『忠臣蔵 花の巻 雪の巻』 稲垣浩監督作品 | 俺の命はウルトラ・アイ

『忠臣蔵 花の巻 雪の巻』 稲垣浩監督作品

『忠臣蔵 花の巻 雪の巻』

映画  昭和三十七年(1962年)十一月三日公開
トーキー カラー 207分

製作国     日本

制作・配給   東宝

制作      藤本真澄

         田中友幸

         稲垣浩

脚本     八住利雄

音楽     伊福部昭

撮影     山田一夫

美術     植田寛

録音     西川善男

照明     小島正七

整音     下永尚

監督助手  丸輝男

        高瀬昌弘

編集     岩下広一

合成     泉実

殺陣     久世竜

振付     猿若清方

現像     東京現像所

製作担当者 川上勝太郎


出演

 

松本幸四郎(大石内蔵助良雄)

 

加山雄三(浅野内匠頭長矩) 

三橋達也(堀部安兵衛)

宝田明(高田郡兵衛) 

夏木陽介(岡野金右衛門) 

佐藤允(不破数右衛門) 

高島忠夫 (間十次郎)
河津清三郎(吉田忠左右衛門) 

志村喬(千坂兵部)  

加東大介(寺坂吉右衛門) 

小林桂樹(脇坂淡路守) 

池部良(土屋主税)

 

原節子(大石りく)

司葉子(阿久里後に瑤泉院) 

団令子(お軽) 

星由里子(お艶)

白川由美(うめ) 

水野久美(潮田佐保) 

浜美枝 (赤穂の女)
田村奈己 (赤穂の女)
藤山陽子(みゆき) 

池内淳子(お文) 

淡路恵子(お時)

草笛光子(戸田局)

新珠三千代(浮雲太夫)

 

森繁久彌 (本陣主人 半兵衛)


 

フランキー堺(大工 平五郎) 

三木のり平(幇間 利兵衛) 

柳家金語楼(畳屋 音吉)

益田喜頓(松原多仲) 
八波むと志(植木屋 徳三)  

由利徹(のん太)   

南利明(伝八)

山茶花究 (柳沢吉保) 

有島一郎 (多門伝八郎)

 

 

小泉博(大高源五) 

藤木悠(武林唯七) 

久保明(伊達左京亮) 

平田昭彦(岡島八十右衛門) 

佐原健二(磯貝十郎左衛門)

太刀川寛(上杉綱憲) 

中丸忠雄(小林平八郎) 

堺左千夫(密偵) 

土屋嘉男 (潮田万之丞)

藤原釜足(楠屋久兵衛) 

田崎潤 (村上喜剣)

藤田進(梶川与惣兵衛) 

上原謙(清閑寺中納言)

 

船戸順(貝塚三郎次) 

児玉清(菅谷半之丞) 

伊藤久哉(大石瀬左衛門) 

野村浩二 

三島耕 

大塚国夫 

山本廉(神崎与五朗) 

桐野洋雄 

大川平八郎(間瀬久太夫) 

石田茂樹(利七) 

谷晃(星八右衛門) 

田島義文(脇坂主膳) 

沢村いき雄(安蔵) 

小杉義男(堀部弥兵衛)

 

中島そのみ(お玉) 

北川町子(おきよ) 

柳川慶子 

紅美恵子 
飛鳥みき子 

峯丘ひろみ
出雲八重子 

馬野都留子 

東郷晴子(お京) 

一の宮あつ子(おとみ) 

中北千枝子 (お筆)


香川良介(原惣右衛門) 

清川荘司(藤井又左衛門) 

横山運平(平五郎の叔父) 

加藤晴之 

岬洋二 

清水元(役人 荒賀源助) 

戸上城太郎(清水一角)

千葉一郎(柳原大納言)

 

沢村貞子(吉良富子) 

津路恵子 

音羽久米子(春野太夫) 

三田照子 

坂部紀子(大石るり) 

坂部尚子

 

 

大伴伸(品川豊後守)

中山豊(酔漢)

津田光男(畳屋政吉)

勝本圭一郎(関久和)

安芸津広(小野寺十内)

鈴木治夫(呉服屋)

岩本弘司(赤垣源蔵)

