仁義なき戦い  完結篇 | 俺の命はウルトラ・アイ
2020-11-28 14:54:24

仁義なき戦い  完結篇

テーマ:菅原文太

『仁義なき戦い 完結篇』

仁義なき戦い 第五部

映画 98分  白黒・カラー

昭和四十九年(1974年)六月二十九日公開

製作国  日本

製作    東映京都

 

企画   日下部五朗

手記   美能幸三

原作   飯干晃一

脚本   高田宏治


 

撮影   吉田貞次

照明   中山治雄

録音   溝口正義

美術   井川徳道

音楽   鈴木孝俊

編集   宮本信太郎

 

助監督    皆川隆之

記録     田中美佐江

装置     近藤幸一

装飾     柴田澄臣

背景     西村和比古

美粧結髪  東和美粧

スチール  木村武司

衣装     豊中健

演技事務  西野節生

擬斗     上野隆三

進行主任  上田正直

 

出演

 

 

菅原文太(広能昌三)

 

 

 

北大路欣也(松村保)

 

 

松方弘樹(坂井鉄也 藤田正一 市岡輝吉)

 

 

野川由美子(杉田かおる後にかおる)

桜木健一(佐伯明夫)

山城新伍(江田省三)

伊吹吾郎(氏家厚司)

 

 

中原早苗(村田静子)

藤浩子(寿美子)

賀川雪絵(江里)

橘麻紀(光子)

 

 

山田吾一(間野豊明)

内田朝雄(大久保憲一)

織本順吉(早川秀男)

鈴木瑞穂(平手君郎)

天津敏(河野幸二郎)

 

 

曽根晴美(千野巳代次)

八名信夫(加賀亮助)

高並功(久保田市松)

阿波地大輔(近藤新一)

西田良(織田英士)

国一太郎(鶴達男)

穂高稔(広島県警第四課長)

 

 

野口貴史(水本登)

寺田誠(清元元)

大木晤郎(岩見益夫)

唐沢民賢(神戸泰男)

白川浩二郎(宗方良三)

広瀬義宣(藤村勇吉)

成瀬正孝(丸山勝)

 

鈴木康弘(杉田佐吉)

誠直也(金沢茂久)

蓑和田良太(久野看守)

丸平峰子(真弓)

司京子(若い娘)

宇路和美(清美)

川谷拓三(守屋等)

酒井哲(ナレーター)

 

沢美鶴(友田孝)

岩尾正隆

島田秀雄(天政会幹部)

木谷邦臣

藤沢徹夫

北川俊夫

片桐竜次(野地進一)

秋山勝俊(丸本貫一)

 

宮城幸生(静子の夫)

司裕介(弓野修)

松本泰郎

白井孝史(槇原組組員)

畑中伶一

奈辺悟(工員)

松田利夫

池田謙治

 

森源太郎(捜査員)

波多野博(捜査員)

前川良一(新聞記者)

鳥巣哲生(工員)

大矢敬典(槇原組組員)

若宮浩二(吉田)

岡賢二

島井敏彦

高月忠(的場文夫)

 

小田真士(天政会幹部)

浪花五郎(天政会幹部)

疋田泰盛(天政会幹部 捜査員)

那須伸太朗(警察幹部)

笹木俊志(市岡組組員)

福本清三(大阪のやくざ)

 

梅宮辰夫(岩井信一)

遠藤辰雄(相原重雄)

加藤武(打本昇)

川地民夫(神原精一)

黒沢年男(竹本繁)

高宮敬二(山方新一)

丹波哲郎(明石辰男 明石辰雄)

夏八木勲(杉本博)

成田三樹夫(松永弘)

藤純子

山本麟一(宮地)

渡瀬恒彦(倉元猛)

 

 

田中邦衛(槇原政吉)

金子信雄(山守義雄)

宍戸錠(大友勝利)

 

 

 

小林旭(武田明)

 

 

監督 深作欣二

 

☆☆☆

美能幸三はノークレジット

 

遠藤辰雄=遠藤太津朗

 

黒沢年男→黒沢年雄

 

寺田誠→麦人

 

野口貴史=野口泉

 

深作欣二=ふかさくきんじ

 

