恋や恋なすな恋 | 俺の命はウルトラ・アイ

恋や恋なすな恋

『恋や恋なすな恋』

 

映画 トーキー 106分 カラー 東映スコープ

昭和三十七年(1962年)五月一日封切

製作国 日本

製作言語 日本語

製作会社 東映京都

 

製作 大川博

 

企画 玉木潤一郎

脚本 依田義賢

    

撮影 吉田貞次

音楽 木下忠司

美術 鈴木孝俊

装置 上羽峯男

装飾 川本宗春

録音 東城絹児

照明 山根秀一

編集 宮本信太郎

 

衣装 三上剛

美粧 林政信

結髪 桜井文子 

擬斗 足立伶二郎

助監督  鈴木則文

      鳥居元宏

      清水彰

      野波静雄

進行主任 天尾完次

 

文楽三和会

浄瑠璃 豊竹つばめ太夫

三味線 野沢喜左衛門

振指導 桐竹紋十郎

 

清元 清元志壽太夫

    清元正壽郎

 

舞踊振付 藤間勘十郎

       藤間勘五郎

 

時代考証 林家辰三郎

装飾考証 高津年晴

能面師  北沢如意

協力 東映動画スタジオ

美術 蕗谷紅児

    小山礼司

原画 森康二

撮影 大塚晴郷

 

 

出演

 

大川橋蔵(阿部保名)

 

嵯峨美智子(榊の前 葛の葉  狐葛の葉)

 

宇佐美淳也(加茂茂徳)

河原崎長一郎(櫻木の宮)

加藤嘉(庄司)

原健策(藤原仲平)

柳永二郎(藤原忠平)

 

日高澄子(後室)

毛利菊枝(狐の老婆)

松浦筑枝(庄司の妻)

天野新二(芦屋道満)

山本麟一(悪右エ門)

明石潮(勅使)

高松錦之助(治部卿)

 

五条惠子(腰元)

久我恵子(腰元)

玉喜うた子(楓)

那須伸太朗(八省の役人)

野村鬼笑(木綿買)

潮路章(木綿買)

尾形伸之介(木綿買)

水野浩(僧)

河村満足(兵)

鈴木金哉(兵)

藤本秀夫(兵)

泉水深(若者)

大崎史郎(町の者)

泉春子(町の者)

源八郎(町の者)

唐沢民賢(右近衛府住人)

大城泰(小者)

 

薄田研二(狐の老爺)

小沢栄太郎(岩倉治部太夫)

月形龍之介(小野好古)

 

 

監督 内田吐夢

 

小出清=三代目豊竹つばめ大夫

     →四代目竹本越路大夫

     →四代目竹本越路太夫

 

大川橋蔵=二代目大川橋蔵=藤間勘之丞

 

嵯峨美智子→瑳峨三智子

 

原健策=原健作

 

潮路章→汐路章

 

薄田研二=高山徳右衛門

 

小沢栄太郎=小沢栄

 

月形龍之介=月形陽候=月形竜之介

        =月形龍之助=中村東鬼蔵

                  =門田東鬼蔵

 

内田吐夢=内田富=平田参作

      =閉田富

 

 ☆

 平成十二年(2000年)九月十一日 

 高槻松竹にて鑑賞

 ☆

 阿部保名と芦屋道満は、宮廷陰陽師加茂保

憲に学んでいる。

 将来娘の榊を保名に沿わせたいと保憲は望

んでいる。

 保名は美男で真面目な青年だ。彼も美人の

榊を慕っている。

 保憲は保名に後を託したいと望む。道満は

快く思わず、悪右衛門をそそのかして保憲を

殺害し、秘伝書金烏玉兎集を強奪し、罪を保

名と榊に擦りつける。

 

 苦悩の果て榊は自死し、保名は師匠と恋しい

人を亡くした悲しみから発狂し、さすらいの旅に

出る。榊と瓜二つの妹葛の葉に出会い恋を覚え

る。

 