手塚勝巳

草間璋夫

坪野鎌之

宇留木耕嗣

緒方憐作

関田裕

篠原正記

門脇三郎

草川直也(鈴木源右衛門)

夏木順平(下僕八助)

池田生二(安井彦右衛門)

向井淳一郎(猪子理兵衛)

 

 

市川染五郎(矢頭右衛門七)

中村萬之助(萱野三平)

中村又五郎 (徳川綱吉)
中村芝鶴(大野九郎兵衛) 

市川高麗蔵(近松勘六) 

中村吉十郎(奥行将鑑) 

市川段四郎(片岡源五右衛門) 

市川団子(大石主税)


 

市川中車 (吉良上野介義央)


 

三船敏郎(俵星玄蕃)

 

監督 稲垣浩

 

☆☆☆

松本幸四郎=八代目松本幸四郎→初代松本白鸚

加山雄三=弾厚作

大川平八郎=ヘンリー・大川=ヘンリー大川

市川染五郎=六代目市川染五郎→九代目松本幸四郎=九代琴松→二代目松本白鸚

中村萬之助→二代目中村吉右衛門=松貫四

中村芝鶴=二代目中村芝鶴

中村又五郎=二代目又五郎

市川高麗蔵=十代目市川高麗蔵

市川段四郎=三代目市川段四郎 

市川団子=三代目市川団子→三代目市川猿之助→二代目市川猿翁

市川中車=八代目市川中車

☆☆☆

平成二十七年(2015年)六月十二日 シネ・ヌーヴォにて鑑賞

☆☆☆

「花の巻」

元禄十四年(1701年)役人荒賀源助は勅

使が宿泊した宿で警戒に勤めていた。本陣

主人半兵衛は養子の身で肩身の狭い思い

をしていたが、勅使宿泊の大任を為し、揮毫

の一筆も賜り、妻時に得意気に見せて夫婦

共に喜ぶ。

 

 時しも側用人柳沢吉保の権勢が絶大であ

った。高家吉良上野介義央は進物を贈り取

り入っていた。徳川五代将軍綱吉の生類憐

みの令は、庶民に恐怖を与えていた。

 

  勅使ご饗応役を拝命した浅野内匠頭長

矩は庭で案ずる家臣藤井又左衛門に武士と

しての心意気を語る。彼は曲がったことが嫌

いで賄賂に反感を持ち、上野介に鰹節のみを

贈った。これが強欲な上野介に恨まれてしま

った。

 

 饗応の作法の教授で、上野介はネチネチ

と内匠頭を苛め抜き、長矩の困った表情を

見て喜んでいた。
 愛妻阿久里の支えを思い、長矩は義央の

執拗な嫌がらせを耐え忍ぶ。

 

 増上寺への勅使参詣の為に畳替が必要

なことがわかった。期限まで一日しかない。

義央の謀に怒りを覚える長矩。片岡を初め

とする家臣達は、畳職人に畳替えを頼む。

 

 大高は畳職人に断られるならば、切腹す

ると語り、強引に頼む。

 

 堀部安兵衛は腕が良いが酒飲みの畳屋 

音吉を口説き、飲み屋で強く頼み連れて行

こうとする。

 

 「待て」

 

 背後から太い声が響く。

 

 「武士の酒飲み相手を連れて行く気か?」

と問う男は浪人俵星玄蕃。安兵衛は音吉に

仕事を無理矢理頼んだので、自分が貴殿の

酒飲み相手を勤めると俵星に提案する。二

人は大酒を喰らいしたたかに酔った。

 

 音吉たちの不眠の仕事で、畳替えに成功し

た。長矩は喜ぶ。だが義央の虐めは陰湿さを

増し、激化する。

 

 優しい脇坂安照が長矩を慰め励ましてくれ

た。

 

 元禄十四年三月十四日(1701年4月21日)

江戸城松の大廊下で、義央に辱められ、遂に

長矩は堪忍袋の緒を切り、抜刀しそうになる。

 

  「面白い。この上野を切るおつもりか?」

 

 義央は嘲笑う。

  

 「平にご容赦」
 

 長矩は伏して詫びる。義央は相手が謝ったこ

とにつけいって更に虐める。

 

