鉄砲玉の美学(三) 野上龍雄脚本 渡瀬恒彦主演 中島貞夫監督作品 | 俺の命はウルトラ・アイ

鉄砲玉の美学(三) 野上龍雄脚本 渡瀬恒彦主演 中島貞夫監督作品

 『鉄砲玉の美学』

 

 

 

 昭和四十八年(1973年)二月十日公開

 製作国 日本

 

 制作   白楊社

 協力   宮城県都城観光協会


 企画  天尾完次

 脚本  野上龍雄

 

 撮影 増田敏雄

     松井由守

     信坂利文

 

照明 金子凱美

    井口雅夫

    日高継光

 

音楽監修 荒木一郎 

音楽   頭脳警察

整音   荒川輝彦

録音   格畑学

編集   市田勇

 

助監督  依田智臣

       服部公男

       佐野直樹

       佐々木一彦

美粧   東和美粧

記録   田中美佐江

 

主題歌  『ふざけるんじゃねえよ』

       頭脳警察

 

  

  出演

 

 渡瀬恒彦(小池清)

 

 杉本美樹(潤子)

 

 

 碧川ジュン(律子)

 森みつる(よし子)

 望月節子

 城恵美

 松井康子(ゆき)

 

 大木正司(修)

 川谷拓三(チンピラ)

 西田良(刑事)

 広瀬義宣(安夫)

 

 松本泰郎

 小沢正博

 新田勝子

 柳田盛任

 片桐竜次

 

 遠藤辰雄(声の出演)

 千葉敏郎(声の出演)

 波多野博(声の出演)

 大月正太郎(声の出演)

 斎藤寿也(声の出演)


 

 小池朝雄(杉町)

 荒木一郎(五郎)

 

 監督 中島貞夫

 

 ☆☆

 遠藤辰雄→遠藤太津朗

 ☆☆

 平成二十四年(2012年)十月三日

 祇園会館にて鑑賞
 ☆☆

 感想の中に暴力シーンについての

 記述があります。

 ☆☆

 一部卑猥な表現・性的な事柄に関する

 記述があります。

 ☆☆

 女性の方・18歳未満の方はご注意下さい。

 

 画像はインターネットよりお借りして

引用しています。

 ☆☆

 平成二十六年(2014年)七月二十八日発表記事・

令和三年(2021年)十二月二十二日発表記事を

再編しています。

 ☆☆

 感想文では結末までネタバレしています

ので未見の方はご注意下さい。

 ☆☆

 

 ご飯を食べる女性達。綺麗なレディ達が食べる

姿をカメラは執拗に映す。

 

 綺麗な人達にも強烈な食欲があり、食べ物を

食い尽くすことを語っているのか?

 

 チンピラ小池清は小兎を売っている。

 

 同棲している恋人が兎を可哀相に思って、沢山

の野菜を食べさせて太らせて大きくさせたことを

知った清は「アホ!こまいさかい、よう売れるんや

ろが!」と激怒する。

 

 テキヤをしていた清はある夜、乱暴されていた

人妻を暴漢から救った。


 

 所属先の天佑会から鉄砲玉に選ばれた清は、鉄

砲と百万円を貰って、M市に飛んだ。

 

 清はタクシーに乗ると「一番ええホテルに着け!」

と命令し高級ホテルに宿泊し豪遊をする。

 

 チンピラが清を襲うが、逆に捕えられ、親分の杉

町から冷酷に突き放される。

 

 清は美女潤子を巡る恋の鞘当てにも勝利し、向か

うところ敵なしに見えた。

 

 潤子に対する接し方は乱暴であったが、それは刹

那的に生きる清の悲鳴を裏返すものであったのかも

しれない。

 

 ホテルでかつて救った人妻の姿を見つけ、彼女を

執拗に追う。

 

 霧島の光景に憧れた清は人妻を誘って一緒に行

きたいと望むが、清に執拗に付きまとわれた人妻は

警察に通報した。

 

 暴れまくる清に警察の包囲網が迫る。

 

 ☆小池清の悲しみ☆

 

