大岡越前 復讐の十手 加藤泰脚本 加藤剛主演 | 俺の命はウルトラ・アイ

大岡越前 復讐の十手 加藤泰脚本 加藤剛主演

『大岡越前』第一部第十八話「復讐の十手」

テレビ トーキー 60分 カラー

昭和四十五年(1970年)七月十三日放送

放送局 TBS系

 

脚本 加藤泰

 

音楽 山下毅雄

 

ナレーター 芥川隆行

題字  朝比奈宗源

 

出演

 

加藤剛(大岡忠相)

 

宇津宮雅代(幸絵)

高橋元太郎(辰三)

 

川地民夫(六之助)

 

入江若葉(お梶)

伊藤栄子(おこう)

 

沢村宗之助(利兵衛)

山本清(源七)

牧冬吉(権兵衛 甚吉)

古川ロック(杢右衛門)

 

杉良太郎(中山新八郎)

 

大坂志郎(村上源次郎)

 

プロデューサー 西村俊一

 

監督 山内鉄也

 

 奉行所では火付強盗の嫌疑をかけられた罪

人達が拷問に耐えていた。杢右衛門は二十八

歳の若き同心中山新八郎に絞られていた。

 新八郎は、先輩の村上源次郎からお奉行忠

相は杢右衛門を解き放ったと聞き驚愕しその訳

を聞く。雪絵殿のカステイラにおいしそうな空気を

確かめる忠相は、血気盛んな新八郎に暴力によ

る取り調べをやめるようにと注意する。雪絵は中

山様が亡き父上を殺した盗賊権兵衛を追ってお

られる方と言い当てる。

 夜解き放たれ食事をほおばる杢右衛門を見張

っていた辰三は顔を隠した盗賊の頭領権兵衛に

頭を殴られ気絶する。権兵衛は杢右衛門を殺害

する。

 川で杢右衛門の死体があがる。新八郎は杢右

衛門が持っていた金は強盗にあった商家より奪

われたもの見て、杢右衛門はやはり盗賊一味で

口封じに消されたと推理する。

 

 島流しにあった若者六之助が刑期の勤めを終え、

船で江戸に帰ってくる。新八郎は権之助一味と関

わりがあるかもしれないと観て彼の動きに注目す

る。六之助に数年前親切にしてもらったという女梶

が現れ、彼と共に歩む。六之助は亡父の友人で困

っていたら頼るようにと言われていた豪商利兵衛

を頼るが、利兵衛は冷たく突き放したうえ、彼を手

代達に命じて強引に追い出した。島帰りの六之助

は大工の仕事を探すが、新八郎の下っ引きの源

七が島帰りと喋ってしまい、職に就けない。

 夜過去にお米と薬を男の人にぶつかって茫然と

していたところあなたがお金をくれて助けてくれた

とお梶が語る言葉を聞き、六之助は過去を思い

出す。

 

 新八郎は六之助が権兵衛一味とのかかわりが

あるかもしれないと観て捕らえて拷問にかける

忠相は新八郎を厳しく叱責し、父の形見である

十手を磨いて一日休めと命じる。飲み屋で新八

郎は強かに飲んで荒れていた。 

 美しい恋人おこうが店に来て心配して新八郎

をその家まで送る。新八郎はもうお前と一緒に

なれねえと寂し気に話す。酔った勢いでおこうを

押し倒すが無理矢理強引には迫らない。「私が

欲しいのなら力ずくでもいいわよ」とおこうは語る。

新八郎はおこうの身体を離して男泣きに泣く。「新

さん。嫌い」とおこうは激しく注意する。

 

  顔に痣のある男権兵衛が呉服屋に化けて、

お梶に「利兵衛さんが六之助さんに謝りたいと

おっしゃって、今夜木戸から来て欲しいと仰って

いました」と告げて手紙を渡す。

 六之助が勝手口から利兵衛を訪ねると、利

兵衛は知らないと否定する。火事が起こる。

逃げる六之助を利兵衛が追う。火事のパニ

ックに乗じて権兵衛は六之助の着物に盗んだ

金の一包を入れる。

 

 六之助は奉行所に捕らえられる。

 

 新八郎は顔に痣があるとはいえ、その痣は

焼きごてか何かで付けたものと観て、呉服屋

甚吉と名乗る者を捕らえ、父の仇権兵衛が

正体と糾弾する。

  

 白洲において、六之助、甚吉と名乗る呉服

屋、利兵衛の三人が引き出される。

 忠相は証拠のある六之助こそ盗賊権兵衛

に違いないと観て糾弾する。六之助は無罪を

主張するが聞いてもらえず、「勝手にしろ」と

嘆く。甚吉は下手人も明らかになったとして

悠々と帰路の準備も果たし、忠相の許可も

得て門に向かった。

 

 忠相が「権兵衛」と呼ぶと甚吉は「はい」と

言って正体を自ら明かしてしまう。包帯で覆

った指は新八郎の父新右衛門によって食い

ちぎられたものだと指摘し逃げる権兵衛を

捕らえさせる。

 

 

 忠相の裁きで新八郎の父の仇権兵衛は

捕らえられ、六之助・お梶と新八郎・おこう

は偶然にも神社で顔を合わす。

 

 ☆加藤泰の伊藤大輔写真への学び☆

 

 加藤泰脚本、山内鉄也監督の『大岡越前』

「復讐の十手」は、伊藤大輔の監督作品『下郎

の首』へのオマージュ姉妹篇である。『下郎の

首』は父を殺された侍結城新太郎が、父新兵

衛が斬られる前に仇の指を食いちぎったことを

手掛かりに探す。槍持ち奴の訥平は偶然にも

指を食いちぎられた男須藤巌雪に襲われ、正

体を観て防戦し斬って主人の仇を討つ。だが

新太郎は須藤家からの報復を恐れて訥平を

裏切って見捨てるという残酷な物語だ。

 

  「復讐の十手」は『下郎の首』をひっくり返した

ものとも言える。復讐に燃える新八郎は仇敵権

兵衛を捕らえることに成功する。

 

 六之助は島帰りで苦労し、無実の罪で火付け

強盗を押し付けられそうになるが、お梶の愛と

忠相の裁きで救われる。

 

 すなわち『復讐の十手』は『下郎の首』のシチュ

エーションが幸福に向かったとしたらという設問

に即答してくれる内容になっている。

 

 前科者の社会復帰の難しさという社会問題も

提起されている。

 

 大坂志郎の源さんと川地民夫の六之助が弁当

の握り飯を食べるシーンは名場面だ。

 

 杉良太郎と伊藤栄子の美しさは光っている。可憐

な伊藤栄子の無垢な魅力は、怖くなるほど完璧で

眩しい。

 

 川地民夫と入江若葉の大人のカップルの魅力も

素晴らしい。

 

 加藤剛の忠相と宇津宮雅代の雪絵の純粋な美

しさは輝いている。

 

 沢村宗之助の利兵衛の憎たらしさと牧冬吉の権

兵衛の渋さも強烈である。

 

 指を食いちぎられた加害者という設定で、小沢

栄太郎の後を継いだ牧冬吉の老獪なワルに痺れ

る。

 

 ラストの二組のカップルの幸福感は観客の心を

温めてくれる。

 

 加藤剛は美しい。

 

 

 加藤剛没後二年命日

 令和二年(2020年)六月十八日

 

 

                            合掌