 梶川与惣兵衛が現れ、長矩にお役目を伝える

が、義央は「其が承ろう」と申しでて、長矩を田舎

大名と嘲笑する。堪忍袋の緒が遂に切れた。


 

 長矩は怒り心頭に達し、抜刀した。そして、義央

に斬りつけた。梶川が止める。坊主・武士達も諌

める。長矩の命がけの刃傷であったが、制止され

抱き留められて最後の一太刀は叶わなかった。

 

 額から出血した義央は脇坂にぶつかる。脇坂

は紋所を血で汚されたと怒り、上野介を打擲す

る。上野介は謝って逃げ去るように歩む。


 

 将軍綱吉は吉保から報告を受け、内匠頭切腹

を命ずる。

 

 多門伝八郎の情けある詮議を受けるが内匠頭

は乱心ではないと主張する。

 

 長矩の弟大学長広から松の大廊下刃傷事件を

聞かされ、阿久里は驚く。大学は「私は生きること

が楽しくて仕方が無かった。兄上は何てことをして

くれたんだ」と兄を非難する。阿久里は髪を切り、

瑶泉院と号する。

 

 十四日のうちに長矩は田村右京太夫邸に預け

られ、切腹を命じられ、従容と受けた。

 

 庭先で片岡と目が合った。

 

 長矩は「風さそふ 花よりもなほ われはまた 

春の名残を いかにとやせん」と辞世の句を読み

磯田武太夫の介錯で、切腹して果てた。享年三

十五歳。

 

 義央は刃傷の恐怖を思いだしぶるぶる震える。

「儂は色も欲も未だ極めておらんぞ」と語る彼に

妻富子は呆れる。

 内匠頭切腹・赤穂藩取り潰しの知らせを持って

使者萱野三平は駕籠で駆けていた道中で老婆を

巻きこみ死なせてしまう。
 

 赤穂では城代家老大石内蔵助良雄が紋所を

記した衣服に身を包み、じっと赤穂の風景を見

つめていた。

 

 悲報を聞いた大石は、評定の激論を聞きつつ、

殿の御短慮であったと確かめる。

 

 殉死か城明け渡しかで、赤穂武士の意見は

別れた。内蔵助は殉死を主張する。十代の少年

右衛門七が殉死を希望する。

 内蔵助は心を痛めるが、一子松之丞の参加は

認められて、自身が加われぬのは忠義に違いが

あるのかと彼に問われて、参加を許す。

 

 殉死に集まった仲間達に、内蔵助は本心を打

ち明けた。彼の希望は、切腹する前に怨敵吉良

上野介殿を討って、主君長矩の恨みを晴らすこ

とであった。

 

 一同は感激する。臥薪嘗胆の思いで、忍耐を

続け討ち入りの時期が純熟する迄待つことを誓

い合う。

 

 上杉家家老千坂兵部は知恵者で、密偵を赤

穂に派遣する。浪人していた不破数右衛門が

赤穂に戻り、千坂の密偵を斬る。

 

 城明け渡しの役人は脇坂安照であった。見事

な明け渡しに安照は感服する。情けある淡路守

の言葉に、内蔵助は主君長矩の心を思い、感

極まり涙を流す。

 

 浪人していた不破数右衛門が赤穂に帰ってき

た。彼は千坂の間者を追い詰め、斬った。諜報戦

が始まっていたのだ。

 

 大石は仇討の決意を忘れたのかと思う程遊里

で遊興に耽っていた。幇間利兵衛の見事な芸を

美女浮雲太夫と共に見る内蔵助は遊びに完全に

耽溺してしまったようだった。浪人村上喜剣に問

い詰められ、恐れる大石を浮雲太夫が庇う。

 

 三平が内蔵助を尋ね、老婆を事故死させてしま

ったことに詫び香典を届けたが、遺族から仇討の

為に斬ると言われ、「斬られることにしました」と決

意を報告し、死ぬ前に「太夫の御本心を」と問う。

内蔵助は迷うが、命がけで最後の問いを熱く語る

三平に仇討こそ真の望みと報告する。

 

 夜。老婆の遺族が三平に近づき、復讐の刃を向

けると三平は腹を斬って自決した。

 遊里で三平切腹の知らせを聞いた内蔵助の目

に光るものがあった。

 

