狂った野獣 | 俺の命はウルトラ・アイ

狂った野獣

『狂った野獣』

映画 トーキー 78分 カラー

昭和五十一年(1976年)五月十五日公開

製作国 日本

製作言語 日本語

製作会社 東映京都

 

企画  奈村協

    上阪久和

脚本  中島貞夫

    大原清秀

    関本郁夫

 

撮影 塚越堅二

照明 北口憲三郎

録音 溝口正義

美術 森田和雄

 

 

音楽 広瀬健次郎

主題歌 三上寛

    『小便だらけの湖』

 

出演

 

渡瀬恒彦(速水伸)

 

星野じゅん(岩崎美代子)

川谷拓三(谷村三郎)

片桐竜次(桐野利夫)

 

 

野村鬼笑(半田市次郎)

橘真紀(立花かおる)

中川美穂子(小林かおる)

荒木雅子(戸田政江)

松本泰郎(西勲)

 

室田日出男(下坂)

野口貴史(松原啓一)

三浦徳子(河原文子)

志賀勝(極楽一郎)

丸平峯子(極楽良子)

 

畑中伶一(米良達)

細井伸吾(小学生)

秋山克臣(小学生)

岩尾正隆(北村)

木谷邦臣(警部)

森源太郎(巡査部長)

中田慎一郎(宮本義一)

疋田泰盛(小田次郎)

有島淳平(泉原)

笹木俊志(青木)

 

 

松井康子(加藤夫人)

富永佳代子(田中夫人)

波多野博(新聞記者)

司裕介(新聞記者)

星野美恵子(松原の妻)

前川良三(事務係員)

大月正太郎(エンジニア)

 

福本清三(署員)

北川俊夫(警備員)

矢部義章(警備員)

友金敏雄(機動隊指揮官)

池田謙治(機動隊指揮官)

小峰隆司(機動隊指揮官)

白井孝史(警官)

平河政雄(ガードマン)

峰蘭太郎(ガードマン)

藤沢徹夫(銀行員 警官)

小坂和之(警官)

志茂山高也(警官)

大矢敬典(警官)

奈辺悟(警官)

細川ひろし(警官)

寺内文夫(事務員 刑事)

岡島艶子(老婆)

宮城幸生(宝石店ガードマン)

藤本秀夫(エンジニア)

島田秀雄(カメラマン)

 

 

三上寛(フォーク歌手)

笑福亭鶴瓶(ラジオパーソナリティー)

 

監督 中島貞夫

 

平成十年(1998年)十二月六日

京極弥生座にて鑑賞

 速水伸は目の病に苦しんでいた。テスト

中に目の病が起こりテストドライバーの仕

事を解雇された速水は友人の岩崎美代子と

強盗を働き宝石を奪い、伸はバス、美代子

はバイクで逃げた。

 

 ところが、伸の乗ったバスに銀行強盗に

失敗した谷村・桐野が銃を持って二名が乗

り込みバスをジャックした。

 

 半田老人・女優志願のかおる・ラジオを

持った西・主婦河原文子と彼女の息子の教

師で不倫相手の松原先生、東西屋の極楽夫

妻と米良、小学生の直樹・茂夫が乗ってい

た。

 

 運転手の宮本は心身の緊張が続くと発作

が起きる体質である。

 

 乗客達は人質に取られパニックになる。

谷村・桐野は伸のただならぬ気配を警戒

する。

 

 警察はバスを追走する。

 

 警官下坂は歩道橋から暴走するバスに飛

び降りようとするがバスに走り去られて、

道に落ちる。

 

 伸は宝石泥棒であることが露見する。

 

 美代子は懸命にバスで追う。

 

 宮本の体調は危機になりショックで心身

が圧迫される。

 

 警察はバスを猛追する。

 

 追い詰められた谷村と桐野は怒り心頭に

達して警察との戦いを決意する。

 

 伸が代わりにバスの運転を為したが、暴走

するうち目の病が起こった。

 

 ☆疾走 暴走 爆走☆

 

 

 中島貞夫(なかじま・さだお)は昭和九年

(1934年)八月八日千葉県に誕生した。

 東京大学在学中にギリシア悲劇研究会で演

劇を研究・上演、東映に入社し、酒に強いこ

とから京都の過酷な勤務に堪えられると判断

され、東映京都で助監督として活躍する。

 

