必殺仕置人  ぬの地ぬす人ぬれば色 | 俺の命はウルトラ・アイ

必殺仕置人  ぬの地ぬす人ぬれば色

  『必殺仕置人』「ぬの地ぬす人ぬれば色」

  テレビ  トーキー 60分 カラー

  昭和四十八年(1973年)六月二十三日放送

  放送局 朝日放送系

 

   のさばる悪をなんとする

   天の裁きはまってはおれぬ

   この世の正義もあてにはならぬ

   闇に裁いて仕置きする

   南無阿弥陀仏

 

 川の水に友禅の染物がしなやかに姿を見せている。

気持ちよく水浴びをしているようでもある。

 丘に行列が歩みを休止し籠が止まった。将軍家側室

お美代の方の一行であった。友禅を気に入ったお美代

の方は職人の弥助に買いたいと望む。

 弥助は娘ゆきとその許嫁友吉と共に頭を下げ、「娘の

嫁入りに染めたものでこればかりは、お断り申し上げま

す」と申し上げた。怒った美代の方の心を察した御広敷

番で伊賀者の板倉新八は無理矢理友禅の染物を川か

ら引き上げ、金子を弥助に投げる。弥助は友禅を返して

欲しいと願出る。怒った板倉は弥助を斬殺する。抗議し

友吉も殺される。

 目の前で父と恋人を殺されたゆきは悲鳴を上げる。

 

 お美代の方は、使者に用人村瀬東吾を派遣し、ゆきを

不憫に思うので暮らしの世話をしたいという意向を語らせ、

大奥で奉公するようにと誘う。

 おきんは掏摸仲間だったお仙に相談し、大奥にあがる

ことに成功し、ゆきの護衛を兼ねて共に奉公に出る。

 

 半次は観音長屋で綺麗に着飾ったおきんが大奥に奉公

に行くと聞き、吃驚仰天する。

 やがて壮麗な迎えが来てゆきとおきんは大奥に召されて

いく。

 

 だが、大奥にあがるとお美代の方の陰湿ないじめが始

まった。美代はまず大奥にのぼる日に、板倉と会わせて、

ゆきの心に父と恋人を斬殺された記憶を蘇らせる。

 更にそちのような下賤の者と同じ物は着れぬと語って、

友禅の布で雑巾を作り、大奥の床を磨くようにと厳命した。

 ゆきはそれだけはできませんと泣く。おきんはゆきの胸

中を思い脱出を考える。

 二人は大奥から逃げようとするが、偶々通りがかった

将軍に見つかり、上様からゆきに「名を何と申す」とお尋

ねがあった。ゆきは将軍家側室になり二日後にお床入り

が決まる。

 嫉妬と妨害工作でお美代は、ゆきに夫を決めたと言い、

仇の板倉に添わせると言い放った。伊賀者で伊賀者ど

うしの婚姻しか認められなかったが、大奥お女中と添い

遂げられるなら本望とする板倉は、憎まれ嫌われるにし

ても思いっきり憎まれたいとして、ゆきを妻にできること

を喜ぶ。

 

 絶望からゆきは首を吊って自害する。

 

 おきんは友人ゆきを守れなかったことを悲しみ、

仕置を打ち出すが、女のやり方で自分の手で仕置

したいと大奥に入った半次を通して、主水・錠・鉄に

相談する。

 

 おきんは、寝所に入って美代の方の髪の毛の大

部分を剃刀で斬る。御髪を切られた美代は将軍家の

お床入りが近づいているので慌てる。彼女の父はゆ

きなどにかまうからだと責める。

 下手人をおきんと見たお美代は板倉に拉致させ、

寺で責める。

 そこへ寺の僧侶に化けた鉄が現れた。美代の父は

呼んではおらぬと注意する。叫び声が致しましたと

鉄は語る。

 

 板倉は廊下で錠と戦う。錠は左手に鉄輪をして新八

の刀を受け、柱に足を乗せて跳躍して手槍で刺殺する。

 鉄は美代の父の骨を外して仕置する。美代の方の警

護の侍達は主水の十手によって当身を食らう。

 

 お美代は逃げようとするが、主水の姿を見て怯える。

 

 鉄がにやりと微笑み、「これが大奥の女か」と呼び、

抱きしめながら、美代の身体の骨を折る。倒れ込んで

お美代の方は息絶える。

 

 鉄と錠は逃げる。

 

 主水は寺の僧に叫び声を聴いたので入ったと

断りを入れる。

 

  ☆お美代の方の虐めの怖さ☆

 