 渡瀬恒彦(わたせ・つねひこ)

 昭和十九年(1944年)七月二十八日

 島根県生まれ。
 平成二十九年(2017年)三月十四日

 死去。七十二歳。

 

 アクションを体当たりで演じ狂犬・野獣の個性を

銀幕に輝かせた。

 

 大名優渡瀬恒彦の熱き闘魂はチンピラ鉄砲玉

小池清役に燃えている。

 

 昭和四十年代、東映仁侠映画は全盛期を迎えて

いた。

 

 中島貞夫監督は東映で時代劇の演出をしていたが

仁侠映画には疑問を抱いていた。フィクションとはいえ

余りにもカッコいい仁侠の姿を描くことに違和感を覚え

ていたようである。

 

 一方で現代やくざ路線では傑作を撮っている。組織

の強大さに挑んで潰されるチンピラの悲劇が観客の

心を熱くした。

 

 本作は鉄砲玉として選ばれ大金と「ハジキ」を与えら

れたチンピラがいきがり威張って男をあげて欲望と野

望を満たして名をあげようとするが、鉄砲玉にすら成り

得ず、無残に自壊していく様を冷静なタッチで語る。

 

 中島貞夫はATGを制作現場として、カッコ悪いチンピ

ラの悲劇を抑えた語り口で、時にドキュメンタリーを思

わせる演出リズムで撮った。

 

 わたくしが驚嘆したことは脚本の関西弁の滑らかさ

である。

 

 江戸っ子野上龍雄が書く関西弁は綺麗だ。

 

 兵庫県育ちの渡瀬恒彦が完璧な関西弁を語ってく

れる。公開時渡瀬は二十八歳の若手スターだ。やくざ

映画の若衆やチンピラで時代を築いていた。

 

 前述の通り、中島貞夫監督・渡瀬恒彦出演の現代や

くざ映画の傑作は強大な組織にチンピラが抵抗しようと

して潰されて行く悲劇だった。

 

 しかし、『鉄砲玉の美学』は清が暴れまくって自滅して

いく悲惨な物語である。

 

 チンピラの哀しみを渡瀬が熱演する。

 

 中島貞夫が見つめた視座は、「カッコをつけようとし

ても付けられず、自分で自分の首を絞めてしまう若者」

の悲劇なのだ。

 

 杉本美樹は本作でもセクシーで綺麗だ。

 

 渡瀬恒彦・杉本美貴W主演のロマンス劇では、本作を

「裏」とすれば、深作欣二監督作品『暴走パニック 大

激突』が「表」になるだろう。

 

 ホテルで清が潤子に乱暴な行為をするシーンには、

前述した通り、彼の悲しい気持ちの反映ではないかと

思う。

 

 潤子は強い男に惹かれる女だったが、清の身勝手に

恐怖感を覚えていく。

 

 女に縋るような愛おしさを覚える清は強引さ故に逃げ

られていくのだ。

 

小池朝雄がボス杉町を重厚に演じる。

 

 荒木一郎のサングラスのチンピラ五郎もいい味を出す。

 

 川谷拓三がチンピラで見事な「やられ」の名演を見せる。

 

 遠藤辰雄が声優として登場しやくざの幹部の凄みを

聞かせる。

 

 西田良が刑事を渋く演ずる。

 

 大詰では人妻にストーカー行為を為した清がハジキを

ぶっとばして、刑事に狙撃されて傷を負う。

 

 血まみれになりつつ、憧れの地霧島を目指す清。

 

 自業自得であるとはいえ、短い生涯を野望に散らした

ことが、悲しく切ない。

 

 大金を手にして女の危機を助け、野望を爆走しよ

うとした清だが、潰され夢の桜島を前に散ってゆく。

 

 ドライな演出で淋しさと切なさを感じさせる。

 

 小池清の悲しみの青春を、渡瀬恒彦が体当たりで

演じきった。

 

 


 

                      文中一部敬称略


 

 

  

 

                             合掌



 

                       南無阿弥陀仏




 

                            セブン