回帰した。

 

   話の筋の大枠は山口組の九州進攻作戦

   で、小沢栄太郎が親分をやってる大阪の

   大組織が北九州に攻めていって抗争にな

   るけれど、結局北九州勢が妥協しちゃうん

   で、文太の組が跳ね上がる。

   (『監督 深作欣二』298頁

    2003年7月12日発行 ワイズ出版)

    

 深作欣二は九州進攻作戦を実行する坂本組

に北九州の親分衆は怯えて靡き、仲間に裏切

られても孤軍奮闘し復讐を目指す野崎の生き方

を確かめる。

 

 多々良純と菅原文太の共演シーンは少なくて

短い。その少ない描写で親分子分の情と絆を二

人の共演がしみじみと伝える。

 

 高田宏治は九州・神戸のやくざ戦争における

多様な人間関係を繊細かつ重厚に描く。

 

 女ふたりの争いで一人の嫉妬がもう一人を刺

殺してしまう。 

 横山リエの迫力は強烈だった。一つの殺人事

件は、やくざ達の血みどろの抗争・連続殺人・戦

争の序幕となる。

 

 坂本組と玄竜会の対立は激化し、米元の放った

刺客が岩木を刺殺し、坂本組が玄竜会を睨む。

 

 玄竜会は対決姿勢を軟化させ、松岡の工作に

乗る形で妥協し、船田を始めとする親分衆は強

大な坂本組に迎合して復讐を止めて保身に走る。

 

 この政治的判断に純粋な野崎は乗れない。岩

木の犠牲を「無用の血」と船田に軽侮され復讐

の炎は燃える。

 

 野崎修一・麻美兄妹と中道努の三角関係が鋭

い。男二人と女一人の愛のドラマが切ない。修一

と麻美に兄妹の肉体関係があったかどうかは描

かれていないが、それが一層二人の兄妹愛の強

い絆を伝える。

 

 松原智恵子が超絶的な美しさを見せる。

 

 優しくて繊細で儚さも魅せる麻美は、松原智恵

子の為に書かれたのではないかと思う程の当たり

役だ。

 松原智恵子は昭和二十年(1945年)一月六日

岐阜県生まれで愛知県名古屋市に育った。

 日活映画でスタアとして活躍し、1970年代から

東映にも出演した。

 麻美役を演じた時代は三十一歳である。

 

 和田浩司は昭和十九年(1944年)一月二十八

日茨城県に誕生した。本名は和田 愷夫である。

 日活映画で活躍し、1970年代からフリーになり

東映作品にも出演し、テレビドラマ『大岡越前』

シリーズでは風間俊介役で人気を博した。

 昭和六十一年(1986年)七月六日、四十二歳

の若さで死去した。

 中道努役を演じた時期は三十二歳である。

 

 野崎に顔を斬られ、抗争で足を痛め、松葉杖で

足を支え、嫉妬と怒りに燃えてトラックに轢かれて

轢死する。

 凄惨な道を生きて散るやくざ中道を和田浩司が

鬼気迫る名演で見せた。

 

 三上寛は知的で落ち着いた情報屋ター坊役を

静かに演じる。

 郷鍈治が韓国人殺し屋ジョーで凄みを見せる。

 

 ジョーと初江と浮気相手の三人が錯誤で死亡

する筋は劇と雖も切ない。

 

 名和宏・中村錦司・織本順吉が世古と保身に

長けていて松岡に迎合し野崎を裏切る親分衆

の老獪さを巧みに見せる。

 

 桜木健一は喋り過ぎて墓穴を掘る西本を体

当たりで演じる。

 西本は撃たれ焼却炉に捨てられるシーンは

怖い。

 

 『現代やくざ 人斬り与太』以来久々に文太・

欣二主演監督作品に出た地井武男が恐怖心

から野崎を裏切って東吉に粛清される寒川を

粘り強く演じる。

 

 東吉が潜みながらシーンは木屋町のロケと

思われる。

 

 梅津栄は『必殺仕掛人』で印象的な演技を

示し、欣二映画作品でも鋭い存在感を示す。

 口のきけないやくざ東吉の忠義を熱く演じる。

 

 中原早苗が久乃で姐さんの重みを見せる。

『新仁義なき戦い』シリーズは全て姐さん役で

あった。

 

 拓ボン・山麟・曽根晴美の三人は「勿体な

い」と思う程出番が少ないのだが、刺客・親分

の存在感を短いシーンで見せる。

 

 深作欣二の暴力描写・アクション演出は本作に

おいても輝きを見せる。

 

 岩木がマッサージ中に「オカマ」の刺客に殺さ

れるシーンは怖い。

 

 野崎のダンプでの坂本襲撃は凄い迫力だ。

 

 藤岡琢也が米元正夫役で太々しさと老獪さ

と悲しみを熱く探求する。

 

 米元は岩木殺しの黒幕だが、若い妻初江を

溺愛しており、その妻をジョーの凶弾で亡くし、

深く悲しむ。最愛の妻を亡くした夫の激怒を切

なさもこめて見せてくれた。

 

 ポスターでは小沢栄太郎が留めだが、本篇

字幕では藤岡琢也が最後に表示される。

 日下部五朗を始めプロデューサー達の慎重

な配慮が窺える。

 

