必殺仕置人 賭けた命のかわら版 | 俺の命はウルトラ・アイ

必殺仕置人 賭けた命のかわら版

 『必殺仕置人』「賭けた命のかわら版」

 

 テレビ トーキー 60分 カラー

 昭和四十八年(1973年)七月二十一日放映

 製作国 日本

 言語 日本語

  放送局 朝日放送・TBS系

 

 のさばる悪をなんとする

 

 天の裁きはまってはおれぬ

 

 この世の正義もあてにはならぬ

 

 闇に裁いて仕置きする  

 

 南無阿弥陀仏    

 

 ☆☆☆

 

 物語の核心・結末に言及します。未見の方は

ご注意下さい。

 物語の要約・台詞の引用は、研究・学習の為

です。

 朝日放送様・松竹様におかれましては、御理

解・ご寛恕を賜りますようお願い申し上げます。

 画像・台詞は、『必殺仕置人』DVD vol.4

より引用させて頂きました。

 

 ☆☆☆

 観音長屋でおひろめの半次はかわら版を読

む。だが兄貴分のかわら版留造が豪商鳴海屋

の悪事を読み上げると沢山の人々が集まる。

 もみ消し屋の茂平とその子分達が留造に襲い

かかり右手を刺す。半次が開放するが激痛が

留造の身に走る。

 茂平は留造の家を荒らし彼の妻おそでが止

めるのも聞かず、家の中を壊しまくる。

 

 正義感と反骨精神が豊かな留造は妨害にあ

っても版木に記事を彫り、発表を止めない。

 

 念仏の鉄は色気豊かな御新造の揉み療治

をして、夜の営みが盛んすぎるのも危ないで

すよと警告する。「先生」と御新造は色気たっぷ

りに語り女好きの鉄っあんも困惑する。

 

 鳴海屋は茂平に金が欲しいならばもう一件

受けて欲しい仕事があると宝石を渡す。商売

敵の安孫子屋の店に宝石を忍ばせ、ご禁制

の抜け荷を犯していたという罪を捏造する。

 役人小坂に賄賂を渡す鳴海屋は自身の悪事

を訴えた者達を調べ上げ、茂平や子分達に暴

行や殺傷をさせ、悪逆の横暴を為す。

 

 安孫子屋は同心の針責めの拷問に耐えられ

なくなり、無実であるにも関わらず罪を認めて

しまう。

 

 中村主水は妻りつに障子の張替が拙いと

叱責される。半次と留造が鳴海屋の悪事を

知らせる。

 

 鳴海屋は工事の権利を買う為組頭船津に賄

賂を贈るが真面目な船津は怒って突き返す。 

 

 河原でかわら版の版木を彫る留造が仕事に

集中している。妻そでが鳴海屋一家に誘拐さ

れた。半次と留造は必死に探す。だがそでの

自殺死体が発見される。主水はひでえ事をされ

たうえの覚悟の自害よと説明する。

 

 留造は亡き妻の遺骸を抱いて思わず男泣

きに泣く。

 

 船津を騙して出会い茶屋に拉致した鳴海屋は

妻お滝に芸者の着物を着せて誘惑する。姿をあ

らわした鳴海屋は妻に手を出されたと脅す。

 鳴海屋は妻滝を斬殺し、怯える船津に工事の

権利を認めさせる。

 半次と留造は鳴海屋の美人局の悪事を発表

することを決める。

 だが、留造は鳴物屋の部下に襲われ、致命傷

を追うが、原版があると言い放ち鳴海屋は恐れ

る。

 留造は刺し傷がもとで亡くなる。半次は復讐を

望み頼み料が足りないと鉄に指摘される。鉄は

留造が残した版木で鳴海屋を脅す。

 

 宴会で鉄が鳴海屋を骨はずし、茂平を紐で絞殺

し、錠が小坂を刺殺する。

 

 主水が現れ、鉄・錠・半次を逃がす。

 

 

 

  

