仁義なき戦い 頂上作戦 (十五)呉越同舟 | 俺の命はウルトラ・アイ

仁義なき戦い 頂上作戦 (十五)呉越同舟

『仁義なき戦い 頂上作戦』

映画 101分  カラー

昭和四十九年(1974年)一月十五日公開

製作国  日本

製作    東映京都

 

企画   日下部五朗

手記   美能幸三

原作   飯干晃一

脚本   笠原和夫

 

撮影   吉田貞次

照明   中山治雄

録音   溝口正義

美術   井川徳道

音楽   津島利章

編集   宮本信太郎

 

助監督    土橋亨

記録     田中美佐江

装置     近藤幸一

装飾     松浪邦四郎

美粧結髪  東和美粧

スチール  中山健司

演技事務  上田義一

衣装     松本俊和

擬斗     上野隆三

進行主任  伊藤彰将

協力     京都八瀬かまぶろ温泉


 

出演

 

梅宮辰夫(岩井信一)

 

 

堀越光恵(光川アイ子)

木村俊恵(山守利香)

 

 

金子信雄(山守義雄)

小池朝雄(岡島友次)

山城新伍(江田省三)

加藤武(打本昇)

 

 

三上真一郎(川田英光)

小倉一郎(野崎弘)

吉田義夫(老師)

室田日出男(早川英雄)

 

 

高並功(古賀貞松)

大木晤郎(山本邦明)

岡部正純(柳井秀一)

西田良(高石功)

小林稔侍(谷口寛)

 

 

唐沢民賢(新聞記者A)

阿波地大輔(前島幸作)

芦田鉄雄(県警本部長)

誠直也(金田守)

酒井哲(ナレーター)


 

岩尾正隆(吉倉周三)

笹木俊志(織田英士)

小田真士(神代巳之吉)

広瀬義宣

疋田泰盛

志賀勝(吉井信介)

高月忠(本田志郎)

平和勝司(上原亮一)

福本清三(山崎恒彦)


沢美鶴(友田孝)

西山清孝(吉永進)

島田秀雄(岡島の友人)

山田良樹(刑事B)

村田玉郎(所員)

翔野幸知(江田欣二)

藤本秀夫

森源太郎(刑事A)

 

 

松方弘樹(藤田正一)


 

小林旭(武田明)

 

 

監督 深作欣二

 

☆☆☆

美能幸三はノークレジット

 

堀越光恵→堀越陽子

 画像・台詞出典 『仁義なき戦い 頂上作戦』DVD

  台詞の引用・シークエンスの考察は、研究・

 学習の為です。引用の際一部伏字を用います。
 東映様にはおかれましては、ご理解・ご寛

恕を賜りますようお願い申し上げます。

 ☆

 平成十年(1998年)八月十六日新世界東映

 平成十二年(2000年)十一月四日十三東映

 にて鑑賞

 ☆

 

 

  義西会の岡島友次は子分の藤田正一を伴って、対

山守の戦いに協力してくれない川田英光に決起を要請

する。

 

    岡島「広能があげられるとは予想もしとらんかっ

        たのお。こうなりゃ儂等と山守組の戦争で

        ぃ。武田のとこじゃ金が続かんいうて応援

        の連中帰しとる。儂と組んで山守に勝負

        賭けんかい?」

 

   川田「わしゃ喧嘩どころか、野球の資金を集める

       のに。これまでは打本の兄貴が面倒みて

       くれたんですが、あの人も握りキン×マに

       なっとってじゃけん。正直云うて打本さんに

       はもう義理はないですけん。」

 

  岡島は札束の包みを川田の前に置く。

 

  岡島「そがな話も聞いたけん。当座の五百万円。

      収めてくれい。」

 

 川田は驚く。

 

   岡島「わしゃ、打本じゃ、明石組じゃ言うて少し

      も義理はないんじゃが、このまま広能が叩

      かれっぱなしになるのを放っておいたら、

      次は儂等で。力貸してくれぃ。頼むわい!」

 