 

 

 坂本英光親分のモデルは田岡一雄山口組組

長と呼ばれている。

 本作では田岡一雄をモデルとする日本最大の

やくざ組織の大親分坂本を名優小沢栄太郎が

勤める。

 

 小沢栄太郎(おざわ・えいたろう)は明治四十二

年(1909年)三月二十七日東京市に誕生した。

 本名小沢栄太郎である。小沢栄の芸名を名乗っ

た時期もある。

 昭和三十年(1955年)七月二十六日公開、伊藤

大輔監督作品『下郎の首』の須藤巌雪役は小沢

栄の芸名で演じた。

 

 昭和二年(1927年)俳優の道への大志を抱き、

劇団心座・東京俳優劇場を経て、昭和七年(193

2年)治安維持法で検挙された。

 昭和九年(1934年)新協劇団の結成に参加する。

昭和十九年(1944年)千田是也や東野英治郎らと

俳優座を結成する。

 

 豊かな演技力は数々の映画においても光って

おり、小沢栄太郎の名演は今日残された映像か

ら見ることが成り立っている。

 

 日本劇映画・テレビドラマ史の悪役の第一人者

である。

 

 テレビドラマにも多数出演し、昭和四十七年(19

72年)のNHK大河ドラマ『新・平家物語』における

信西入道役の憎たらしさは強烈で、視聴者から

「あの坊主を早く殺して」という投書が殺到した。

 

 昭和四十九年(1974年)に三十七歳年下の女性

と再婚した小沢栄太郎は「愛は肉体ではありませ

ん。心です。」と語った。私生活では女性によくモテ

た人であった。

 

 昭和五十年(1975年)のNHK大河ドラマ『元禄太平

記』の吉良上野介義央役は憎たらしさが凄まじかっ

た。

 討ち入りを受けた時の哀れさも忘れられない。管理

人が小沢栄太郎を初めて見た機会は、この吉良役で

あった。

 

 昭和六十三年(1988年)四月二十三日、七十九

歳で死去した。

 

 六十七歳で演じた坂本親分の風格と凄みは圧

巻である。

 

 深作欣二は『誇り高き挑戦』『黒薔薇の館』で

小沢栄太郎を起用している。

 いずれも悪役ではなかった。

 

 悪役名優の巨星小沢栄太郎先生に対して、

作さんは敢えて徹頭徹尾の極悪人役をオファ

ーしなかったのではないか?

 

 この問いを抱いている。

 

 坂本英光は岩木貞春殺しの黒幕で真犯人

である。

 

 九州・大阪の抗争の最大責任者でもある。

 

 巨悪の頭領ではあるが、天王寺駅で倒れ

る。

 

 極悪人だが病に苦しむ存在でもある。

 

 この複雑な難役を、須藤・信西・上野介役

者の大名優小沢栄太郎が勤める。

 

 これこそ、作さんの狙いではなかったか?

 

 病室で最期の時を向かようとする坂本英

光に刺客野崎が迫る。

 

 成田三樹夫の松岡が死期が迫る親分を

このままに静かに死なせてあげてくれと頼

むクライマックスは強烈である。

 

 この大詰めの小沢栄太郎の視線の光は

鋭くて深い。

 

 復讐の空しさを松岡は語る。

 

 だが、岩木親分を殺された野崎の激怒の

炎は相手が余命いくばくもない老人であって

も熱く燃えていた。

 

 ラストの展開は衝撃的である。

 

 暴力と復讐の連鎖は続き、野崎も傷つく。

 

 ラストで傷ついた野崎が死んだかどうか

は分からない。

 

 観客一人一人の想像に委ねらられている。

 

 菅原文太にとって深作欣二単独監督作品

での主演は本作の野崎修一役が最後である。

 

 昭和五十六年(1981年)一月十五日封切、

蔵原惟善・深作欣二監督作品『青春の門』

において伊吹重蔵役を演じた。

 トップクレジットではあるが、ドラマの主役

は佐藤浩市が演じた息子の伊吹信介である。

 

 深作欣二との主演コンビの映画史は、野崎

修一が集大成と見るべきだろう。

 

 『現代やくざ 人斬り与太』から『新仁義なき

戦い 組長の首』までの十一本は全て銀幕で

鑑賞することが成り立った。

 

 日劇会館で本作を平成十三年(2001年)

二月二十三日に鑑賞した。

 

 文太は暴力への悲しみを激烈な戦闘描写

によって探求する実録路線を開いた。

 

 盟友深作欣二とのコラボレーションによって

幕を引き集成を飾りたいという心があったので

はなかろうか?

 

 任侠路線の作り方を復活し、殺された親分の

無念と愛する妹への想いを抱きながら、復讐の

義に全てを賭けつくし、戦の空しさと惨たらしさ

を抉るように伝える。

 

 

 

 ラストにおいて血に染まった手を凝視する

野崎修一の眼光に圧倒された。

 

 菅原文太主演の実録路線は、流血への凝視

が結論となった。

 

 

 小沢栄太郎百十三歳誕生日

       令和四年(2022年)三月二十七日

 

                     合掌

 

 

                 南無阿弥陀仏

 

 

 

                    セブン