   ナレーター「仕置き

          法によって処刑することを

          江戸時代こう呼んだ。

          しかしここにいう仕置人とは

          法の網をくぐってはびこる

          悪を裁く

          闇の処刑人のことである。

          ただしこの存在を

          証明する記録

          古文書の類は

          一切残っていない」

 

 ☆☆☆かわら版 雨 踊り☆☆☆ 

 

 工藤栄一『必殺シリーズ』第三回監督作

品である。

 留造は版木の力で鳴海屋の巨悪を糾弾

しようとするが、妻を死に追いやられ、自身

も殺される。兄貴分の勇気を見て、自身も

かわら版に命を賭ける半次だが、兄貴を守

れず深く悲しむ。実力者が言論を恐れて、

撮り潰す。これは何時の時代にもあった出

来事なのだということを痛感する。

 

 津坂匡章後の秋野太作の純情と悲哀の

芸が光る。半次メインの物語ではあるが、留

造の奮闘を静かに見守るところも素敵だ。

 

 冒頭から津坂匡章の見事な話術が光る。

 

 石山律の抵抗の芸も鮮烈である。

 

 鳴海屋の配下のならず者達が長屋で暴れ回り

留造の右手を刺すシーンに工藤栄一のアクション

演出の壮絶さがある。本当に乱闘し殴っているの

ではないかという印象を受ける程迫力豊かな映像

だ。

 

 東映集団抗争時代劇の不滅の傑作『十三人の

刺客』で戦闘場面の凄みで歴史を開いた工藤栄

一だが、テレビ時代劇においてもその激しさはた

っぷりと見せてくれる。

 

 鳴海屋の配下で留造の仲間に殴る蹴るの暴行

を加える悪党茂平を外山高士が憎たらしさ一杯に

勤める。

 

 まず茂平の悪逆を示して、背後の鳴海屋を登場

させてその大悪を顕示する。

 

 三芳加也の脚本構成は見事だ。

 

 工藤栄一演出は凄絶な戦闘場面で多く語られる

ことが多く、私もその傾向を否定する訳ではないの

だが、瞬間的な光の美しさを逃さず映し出す演出家

であることを強調したい。

 

 宝石の輝きを鋭く映し出す。ご禁制抜荷の宝石が

人々に魅力を感じさせることを伝える。鋭い撮影で

ある。

 

 抜荷の濡れ衣を着せられる安孫子屋を二枚目俳

優松本朝生が勤める。

 

 『ウルトラセブン』「緑の恐怖」のイシグロ隊

員役者である。

 

 安孫子屋が鳴海屋・茂平の罠に嵌り、奉行所に

捕らえられ、同心の針の拷問に遭うシーンは怖い。

 

 針のアップの後、安孫子屋の足の裏を刺している

だろうというカットが映る。

 松本朝生の苦痛の表情も強烈で視聴者は震える。

 

 冷酷な同心を名優・アメーバブロガー森章二が

鋭く演じる。

 

 安孫子屋は激痛で捏造された罪を認めざるを

得なくなる。

 

 勇気ある留造は版木に彫った文字は、鳴海屋

の凶暴な刀より強い事を示し、横暴や無茶に屈し

ない。

 

 鳴海屋は狙っている工事の権利を獲得する為

にライバルの安孫子屋を潰し、彼の暴力・陰謀を

訴える者達を殺傷・暴行の非道を犯す。工藤栄一

のリズム感豊かな映像が鳴海屋の暴力をテンポ

良く映し出す。

 

 悪役名優川合伸旺の悪役演技の深さは芸術で

ある。憎たらしさは極まりを示している。

 

 その巨悪に抵抗する留造の勇敢さに感動した

半次は自身もかわら版書きに命を賭ける。

 

 「男だけど兄貴に惚れた」という半次の純情を

津坂匡章が熱演する。

 

 「男が男に惚れる。変態じゃねえか」の言葉を

鉄つぁんが語る。

 山﨑努の抑えた芸が渋い。

 