  川田「出来る限りのことは。」

 

 バー錦に岡島の愛人アイ子が勤務してる。武田明

が客として来ている。

 

   武田「こっちに移ってから、のォ、いよいよ磨きが

       かかっとんじゃないの。」

 

   アイ子「あらあの人と別れてもう一度売り出そう

        かしら?」

 

   武田「そうせい、儂が立候補するけん!」

 

   アイ子「新車に乗り換えるか?冗談じゃなくて

        武田さんには御礼の言いようがないわ。

        前のお店に居ったら山守さんにいびり

        抜かれて広島には居られんじゃったろ

        うし。これが武田さんの御蔭じゃいう事

        を分かったら、岡島も構えてなんておら

        れんのじゃろうけど。」

 

   武田「儂が此処に世話したいうことは死んでも

       云わんといてくれい。のう、あれもガンボ

       たれのきかん男じゃけん、それよりもあれ

       の居場所だけを、毎日儂に電話で教えて

       くれい。わしゃ、あれの命だけは守ってや

       りたいんじゃ。あれをトルトル云うちょるも

       んが大勢おるけんの。」

 

 アイ子は居場所報告を確約する。岡島が来店し小学

校の級友達と出会い、歓談する。武田は気を使って退

店する。岡島と級友達は同窓会を計画し拳骨喇叭も呼

ぼうと語り合う。

 

   アイ子「なんね、拳骨喇叭って?」

 

   岡島「儂の担任の先生じゃ。」

 

 早朝アイ子は公衆電話に走って、岡島の居場所を

武田に知らせる。電話に出たのは山守のボディガー

ドの吉井信介であった。「ちょっと待ってつかい」と

断って吉井はアイ子からの電話ですと山守に対応

を聞く。花札をしていた山守はアイ子の名を呟き、

江田は武田の若いもんじゃ云うて用件聞いてみぃ

と策を授ける。アイ子は愛する岡島を守る為に、吉

井を武田組若衆と思い込んで同窓会を知らせてし

まう。

 

 広島可部温泉で盛大に同窓会が開催され、男

達は大浴場に入っている。岡島は刺青姿で老師

の背中を流す。

 

   岡島「わしゃ拳骨喰らってわりゃみたいなもん

       は少年院入ったほうが真面目になる云

       われたもんですけん。そいで今も極道

       しとりますがの、ちっとは真面目になり

       ましたかの?先生」

 

   老師「それを言われると顔に電気が付くわい!」

 

 師弟は爆笑する。中庭で教え子達は老師が転ば

ないように気を遣うが拳骨喇叭先生は大丈夫じゃと

応える。叢から吉井が姿を見せる。

 

   吉井「あんた、岡島さんな?」

   

   岡島「そうじゃが?」

 

 吉井は四十五口径レボルバーを向ける。岡島は瞬

時に老師をかばい、吉井を諫めようと銃口に走る。吉

井は銃を乱射する。岡島が撃たれ血が飛ぶ。致命傷

を受けている岡島に対して吉井は全段発射して血を

飛ばす。

 

 老師と同級生達は恐怖で言葉を失う。

 

  吉井「あんたら、見とった通りじゃ。」

 

 老師の目に悲しみが溢れる。

 

 テロップ 昭38.10.11 義西会会長岡島友次 死亡

 

   ナレーター「岡島の死を聞いた武田は山守の独断

          に激怒した。世論を敵にしたら勝てない

          事に気付いた武田は山守、江田と対立

          して抗争から手を引くに至った。一方打

          本も再三にわたる岩井の決起要請に応

          えず徒に決着を長引かせるのみであっ

          た。」

 岡島の葬儀斎場で岩井は打本の迷いをビシビシ叱る。藤

田正一・野崎弘は神妙に聞く。川田英光は用心深く眼光を

輝かせる。

 

    岩井「山守をやるか、やらんか!あんたの腹を聞いと

       んにゃ!」

 

    打本「そがに言われても広能もおらんし、儂一人じゃ。」

 

