男はつらいよ 奮闘篇  | 俺の命はウルトラ・アイ

男はつらいよ 奮闘篇 

『男はつらいよ 奮闘篇』

映画 トーキー 92分 カラー

昭和四十六年(1971年)四月二十八日公開

製作国 日本

製作 松竹大船

配給 松竹

 

 出演

 

 渥美清(車寅次郎)

 

 倍賞千恵子(諏訪さくら)

 

 榊原るみ(太田花子)

 

 光本幸子(冬子)

 ミヤコ蝶々(菊)

 

 田中邦衛(福士先生)

 柳家小さん(拉麺屋のおじさん)

 犬塚弘(巡査)

 

 前田吟(諏訪博)

 三崎千恵子(車つね)

 佐藤蛾次郎(源公)

 中村はやと(諏訪満男)

 

 福原英雄

 小野泰次郎

 城戸卓

 江藤孝

 長谷川英敏

 山村桂二

 高畑喜三

 北竜介

 

 森川信(車竜造)

 笠智衆(御前様)

 

 製作 斉藤次男

 企画 高島幸夫

     小林俊一

 

 脚本 山田洋次

     朝間義隆

 

 撮影 高羽哲夫

 音楽 山本直純

 

 美術 佐藤公信

 装置 小野里良

 装飾 町田武

 録音 中村寛

 調音 小尾幸魚

 照明 内田喜夫

 編集 石井巌

 進行 長島勇治

 衣装 東京衣装

 現像 東京現像所

 製作主任 池田義徳

 協力 柴又神明会

  

 主題歌 『男はつらいよ』

 作詞 星野哲郎

 作曲 山本直純

 唄  渥美清

 

 原作・監督 山田洋次

 

 ☆

 令和二年(2020年)六月二十九日

 大阪ステーションシティシネマ

 シアター5 F-16席にて鑑賞

 ☆

 雪国の駅では集団就職する生徒達を親達

が励ましている。車寅次郎は学生服の生徒

達に寂しくなったら東京柴又葛飾の団子屋

とらやを尋ねるようにと伝え、俺の叔父夫婦

が営んでるんだが、みんな良い人間だから

優しくしてくれるよと解説する。

 

 汽車が出ると「ああ!俺も乗るんだ」と気付く

寅さん。

 

 柴又とらやにタクシーが止まる。京都のラブホ

テルで働き財を為した元芸者で寅さんの実母菊

だ。とらやの前で満男を連れたさくらを見て、寅

にこんな綺麗な嫁がおまんのと驚き、この子儂

の孫かと目を細める。さくらは寅次郎の妹である

ことを語る。

 亡き車平造とその妻の娘と知った菊は、寅次

郎の母と妹ながら、わたいら血の繋がりあらへ

んなと確かめ合う。


 菊は、派手な衣装を着て竜造・つね夫妻に挨

拶し帝国ホテルに滞在していることを伝える。

 兄平造の愛人だった菊が煌びやかな衣装を着

ていたことに竜造は、故郷に錦を飾りたいんだろ

うなと察する。

 

 題経寺には冬子が子供を連れて父御前様と

語り合う。

 

 とらやでは竜造が甥寅さんが帰ってくる様子を

真似ようとする。「寅の馬鹿」と語った時に真後ろ

に寅さんが帰宅して睨む。慌てて謝るおいちゃん。

 おばちゃんは言わんこっちゃないと夫を注意

る。

 自分を魚に馬鹿にして笑ってんだろと寅さん

が糾弾するがさくらだけは味方だったのにと失

望する。


 さくらは違うのよと力説する。怒ってとらやを出

ようとする寅さんにさくらがお母さんが来ているの

よと伝える。


 冬子がとらやの前に来て、お母さんが来て

おられると伝え、寅さんは菊と会う気持ちを

固める。

 

 帝国ホテルの菊の部屋を寅さん・さくらが尋ね

る。寅さんはマイペースで無茶苦茶を語り、さく

らは寅さんが赤ん坊の時代を聞き、菊は涙な

がらに出産時の苦労を語る。

 寅さんはホテルのベッドで遊び、菊に「寅!」

と一喝される。さくらはお菊さんが語っておら

れるのに失礼よと諭す。

 菊は寅に「恋ばっかりしおって!」と叱る。

 

 さくらは、お菊さんの言葉はお兄ちゃんに言

い過ぎですと注意する。菊は兄思いのさくらの

言葉に感涙に咽ぶ。

 

