森と湖のまつり | 俺の命はウルトラ・アイ

森と湖のまつり

 『森と湖のまつり』

 映画 トーキー 113分 カラー 東映スコープ

 昭和三十三年(1958年)十一月二十六日公開

 製作国 日本

 製作言語 日本語

 製作会社 東映東京撮影所

 

 製作 大川博

 企画 坪井与

     岡田寿之

     植木照男

 

 原作 武田泰淳

 脚本 植草圭之助

 

 撮影 西川庄衛

 撮影助手 山沢義一

 音楽 小杉太一郎

 美術 森幹男

 装置 長北喜二次

 装飾 北新吉

 美術助手 中島敏夫

 録音 小松忠之

 録音助手 岸勇

 照明 元持秀雄

 照明助手 吉田一一

 編集 祖田冨美夫

 

 出演

 

 高倉健(風森一太郎)

 香川京子(佐伯雪子) 

 三國連太郎(大岩猛)

 

 中原ひとみ(山城茂子)

 藤里まゆみ(風森ミツ)

 加藤嘉(杉田 先生オド)

 薄田研二(大岩老人)

 

 宇佐美淳也(花森翁)

 河野秋武(木村医師)

 北沢彪(家池博士)

 花澤徳衛(川口館主人)

 佐々木孝丸(山城屋)

 

 風見章子(大岩絹子)

 戸田春子(花守の婆さん)

 菅沼正(花守与市)

 山本緑(花守ヨシ子)

 清水了夫(達夫少年)

 福島卓(風森一太郎 少年時代)

 浅岡すみ江(吉田看護師)

 

 山本麟一(漁夫頭)

 曽根秀介(トウロの男)

 大東良(トウロの男)

 萩原正勝(トウロの男)

 今成平九郎(トウロの男)

 秋月竜(トウロの男)

 関山耕司(漁夫)

 滝島孝二(漁夫)

 最上逸馬(漁夫)

 三重街竜(シベツ部落の男)

 鵜野竜太郎(シベツ部落の男)

 岡部正純(シベツ部落の男)

 

 有馬稲子(千木鶴子)

 

 監督 内田吐夢

 

 ☆

 薄田研二=高山徳右エ門

       =高山徳右衛門

 

 佐々木孝丸=落合三郎

         =香川晋

 

 内田吐夢=内田富

       =平田参作

       =閉田富

 ☆

 令和二年(2020年)八月十五日

 シネ・ヌーヴォにて鑑賞

 ☆

 

 風森一太郎青年は馬で野を駆ける。北海道の

子供達に本を贈る男性であった。 

 阿寒湖近くの弟子屈のアイヌ集落。一太郎は

アイヌ青年で日本人の差別に対して強い怒りと

深い悲しみを抱いていた。

 姉ミツが日本人男性杉田との恋に破れ、弟の

彼は復讐心を教わっていた。

 

 アイヌ研究者家池博士の案内を受けた美しい女

性画家佐伯雪子は、ビャッキーと呼ばれる一太郎

に強い関心を抱いている。アイヌの人の肌を知り

たいと望む雪子は医師を通じてミツを紹介された。

 

 釧路のバーカバフト軒で働く美人鶴子はアイヌ

の女性だった。彼女は一太郎を慕っていた。この

店には屈強の男大岩猛が仲間の川口館主人ら男

達を引き連れ飲みに来る。

 猛の父大岩老人大漁場の持ち主である。一太郎

は大岩父子と対立している。家族のいる猛だが、

鶴子にも強い関心を抱いているようだ。

 

 一太郎はアイヌの出身を隠して日本人を装う大岩

老人に反発し反省を求める書を送る。

 

 カバフト軒に来店した雪子は鶴子と賭けをして、一

太郎の使者になる。

 

 大岩老人は漁場で突如襲撃しにきた一太郎の

鞭を受ける。一太郎は雪子を連れて去って行った。

猛は怒りに燃えるが父の大岩老人は争いを諌止

する。

 

 森の小屋で一太郎は激情の赴くまま美しい鶴子

を抱きしめ彼女を求めた。抵抗していた鶴子は一

太郎に惹かれて行く。

 

 猛は一太郎に果たし状を送る。ノタップ岬のチャ

ランケの丘でべカンベ祭の鶴の踊りを合図に戦う

ことを二人は約した。

 

 決闘当日、一太郎は猛を羽交い絞めにして圧倒

する。だが猛の命を奪わず、彼を放した。

 

 一太郎は衰弱した中年になった杉田と再会する。

杉田は心身共に疲弊していた。

 

 丸木舟に乗った一太郎は湖の中に漕ぎ出す。

 

 ☆大自然の中の野生児☆

 

 高倉健の風森一太郎は逞しい。北海道の緑豊か

な自然の中に馬に乗り疾走し駆ける。子供達には

優しいお兄さんだ。だが、日本人がアイヌに為す差

別に強い悲憤を抱き糾弾の悲しみをこめて懸命に

抵抗する。一太郎は暴力を振るって反差別の表現を

為す。その手法が過激であることは確かだ。だがそ

の激烈な方法に彼を追い込んだアイヌ差別の問題

があることを吐夢監督は見つめる。

 

 香川京子の雪子は知的な美貌が光る。芸術家

・画家でアイヌ問題に強い関心を抱き、一太郎に

出会い、激しくも強引な彼に惹かれて行く。

 

 有馬稲子の鶴子は大人のアイヌ女性だ。酒場で

働きながら大切な一太郎を心に想っている。

 

 三國連太郎の大岩猛は強かだが、気性が激しく

荒っぽい所がある。

 

