薄桜鬼(参) 市川雷蔵 勝新太郎主演 伊藤大輔脚本作品 | 俺の命はウルトラ・アイ

薄桜鬼(参) 市川雷蔵 勝新太郎主演 伊藤大輔脚本作品

『薄桜記』

(はくおうき)

 

映画 トーキー  110分 カラー 大映スコープ

昭和三十四年(1959年)十一月二十二日公開

製作国 日本

製作言語 日本語

制作 大映京都

製作 三浦信夫

企画 財前定生

 

原作 五味康祐

脚本 伊藤大輔

 

撮影 本多省三

音楽 斎藤一郎

美術 太田誠一

録音 海原幸夫

照明 中岡源権

スチール 松浦康雄

 

 

出演 

 

市川雷蔵(丹下典膳)

     

勝新太郎(中山安兵衛後に堀部安兵衛)

     

真城千都世(千春)

北原義郎(長尾竜之進)

大和七海路(三重)

三田登喜子(浪乃)

嵐三右衛門(堀内源太左衛門)

寺島雄作(嘉平次)

清水元(長尾権兵衛)

島田竜三(大高源五)

浅野寿々子(堀部幸)

伊沢一郎(戸谷兵馬)

浜田雄史(壱岐練太郎)

伊達三郎(三田四郎五郎)

志摩靖彦(大迫源内)

葛木香一(菅野六郎左衛門)

須賀不二夫(村上庄左衛門)

光岡竜三郎(中津川祐見)

横山文彦(酒宴の客)

藤川準(与力馬淵)

玉置一恵(梶川与惣兵衛)

菊野昌代士(酒宴の客二)

旗孝思(役人田頭)

沖時男(武家の使者物部)

大杉潤(野母)

千葉敏郎(友成造酒之助)

 

荒木忍(堀部弥兵衛)

香川良介(千坂兵部)

 

 

監督 森一生

 

平成十一年(1999年)十一月二十七日

朝日シネマにて鑑賞

 

平成三十一年(2019年)七月十七日・

令和三年(2021年)六月二十一日に発表

した記事を再編している。

 

感想文では結末迄言及します。未見の方は

御注意下さい。

 

 元禄十五年十二月十四日。雪の中を歩む堀部

安兵衛は、高田の馬場の仇討に助言してくれた

侍丹下典膳を想い起こした。

 

 当時彼の姓は中山で、高田の馬場で叔父菅野六

郎左衛門を助けに行こうとする道中で典膳に襷に

ついて大切な注意を受けた。六郎左衛門は仇村上

庄左衛門に斬られ致命傷を負っていた。

 

 堀部彌兵衛・幸親子が安兵衛を激励する。安兵

衛は典膳の助言に学んで戦い庄左衛門を斬った。

 

 典膳は、彼の助言が結果的に安兵衛を助け、同

門の村上庄左衛門を死に追いやったという事を詰

られ知心流で糾弾を受ける。

 

  「知心流を裏切った」という咎で、破門された上、

五人の同門の剣士友成・戸谷・壱岐・三田・仁木か

ら命を狙われた典膳は、橋で迎え討ち、五人の体

に傷を負わせる。

 

 典膳は犬に襲われていた美女千春を助ける。

安兵衛が現れ、生類憐みの令を恐れるように

注意する。

 

 典膳と千春は愛し合って祝言を挙げる。

 

 恨みに思った戸谷一味五人は、卑劣にも典膳

の留守中に、千春の身体を奪い、手引きの為に

丹下家を裏切らせ買収した侍女三重を口封じの

為に斬殺する。

 

 典膳は千春を愛しながら、「そなたの身体が許

せぬ」と冷厳に語り、千春は泣き崩れる。片腕

を斬られた典膳は、激痛を堪えつつ復讐戦に全

てを駆ける。

 

 

 復讐の為、敢えて千春を離縁し浪人となった典

膳は、上杉家家老千坂兵部の知遇を受け、吉良

家護衛の侍として召し抱えられる。

 

 兵部は病床において千春に「典膳に吉良邸の警

護をして欲しい」と依頼して病没する。

 

 その知遇の恩義に応える為に、典膳は傷を負っ

た身で戦いぬくことを誓い、同じく護衛の勤めをし

ている宿敵五人との対決に挑む。

 

 爺の嘉平次に自己の命の在り方を語った。

 

    「爺よ。命助かってこれからまた

    殺しにか殺されにか出向いて行く。

    修羅妄執の世界じゃのお。」

 

 剣士にとって宿敵を倒さねばならぬ。斬るか斬ら

れるかの道に足を踏み入れた者は引き返せない。

 

 

    「そうよ。死すべくして助けられた

    敗残の身を擲って、知遇の恩に

    応えるまで。口だけは達者じゃのお。

    口だけでは人は斬れん。」

 

  懐紙を一枚取ってふーと吹き上げ、落ちてくるの

を待って抜き打ちに斬る。隻手は縦横に動き、紙は

寸断されて雪のように舞う。

 

 

 雪の日。千春の助力を得て、典膳は戸板に

乗って、口で刀を抜く戦術で、遺恨を抱く知心

流の剣士達五人組と戦う。

 

 千春も命を捨てる覚悟で夫に助力するが、五

人組に捕えられ、彼等の一人戸谷の放った短筒

に撃たれる。致命傷を負うが、かけつける堀部安

兵衛に知り得た吉良義央の茶会の日時を知らせ

る。

 

 典膳は五人組を斬るが、彼自身も致命傷を負

っていた。千春は最期の力を振り絞って、倒れ

ながらも愛する典膳の手に触れようとする。

 典膳は傷の痛みと戦いながら、愛する千春の

手を掴んだ。

 