藤純子→富司純子

☆☆☆

 『仁義なき戦い』シリーズ前四作の解説

映像・引用映像において、梅宮辰夫・遠藤

辰雄・加藤武・川地民夫・黒沢年男・高宮

敬二・丹波哲郎・夏八木勲・成田三樹夫・

山本麟一・渡瀬恒彦が映る。本篇字幕に

おいてはノークレジット。

 藤純子は映画館宣伝写真出演で本篇

字幕はノークレジット。

 

 松方弘樹は坂井鉄也役・藤田正一役で

も映っている。

☆☆☆

画像出典 『仁義なき戦い 完結篇』ポスター

撮影地 新世界東映

 

 詞出典 『仁義なき戦い 完結篇』DVD

☆☆☆

  台詞の引用・シークエンスの考察は、研究・

 学習の為です。 
 東映様にはおかれましては、ご理解・ご寛

恕を賜りますようお願い申し上げます。

 

 平成十年(1998年)八月十六日新世界東映

 平成十二年(2000年)十一月四日十三東映

 平成十五年(2003年)四月二十五日千日会館

 にて鑑賞。

 

 感想文では物語核心を語り、ラストまで言及

します。未見の方はご注意下さい。

 ☆☆☆

 

   ナレーター「昭和二十一年敗戦直後の

          闇市時代から凄惨な流血

          を繰り返していた広島やく

          ざの抗争は昭和三十八年

          夏その頂点に達し、死者十

          七人、重傷者二十三人、逮

          捕者延べ千六百余人を数え

          第三次抗争事件を引き起こ

          したが、警察市民社会の強い

          圧力に抗しきれず、昭和三十

          九年に至ってようやく沈静の

          兆しを見せ始めた。」

 

 広能昌三は囚人服を着て監獄の中で暮らしている。

 

 

     ナレーター「打本会は解散し、その急

            先鋒であった昌三は七年

            の刑で網走刑務所に収監

            されたが、一方の山守組

            では未決のまま出所した

            最高幹部の武田明が広島

            各地で散在する各組を一

            本に纏めあげ暴力団の肩

            書きを外すことでやくざ組

            織の根本的解決を図った。

            政治結社天政会の結成が

            それである。この組織も新

            たなる流血そのものの原因

            となったのである。」

 

  昭和四十年(1965年)広島市内で天政会

は会長武田明・副会長大友勝利・幹部松村

保・間野豊明を初めとする会員達が「日本に

恒久平和を」のテーマの元平和希求の大行

進を行った。

 デモの後入ったバーで天政会会員達は佐伯

ら広能組組員と会って殴り合いの喧嘩をする。

 知らせを受けた松村はバーの女達に詫びて、

子分達を殴り倒す。

 

 大友は店で暴れた者達への厳罰を主張す

るが松村は制止する。

 昌三の舎弟市岡輝吉は広能組若衆頭氏

家に天政会への攻撃を命じる。冷静な氏家

は抗争を避ける。市岡は不気味な笑みを浮

かべ闘魂を語る。

 天政会参与杉田佐吉は昭和四十一年(19

66年)五月二十三日に市岡の部下野地進一

に射殺される。

 杉田の娘かおるは葬儀で参列者に挨拶

する。

 山守義雄天政会初代会長は、かおるの後

ろ姿に感嘆する。

 

   「ええケツしとるの。あれか、保と出来と

    る杉田の出戻りは?」

 

 江田省一は「親父さん、涎が出とる」と笑う。

 

 市岡は子分達を連れて参列し何食わぬ顔

で、かおるに哀悼の意を表する。かおるとその

恋人松村保は堪えて丁寧に返答する。

 大友が現れ、市岡の罪を糾弾し、喧嘩を売

り市岡も応戦する。武田と松村が必死に止め

市岡は去り、大友は激怒する。松村に詫びる

ように武田は指示する。山守は「勇ましいのお」

と勝利の闘志を讃え涙を流す。

 武田が警察にマークされていることを知った

山守は喜びを愛人光子に語る。

 広島県警は武田逮捕の方針を固める。武田

は自身の逮捕後の処置として、松村保を継承

者に選ぶ。長老大久保憲一と実力者河野の

後押しもあり、計画は成功するが、大友と早川

英男の怒りを買う。

 武田は警察に逮捕され、松村に後事を託す。

 

