大菩薩峠 完結篇 森一生監督 市川雷蔵主演作品 | 俺の命はウルトラ・アイ

大菩薩峠 完結篇 森一生監督 市川雷蔵主演作品

『大菩薩峠 完結篇』
映画 トーキー 98分 カラー
昭和三十六年(1961年)五月十七日公開
製作国 日本
製作言語 日本語
製作 大映京都
 
製作 永田雅一
企画 久保寺生郎
    南里金春
 
原作 中里介山
脚本 衣笠貞之助
 
撮影 本多省三
色彩技術 白波瀬直治
音楽 塚原哲夫
美術 西岡善信
録音 林士太郎
照明 中岡源権
編集 谷口孝司
スチール 西地正満
製作主任 小沢宏
 
出演
 
市川雷蔵(机竜之助 机龍之助)
 
中村玉緒(お豊 お銀 お浜)
 
小林勝彦(がんぎりの百)
近藤美恵子(お玉)
 
三田村元(駒井能登守)
丹波又三郎(宇津木文之丞)
矢島ひろ子(お徳)
阿井美千子(お絹)
尾崎和枝(山の娘)
井上明子(娘)
橘公子(おろく)
真塩洋一(与八)
荒木忍(慢心和尚)
見明凡太郎(裏宿の七兵衛)
酒井三郎(与兵エ)
南里金春(米友)
東良之助(松助)
尾上栄五郎(大貫)
芝田総二(出来りの者)
玉置一恵(坂田)
沖時男(町役人)
愛原光一(栗林)
竹谷俊彦(津原)
木村玄(篠塚)
千石泰三(坂崎)
大丸智太郎(清一郎)
春日清(雲水)
桜井勇(雲水)
井手野賢治(江藤)
藤春保(船大工)
松岡良樹(木村)
南正夫(老人)
森宏之(新作)
有村淳(駕籠昇)
島一男(郁太郎)
武智雅文(蔵太郎)
神脇絵須子(おまん)
高月冴子(婆さん)
小林加奈枝(老婆)
 
 
本郷功次郎(宇津木兵馬)
 
監督 森一生
 
 

市川雷蔵=二代目市川莚蔵

      =八代目市川雷蔵

平成十六年(2004年)一月二十五日
京都文化博物館にて鑑賞
 感想では結末に言及します。未見の方は
ご注意下さい
 ☆
 
 机竜之助は竜神の滝における断崖から落ち
たが、お豊の助けで伊勢大浜の与兵衛の家
に匿われた。
 
 お豊は遊里で働き病身になり自害する。遺言
と金はお玉の手に伝えられ、お玉は役人と問われ
た際に金を落とすが手紙は竜之助に渡す。
 
 七兵衛は竜之助の居場所を尋ねるが、竜之助
は琴の師匠お絹と旅立った。
 
 がんりきの百はお絹に横恋慕しており、竜之助
と彼女の駕籠を離す。竜之助は百の手を斬り、滝
に落ちる。
 
 お徳に救われた竜之助は彼女の子蔵太郎を見
て、自身の子郁太郎を思う。
 
 神尾主膳は望月家から金を捻出する作戦を立て
婿の清一郎を捕える。竜之助は清一郎を救出する
も自身は神尾に捕らえられた。主膳は駒井能登守
暗殺の刺客に竜之助を選ぼうとしていた。
 
 兵馬は七兵衛と竜之助を追う。
 
 竜之助は女性お銀の危機を救い、二人は惹かれ
合う。
 
 駒井能登守暗殺に失敗した竜之助はお銀と共に
大菩薩峠に戻るがお浜の墓を見て悲しみを覚える。
 
 辻斬りを続けていた竜之助は、与八の世話を受け
成長する郁太郎を求めた。
 
 兵馬は遂に竜之助を見つけ勝負を挑む。
 
 だが、笛吹川の濁流により、竜之助は流される。
 
 ☆流れの物語☆
 
 

 市川雷蔵は昭和六年(1931年)八月二十九

日京都府京都市に誕生した。出生名は亀崎

章雄である。三代目市川九團次の養子となり、

昭和二十一年(1946年)十一月二代目市川莚

蔵の芸名で初舞台を踏む。昭和二十六年(195

1年)四月三代目市川壽海の養子となり同年六

月大阪歌舞伎座において八代目市川雷蔵を襲

名し本名を太田吉哉に改める。昭和二十九(19

54年)大映所属の俳優となった。

 

