昭和残侠伝 唐獅子牡丹 | 俺の命はウルトラ・アイ

昭和残侠伝 唐獅子牡丹

『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』

映画 トーキー カラー シネマスコープ

昭和四十一年(1966年) 一月十三日公開

製作国 日本

言語 日本語

製作 東映東京

 

企画 俊藤浩滋

    吉田達

 

脚本 山本英明

    松本功

 

撮影 林七郎

音楽 菊池俊輔

美術 藤田博

録音 加瀬寿士

照明 川崎保之丞

 

主題歌 『昭和残侠伝』

作詞 水城一狼

    佐伯清

作曲 水城一狼

歌 髙倉健

 

出演

 

髙倉健(花田秀次郎)

 

三田佳子(秋山八重)

岡崎二朗(助川武)

津川雅彦(清川周平)

 

芦田伸介(田代栄蔵)

水島道太郎(左右田寅松)

菅原謙二(秋山幸太郎)

 

花沢徳衛(金子直治)

山本麟一(左右田弥市)

城野みき(武の恋人)

三島ゆり子(清川くみ)

今井健二(左右田徳三)

 

田中春男(宮田留吉)

沢彰謙(田代忠七)

潮健児(寅松の子分)

穂積ペペ(秋山和夫)

利根はる恵(清川千恵)

 

関山耕司(左右田宗二)

織本順吉(田代安川)

北山達也(田代幹治)

室田日出男(寅松の子分)

日尾孝司(子分)

伊達弘(子分)

植田灯孝

八名信夫(寅松の子分)

 

久保一(子分)

河合絃司(労働者)

相馬剛三(労働者)

清見淳

山之内修

吉田武彦

二宮恵子

佐川二郎

沢田浩二

水城一狼

打越正八(労働者)

 

 

池部良(畑中圭吾)

 

監督 佐伯清

 

髙倉健=高倉健

 

津川雅彦=加藤雅彦

      =沢村アキヒコ

      =マキノ雅彦

 

水島道太郎=水島三千男

 

菅原謙二→菅原謙次

 

潮健児=潮健志

     =泉正夫

令和二年(2020年)九月十六日

出町座にて鑑賞

 

 

 昭和初期宇都宮において侠客花田秀次郎は

左右田組の客人の身であったが、舎弟の清川

周平とその恋人くみの愛を成就してあげたいと

希望していた。左右田組の親分寅松は石材採掘

請負業の実力者で、その息子弥市がくみの横恋

慕していた。

 くみの母千恵が娘と周平を逃がすが、弥市と

その子分に囲まれ、秀次郎は二人の想いの熱さ

を強調し許してやって欲しいと頼む。

 

 寅松は秀次郎に二人の恋を許してやるが、お前

さんにはやるべきことをやって貰うぜと命じる。

 

 石材採掘作業のライバル榊組の親分秋山幸

太郎を刺殺せよという過酷な任務であった。

 幸太郎に会った秀次郎は、何の恨みもありま

せんが渡世の義理で勝負してやっておくんなさ

いと語り、幸太郎は承諾してドスを抜く。

 二人は戦い秀次郎が幸太郎を斬り、幸太郎は

「良い腕だ」と讃えて絶命する。弥市らは幸太郎

の遺体に傷をつけようとして秀次郎に叱責される。

 

 三年の刑期を終えた秀次郎は幸太郎の墓に参

る。幸太郎の妻八重と息子和夫がお参りに来てい

た。

 

 寅松の榊組に対する妨害と圧迫は凄まじかった。

石材採掘業務を奪おうとする寅松は攻撃を続け、

子分達に榊に対する嫌がらせを命じた。

 

 余りの酷さに秀次郎は寅松一家の横暴を制止し、

八重・和夫母子を助ける。いつしか秀次郎は八重

への愛と和夫への父性愛を感じ始めていた。和夫

もお父ちゃんになって欲しいと頼む。

 

 一家の重鎮直さんこと直治や留吉、組合の実力

者田代が八重を支えるが、見積書提出で八重の

通行さえも妨害する左右田の汚さに秀次郎は怒り、

体調不良を起こした八重を介抱する。

 

 秀次郎は八重に「親分さんを斬った花田秀次郎

はあっしです」と告白し謝罪する。

 

 榊組組員であった圭さんこと畑中圭吾が中国大

陸の仕事を経て帰国した。

 圭吾は親分の仇として秀次郎に勝負を挑むが、

秀次郎はドスを抜かない。八重が止めに入る。

 