 打本は勝てないと苦渋を語る。

 

   岩井「打本さん、あんたそれでも極道か?そこいらのタク

      シー屋のおっちゃんか?どっちや?」

 

   打本「どっちか言うたら、わしゃ事業一本に絞りたいんじ

       ゃ!」         

 

   岩井「さよか!ほならそうしなはれ。わしゃタクシー屋

      のおっちゃんに用はないしな。これから一人で歩い

      たらよろしがな。けど言うけどな、前向いても崖、後

      ろ向いても崖やで。性根据えて歩くこっちゃな。」

 

 出てゆく岩井に肩を叩かれ、打本は震える。

 

   打本「儂の言うことも一理あるじゃろが。あんたら、がん

       ばりんさいや。」

 

 組長の政治的駆け引きを不満にした各組の若者達は抗争

を続ける。藤田・野崎・谷口・柳井らは夜にオートバイで移動

しダイナマイトを投げる。

 

   テロップ 昭38.10.15 キャバレー「ハレム」爆破事件

   

 藤田・野崎は江田組事務所にも爆破事件を起こす。

 

 山守はバーエデンで震えて警察に電話する。

   山守「県警本部?県警本部?山守、山守義雄じゃ。

      何じゃ云う事あるか?保護してくれ云うとるの

      にちっともパトカーよこしてくれんじゃないの?

      あれほど爆弾放り込まれとんのに!わしゃ身を

      隠す場所もないんで!善良な市民を保護する

      のが警察の役目じゃないんか?」

 

 県警本部長はどこに居るんのと聞き、「わかった」と答え

て電話を切る。新聞記者は「何ていいますの」と内容を聞き

「バッカ!」と呆れ、「そんとなもん真に受け取るからあんた

ら」と警察を叱る。

               

 早川は親父がパトカーを呼び、儂らより警察を頼りにしと

とることに怒り、車で離れる。谷口や柳井は山守がエデンに

居ることを察知し喫茶店で襲撃を話し合い、店を出ていく。

マスターが打本に報告する。打本は武田に電話連絡する。

 

   武田「武田じゃ。おう、なんなら?」

 

   打本「この前の借りもあるけん、教えるがよ。今うちの

       わかいもんが山守殺る言うて出て行ったところ

       じゃ。早めに知らせんと間に合わんぞ。」   

 

   武田「馬鹿ったれ、この!何でわりゃ止めんのじゃい?」

 

   打本「止める言うて何で儂が止めにゃならんの?そっち

       と喧嘩しとるのに。山守が助かったら儂に二千万

       ばかり融通せい云うて頼んでみてくれや。」

 

   武田「喧嘩相手に金貸す馬鹿何処に居るんない!?」

 

 エデンに武田が駆け付ける。江田は「なんなら明」と問う。

武田は省一にこがな無防備な所に親父を置いといて側近

が勤まると思うとんかと注意する。江田は表にパトカーが

あらあと応える。武田はそんなもんあるかいと指摘する。  

山守は「江田を信用して命を預けとるんで、わりゃに用は

ない」と答える。       

 

   武田「そうですかいの。今、打本会の連中が仕掛けて

       来ますからの。そっちら二人で戦ってつかい!」

 

 山守は怯えて「待ってくれぃ!」と縋る。武田はこの喧嘩は

儂に任すんですか、任さんのですかと詰問する。泣き声の

山守は任さんとは言うとりゃせんじゃないのと頼る。そこへ

谷口ら打本会の若者達が襲撃に来た。山守は車で逃げる。

打本会の柳井が山守を追う。その柳井を江田組の金田・

山本らが追う。パトカーの追跡もあり双方動揺する。武田

は「かわせい」と指示を送る。柳井は打本会の車と思って

乗り込むが同乗者が武田組と知り、怯える。山本は「糞

汚れ」と制裁しようとするが、武田は呉越同舟じゃと制止

する。

 

 夜のラーメン屋で柳井は仲間の谷口・本田に難を逃れ

た事由を語り聞かせる。

 