 大映において映画俳優・映画スタアとなった

雷蔵は深い演技力で存在感をしめした。

 冷酷非情の剣士机竜之助(机龍之助)は二十

九・三十歳の当たり役である。

 

 

 衣笠貞之助は明治二十九年(1896年)一月一

日に誕生した。本名を小亀貞之助と申し上げる。

無声映画時代は女形役者として活動し後に監督

・脚本家に転身し数数の名画のシナリオ・演出を

担当し、日本映画を支えた。

 昭和五十七年(1982年)二月二十六日に死去し

た。

 
 森一生(もり・かずお)は明治四十四年(1911年)
一月十五日に誕生した。
 昭和九年(1934年)に第一映画に入社し、伊藤
大輔や犬塚稔に学び、大映に移った・召集され中
国戦線に従軍し、復員した後は大映に復帰し、時
代劇の傑作を生みだした。 
 平成元年(1989年)六月二十九日死去した。
 
 第三部完結篇監督は三隅研次から森一生が継
ぐ。
 森一生の演出は竜之助の妖気を鋭く探求する。
 
 音無しの構えで無敵の剣を振るう盲目の剣士机
竜之助を市川雷蔵が華麗に勤める。雷蔵の美しさ
が竜之助の魔性に輝いている。
 
 優しさと冷酷さ、暖かさと残忍さが同居している
竜之助義挙を為したか後に極悪非道の辻斬りも
平然と行う。
 
 お浜・お豊・お銀という愛した女性達への思う
心に魔剣士も男であり情を持っていることを伝え
る。
 
 剣の修練を為し、無敵になったが、血に飢えて
凶行を繰り返し、愛したお浜さえも斬ってしまう。
 お浜を始め斬ってきた人々への罪の意識は、

竜之助の心に迫る。

 

 苦悩と悲痛は新たな流血へと竜之助を駆り立て

るが、その彼が戦の果てに思う存在は生き別れた

一子郁太郎であった。

 

 惨たらしい殺人を繰り返し屍の山を築き、夥しい

血を流してきた竜之助が生き別れた息子を思う気

持ちには、胸が熱くなる。

 

 極悪人であっても愛はある。

 

 だが、竜之助は愛を知っても刀を取ってしまう男

なのだ。

 

 衣笠貞之助と森一生は、激動の時代に多彩な人間

関係の中で剣を振るい血を流す竜之助を探求し、何が

善で何が悪かは分らぬものであり、愛を感じても血を流

してしまう存在が人間であることを尋ねた。

 

 

 中村玉緒が二十代でヒロインを深く表現する。お浜・お
豊・お銀は輝いている。
 
 本郷功次郎は兵馬の誠実さを探求する。
 
 見明凡太郎の七兵衛がいぶし銀の味わいを見せる。
 
 兵馬と竜之助の激闘はいよいよ最終決戦になるかと
思うところで衝撃のラストになる。
 
 
 大いなる流れに飲み込まれる竜之助を雷蔵が熱演
する。
 
 人間の果てしない煩悩は大いなる流れとなっている
ことを教えてくれているようだ。
 
 

 平成十六年(2004年)一月二十五日京都文化博物

館映像ホールで『大菩薩峠 完結篇』を見聞した。

 この時の印象は今も凄絶である。

 

 森一生監督は生前のインタビューでヴィクトル・エリ

セ監督の『ミツバチのささやき』『エル・スール』を讃え

ていた。エリセファンの一人として嬉しかった。

 

 中島貞夫は森一生の演出における奥行きを絶賛

している。

 

 果てしない世界を撮る名手森一生のパワーは

『大菩薩峠 完結篇』に溢れている。

 

 剣豪として卓抜した腕を持ち、気の向くまま斬殺

を為していた机竜之助は妻を自身の刃で失い、視力

を失うが魔性は激しくなり、流血と愛の交感を経て、

我が子への父性愛を感じつつ、川に流される。

 

 大いなる流れは竜之助を飲み込み、苦悩と悲嘆も

又限りないものであることを教えてくれている。

 

                            合掌