 寅さんは拉麺屋で美人の知的障害の娘を

見る。彼女が食べ終わり店から出ると店の

親父さんと語り合う。心配になった寅さんは

少女に行き先を聞く。少女の名は太田花子

で勤務先が嫌になり故郷青森に帰ろうとして

いた。寅さんは彼女を保護するように守り

交番に連れて行く。寅さんと巡査は相談し

花子が上野駅から青森に帰るのが一番良い

として、寅さんは自腹で彼女の旅費を援助

し、上野駅から人に質問するようにと注意

するが心配になり、車寅次郎と名乗り、とら

やの住所をメモに書き渡す。花子は駅の階

段を昇り、寅さんは励まして別れる。

 

 数日後花子がとらやを尋ねる。寅さんも

とらやに帰ってきた。寅さんは愛する花子を

守り、「何処にも行くな」と言って聞かせる。多

摩川の土手で花子は「寅ちゃんの嫁コになり

たい」と言ってくれた。

 感極まり喜ぶ寅さんは花子との結婚生活

を夢見て感激する。

 だが、寅さん不在の時に花子の小学校時代

の教師であった福士先生がとらやに現れ、花

子の将来を考え青森に連れて帰ってしまう。

 

 とらやに帰ってきた寅さんは「花子どうした?」

と問い事情を聴き悲しみ出て行く。

 

 数日後とらやに葉書が来て差出人の寅さんは

花子と再会したことを記した。さくらは心配になり

八戸轟木を尋ねる。小学校において福士先生と

会う。その学校において花子は元気に働いてい

た。福士先生は寅さんが学校を尋ねに来たこと

をさくらに報告する。

 

 兄の無事を祈るさくらは東北のバスに乗る。

 

 車内では乗客相手に元気よく喋る寅次郎が

居た。

 

 ☆成就したかに見えて砕ける☆

 

 前作『男はつらいよ 純情篇』の駅の兄妹別

離に万感迫る情があり、シリーズ原点回帰・再

スタートの課題を感じたが、この第七作『男は

つらいよ 奮闘篇』においても第一作マドンナ

冬子と第二作の母の主題を体現した菊の再登

場がある。二人の存在感にシリーズ全体の確

認が為されている印象を受けた。

 

 光本幸子の上品な美貌は素敵だ。

 

 ミヤコ蝶々の鉄火母ちゃんの凄みも圧巻であ

る。

 

 純粋無垢なマドンナ太田花子を榊原るみが演

じ勤める。可愛くて真面目で一途な生き方を榊

原るみが熱演する。寅さんにとって花子は守り

たい存在であった。想いは勿論恋だが、「花子を

守りたい」という優しい心には何処か家庭的な

愛情がある。花子は憧れ恋するマドンナである

が、さくらに匹敵する程大事な妹でもある。

 

 寅さんの優しさに感動した花子は「寅ちゃんの

嫁コになりたい」というあったかい言葉を語って

くれる。遂に寅さんの一途な愛が報われる時が

来るか?この問いを観客は抱き胸を弾ませる。

 

 そこへ福士先生の親切心と教育的配慮によ

る指導が入り、花子は青森帰郷となり、寅さん

の恋は砕け散る。福士先生は寅さんの恋につ

いて知らない。善意が知らぬ間に一人の男の

恋路を潰してしまう。このドラマの鋭さに痺れる。

 

 柳家小さんの拉麺屋の親父さん。

 

 犬塚弘の巡査。

 

 田中邦衛の福士先生。

 

 名優達の優しい心の表現に暖かさを感じた。

 

 森川信の竜造は、今回も寅さんへの愛情から

の「馬鹿」の言葉を鮮やかに語る。

 

 三崎千恵子のおばちゃんの優しさに心打たれ

る。

 

 前田吟の博の直向きさ、太宰久雄の蛸社長の

おかしみ、佐藤蛾次郎の源ちゃんの喜劇性も強

な印象を与えてくれる。

 

 笠智衆の御前様の重みとユーモアが作品を

引き締める。

 

 失恋した寅さんを、さくらが追うという終盤の

ドラマに兄妹の絆を感じた。

 

 東北の美しい景色を背景にしてバスの中で

寅さんとさくらは再会する。

 

 兄の元気で無事な姿を見てさくらは感動す

る。

 

 その優しい兄思いの真心が観客の胸を暖

めてくれる。

 

 三崎千恵子百歳誕生日

 

 令和二年(2020年)九月五日

 

 

                         合掌