   谷口「ほいでどうして逃げたん?」

 

   柳井「ほいで途中でエンスト起こしよってよ、みんなで

       車降りて押したんじゃ。」

 

   本田「わりゃも押したんか?」

 

 柳井は儂が手伝う義理はないし、武田の言葉によると、

今日の殴り込みは親父が向こうにチンコロしたと報告す

る。谷口は打本の裏切りに悲憤を覚え、拉麺の麺を頭に

かけ、「親父が!糞!ほうじゃけん儂ら舐められるんじゃ」

と怒鳴る。柳井はもま一度押し出そうと呼びかけ、谷口も

応ずる。

 

 夜の新天地通りで谷口・本田・柳井は怒りの視線で歩

む。戦いの相手を求め眼光を輝かせる。金田や山本は

その動きを知り、新天地通りに現れて対決する。両者は

激しくののしり合って、戦う。

 

   谷口「馬鹿タレ!かかってこんかい!」

 

 大激戦になるが金田が発砲して谷口を射殺する。

 

  テロップ 昭38.10.19夜 新天地乱射事件

        死亡2 重傷3

 

  ナレーター「市民生活を直接脅かしたこの乱射事件は

         暴力団追放の世論を沸騰させ、角界の突き

         上げを受けた警察と検察当局は遂に幹部

         組長の一斉検挙に踏み切った。」

 

 江田は江田産業で逮捕され、打本は逮捕されパトカーに

乗る。

 山守は病室で見舞いに来た沢山の美人ホステス達に囲

まれ戯れている。刑事が入ってきて、逮捕状じゃと叱る。山

守は「儂に何の容疑じゃ?」と問う。刑事は二年前競艇場

の職員を殴ったじゃろと告げる。

 

   山守「わしゃカリエスで腰が立たんのじゃ。院長に聞いて

        みぃ。」

 

   刑事「何がカリエスじゃ、やり過ぎのヤリエスじゃろ!」

 

  利香が入ってきた夫の浮気相手のホステス達を見つめ

つつ、義雄を叱る。

 

   利香「あんた!新聞社も見えとってじゃけん。男らしゅう

       しんさい!」

 

  利香は「性根の腐った」と叱り枕を放り投げる。義雄は

「ほっとけ」と怯える。

 

   山守「記者会見するけん!」

 