 大石りくは離縁された。娘るりと共に実家に帰

ることとなった。りくは愛する夫内蔵助・息子松之

丞と今生の別れになることを悟っていたようだ。

 

 内蔵助・松之丞が畑を耕しながら、りく・るりを

見送る。

 

 

「雪の巻」

 柳沢吉保邸の改築の為、事故が起こり庶民が

苦しんでいる。俵星玄蕃は世の腐敗を歎きつつ、

自身の腕を買う武家は無いかと探り、吉良家の

警護にも応募する。

 

 上野介義央は赤穂浪士の討ち入りを警戒し、

屈強堅固の侍を多数雇っていた。潮田の妹佐保

は自身を犠牲にして上野介の夜の相手を勤め、

情報を兄達に流した。

 

 大石は山科から江戸に向かった。半兵衛の宿

に宿す。公家の名を装い、半兵衛に肚を見せる。

半兵衛は公家を名乗る人物が大石であると悟っ

た。役人荒賀が公家に挨拶に来た。半兵衛は揮

毫の文字を見せ「頭が高い」と荒賀を叱り、挨拶

を許さなかった。かくして半兵衛の機転で大石は

難を逃れ、江戸に入ったのである。

三船 三橋
 

安兵衛は親友俵星が吉良の警護に名乗りを

挙げたと聞き、怒って彼を襲う。俵星は受けとめ、

二人は和解する。

 

岡野金右衛門は町人に変装しつつ大工平五

郎の妹艶に恋していた。平五郎は叔父譲りの大

工で吉良様の工事に意欲を燃やし、邸の絵図面

を大切に保管していた。岡野の役目は、艶との

恋を利用して、絵図面を盗みだすことだった。だ

が、そのことで愛する艶の気持ちを弄ぶことに良

心の呵責が起こる。岡島に「大義の為に忍べ!」

と叱責されても岡野の心は揺れる。

 

 のん太・伝八の二人も艶に恋していたが、平五

郎は二人の気持ちを察する。

 

 だが、艶が愛していた人は、岡野だった。岡野

の頼みを聞いて、絵図面を盗み出そうとする。平

五郎は妹の行為を発見し、叱り、自身の役目を

語るが、命がけの妹の恋を思い、許し絵図面を

渡す。

 

 高田は女性文との恋に溺れていた。忠義か恋

かに迷う。

 千坂は病に倒れ、後事を松原多仲に託す。

 

 吉良家の隣には土屋主税が居る。主税は植木

屋徳三の話を聞く。

 

 艶から絵図面を貰い、金右衛門は感謝する。

 

 大石は南部坂の瑤泉院を尋ねる。戸田局と共

に瑤泉院は大石の仇討を期待していた。だが、内

蔵助は間者を恐れて、仇討は毛頭考えていないと

語り、瑤泉院は失望する。内蔵助は殿への御焼香

を願い出るが許されなかった。戸田局に巻物を託

す。これこそ浪士の連判状であった。

 

 元禄十五年(1702年)十二月十四日。雪が降り

積もっていた。

 大石内蔵助を頭領とする赤穂浪士四十六名が

蕎麦屋に結集した。寺坂吉右衛門は一党に加わ

ろうとして雪の中で倒れてしまう。

 

 内蔵助は浪士四十五名を率いて吉良上野介

邸の前に立ち、討ち入りを指揮した。竹先には

萱野三平の名を記した紙が挟まれていた。亡き

三平の心も浪士に居るのだ。

 

 戸田局が間者の女を捕え、内蔵助が託した

巻物が何であったかを知る。

 瑤泉院は内蔵助の真心を知り、詫びてその義

に感謝する。

 

 浪士は戦い、吉良の警護をする浪人達を斬る。

吉良家では清水一角が奮闘するが、赤穂浪士

に斬られる。

 

 両国橋では俵星玄蕃が立ち、寄せ手を跳ねの

けて赤穂浪士を助ける。

 

 だが、肝心の上野介義央の姿が見えない。討

ち入りに入った目的は吉良を斬ることだ。その上

野介を見出せないことは、仇討の義が為し得な

い。朝になれば役人達が寄せて、賊として捕え

られる可能性もある。「折角討ち入ったのに、吉

良殿を見逃してしまうのか!?」と焦りが浪士の

心に起こる。

 