 元禄十五年十二月十四日。

 

 堀部安兵衛を含む四十七人の赤穂浪士は、吉

良上野介義央邸に討ち入ろうとしていた。

 

 ☆「頑張ったほうが主役や」☆

 

 八代目市川雷蔵

 (はちだいめ・いちかわ・らいぞう)

 本名 太田吉哉

 出生名 亀崎章雄

 旧名   竹内嘉男

  旧芸名 二代目市川 莚蔵

 昭和六年(1931年)八月二十九日生まれ。

 昭和四十四年(1969年)七月十七日死去。

 三十七歳。

 

 勝新太郎(かつ・しんたろう)

 本名 奥村利夫

 別名義 杵屋勝丸

 昭和六年(1931年)十一月二十九日生まれ。

 平成九年(1997年)六月二十一日死去。

 六十五歳。

 

 丹下典膳と中山安兵衛後に堀部安兵衛。二十

八歳市川雷蔵と二十七歳勝新太郎が役の命を

熱く燃やした。

 

 

 主人公二人の男性とヒロインが語りを担当す

るという構成に強烈な印象を受けた。

 

 市川雷蔵の美しい丹下典膳。剣士として義を

感じた中山安兵衛の助言をしたことが、同門に

恨まれ、妻をレイプされ、自身も片腕を斬られ、

落魄するが、剣士の誇りを捨てず、宿敵との大

決戦に全てを賭けて挑む。

 戸板に身体を置き、口を使って刀を取り出し

強敵と戦う。

 美しく清らかで綺麗な男子である。

 

 悲壮美・悲劇美が秀麗に輝く。

 

 勝新太郎の中山安兵衛。逞しく武骨で男気・

侠気に溢れた男児である。

 

 脚本を読んだ勝新は、典膳と安兵衛が共に

大きな役で登場シーンも多いので、脚本を書

いた伊藤大輔に「どっちが主役や?」と質問し

た。

 

 脚本家伊藤大輔は、「頑張ったほうが主役や」

と答えたという。ライバル関係にあった、八代目

市川雷蔵と勝新太郎の芸力と芸力を競合させ

激突せしめ切磋琢磨するホンを書いた。大輔

の筆力は強力・絶大である。

 

 

 真城千都世の千春は優しく暖かく美しい妻で

ある。夫典膳に殉ずる愛を、真城が勤め切る。

 

 

 伊藤大輔の生涯の盟友香川良介が重量感豊

かな貫禄で、名家老千坂兵部を深く勤める。

 

 典膳と安兵衛は高田の馬場で知り合い、仇討ち

の人間関係に巻き込まれ、互いに敬意を抱き合い

ながら、それぞれの決死の戦いに身を投じる。

 

 五味康祐に映像化に当たって小説のドラマの改

変の許可を貰った伊藤大輔は、二人が闘うドラマ

にせず、それぞれに戦いを甘受するドラマを描いた。

 大輔本人は、作中典膳が妻千春の不義の噂に対

して用意していた狐を退治して妖怪変化の仕業と

親戚達に語るシーンに疑問を語っている。

 徳川綱吉の生類憐みの令が定められていた時代

に、狐を殺傷したことが幕府に露見したら、典膳が

処罰されるからだ。

 本篇において森一生監督も苦慮したのではない

かと思われる。如何に虚構の小説・劇映画であっ

ても徳川綱吉の生類憐みの令の時代に、狐殺傷

は危険が大きすぎるし無理があることは否定でき

ない。

 映画化版におけるこのシーンにおいても、市川

雷蔵は重厚に演じていて、その魅力が輝いている

ことは確かめたい。

 

  「この片腕でどれまでやっていけるか叩き直し

てみよう」(『伊藤大輔シナリオ集 Ⅲ』65頁)と典膳

が自問する言葉を、原作小説「全編の圧巻」と見つ

めつつもシナリオ作成で割愛したことを大輔は悔や

んでいる。

 

 強姦された事を受けても、「お前の身体が許せん」

と千春を責めてしまう典膳の心は冷厳と見る声もある

とは思う。これは千春を奪われた事への嫉妬なのだ。

自身を愛してくれている事と妻を守り切れなかった事

に感謝と自責を覚えつつ典膳は戦に身を投じる。

 

 

 雪の中で共に致命傷を負って死の寸前に典膳

と千春は手を握り合う。二人は五人組の暴力に

よって身心を傷つけられ、いのちをも奪われるが、

最期の最期に絶対の愛を示しきった。悲しみの

大詰だが、丹下典膳と千春は愛し合う心を完全

に明かして死んでいった。二人は愛の勝利者なの

である。

 

 痛ましく悲しい場面だが、愛の華が雪に咲いた。

 

 市川雷蔵と真城千都世は美男美女。

 

 致命傷を受けて死の寸前に愛を確かめあって

死ぬ二人。

 

 伊藤大輔は、二人が生死・死生を越えて愛を

成就したことを書き、市川雷蔵・真城千都世の

名演が作者の心に応えた。

 

 安兵衛を含む四十七士は関わった人々の万感

の想い包んで吉良邸に討ち入る。

 

 

 森一生監督の演出は重厚で深い。

 

 時代劇悲劇の決定版であり、永遠不滅の大傑

作である。

 

 

 観客にとっても、万感の心が溢れる。

 

  二十代二枚目スタアのライバル関係に着目し

「頑張ったほうが主役や」と激励し、二人の競争

意識を刺激して競合激突させて火花散る演技

合戦を現出せしめた大輔の脚本力に改めて感

嘆した。

 

 伊藤大輔が書いた赤穂事件の脚本作品では、

最大の傑作と頂いている。

 

 

 

                         合掌