  ☆

 岡島友次は義に篤い男で子分の藤田正一と共に対山守へ

の決起要請を川田英光に頼む。計算高い川田は野球賭博(

プーヤ)の儲けに集中しており、打本への義理も無く戦いに

は消極的だ。

 打本も川田も共に冷酷であり、仁義の為に命を捨てるのは

古臭くて阿呆らしいという打算がある。岡島は五百万円の大

金を軍資金として渡し決起を重ねて頼む。

 第一作では三上真一郎の新開宇市が松方弘樹の坂井鉄

也に叩き潰されるが、第四作では逆転現象が起こる事は興

味深い。

 アイ子の新しい勤務先に錦を紹介してその美貌に口説きの

冗談を言う武田だが、実は岡島を想い、山守の虐めを警戒

して、恋人達を守っていた。アイ子は武田の優しさを思えば

うちの人岡島は武田さんと事を構えるべきではないのにと

感謝するが、武田はその気遣いを確かめつつ、岡島の命を

守りたいという一心でしていることやし、居場所だけ知らせ

てくれれば守ると約束する。堀越光恵後の堀越陽子はこの

時実に二十三歳の若さである。

 小林旭が武田の優しさを輝かせる。小池朝雄の暖かさも

印象的だ。公衆電話に向かって走るアイ子。現在スマート

フォンが電話の主要で、メールやラインで外国との文書伝

達が難しくない世の中になったが、1974年は電話が頼りだっ

たのだ。

 運悪く電話を山守組の殺し屋吉井信介に聞かれてしま

う。アイ子の名を聞いて嫉妬の光を目に浮かべる金子信雄

の怪演は凄い。悪の天才山守だが、老齢と共に短気にな

り恋敵の岡島への殺意を隠せなくなる。

 武田の優しい配慮が結果的に岡島を死に導いてしまう。

 『ロミオとジュリエット』ではロレンス神父の配慮が恋人達

に死へと誘ってしまう。『菅原伝授手習鑑』においては桜丸・

八重の斎世親王・苅屋姫の逢引が菅丞相流罪の因となっ

てしまう。『封印切』のおえんの優しい応援が結果的に梅川

忠兵衛を心中の道に歩ませてしまう。こうした過去の傑作

群の「良かれと思った心遣いが悲劇の因となる」ドラマを

笠原和夫は重厚に描く。

 広島可部温泉のロケ地は字幕にあるように京都八瀬の

かまぶろ温泉であろう。小池朝雄の刺青姿は貫禄がある。

その小池朝雄に背中を流してもらう拳骨喇叭の先生は

吉田義夫である。『ウルトラセブン』「地震源Xを倒せ」の岩

村博士と共に印象的な教育者役だ。短い出番だが、岡島

が命がけで守りたい師匠としての存在感が求められる大

役であり、頑固で一徹な教育者の風格を吉田義夫が笑顔

で勤める。

 一部資料では嵐寛寿郎(老師)となっており、アラカンが

拳骨喇叭役に想定されていたことは間違いないと思われ

る。師弟が風呂に入って絆を確かめ合う平和的なシーンの

直後に、吉井の暗殺シーンが来る。このあたりの笠原和夫

脚本のコントラストも絶妙である。

 吉井が四十五口径レボルバーを出し、岡島は身を挺して

老師を守り自己を犠牲にして吉井の凶弾に撃たれて血ま

みれになって死亡する。カメラに血糊が飛ぶ。吉田貞次の

撮影技術の凄まじさが光る。小池朝雄の撃たれ方の演技も

凄まじい。第一作ではナレーター、第二部『仁義なき戦い

広島死闘篇』では高梨国松親分に続き、岡島の壮絶な最期

で、小池朝雄の『仁義なき戦い』シリーズは幕を閉じる。

  

   「あんた等見とった通りじゃ」

 

 笠原和夫の名台詞を静かに決める。これは志賀勝の名

演を代表するシーンであろう。

 令和二年(2020年)四月三日志賀勝は七十八歳で死去

した。残酷な吉井役は当たり役の中でも決定版と思われ

る。命がけで自身を守ってくれた岡島を亡くし老師は悲し

みを感じる。京都生まれの名優吉田義夫の目の演技が

光る。

 

 

 無声で武田が山守を注意するカットも強烈である。この

当たりのドキュメンタリー的な深作欣二の演出は鋭い。

 

  岡島の葬儀斎場で岩井が打本を叱り飛ばすシーンも

名場面だ。ビシビシ叱られても戦闘意識は皆無で事業に

絞りたいと打本は逃げの姿勢を隠さない。

 加藤武は昭和四年(1929年)五月二十四日生まれで本

作公開時は四十四歳である。

 梅宮辰夫は昭和十三年(1938年)三月十一日生まれで、

この時三十五歳の若さである。

 臆病な打本を凄み豊かな岩井が叱責する。シナリオで

は「トラック屋のおっさん」なのだが、辰っちゃんのアドリブ

であろうか、本篇では「タクシー屋のおっちゃん」になって

いる。

 岩井に叱り飛ばされ、前も後ろも崖と注意されても、打本

は薄笑いを浮かべて、藤田達にがんばりんさいと言い残し

て逃げて行く。悪の天才山守に対して全て裏目の打本だが

運の強さはすさまじく命だけは何とか助かる。

 義に篤く平和を願う岡島は山守に殺され、武田の気遣い

も裏目に出てしまう。ここにも「仁義」が「仁義なき欲望」に

叩き潰されて「仁義なき戦い」が浮かびあがるという笠原和

夫の狙いが的中している。  

 

 親分達は保身に走り、若者達は闘魂をぶつける。

 