 頭領大石は仲間を落ち着かせる。

 

 そこへ笛が鳴った。

 

  炭小屋に吉良が居たのだ。

白鸚 中車


 大石内蔵助良雄と四十五名の仲間の赤穂

浪士は遂に吉良上野介義央と対面を果たし、

短刀で刺殺し、主君浅野長矩の恨みを晴らし、

仇討ち本懐を遂げる。

 

 

 

 ☆忠臣蔵映画の傑作☆

 

 稲垣浩(いながき・ひろし)は明治三十八年

(1905年)十二月三十日に誕生した。父は俳優

の東明二郎である。

 伊藤大輔脚本・野村芳亭監督『女と海賊』を

見て、時代劇に関心を持ち、映画界に入り、

伊藤映画研究所で脚本を学び、伊藤大輔の

指導を受け、後に脚本家・俳優・監督となり、

日本映画界を支えられた。

 

 『番場の忠太郎 瞼の母』『出世太閤記』『宮

本武蔵』(片岡千恵蔵版)『独眼龍政宗』とい

った時代劇映画の傑作を数多く撮られた。

 

 深く重厚な物語を繊細な語りで伝えて下さった。

殺陣・アクションの壮大さは圧巻である。時代劇

の生命力が稲垣浩映画に漲り燃えている。

 

 昭和十八年には車夫松五郎の吉岡大尉夫人

よし子への一途で秘めた恋と献身的な愛を描い

た大傑作『無法松の一生』を阪東妻三郎主演で

演出された。この永遠の傑作は日本映画を代表

する一本と自分は確信している。

 

 東宝三十年を記念して、昭和三十七年(1962年)

『忠臣蔵』が稲垣監督の演出で映画化されること

となった。

 

 稲垣監督と脚本の八住利雄は、これまでの文学

・演劇に学び、実録・虚構の『忠臣蔵』の様々なドラ

マ・エピソードを集め織り成し、絢爛たる華麗さで

映像化した。

 

 文楽・歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』の荘厳さ・重厚

さに深く学びその魅力を映像に吸収・開花された。

 

 過去の無声・トーキーの『忠臣蔵』映画にも学び、

先行作品の個性を参考にしつつ、以前の作品が

描きえなかった点も長尺の利点を生かして存分に

語り書き描いた。

 

 自分と本作の出遇いは、昭和五十年代に『月曜

ロードショー』で短縮版を観て感動した時であった。

110分くらい切られた版だったのだが、豪華配役と

稲垣監督の鮮やかな演出に陶酔しファンになった。

 

 大人になってからソフト版やテレビ放映版で完全

版を観て感動した。

 

 平成二十七年六月十二日シネ・ヌーヴォに

て完全版を鑑賞し、遂に劇場見聞が成り立

ったが、207分は流れるようで一秒も退屈せ

ず、圧倒された。

 

 稲垣演出・八住脚本は構成が完璧である。本陣

主人半兵衛は養子の身で勅使の公家のお世話を

宿で為して揮毫して頂くが、この書が「雪の巻」で

大きな役割を果たし、半兵衛は『勧進帳』の富樫の

役割を果たすこととなる。つまり無声映画時代から

あった大石・立花左近(垣見五郎兵衛)の対面の物

語が、大石・半兵衛も物語として語られる。

 

 半兵衛は当時の東宝の喜劇スターであった森繁

久彌が勤め、「花の巻」では飄々と演ずる。

 

 浅野長矩は美男スター加山雄三である。清廉潔白

で真っ直ぐで一本気なお坊ちゃん大名は、当たり役

だ。虐めを耐えに耐えて爆発する心を、加山が熱く

演じ切った。

 

 吉良上野介義央には歌舞伎の名優八代目市川中

車である。嫌らしさ・憎たらしさ・老獪さ・卑怯さ・卑劣

さの総てが完璧に現された。内匠頭を執拗にネチネチ

と苛め抜く様は凄まじい。観客も「この爺さん。悪い奴

やな」と本気で憎たらしさを感じてしまう。

 

 松の大廊下は、中車の老巧と加山の清潔さが激突

し、狡賢い老人が純情一徹な若者を虐め抜き、その

激突が完璧な絵になっている。長矩が堪えに堪えて

刃傷に及んでしまう怒りを、稲垣監督が鮮やかに語る。

 