 監督になった貞夫は時代劇・現代やくざ映

画・喜劇・アクション映画・ドキュメンタリ

ー・近現代史映画等沢山のジャンルの作品を

撮り、多数の傑作を発表した。雑食の巨匠と

して知られる。

 

 

 渡瀬恒彦(わたせ・つねひこ)昭和十九年(1

944年)七月二十八日島根県に生まれた。兵

庫県に育つ。幼児期はガキ大将であったと

伝えられている。三田学園高校で水泳部に

所属する。

 早稲田大学・電通・広告代理店ジャパー

クを経て、出会った岡田茂から東映に招か

れ俳優になる。

 アクションをスタントマンに任せず自身

で取り組みハードなシーンを体当たりで演

じた。任侠路線・実録路線においては鬼気

迫る名演を見せた。

 平成二十九年(2017年)三月十四日七十二

歳で死去した。

 

 

 昭和五十一年(1976年)五月、四十二歳

の中島貞夫監督と三十一歳の渡瀬恒彦が組ん

だスピード映画の傑作である。

 

 

 平成十年(1998年)十二月六日京極弥生座

の新京極映画祭上映会において中島貞夫監督

のトークショーが上映前にあった。

 

 監督は壇上で「野口貴史さん。来ておられ

る?」と声をかけ、松原啓一先生役の野口貴

史が挙手した。

 

 「バスの運転手さんが運転中に意識を失っ

て転倒した事件があってね」と本作の背景に

なった事故について確かめ、東映から一本撮

れと言われ、「スタアさんで空いている人が

恒ちゃんだったんです」と確かめた。

 

 上映が開始され、監督中島貞夫の字幕で拍

手が起こる。

 

 危険で壮絶なシーンをスタントマンに頼ら

ず、自ら演じた事で渡瀬恒彦は有名だが、本

作でもバス疾走・爆走・転倒のシーンを体当

たりで演じた。

 

 バスは強盗二人に乗っ取られ運転手は緊張

で圧迫され乗客はパニックになる。

 

 松原先生役の野口貴史は笑いを呼びつつ不

倫がばれそうになって怯える教育者を繊細に

演じる。

 

 志賀勝は今回東西屋の大将で白塗りで登場

し恐怖を演じる。

 

 室田日出男の下坂が飛び降りて路上に倒れ

るシーンもスタントマンなしの演技なのだろ

うか?

 『ダーティハリー』のクリント・イースト

ウッドのハリー・キャラハンのバス屋根飛び

降りの逆だが、壮絶残酷場面である。

 

 宝石強盗の伸と銀行強盗の谷村・桐野は警

戒しあい対立する。

 

 宮本運転手が緊張から倒れ、伸が運転する。

 

 警察の猛追をかわして逃げるがバスは倒れ

る。

 

 強盗に襲われたふりをして「市民を救わない

のか」と伸が警察を糾弾する大詰は強烈である。

 

 片桐竜次は桐野のヘリコプターぶらさがりを

体当たりで演じる。

 

 拓ボンこと川谷拓三は谷村を凄み豊かに演じ

る。

 

 桐野と谷村は悪党だが、追い詰められて哀れ

さを見せる。

 

 追い詰められた伸の強かさを渡瀬恒彦が粘り

強く見せる。

 

 劇映画初出演の笑福亭鶴瓶がDJで滑らかな

トークを語る。

 

 トークショーでテーマを問われた中島貞夫は

「善良な市民とは誰か」と答えた。

 

 バスジャックで人質に取られた乗客達は強く

なり転倒の際は転がる宝石を着服する程図太く

なっていく。

 

 人質という危機的立場に遭った被害者の乗客

達が最も図太くなっていくという描写に中島貞

夫の人間探求を感じた。

 

 命の危険を顧みず危険なアクションに挑み、

爆走スピード映画の傑作を生み出したスタッフ・

キャストの奮闘に敬意を表する。

 

 上映会があった平成十年(1998年)十二月

六日に中島貞夫の先輩山下耕作が亡くなった。

 鶴田浩二生誕七十四年の日でもあった。

 

 上映終了後立ち上がった中島貞夫監督に観客

は拍手を送った。

 

 一礼した中島貞夫の風格に心を打たれた。

 

 中島貞夫監督

 

 八十八歳お誕生日

 

 おめでとうございます。

 

 

 

                   合掌