 直さんは飲み屋で圭さんに、「姐さんに惚れてた

な」と察する。圭さんは俺が勝手に惚れて勝手に

振られて勝手に出て行っただけだと強調するが、

八重の苦境を察していた。

 

 「石を命」とする寅松は榊組を攻撃し、ダイナマイト

を仕掛け、直さんは爆弾を止めようとして左右田組

組員に刺され爆死する。

 

 遂に我慢の限界に達した秀次郎は雪の夜にドス

を持って出た。

 

 圭さんが傘を差して現れる。

 

 二人はそれぞれのやらねばならない事を察し歩

み出す。

 

 ☆背中で泣いてる☆

 

 髙倉健は義に生きる男を勤める。銀幕に輝く大

英雄である。

 

 『昭和残侠伝』第二作であるが、ドラマの骨子は

此処で確立したと見れる。健さんの役は本作で勤

めた花田秀次郎が大人気であり、『昭和残侠伝』

を代表する名前となっていく。

 

 任侠道を大切にしている純粋で熱いやくざが、極

悪やくざの弱い者虐めや悪事に耐えて耐えて耐え

忍び、愛する女性への恋を胸にしまい、遂に堪忍

袋の緒を斬ってドスを握る。敬意を抱き合っている

やくざが現れ、二人は悠々と歩んで斬りこみに行く。

 

 相棒のやくざを池部良が勤め、男と男の義が静か

に示され、目と目で呼応し合う二人は命がけの戦い

の友として歩み共に戦う。

 

 髙倉健と池部良の二大スタアが夜道を歩み、ドス

を抜く。任侠映画の名場面に観客は自分達が痛み

苦しみ悩んでいる社会矛盾や不合理への怒りと

抵抗を確かめ、心の中で拍手を送る。

 

 東映任侠映画の偉大さは、観客の悩みや悲しみ

に敏感であったことが挙げられる。日々の苦しみや

悩みを思い出しつつ、巨悪に立ち向かう健さんや良

さんのやくざの斬りこみに勇気を学び心で声援を送

る。

 

 任侠映画全盛時の映画館では、健さんの斬りこみ

に「待ってました」と掛け声がかかったとも聞く。

 

 『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』の基盤は、長谷川伸の

名作戯曲『沓掛時次郎』であろう。やくざが義理から何

の恨みもない人を斬り、その妻子を助け、妻に恋心、

子供に親子愛を感じるが、二人の幸を静かに祈る。

 

 三田佳子の八重は気品豊か美しい。

 

 穂積ペペの和夫は可愛さが光っている。

 

 菅原謙二後の菅原謙次の幸太郎は男の渋さが輝

いている。

 

 花沢徳衛の直さん、田中春男の留さんがいぶし銀

の魅力を見せる。

 

 悪役陣はボスに水島道太郎、若旦那に山本麟一、

子分に関山耕司・今井健二・潮健児・室田日出男と

豪華である。

 

 津川雅彦・三島ゆり子の周平・くみ夫婦は若さが

溢れている。板前姿の津川雅彦も素敵だ。

 義理から周平は斬りこみに参加してしまうという

ドラマにも切なさを感じた。

 

 元石工でのしあがり、石に命を見出し、利権を独占

しようとする寅松の屈曲と野望を、水島道太郎が粘り

強く表現する。

 

 山本麟一が若旦那弥市の不気味さを鋭く勤める。

 

 大詰めの夜の雪に万感迫るものがある。

 

 秀次郎と和夫の会話に暖かさが溢れており、二人

は血の繋がりがなくても精神的に父子の絆があり、

両者共に心と心で確かめ合っている。

 

 斬りこみの罪滅ぼしとして、勤めを課されている秀

次郎は静かに歩みだす。

 

 髙倉健の目頭に光るものがあり、大粒の涙にならず

目の周囲で溢れていることに気品を感じた。涙目にな

っていることに、秀次郎の八重・和夫母子への深い愛

が窺える。

 

 秀次郎や圭吾のように巨悪と戦う事は無理でも、「男

ならこうありたい」という心を覚える。

 

 

 任侠映画は男の生き方の教科書なのだ。

 

 髙倉健の花田秀次郎は永遠不滅のヒーローである。

 

 潮健児没後二十七年・二十八回忌命日

 

             令和二年(2015年)九月十九日

 

 

                              合掌