 網走刑務所において、広能はこれまでの体験

を赤裸々に手記に描いていた。巻末の一行には

 

 

   「つまらん連中が上に立ったから下の者が

   流血を重ねたのである。」

 

 と記した。

 

 市岡は面会に現れ、闘志を語る。広能は「誰

も知らんのじゃ、喧嘩の後始末がどがなもんか」

と嘆く。

 

 大友は早川に連れられて店に案内される。何

と市岡とその恋人寿美子がいた。大友は怒るが市

岡は座敷に招き、盃したいと申し出る。大友は五

寸の盃には不満を述べ、「儂を誰と思うとるんじゃ」

「牛の糞にも段々あるんで」と凄み、机の料理を腕

で蹴散らす。市岡はそんな大友を増々気に入り、

これまで敵対関係にあった二人はこの日友好関係

を結んだ。

 

 松村とかおるは語り合い、かおるは松村の仕

事を手伝うことへの疑問を語る。二人はその晩

愛し合い、かおるは朝帰宅する。大友の部下の

若者達が松村を襲うが、松村はかわす。

 槇原政吉が出所し松村・江田に挨拶する。江

田は槇原の「ええとこ付き」を注意するように説

く。

 松村は大友の腹心の部下間野を陣営に

引き込む。明夫は松村襲撃を企てるが失敗

し足に大怪我を負う。

 松村は槇原に月収二百万円の大仕事を

頼む。槇原の心は動く。

 

 昭和四十四年(1969年)九月十五日、市岡

は「ささらもさらにしゃちゃれ」と号令をかけて

部下達に天政会関係のバーを荒らさせる。

 十六日、松村保は部下を派遣して市岡輝

吉を射殺する。

 間野は大友に「ついていけん」とメッセージ

を送って離れる。

 大友は単身松村に決戦を挑もうとタクシー

を拾おうとするが、警察官達に身柄を拘束

される。警察の厳しい追求を松村は黙秘で

逃げる。早川は引退を表明する。

 武田が出所し松村は会長の座を親分武

田に返す。だが武田は政治結社を止めた

ことへ不満を松村に述べる。松村は「やくざ

はやくざです」と理由を説明する。

 出所が近づく広能について武田は「昌三

の事は儂が一番知っちょる」と強調する。

 

 山守と早川は槇原を尋ねる。「シマを固め

ろ」と山守はアドバイスし、早川は「天政会の

大将になる絶好のチャンスで」と戦いを勧め

る。

 山守は「そうじゃとも、天政会はようなる

んじゃ。政吉、やれ、やれ。儂も表に出て

やる。まだやれるけんの!」と熱く語り、槇

原の野望を刺激する。

 

 佐伯は姉静子一家に睡眠薬入りのコー

ラを飲ませ、売り上げの金を奪う。

 彼と仲間の清元忠は槇原を尾行する。

銃を持った佐伯は恐怖の余り失禁する。

清元忠は槇原政吉の背後に回って銃を

乱射する。悪の天才槇原政吉は沢山の

血を流して死亡しその生涯を終えた。

 

 広能昌三は網走刑務所を出所し、東京

に移動しホテルにおいて待っていた武田

明に驚く。武田はホテルの部屋で広能に

天政会の方針を伝え、槇原の妻に泣かれ、

槇原暗殺の青年が二回り年下であること

に驚き「儂等の時代は終わり」と昌三に

呼びかけ、儂が引いたらこんなも引いて

くれるかと提案する。

 

   武田「もうトル・トラレルは飽いたわ

       い。」

 

   昌三「信じられんの。」

 

 松村保は広能を尋ね、拳銃を差し出し、

引いて頂きたいと頼み、代替案として氏家

自身の協力を頼みたいと頭を下げる。

 晶三は怒り、市岡暗殺事件の落とし前を

つけろと糾弾する。松村は「そっちも槇原さん

をトラレテルじゃないですか」と反論する。

 昌三は態度を保留する。

 

 昭和四十五年(1970年)九月十八日、松

村と江田は河野の運転する車で大阪に向

かう。早川の部下加賀亮助や旅人千野巳

代の協力を得て、信号で松村を狙って狙撃

する。江田が撃たれて犠牲になる。松村は

重傷を負う。

 