 小林稔侍の谷口と小倉一郎の野崎が若き情熱を燃や

す。

 山守はエデンで怯えて警察に保護を頼む。金子信雄の

怯えの演技は強烈だ。江田は山守を守るが、警察を子分

より重視する山守に早川は反感を感じる。室田日出男の

凄みも深い。

 芦田鉄雄の県警本部長と唐沢民賢の新聞記者の漫才

のようなやり取りも楽しい。ブラックユーモアが飛び火して

くる感じもする。

 

  谷口や柳井が命がけで山守暗殺を狙い、マスターの

通報を経て打本は子分達を裏切り、武田に知らせて叱ら

れながらも、山守に命が助かったら儂に二千万円融通

せえ言うて頼んでくれやと泣きつく。

 親分達の目当ては金だけである。若者達の命はゴミの

ようにポイ捨てする。

 太平洋戦争で大竹海兵団において笠原和夫は青春

を賭けて戦った。だが、戦争の最大責任者昭和天皇裕

仁は責任を取らず、敵国アメリカに自分の命を助けても

らうことのみ求めた。冷酷な裏切りを笠原和夫は青春

期に見て痛感した。

 

 打本が借金を武田を通して山守に頼み叱責されるシ

ーンは爆笑場面となっている。 

 

  山守や打本の冷酷非情の裏切り・ポイ捨てには親分

の老獪さがある。笠原和夫はその冷酷で卑劣な生き方

を喜劇の方法で描く。

 武田がエデンに行くと山守・江田はパトカーが守って

くれとると豪語するが、警察は来ていない。県警本部

長も強かである。打本会の襲撃計画を武田は知らせ

て立ち去ろうとするが、山守は急に怯える。生命の危

機には敏感で泣き声で武田を口説く。山守に呆れつ

つつも武田は人が良くて親分を見捨てることができな

い。 

 打本会の若者達が襲撃乱戦になり、呉越同舟現象

が起こる。柳井は拉麺屋で仲間の谷口・本田に難を

逃れたことを報告するがここでの回想表現も素晴ら

しい。エンストの車を始め柳井も一緒に押していた

が武田の車を押してやる義理もないし、打本の親父

が武田に襲撃をチンコロ(密告)したことも確かめる。

 若く熱い谷口を小林稔侍が熱演し、麺を頭からか

ぶる。

 

   笠原 ただ僕はね、実は第四部というのは失敗

       だったと思ってるんですよ。話自体まとま

       りがない状態で、ラスト・シーン以外は意

       味のない芝居になっちゃったなあと。まあ

       加藤武がやった打本の行動が面白かっ

       たと思うくらいであって。

 

   糸圭 あれは結構笑えますね。打本が敵方の

       武田に、今、うちの若いものがそっちに

       殴りこみに行ったから気をつけろと電話

       する。それで情報教えてやった見返りに

       金を融通してくれと(笑)。

 

  笠原  あれも実話なんですけれどもね。ただ危

       険なところには行ってしまってるんです。

       つまりブラック・ユーモア笑わせるという

       方式を一部から取ってるわけですけど

       ね、第四部になると、もう、それが喜劇

       的になりすぎちゃって現実感がなくなって

       くるわけですよ。それがあの第四部の

       欠点で、これは監督も役者も気がついて

       いない。けれども僕は危ないなという気

       がしてね。

  (『昭和の劇』317-318頁

   笠原和夫・荒井晴彦・糸圭秀実共著

   平成十四年(2002年)十一月六日発行

   スガ秀実の「スガ」の一字は変換で出ない為

   「糸」「圭」の二字を併せて表記する)

 

 

  笠原和夫自身の自己確認・自己評価は厳しい。

私などは映画館でもDVD・ビデオ鑑賞でも打本の通

報の見返りの借金申し込みや呉越同舟現象は爆笑

シーンだが、作者自身は現実の出来事を基盤にして

いて作劇しても現実感が無くなってきて喜劇的になり

過ぎてしまっていると警鐘を鳴らす。

 