 だがまたしても道満の魔の手が襲い掛かり保

名は苦しめられ葛の葉はさらわれた。

 悲しみの保名を狐達が助けてくれた。優しい娘

狐が葛の葉の姿になる。

 

 保名と狐葛の葉は愛しあう。

 

 ☆保名橋蔵の優美☆

 

 内田吐夢六十四歳。大川橋蔵三十三歳。

『蘆屋道満大内鑑』(あしやどうまんおおうち

かがみ)の映像化に日本映画巨匠と美男

スタアが取り組んだ。

 

 享保十九年(1734年)竹田出雲作『蘆屋道

満大内鑑』は大阪竹本座で初演された。

 

 吐夢は東映から「大川橋蔵で一本映画を作

って欲しい」と東映から要請を受けて鈴木尚之

に相談した。

 

 大川橋蔵は昭和四年(1929年)四月九日

に誕生した。本名を小野富成後に丹波富成

と申し上げる。

 歌舞伎役者二代目大川橋蔵・舞踊家藤間

勘之丞として活躍し、戦後映画スタアとして

時代劇黄金時代を築かれた。

 昭和五十九年(1984年)十二月七日五十五

歳の若さで死去された。

 日本時代劇映像にささげられた生涯であっ

たと推察している。

 

 「幾多の娯楽作品で自分は会社に尽くして

きた。ここらで一本役者として充足できる映画

を用意してくれてもいいではないか」(『私説 

内田吐夢伝』283頁 2009年3月16日発行 岩

波現代文庫)と鈴木尚之は橋蔵の言葉を確か

める。

 

 東映娯楽時代劇で活躍した橋蔵にとって

役者として充足感を実感しうる芸術に出たい。

 

 この真心に吐夢が応えた。

 

   恋しくば

   たずね来てみよ

   和泉なる

   信太の森の

   うらみ葛の葉

 

 歌舞伎『蘆屋道満大内鑑』では狐葛の葉役者

が口に筆を銜えて書く名場面の和歌である。

芦屋道満大内鑑 平成二十三年二月御園座公演

 

 この和歌の「うらみ葛の葉」に貴族との恋が

叶わぬ被差別部落民の悲しみを感じたと『私

説 内田吐夢伝』に鈴木尚之は記している。

 「おもしろいよ」と吐夢は共鳴し、大川橋蔵

主演で『蘆屋道満大内鑑』映像化企画は進み、

『恋や恋なすな恋』として映画化されることと

なった。

 

 橋蔵にとって保名の恋と悲しみは燃える

役であり、熱き名演がフィルムに刻まれた。

 

 相手役には二十二歳の美人女優嵯峨美智

子が抜擢された。

 

 嵯峨美智子後の瑳峨三智子は昭和十年(1

935年)三月一日、父月田一郎・母山田五十鈴

の娘として京都市に誕生した

 平成四年(1992年)八月十九日五十七歳の

若さで死去した。

 

 母山田五十鈴は『仇討選手』の時代から

内田吐夢の作品に出演している。

 母娘二代で吐夢写真ヒロインを勤めること

となり、美智子は三役を情熱の演技で鮮やか

に演じ分けた。

 

 自分は悲劇のヒロイン榊が特に強烈であった。

狐葛の葉の母性も輝いている。

 

 山本麟一が悪右門役で憎たらしさを豪快に見

せる。  

 

 悪右エ門が六尺棒を保名に振り下ろすシーン

では、「痛いよ、痛いじゃやないか」と橋蔵が悲鳴

を挙げたという。

 

 麟一は吐夢を見る。その時の視座を鈴木尚之

は「もっとやれ」と感じたという、リアリズムに徹する

時は徹するという監督吐夢の妥協なき演出を尚之

は感じた。

 

 歌舞伎舞台・文楽の語り・清元の舞踊・アニメーシ

ョンも用いて、保名と狐葛の葉の切ない愛を吐夢は

語る。

 

 日高澄子の後室が悪女の魅力を艶やかに見せる。

 

 小沢栄太郎の岩倉治部太夫は巨悪の老獪さが

あった。

 