 半次が熱く瓦版による告発を為す今回は、棺桶

の錠が冷静である。鳴海屋の金力や茂平の攻撃

力を知っている錠は、留造夫婦に深く関わる事は

危険が及ぶと感じ、半次に距離を置くように忠告

する。

 ドラマ序盤は勇敢で悪に敢然と立ち向かう純真

青年であった錠が、殺し屋になって処世術も考え

る男になっている。

 

 半次は手を刺されても手当して巨悪を告発す

る兄貴分留造の支えになろうとする。

 

 主水が非番の日に障子の張替でりつに怒られ

るシーンは微笑ましい。

 

 その休みの日に半次・留造が尋ねに来る。

 

 白木万理と津坂匡章の貴重な会話シーンが

展開する。

 

 主水は休日の仲間の来訪を嫌がる。だが、

鳴海屋の悪事は止まらない事を知る。

 

 鉄は半次から女の匿い場所を相談され、美

人でグラマーと聞いて心躍るが、男が居ると聞

いて落胆する。

 

 留造夫妻を助ける為に奔走する半次だが、鳴

海屋の魔の手が迫る。

 

 汐路章が真面目一徹で賄賂を拒絶する組頭

を渋く勤める。悪役名優汐路章の珍しい真面目

人間役で、工藤栄一の意外性配役の見事さを

感じた。

 組頭船津が賄賂の金子を叩き崩すが、金貨の

崩れる際の煌めきにも工藤栄一の美学があった。

 

 鳴海屋は船津を出会い茶屋に誘き寄せ、芸者

に扮した妻滝に誘惑させ、船津の刀を奪わせる。

 美人局で鳴海屋は「妻を寝取られた」と船津を

脅し、無残にも妻を斬殺して脅迫材料を作り上げ、

震える船津に工事権利掌握を無理矢理承知させ

る。

 

 川合伸旺の悪の表現が爆発的に光る。

 

 留造が瓦版に夢中になっている時に愛妻おそ

でが鳴海屋・茂平の手先に拉致される。

 

 留造は舎弟半次と妻を必死に探すが、北町

奉行所で妻の自殺死体と出会う。

 

 愛妻の遺体に縋って泣く留造を見て、半次

が悲しみを覚えるカットが忘れられない。

 津坂匡章は大粒の涙を流さず、涙目になっ

て視線で無念と悲痛を伝える。激しい涙の流

れを見せるよりも涙目で悲しむほうが、心の

慟哭をより深くより強く表現する。

 

 想像のシーンでおそでが荒くれ男達に着物

を脱がされるが、工藤栄一はスローモーション

で演出し、性暴力の惨さを語る。

 

 懸命に鳴海屋を告発していた留造に刺客

の刃が襲い掛かり、致命傷を負った留造は

不正を書いた原版を隠していることを告げて

鳴海屋に最期の抵抗を為す。

 

 半次は兄貴分を殺された悲しみを鉄・錠に

語る。

 

 津坂匡章の一途さの表現が熱い。

 

 鉄が屋形舟で原版を鳴海屋に大金で買わ

せるシーンも迫力がある。

 

 第二話「牢屋でのこす血のねがい」では復

讐い全てを賭けるお嬢様おしんを助ける番頭

要助を重厚に勤めた北原将光が、今回は悪

役同心小坂を渋く勤める。

 

 遊里の酒宴の席で、鉄は踊る鳴海屋を別室

の襖から骨はずしで仕置する。

 

 四年後の昭和五十二年(1977年)八月二十六

日放送『新必殺仕置人』「阿呆無用」において

川合伸旺は悪役伊兵エ役で出演するが、この

エピソードでも踊りながら仕置される。

 

 「賭けた命のかわら版」の助監督高坂光幸が

「阿呆無用」の監督で、二大傑作は繋がっている

と自分は見る。

 

 半次の気持ちに共鳴した錠は仕置に加わり、

手槍で小坂を仕置する。

 