 瀕死の松村保は三代目会長襲名式を

挙げると強硬に主張し、かおるや武田の

制止を振り切って開催を頼み、武田に広

島の親分衆を集めて欲しいと頼む。

 

 襲名式に広能が現れ、氏家をすみっこの

方に座らせてやってくれと頼む。

 

 広能と武田は再会する。武田は儂等の

時代は終わりじゃと改めて語る。

 

    武田「一杯飲まんかい?」

 

    広能「そっちとは飲まん。」

 

    武田「何でじゃい?」

 

    広能「死んだもんに悪いからな。」

 

  昭和四十五年(1970年)九月二十五日

広島の映画館三映劇場前で氏家・水上・

佐伯は藤純子主演『女渡世人』の看板前

で談笑する。槇原組幹部守谷が襲撃し、

水本・佐伯らを銃殺する。

 

  佐伯明夫の葬儀会場では姉の村田静

子が遺体に草鞋を履かせ、「一生懸命歩く

んよ。今度こそ迷うたらいけん。」と涙を流し

ながら語る。

 

 広能昌三は静子の店に香典を置き、広島

の街を歩む。

 

  ナレーター「この時彼は死んでいった少年

         の顔さえ覚えがない。彼はよう

         やく引退を決意したのである。

         戦後の混乱期、彼がやくざ社会

         に身を投じて既に二十有余年、

         様々な組織を生み続け、組織は

         又次々戦いの種を蒔いていった。

         そして多くの若者達の血が流さ

        れた。」

 

  原爆ドームが映る。

 

 

    ナレーター「人間の社会から弱肉強食の

           戦いが絶えるのは、果たして

           何時なのか?」

 

  ☆男の引退☆

 

 菅原文太は昭和八年(1933年)八月十六日

に誕生した。俳優として活躍し、東映任侠映画

で大スタアとなった。

 実録路線開始において『仁義なき戦い』第一

作で手記執筆者美能幸三をモデルとする広能

昌三役に選ばれ、深い芸でその命を生きた。

 刑務所で昌三は、「つまらん連中が上に立っ

た為に下の者が苦労し流血を重ねたのである」

と手記に記し、やくざ社会への悲しみを綴り、

舎弟市岡輝吉と子分水本登・佐伯明夫の死を

受け引退を決意する。

 彼の生涯のライバルの武田明は天政会二代

目会長となったものの、打ち続く内部抗争と流

血に疲れ、友人槇原政吉を暗殺した広能組の

若者清元の年齢に驚き世代交代を感じ、後を

子分の松村保に委ねる。

 

 やくざ社会における「老い」を文太は深く重く、

旭は切なさ豊かに勤め探求する。

 

 北大路欣也は時折ヒステリックに怒鳴りなが

らも、天政会三代目会長として会の運営に全て

を賭ける松村保を鋭く演じる。情に篤い武田の

運営に対し、松村は金をばらまく等冷徹な方法

を用いる。荒々しくて強引なところもあるが、妻

となるかおるにも無理矢理嫌な仕事をやらして

でも協力させるという力の持ち主である。

 

 野川由美子がかおるの母性を暖かく演じる。

 

 松方弘樹は凄み豊かに市岡輝吉の闘志を

演じる。目に朱を入れて役作りをした。この朱

は映画館で鑑賞するとよく見れる。不気味さと

怖さは格別である。市岡は策士の暴れん坊だ

が気の短さから、松村の罠に嵌り射殺される。

 

 東映城のプリンスであった北大路欣也と松方

弘樹は、本作において静かなる戦いを演じる。

 

 金子信雄は『仁義なき戦い』全五部作におい

て山守義雄を演じた。全五作で一人一役を演じ

た存在は、広能昌三役の菅原文太と山守義雄

役の金子信雄の二人である。即ち物語の主人

公と準主人公の二人のみが一人一役による五

部作出演なのである。

 かおるの下半身に驚嘆し「ええケツしとるの」

と讃嘆するシーンは笑いを呼ぶ。怒れる大友勝

利を制止して泣くシーンに存在感が光る。悪の

天才としての大活躍はないものの、笑いで観客

の心に忘れられない印象を与えてくれた。

 山守義雄登場ラストシーンは、槇原政吉への

督戦であり、「まだやれるけんの」の言葉には

野望の熱さが燃えていた。

 

