『妹背山婦女庭訓』「妹山背山の段」 竹本住太夫・竹本源太夫の掛け合い 2010/4/12 | 俺の命はウルトラ・アイ

『妹背山婦女庭訓』「妹山背山の段」 竹本住太夫・竹本源太夫の掛け合い 2010/4/12

 令和三年(2021年)四月十二日。

 

 十一年前の今日平成二十二年(2010年)

四月十二日国立文楽劇場において、『妹背

山婦女庭訓』を鑑賞した。

 

吉田簑助文化功労者顕彰記念

人形浄瑠璃 文楽

平成二十二年四月公演

 

『通し狂言 妹背山婦女庭訓 第一部』

「初段 小松原の段 蝦夷子館の段」

「二段目 猿沢池の段」

「三段目  太宰館の段 妹山背山の段」

imouto

  作 近松半二 

    松田ばく

    栄善平   

    近松東南

    三好松洛

 

 「妹山背山の段」

 「背山」

 大判事    竹本住大夫

 久我之助  竹本文字久大夫

 前       豊澤富助

 後       野沢錦糸

 

 「妹山」

 定高    竹本綱大夫

 雛鳥    豊竹呂勢大夫

 前      鶴澤清二郎

 後      鶴澤寛太郎

 

 人形役割

 久我之助    桐竹紋壽

 雛鳥       吉田簑助

 腰元小菊    吉田簑一郎

 腰元桔梗    桐竹紋臣

 大判事清澄   吉田玉女

 後室定高    吉田文雀

 ☆

 竹本綱大夫→九代目竹本源太夫

 

 竹本文字久大夫→豊竹藤太夫

 

 吉田玉女→二代目吉田玉男

 

 公演当時太夫の表記は大夫

 ☆

 

 太宰の領地妹山と大判事の領地背山の間

に吉野川が流れている。太宰の定高(さだか)

と大判事清澄は対立している。

 

 しかし、大判事の息子久我之助と定高の娘

雛鳥は深く恋し合っている。

 

 

 川を挟んで恋人達が愛しい相手を見つめ

合い、会いたい気持ちを胸で感じる場は感

動的だ。

 

 「早瀬の浪も厭ふまじ」と想う程雛鳥の恋心は

熱い。

 

 

 定高は雛鳥の思いを知っている。入鹿のもと

へ入内すれば、雛鳥は命を断つことを決めて

おり、母の自己自身が娘を斬るとを決めている。

その気持ちを確かめ合って、定高と雛鳥は涙

を流す。

 

 久我之助は雛鳥と太宰館を救わんとして従

容と腹を斬る。一人の美青年の死の物語。

 

 雛鳥が合掌し、死の決意を固め、母定高が

首を斬る。

 

 文楽では実際に雛鳥の人形の頭が落ちる。

雛鳥の死という事柄が明晰に示される。純粋

無垢な娘が最愛の母親の手によって自ら斬

られることを選ぶ。

 そこに悲劇の美を感ずる。

 

 大判事は最愛の息子久我之助の切腹を見

届け、入鹿に対する抵抗を覚える。

 

 定高は久我之助が切腹したことを知り、愛娘

の生首を川に探して、久我之助が生きているう

ちに祝言を成就させてあげたいと願う。

 

 雛鳥の生首が嫁入り道具と共に川を渡り、大

判事が箒で呼び寄せ、断末魔の苦しみに在る

息子に見せる。大自然の光と輝きの中で、命を

捨てて恋を貫く若者達の悲劇が美を絢爛と見せ

る。

 大判事は最愛の息子久我之助の首を斬り、雛

鳥の首と添わせ、定高と心を通わせる。

 

 子供達の忠義の死が、親達の対立を破り、共

感の世界を開く。

 

 大判事が雛鳥と久我之助の首と首を添わせる

大詰に悲劇美が極まりを示した。

 

 

 

 

 

 『妹背山婦女庭訓』は明和八年(1771年)一月

二十八日大阪松竹座において初演された。

 

竹本座

 親達が対立し、子供達が愛し合って命を

捨てて恋を成就し、最愛の子を無くした親

達は争いの愚かさを痛感する。

 

 「妹山背山の段」の物語の骨子は、ウィリ

アム・シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリ

エット』とよく似ている。

妹山背山

 竹本綱太夫後の九代目竹本源太夫の定高。

 

 七代目竹本住太夫の大判事。

 

 両師の掛け合いに大感激を覚えた。

 

 住太夫は床本を暗記されているとお見受け

した。

 

 吉田文雀の母定高が、吉田簑助の娘雛鳥

の首を切り、首がポーンと飛ぶ。

 

 文楽の場合、人形が役を勤めるから、斬首

場面もはっきりと描写されます。

 

 若く美しい娘が、死を選び最愛の母に斬られ

ることで、捨命の抗議を圧政に為す。

 

 その悲劇美に不滅の輝きを感じた。

 

 蘇我入鹿の独裁政治と理不尽な命令に恋

し合う雛鳥と久我之助は命を捨て自死によっ

て戦った。

 

 その勇気に雛鳥の母定高と久我之助の父

大判事は心を打たれ抵抗を学んだ。

 

 母定高の悲しみと愛情を情感豊かに語った

竹本綱大夫後の十代目竹本源太夫の芸に

深く心を打たれた。

 

 

 父大判事の七代目竹本住大夫後の七代目

竹本住太夫の語りは、宇宙の至宝である。

 

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 この記事は過去に発表した感想文集を再

編している。

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                文中一部敬称略

 

 

                      合掌