 茂平は鉄の投げた紐に首を絞められる。鉄は

紐を引っ張って茂平を絞首刑にする。怖い仕置

で、悪玉の茂平すら哀れに思える。

 

 仕置人は悪党以上のワルであることを、工藤

栄一は映像美で魅せる。

 

 管理人は平成二十六年(2014年)八月四日中

日劇場で舞台『だいこん』を観劇した。

 この舞台に外山高士が出演した。当時八十三

歳で若々しい姿を見せてくれた。

 カーテンコールでは感慨無量で胸が熱くなった。

舞台に『必殺仕掛人』「地獄花」永井監物役者・茂

平役者・『必殺仕置人』「お江戸華街未練なし」の

神島源之丞役者外山さんが居られる。

 わたくしの心に感動が溢れた。

 

 遊里に中村主水が配下の岡っ引達を連れて

事件の調査を命じ、犯人の鉄・錠を逃がす。

 

 半次の仇討ちは成り立ち、留造夫妻の心は

仕置人達に確かめられる。

 

 軍師・知恵袋の鋭い存在感を、藤田まことが

渋く見せる。

 

 『必殺仕置人』においては、殺し屋達の役割

は、実行部隊が鉄・錠、調査役が半次・おきん、

軍略・智謀が主水である。主水が実行部隊に

入り刀で標的を刺殺することもある。

 

 主水の知略で、現場から鉄が疾走する。

 

 ラストの躍動感に、工藤栄一演出の輝きがあ

る。

 

 

 

 

                   文中一部敬称略

 

 キャスト
 

 山崎努(念仏の鉄)

 

 

 沖雅也(棺桶の錠)


 

 白木万理(中村りつ)

 

 

 石山律(留造)

 川合伸旺(鳴海屋)

 

 

 松本朝生(安孫子屋)

 外山高士(茂平)

 

 

 津坂匡章(おひろめの半次)

 

 

 汐路章(船津左衛門)

 神島ひろ子(おそで)

 芦沢孝子(お滝)

 

 重久剛(卯平)

 馬場勝弘(ドス政)

 五十嵐義弘(とら鮫)

 

 森章二(同心)

 北原将光(小坂)

 堀北幸夫(回船問屋)

 

 森内一夫(口入れ屋)

 加茂雅幹(頭領)

 太田優子(御新造)

 

 

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 

 

 スタッフ

 

 制作      山内久司 

          仲川利久 

          桜井洋三

 

 

 脚本      三芳加也

 

 音楽      平尾昌晃 

 撮影      小辻昭三    

 

 装飾       稲川兼二

 記録       溝尾敦子

 進行       黒田満重

 特技       宍戸大全

 

 

 美術      倉橋利韶

 照明      中島利男

 録音      二見貞行

 調音      本田文人

 編集      園井弘一

 

 装置      新映美術工芸

 床山結髪   八木かつら

 衣裳      松竹衣裳

 現像      東洋現像所

 

 製作主任   渡辺寿男

 殺陣      美山晋八

 題字      糸見渓南

 

 

 ナレーター  芥川隆行

 

 オープニングナレーション作 早坂暁

 エンディングナレーション作 野上龍雄

 予告篇ナレーション      野島一郎

 

 制作協力   京都映画株式会社

 

 

 主題歌 「やがて愛の日が」

 作詞   茜まさお

 作曲   平尾昌晃

 編曲   竜崎孝路

 唄    三井由美子

 ビクターレコード

 

 

 監督    工藤栄一

 

 

 制作    朝日放送

        松竹株式会社

 

 ☆☆☆

  山崎努=山﨑努

 

 石山律=石山律雄→石山輝夫

 

 津坂匡章→秋野太作

 

 

 早坂暁・野上龍雄・野島一郎はノークレジット

 ☆☆☆

 

 

                    

 

 

                        合掌

 

 

                  南無阿弥陀仏

 

 

                       セブン