 本作の大友勝利は宍戸錠が演じる。獰猛で

常に怒りに燃えている。同時に肉体の衰えも

迫ってきており、若い頃のように暴れまくる事

が難しくなってきている。

 料亭で「牛の糞にも段々あるんで」と凄み

料理を払って市岡に貫禄を見せるシーンは

強烈である。

 

 早川英男は織本順吉が演じる。知的で冷徹

な早川である。

 

 桜木健一が広能組に尽くし、姉とその一家の

金を盗んで組に尽力して最後は銃殺される佐

伯明夫を繊細に演じている。

 

 伊吹吾郎の氏家は渋く重い。

 

 『仁義なき戦い』第一部から第四部『仁義なき

戦い 頂上作戦』において岩見益夫を演じ続け

ていた野口貴史は水本登を演じる事と成った。

水本が映画館川谷拓三に暗殺されるシーンは

悲しい。

 

 『仁義なき戦い』『仁義なき戦い 広島死闘篇』

『仁義なき戦い 代理戦争』『仁義なき戦い 頂上

作戦』脚本を書いた人物は笠原和夫である。綿密

な調査と丁寧な取材を通して深く鋭く書いた。

 本作『仁義なき戦い 完結篇』の最初の脚本オァ

ーは笠原和夫に届けられた。だが、笠原和夫は

第四部『仁義なき戦い 頂上作戦』のラストで物語

は完結したと主張し第五部の脚本を断った。

   

 

   『頂上作戦』が完成して、その打ち上げの帰り

   に岡田社長に呼ばれて、「悪い、もう1本やって

   くれ」と言われて参ったよ

   (『仁義なき戦い 浪漫アルバム』150頁

   笠原和夫インタビュー)

 

 笠原和夫は、第五部の構想も取材で抱いていたようで、

非常に複雑なやくざ組織の諸問題があって劇化は困難と

判断していてようだ。

 

   笠原 ただ、第五部というのはね、もし実際にやろう

       とすると、その当時の広島の共政会の問題・・

       ・・・・これは共政会だけじゃすまなくて、山口組

       が噛んでますし、尾道の侠政会が絡んでいる

       し、それともっと大きな問題は一番広島に近い

       下関の合田一家―籠寅一家が絡んでいるん

       ですよ。それは依然として『代理戦争』的な盃

       外交をやっているわけですがね。その絡みに

       突っこんでいくと、これはちょっと映画にはなら

       ないと。非常に物騒な話で、東映自体も物騒に

       なっちゃう(笑)。ただ、その問題を抜きにして

       は、あの共政会の政治状況は語れないわけで

       す。それは若手が出てきて新旧の交代があろ

       うとなかろうとね。つまり、ひとつの組の中での

       紛糾というものが、山口組、侠道会、籠寅一家

       という周りの圧力によって起こされているんだ

       という状況が提示できなければ、この抗争事件

       を描く意味がないわけでしょ。単なる新旧交代

       なんて単純な話じゃないんですよ。で、僕はそ

       のへんは知っていたから、これ以上やると、「そ

       ういう問題は解決できません。だから僕にはでき

       ません」と言ったんですよ。

         それとあの時、『あゝ決戦航空隊』の話が出て

        きましてね。これがちょっとかぶっちゃったという

        こともあったんだけどね。それで第五部は高田  

        宏治がやるということで、僕は今までの資料を

        全部渡してあげたんです。

        (『昭和の劇』320頁

         平成十四年(2002年)十一月六日発行

         太田出版)

 

 笠原和夫は共政会(映画では天政会)の諸問題は、山口

組・侠道会・籠寅一家との複雑な関係で起こっていたと考察

し、その複雑な状況を描くことに責任を取れないと判断して

第五部完結篇の脚本を降板し、後任の高田宏治に資料を

譲って、大西瀧治郎の特別攻撃隊指示の戦略を描く戦争

映画超大作『あゝ決戦航空隊』のシナリオに取り掛かった。

 

 