 逞しい美男の健さんが知的美女の香川京子氏と

恋におちて、屈強の三國連太郎様と戦う。

 

 内田吐夢の配役は鮮やかに決まっている。

 

 理不尽な差別を受けた姉の悲しみを受け、自身も

被差別を生きる存在として一太郎は激しい怒りを日

本人に示す。

 

 老獪に生きる大漁場持ち主大岩老人に鞭の怒り

向けるシーンは凄まじい。吐夢のアクション演出に

健さんが応える。

 

 本作は健さんの馬術の素晴らしさが光っている。

 

 山小屋の中で一太郎が雪子を奪うシーンは、強引

であることは否定できない。被差別を生きる一太郎

だが、美女に対しては激しい求め方をしてしまう。

 

 高倉健と香川京子の貴重な競演作品であり、その

競演が男女の激しい愛を熱く表現している。

 

 生き生きと息吹く自然の中で人間達は差別を犯し

争いを繰り広げる。

 

 中原ひとみは茂子役で可憐な魅力を見せる。

 

 加藤嘉が黒い頭髪で演技をされている映像を見た。

このことも貴重な鑑賞体験として確かめている。杉田

は愛する女性ミツを裏切ったことに苦しみ悩んでいる。

罪悪感の演技が重い。

 

 薄田研二が大岩老人を渋く勤める。

 

 アイヌの人々の様々な行事を記録してくれている

ことにも深謝する。

 

 高倉健は昭和六年(1931年)二月十六日に福岡

県に誕生した。本名は小田剛一である。明治大学

を経て昭和三十年(1955年)に東映に入社。健さん

をスカウトしたのはマキノ光雄であると言われている。

光雄の兄マキノ雅弘は明治大学の先輩光川仁朗

プロデューサーの口利きで東映に入ったと証言し

たという。

 昭和三十一年(1956年)一月二十九日公開、津田

不二夫監督の『電光空手打ち』が高倉健初出演・初

主演作品なのだが、自分は未見である。

 本作『森と湖のまつり』は高倉健満年齢二十七歳の

主演作品で、後に師と尊敬する巨匠内田吐夢と出会

いの一本となった。

  平成二十六年(2014年)十一月十日。日本映画・

亜細亜映画・世界映画大スタア高倉健は八十三歳

で死去した。その月の二十三日二十一時NHKスペ

シャル『高倉健という生き方』が放送された。

 

 生前の健さんのインタビューが公開された。

 

 『森と湖のまつり』における内田吐夢監督の指導

を確かめ、一太郎の怒りの演技で監督にOKを貰え

ず撮影も伸びていった。何度演じても怒られる。こ

のままでは撮影自体が厳しくなる。

 

 

  「怒りの演技ができるようになるには、怒らせ

  なければいけない」

 

 吐夢はこのように考えて、健さんを怒り虐めまく

った。

 

  「これで出来なかったら、この爺!殴って帰

   ってやる!」

 

 健さんの若き怒りが、吐夢への怒りと重なって、

怒りの演技を為した。

 

 これでOKとなった。

 

 

 吐夢演出の凄まじさは、全てを賭ける方法にあ

った。

 

 本気で激怒させることで、高倉健に風森一太郎

の命を息吹かせた。

 

 内田吐夢の演出は凄まじい。

 

 香川京子は昭和六年(1931年)十二月五日生ま

れ。本名は牧野香子である。昭和二十四年(1949

年)に新東宝に入社する。以後日本映画のスタア

女優として大活躍し、日本芸能界を牽引されてい

る。八十九歳の今年令和三年(2021年)は『峠 最

後のサムライ』『島守の塔』の二本の映画が公開

予定である。

 

 有馬稲子は昭和七年(1932年)四月三日、大阪府

に誕生した。本名中西盛子(なかにし・みつこ)であ

る。昭和二十四年(1949年)宝塚歌劇団に入団し、

二十六年(1951年)に映画デビューを果たす。日本

映画の大スタアであらせられる。

 平成十一年(1999年)十月三日京都文化博物館

において開催された有馬稲子講演会を拝聴した。

大スタア有馬稲子氏は謙虚でお優しい方である。

 

 香川京子と有馬稲子。八十九歳の大スタア・大女

優お二人が現役で活動されていることは有難い。

 久我美子九十歳、山本富士子八十九歳、岸恵子

八十八歳。大スタアでは女優さんに元気な高齢者

の方が多い。

 

 本作『森と湖のまつり』の出演者配列では、初め

に「高倉健 香川京子 三國連太郎」の三枚タイト

ルで三人が表示され、留めに「有馬稲子」と一枚

タイトルで掲げられる。

 四大スタアに対して東映が慎重な配慮を為してい

ることが窺える。

 

 繰り返しになるが、狼のような逞しい美男子一

太郎の高倉健と都会出身の知的美人画家雪子

の香川京子の競演が熱き魅力を放っている。

 

 北海道の緑豊かな自然の中で差別と闘い、自

然の中に帰る一太郎。

 

 彼が命賭けて訴えたことは被差別の悲しみで

ある。差別は人の心身や肉体や生命を傷つける。

 被差別の身において差別を怒り体当たりの糾弾

を為した一太郎の心は熱い。その闘魂は、観客の

心に熱き炎を燃やすものともなっている。

 

 

                    文中一部敬称略

 

 

 

 内田吐夢本名内田常次郎百二十三歳誕生日

        令和三年(2021年)四月二十六日

 

. 

 

 

                          合掌

 

 

                    南無阿弥陀仏

 

 

                         セブン

内田吐夢先生