伊賀越道中双六 沼津 坂田藤十郎の十兵衛 | 俺の命はウルトラ・アイ

伊賀越道中双六 沼津 坂田藤十郎の十兵衛

平成二十六年(2014年)七月二十七日

大阪松竹座

関西・歌舞伎を愛する会 第二十三回

七月大歌舞伎

 

夜の部

 

 

伊賀越道中双六 沼津

 

 

 呉服屋十兵衛  坂田藤十郎

 

 お米        中村扇雀

 安兵衛       中村寿治郎

 池添孫八     片岡進之介

 雲助平作     中村翫雀

 

 ☆

 

 中村翫雀→四代目中村鴈治郎

 ☆

 

  坂田藤十郎の兵衛は当たり役だ。呉服屋

 

の商売に精進して名を成した人の風格がある。

沢井股五郎に協力してしまったことに対する

哀しみも秘められている。

 

 平成元年(1989年)十二月二十四日、平成

 

四年(1992年)五月に南座でも見た。

 

 前者の時期の芸名は二代目中村扇雀で、お米

 

は澤村宗十郎、平作は實川延若であった。

 

 後者の芸名は三代目中村鴈治郎で、お米は

 

片岡秀太郎、平作は中村富十郎であった。

 

 商人と雲助の交流が別れていた息子と父の

 

再会であり、惚れた女性が妹であったことへの

気づき。

 

 父・妹が仇と狙う沢井股五郎に義理がある

十兵衛の苦悩。

 

 義太夫狂言の傑作である。

 

 

 昨年平成二十五年(2013年)十一月、国立文

 

楽劇場で『通し狂言 伊賀越道中双六』が上演

され、戯曲のほぼ大部分を学べたことは、自分

にとって有り難い出来事であった。

 

 文楽と歌舞伎の演出の違いも比較・学習する

 

好機ともなった。

 

 歌舞伎では沼津の人々の光景を映す。茶屋

 

に集うた人々が様々な動きをなす。てんかん

を起こす女性と見守る男の心配等が興味深い。

 

 坂田藤十郎の呉服屋十兵衛が登場する。

 

 上方の立役の風格・色気、万全であり、輝い

ている。

 

 八十二歳にして、ますます若く、益々カッコい

 

い。

 

 男の魅力が絢爛と光っている。

 

 

 大ベテラン寿治郎の安兵衛は手堅い。

 

 

 平作には翫雀である。親子逆転の配役だが、

 

素晴らしかった。

 

 翫雀と藤十郎は、『仮名手本忠臣蔵』「七段

目」で息子・父による兄平右衛門と妹おかるを

勤めたこともある。

 

 今回は息子・父による父子の配役である。

 

 

 翫雀が枯れた雲助で歩行も困難な老人を

 

渋く勤める。

 

 平作・十兵衛が客席に降りて劇場を歩み、

 

花道を歩む。

 

 その間に舞台の書割が動く。

 

 

 これが歌舞伎の演出の特徴である。

 

 

  平作「昔は小相撲の一つでも取ったもん

 

     です。旦さんが七十八になられた顔

      でも見てみたいわ。」

 

  十兵衛「七十八言うたら、こんなもんや」

 

 

  場内に拍手が起こった。

 

 

 中村扇雀のお米も情が溢れていて素敵だっ

 

た。

 

 印籠をなんとか盗みたいという心根が切な

 

い。

 

 十兵衛は訳を聞き、平作が別れた実父であ

り、惚れたお米が妹であったことを知る。

 

 父藤十郎・次男扇雀・長男翫雀による、息子

 

十兵衛・娘お米・父平作の配役の舞台に、家

族の絆と義理の厳しさがしみじみと語られる。

 

 藤十郎の十兵衛が扇雀のお米に語る、「人

 

間万事芭蕉葉の露より脆い人の命」に感涙を

覚えた。

 

 片岡進之介の孫八は声が大きく精悍だ。誠

 

実で義理堅い性根が見事に表現されていた。

 

 大詰の千本松原は泣かされる。

 

 

 前述の昨年十一月国立文楽劇場公演の

 

竹本住大夫の語りに泣かされた。

 

 今回も親子が情愛と義理が出会う仲、命を

 

確かめ合う交流に涙腺を刺激された。

 

 平作は股五郎の在所を問う。

 

 

 股五郎に義理ある十兵衛は守秘義務を破

 

れない。

 

 自らの命を擲って腹切って、股五郎の在所

 

を聞く平作。

 

 父の捨身の行為に触れて、「落ち着く先は

九州相良」と告げる十兵衛。

 

 文楽の公演を鑑賞し、この時、十兵衛も自

 

身の命を擲つ覚悟を定めたことを学んだ。

 

 藤十郎と翫雀が親子の名乗りをして涙の

 

別れを為す大詰に歌舞伎の情の結実を思

った。

 

 父と次男と長男による、兄と妹と父の配役

の名舞台であった。

 

 坂田藤十郎の十兵衛は義理に生きつつ

妹と父を思う家族愛を伝えてくれた。

 

 

               文中一部敬称略

 

 2014年7月28日の記事を再編している

 

 

 

 

 

                     合掌

 

 

 

 

 

 

                南無阿弥陀仏

 

 

 

  

 

                     セブン