 高田宏治本人は「あれが一番客が入った」(『仁義な

き戦い 浪漫アルバム』153頁)と述べ、その興行成績に

満足感を覚えている。笠原和夫がブラックユーモアで

笑いを描いたのに対して、高田宏治はブラックそのもの

で攻める。その作劇術は、『実録外伝 大阪電撃作戦』で

一つの集大成を見せていると自分は見ている。

 笠原和夫が高田宏治に渡した資料は巻物のように

膨大で松村保のモデルになった山田久が襲撃された

事件についても、「俺ならこうだ」という脚本アイデアま

で記されていたらしい。

 

 高田宏治は天政会の血みどろの内紛を語る。三代

目会長の座をめぐる争いを鮮やかに描く。

 映画館で三度見聞しているが、本日感想文を書く

に当たってDVDで見直し・聞き直したが、重厚な傑作

であると感嘆した。

 

   広能がヤクザの世界から足を洗う」ところで

   終わるのも、一つの道筋かなと思いましたし

   ね。それまでの登場人物が次々に殺されて

   いくでしょう。田中邦衛、山城新伍。その辺

   をキチンと見届けてやりたいという気持もあ

   った。

   (『仁義なき戦い 浪漫アルバム』140頁

    深作欣二インタビュー 

 

 深作欣二は監督として前四部を撮り、『完結篇』

の企画に迷いを感じたが、広能のやくざ引退と

槇原・江田の最期をきちんと見届けたいという気持

で撮ったと語っている。

 

 槇原政吉は商店街の露店で弾丸を肉体に撃ち

込まれ血の中で死亡する。

 

 

 江田省一は車の中で刺客に襲われ射殺される。

 

 田中邦衛と山城新伍の憤死の演技は壮絶であ

る。

 

 

 『仁義なき戦い』シリーズは第二部以降ラストカット

には原爆ドームが映る。

 

 吉田貞次は、ラストカットについて「そこでこの映画

では戦争の被害者とヤクザ社会での被害者とを重ね

る形で原爆ドームを撮ろうと決めました。」(『仁義なき

戦い 浪漫アルバム』160頁)と確かめている。

 

 第二部のラストカットで原爆ドームが映った。戦争によ

って死んでいった人々と抗争で死んでいった人々を重ね

て、吉田貞次は原爆ドームを撮った。ラストに原爆ドーム

を映すという精神は、第三部、第四部、本作第五部『完

結篇』にも受け継がれた。 

 

 菅原文太の絶対平和主義は『仁義なき戦い』シリー

ズのラストカットの原爆ドーム映像に呼応するものな

のかもしれない。

 

 平成二十六年(2014年)十一月一日。

沖縄県知事選挙に立候補した翁長雄志への応援演説を

文太は熱く語った。

 『仁義なき戦い』第一作の広能昌三の「山守さん。弾丸

はまだ残っとるがよぉ」の台詞を語ってくれた。この応援

演説の二十七日後の平成二十六年(2014年)十一月二

十八日に文太は八十一歳で死去した。

 

 菅原文太は最後まで広能晶三の命を生きた。

 

 佐伯明夫の葬儀会場に香典を置いて出た広能晶三

は右目のあたりに手を当てる。万感迫る感情があったと

思うが、激しく涙を流すのではなくて、心で泣く事を学ん

だ。

 

 菅原文太の歩みは、男の引退を語り、道を教えて

くれている。

 

 ラストの原爆ドーム映像には赤字で

 

  仁義なき戦い 完

 

 と表示される。

 

 『仁義なき戦い 完結篇』のラストであり、『仁義なき

戦い』五部作のラストでもある。原子爆弾投下に始ま

り、現代の原爆ドームで終わる。

 

 戦いで命が殺される事への悲しみが溢れている。

 

 菅原文太は生涯を賭して命の尊さを尋ね、演技に

おいてもその課題は呼応していた。

 

 広能昌三が静かに目頭を押さえ道を歩むシーン

に、戦争を悲しみ命を守ろうとする菅原文太の生

き方が呼応している。

 

 

 

 

                文中敬称略

 

 菅原文太没後六年・七回忌命日

 令和二年(2020年)十一月二十八日

 

 

                   

                  合掌

 

 

                 南無阿弥陀仏

 

 

                   セブン