伊賀越道中双六 沼津 昭和六十三年十二月二十四日南座 | 俺の命はウルトラ・アイ

伊賀越道中双六 沼津 昭和六十三年十二月二十四日南座

 『伊賀越道中双六 沼津』

 昭和六十三年(1988年)十二月二十四日 南座

 

 平作 實川延若

 お米 澤村宗十郎

 池添孫八 中村智太郎

 旅の夫 坂東竹三郎

 旅人  片岡千代丸

 旅の妻 中村鴈之丞

 安兵衛 市村鶴蔵

 呉服屋十兵衛 中村扇雀

 

 ☆

 實川延若=三代目實川延若

 

 澤村宗十郎=九代目澤村宗十郎

 

 中村智太郎→四代目中村鴈治郎

 

 坂東竹三郎=五代目坂東竹三郎

 

 片岡千代丸=六代目片岡愛之助

 

 中村鴈之丞→初代中村桜彩

 

 市村鶴蔵=初代市村鶴蔵

 

 中村扇雀=二代目中村扇雀

       →三代目中村鴈治郎

       →四代目坂田藤十郎

 ☆

 呉服屋十兵衛は荷物人足の老人平作が荷を

お持ちしたいと申し出たのを受ける。二人で道中

を歩むが老人の平作の持ち方・歩み方は危なく

て、足に傷を負う。十兵衛が持っていた膏薬を塗

ると平作の傷は癒えた。

 十兵衛が荷物を持ち平作は感謝する。平作の

美しい娘お米に出会った十兵衛は一目惚れする。

平作は自身の家に泊まって欲しいと頼み、十兵衛

は応ずる。

 十兵衛は薬金瘡瘡(きんそう)に効果がある妙薬

と聞く。お米は十兵衛の薬を盗もうとするが、十兵衛

がその訳を聞くと、彼女は負傷している夫の為に薬

が欲しかったという。

 

 お米の夫和田志津馬は、父和田行家を沢井股

五郎に殺された。十兵衛は股五郎に義理がある。

 平作は、二歳の時に養子にやった平三郎という

息子が居りますが、会っておりませんと語った。

 

 十兵衛実は平三郎は、出会った平作が実父、愛

したお米が妹と知って吃驚する。十兵衛は金と印

籠と臍の緒書きを残して去る。平作・お米は十兵

衛が平三郎と知って後を追う。

 

 

 延若の平作は老人の暖かさが溢れていた。昔

は小相撲の一つも取ったという男の気概があった。 

 だが、肉体の老化は激しく足元もフラフラして

いる。当時六十七歳なのだが、高齢老人に見えた。

。十兵衛を見て男惚れする。

 後に別れた息子と知り、命を捨てて、壻が追う

仇股五郎の行方を聞こうとする心が熱かった。

 

 扇雀の十兵衛は情と色気が溢れていてこちらも

大きく包容力がある。

 

 

 商人と雲助の交流が別れていた息子と父の

再会であり、惚れた女性が妹であったことへの

気づき。偶然・突然の再会が人々の心に激しい

動きをもたらす。

 

 父・妹が仇と狙う沢井股五郎に義理がある

十兵衛の苦悩。妹の夫思いの心を想えば股

五郎の落ち着く先を教えてあげたいが、十兵衛

は義理があるので言えない。守秘義務がのし

かかる。

 

 歌舞伎では平作と十兵衛が花道を客席通路も

歩むのが名場面だ。客席通路を歩む十兵衛が「

ええ道やな」と語り客席は大受けであった。

 

 

 大詰の千本松原に胸が熱くなる。

 

 

 今回も親子が情愛と義理が出会う仲、命を

確かめ合う交流に涙腺を刺激された。

 

 平作は股五郎の在所を問う。

 

 股五郎に義理ある十兵衛は守秘義務を破

れない。

 

 自らの命を擲って腹切って、股五郎の在所

を聞く平作。

 

 父の捨身の行為に触れて、「落ち着く先は

九州相良」と告げる十兵衛。

 

 親子が父の最期に愛を確かめ合う。

 

 延若の父平作と扇雀の十兵衛の父子の交流

に芸と芸の熱き激突があった。

 

 上方歌舞伎の大名優延若と二代目扇雀の芸と

芸の競演が昭和南座最後の顔見世の名舞台に

熱く燃えた。

 

  三代目實川延若

 

  九代目澤村宗十郎 

 

  四代目坂田藤十郎

 

 親子愛を教えてくれた三大名優は、観客の心の

中に生きている。

 

 

 

 三代目實川延若 没後三十年・三十一回忌命日

  令和三年(2021年)五月十四日

 

 

                         合掌