  薄田研二の狐の老爺は渋い。

 

 

 月形龍之介は、明治三十五年(1902年)三

月十八日宮城県遠田郡小牛田村に誕生した。

 本名は門田潔人(もんでんきよと)である。

 別名義に月形陽候・月形竜之介・月形龍之

助・中村東鬼蔵・月形東鬼蔵がある。

  大正九年(1920年)、活動大写真の役者を

志して牧野省三の俳優養成所に入り、同年『仙

石権兵衛』でデビューする。 

 映画・歌舞伎の演技に学び、時代劇俳優とし

て大活躍する。

 マキノ時代劇のスターとして人気を博すが、初

代中村吉右衛門を篤く尊敬していたという。

 昭和四十五年(1970年)八月三十日六十八歳

で死去した。

 

 小野好古の出番は短いが、月形龍之介が重厚

な存在感を示した。

 

 

 内田吐夢古典芸能四部作の最終章に当たる本

作は、文楽・歌舞伎・清元・アニメーションを包み、

東映時代劇の表現力を結集し、保名と狐葛の葉

の深い愛を確かめた。

 

 

 平成二十五年(2013年)五月一日から本日令和

四年(2022年)三月十八日まで、拙ブログでは、二

十七本の吐夢映画と吐夢画像出演・監督作品引

用映画一本をテーマ内田吐夢百二十記事におい

て管見した。

 

 『きげき 虚栄は地獄』『少年美談 清き心』『漕

艇王』『喜劇 汗』『天国其日帰り』『仇討選手』『土』

(92分版)『血槍富士』『たそがれ酒場』『自分の穴の

中で』『暴れん坊街道』『大菩薩峠』『どたんば』『大

菩薩峠 第二部』『森と湖のまつり』『大菩薩峠 完

結篇』『浪花の恋の物語』『酒と女と槍』『妖刀物語 

花の吉原百人斬り』『宮本武蔵』『恋や恋なすな恋』

『宮本武蔵 般若坂の決斗』『宮本武蔵 二刀流開

眼』『宮本武蔵 一乗寺の決斗』『飢餓海峡』『宮本

武蔵 巌流島の決斗』『人生劇場 飛車角と吉良常』

の監督作品二十六本と『時代劇は死なず ちゃんばら

美学考』の画像出演・監督作品引用映画一本感想

文をテーマ内田吐夢で記した。

 

 『大菩薩峠』三部作・『宮本武蔵』五部作をそれ

ぞれ一つの作品と見るならば、吐夢監督作品二

十一の物語ということになる。

 

 『天国其日帰り』『仇討選手』は断片版、『土』

は92分版だが、不完全版でも迫力は伝えてく

れている。

 

 昭和五十五年(1980年)一月二日『宮本武蔵 巌

流島の決斗』をテレビ放送で視聴し、その壮大さに

圧倒された。

 

 平成五年(1993年)一月四日京都文化博物館に

て『宮本武蔵』を鑑賞し心身全体で震えた。

 令和二年(2020年)八月二十一日シネ・ヌーヴォ

において『人生劇場 飛車角と吉良常』を鑑賞し

心を打たれた。

 

 二十七本・二十一物語の吐夢監督作品に銀幕に

出会った縁に深謝する。

 

 

 

 自分が銀幕で鑑賞した内田吐夢監督作品で感想

未発表はあと一本ある。近い日に書きたい。

 

 『生命の冠』『限りなき前進』『土』(最長版)『黒田

騒動』『逆襲獄門砦』『千両獅子』を銀幕で見聞した

い。

 

 「生命の大地」「命の大海」と感嘆する吐夢写真が

ある。同時に本作のように西日のように暖かくて切な

い作品もある。

 

 

 大川橋蔵が芸道への情熱をこめて、吐夢の期待

に応えた。

 

  月形龍之介百二十歳誕生日

 

            令和四年(2022年)三月十八日

 

 

                            合掌

 

 

                       南無阿弥陀仏

 

 

 

                           セブン