 過去記事でも書いたが、笠原和夫は任侠映画にお

ける喜劇名優の芸による笑いの表現に頼らず、ブラッ

クユーモアで笑いを呼ぶことを一部から自身に課して

きた。昌三の詰めた指が飛んで鳥につつかれたり、

仲間が殺され食肉にされたことを犬が怒るという名場

面になった。『仁義なき戦い 代理戦争』では明石組・

神和会という二大組織を恐れて震える広島やくざの

自己保身が爆笑喜劇となった開花した。この流れが

継続していた。

 金子信雄が泣き落として爆笑演技を呼び、加藤武が

「対抗意識」で狼狽演技で観客の笑いを呼び起こす。

 笠原和夫はこの二大名優の演技合戦にも警戒して

いたことは過去記事で尋ねた。逆に言うと笠原和夫の

書く名台詞が金子信雄・加藤武や田中邦衛の情熱に

火をつけたともいえるだろう。

 

 借金を申し込んで武田に怒鳴られる打本や、武田の

車を一緒に押している柳井の滑稽さは喜劇味が深作

欣二の演出をも超えて鮮やかに独り歩きをして観客を

包み込んでいるとも言える。

 

 笠原和夫が注意したことも抑えておきたいが、わたくし

自身は笑いのシーンで腹から笑い、涙が出る程爆笑す

ればいいと考えている。

 

 この笑いの場面の絶妙さがあるからこそ、拉麵屋で

谷口達が打本の裏切りに怒るシーンの壮絶さが存在

感を強く打ち出す。若き日の小林稔侍の体当たり芸は

凄まじい。

 

 新天地通りの江田組若衆対打本組若衆の決戦シー

ンは迫力豊かだ。

 

 江田や打本も遂に逮捕され抗争の場面から去ること

となる。

 

 だが、抗争は続く。

 

 山守が見舞いの美人ホステス達と楽しく過ごすシーン

も愉快だ。

 

  金子信雄は大正十二年(1923年)三月二十七日東京

府東京市に生まれた。本作公開時五十歳である。

 

 「やり過ぎのヤリエス」と揶揄される程の遊び人であること

を刑事に指摘されるが、好色で女性に甘いところも山守の

人間的魅力だ。丸い体型で愛想のよい笑顔で人たらしの

魅力を出す天才だが、女房の利香には頭があがらない。

 

   金子の山守があったから、あの映画は成功したんです

   よ。

   (『昭和の劇』特別付録)3頁)

 

 岡田茂は金子信雄の山守を絶賛する。第一作の山守役の

選定段階から金子信雄を強く推した存在は岡田茂であった。

 

 悪の天才山守義雄だが、ホステス達との楽しい語り合いを

警察に潰され、女房利香に叱られ、ガウン姿で「記者会見す

るけん」と挨拶の舞台に立たされる。親分達は抗争の場から

牢獄に移されて行く。

 

   第四部は前述の通り、広島事件の後半、即ち暴力沙汰  

   オンリーの筋である。主役の広能たちはいずれも組長ク

   ラスに昇格していて、闘争の現場に出てこない。従って

   メインになるドラマがない。やたら殺すか殺されるかとい

   う血腥い事件のオンパレードである。それで作さんとは、

   なるべく立体的に、引いた視点からこの材料を追ってみ

   ようという合意に至った。

   (『ノート「仁義なき戦い」の三百日』 『昭和の劇』289頁)

 

 笠原和夫はこの文を昭和四十八年(1973年)十一月二十日

に書いている。冷静で鋭い分析である。広島事件の抗争は

暴力沙汰・殺人事件の連続であり、その流血の連鎖を引いた

視点で羅列していく。

 

  笠原和夫自身の評価は厳しいが、彼の抑えた視座による

作劇により、本作『仁義なき戦い 頂上作戦』は不滅の傑作に

なったと自分は確信している。

 

 

                             合掌

 

 

                       南無阿弥陀仏

 

 

                            セブン