 長矩切腹以後は、「儂は色も欲も未だ極めておらん」

と語る吉良の哀れさを中車がたっぷりと見せ、今度は

「悪やけど可哀相でもあるな」という気持ちを観客に起こ

させる。

 

 司葉子の阿久里は気品があって美しい。

 

 三橋達也の安兵衛は男気が光り、小泉博の大高源五

は一途さが印象的だ。佐藤允の不破は荒々しさが素敵

だ。

 

 志村喬の千坂は老練で年輪の重みがある。二代目中

村又五郎の綱吉は品格が豊かだ。二代目中村芝鶴の大

野は老獪さが渋い。

 

 六代目市川染五郎後の九代目松本幸四郎が矢頭右衛

門七で少年の忠義を熱く表現する。

 

 三代目市川団子後の二代目市川猿翁が大石松之丞

で、もう既に大人であるが、少年が義と孝の間に立つ

心を繊細に演ずる。

 

 中村萬之助後の二代目中村吉右衛門が十八歳の若さ

で萱野三平の苦悩を演じ切り、強烈な印象を残す。

 

 三船敏郎が俵星玄蕃を勇猛果敢の演技で熱演する。

凄み・迫力は圧巻である。三橋達也の安兵衛と飲み比

べをして友情が生まれる。男の渋さが光る。

 

 大石りくは原節子が勤める。

 

 清らかな美貌は光り輝いている。夫内蔵助への愛、

息子松之丞・娘るりへの母性愛。深く優しく暖かい。

原節子は独身だったが、妻であり母であるりくを、深い

愛情の表現で勤めきった。

 この役が最後の映画出演となった。

 

 大石内蔵助を勤める役者は八代目松本幸四郎後の

初代松本白鸚である。

 

 初登場シーンの着物に印された紋のアップから大石

の静かな表情が忘れられない。

 

 稲垣監督は加山雄三の長矩と松本白鸚の良雄が

競演するシーンを一カットも撮らない。二人が同じシ

ーンに同時に登場しない。それが却って君臣の絆が

熱く観客に伝わってくるのである。長矩が義央の虐め

に遭って刃傷に及び、無念の思いで切腹した。その

思いを託され、継ぐ存在は良雄しかない。

 

 大石良雄は浅野長矩の無念さを引き受け、そこに

生涯を賭けた。

 

 「雪の巻」は柳沢圧制に苦しむ庶民の姿を

描く。

 俵星が吉良の警護に応募し安兵衛が怒る

がその心を知る。

 三船敏郎の迫力は圧巻である。

 

 俵星玄蕃役に三船敏郎の野獣性の迫力

が溢れた。吉良に腕を見せることもあるが、

最後に安兵衛への友情を選び、陰ながら

赤穂義士を助ける。

 三船敏郎の義の演技が熱い。

 

 大石が半兵衛の宿で自身の正体を明かす。

半兵衛がそのこころに打たれて、挨拶に来た

荒賀に公家の揮毫で断り、大石の危機を救う。

『勧進帳』の見事な脚色である。

 白鸚と森繁の激突は強烈な迫力を産み出す。

 

 金右衛門と艶の恋は、清らかだ。夏木陽介と

星由里子が綺麗だ。

 

 フランキー堺の平五郎は情が篤い。

 

 「雪の巻」では史実と違い、寺坂が倒れて討ち

入りに加わらないことになっている。

 

 討ち入りのシーンでは白鸚の風格が光る。

 

 戸上城太郎の清水の殺陣は凄い。

 

 炭小屋前では中車が吉良の哀れさをしみじみ

と伝える。

 

 復讐の大義を明かし、主君長矩の恨みを晴ら

す浪士たち。

 

 稲垣浩は忠臣蔵映画の集大成を成し遂げ、銀

幕に義の心を描かれた。

 

 八代目松本幸四郎後に初代松本白鸚鵡の芸

は、大石内蔵助良雄の忠義を深く明かすものと

なっている。

 

 ☆2015年12月30・31日の記事を再編してい

  る☆

 

 三船敏郎没後二十三年・二十四回忌命日

 

 令和二年(2020年)十二月二十四日

 

 

                        合掌