 『必殺仕置人』第十回「ぬの地ぬす人ぬれば色」は

虐めの怖さを鋭く語り描く。将軍家側室という地位に

あって、この世の出来事で欲しいものは何でも手に

入れようとするお美代の方。気まぐれから友禅を求め

て、断った弥助と婿になろうとしていた友吉を無残に

斬り殺す。

 川のせせらぎが響き、自然の陽光がきらめく晴れた

日に凄惨な殺しが描かれる。

 

  鮎川いづみ後の鮎川いずみのゆきが可憐だ。

 

 北林早苗のお美代の方の冷酷非情と高慢さは強烈

である。

 

 国弘威雄の緻密な脚本は女が女を虐めるドラマを、粘

り強く書く。

 お美代の方にとっていじめの根幹にあるものは、嫉妬で

あろう。友禅を雑巾に使いたいという後の言葉も恐らく本音

であり、何とかしておゆきを屈服させたいという執念が燃え

ていた。

 美代の方も美しさがあるものの若く可憐な美を放つゆきに

対して何としても勝って屈服させて不幸のどん底に落としたい

という邪心が起こったのであろう。つまりゆきの若さと無垢な

美貌への嫉妬の心である。

 

 美代は自身の手元にゆきを召していじめぬきいたぶりぬく。

 

 北林早苗と鮎川いずみの激突競演が迫力豊かだ。

 

 これに野川由美子のおきんが目撃者として加わり、女三人

の大奥の物語が織りなされる。

 

  美代がいじめぬくのは、誰よりもお美代がゆきの可愛さ

に脅威を感じていたからであろう。

 

 将軍家がゆきの美貌に恋して名を聞くシーンも印象的だ。

ゆきが将軍家側室となることを阻止しようとする美代の方は

彼女にとって仇である板倉新八の妻になるようにと命じる。

 自分を憎む美女をわがものにできると聞いて板倉はにや

っと微笑む。 

 上野山功一の憎たらしさも光っている。

 

 ゆきは耐えきれず首吊り自殺をする。死体の演技の悲しみ

も鮎川いすみは目で表現する。

 

 おきんの壮絶な復讐が始まる。

 

 髪の毛を切ってお美代の方の誇りを傷つける。

 

 寺の仕置では何といっても、錠のジャンプによる

攻撃が強烈だ。

 

 沖雅也の獣性が燃える。

 

 鉄が「大奥の女か」と感嘆してお美代の方を抱きしめて

殺害するのは、悪女とはいえ女性なので安楽死に近い

処刑であったようにも見える。

 

 ラストの主水の寺への挨拶に軍師役の知恵を感じた。

 

 松野宏軌監督は伊藤大輔に学んだ映画人である。

 

 嬲られ叩かれ傷つく者への視点が、松野演出の基底

に光る。

 

 権力の圧制に潰される存在の声を語る松野宏軌の演出

は、師匠伊藤大輔の敗北の美学と呼応する。

 

 

  キャスト

 

  山崎努(念仏の鉄)

 

  沖雅也(棺桶の錠)

 

  野川由美子(鉄砲玉のおきん)

 

  上野山功一(板倉新八)

  鮎川いづみ(おゆき)

 

  北林早苗(お美代)

  加賀ちかこ(おその)

 

  津坂匡章(おひろめの半次)

 

  正司歌江(お仙)

  小林勝彦(村瀬東吾)

 

  春日俊二(弥助)

  湊俊一(森清武)

  近江輝子(添島)

 

  藤沢薫(音吉)

  中林章(友吉)

  森章二(同心)

 

  和田正信(将軍)

  黛康太郎(山野)

  高木峯子(浦尾)

 

  藤田まこと(中村主水)

 

  スタッフ

 

  制作 山内久司

      仲川利久

      桜井洋三

 

  脚本 国弘威雄

 

  音楽 平尾昌晃

  撮影 石原興

 

  美術 倉橋利

  照明 染川広義

  録音 武山大蔵

  調音 本田文人

  編集 園井弘一

 

  助監督 家喜俊彦

  装飾   稲川兼二

  記録 野口多恵子

  進行  鈴木政喜

  特技  宍戸大全

 

  装置 新映美術工芸

  床山結髪 八木かつら

  衣装 松竹衣装

  現像  東洋現像所

  

  制作主任 渡辺寿男

  殺陣  美山晋八

  題字 糸見渓南

 

  ナレーター 芥川隆行

 

  制作協力 京都映画株式会社

 

  主題歌 「やがて愛の日が」

  作詞 茜まさお

  作曲 平尾昌晃

  編曲 竜崎孝路

  唄  三井由美子

  ビクターレコード

 

  監督 松野宏軌

 

  制作 朝日放送 

      松竹株式会社

 

  ☆☆☆

  山崎努=山﨑努

  鮎川いづみ→鮎川いずみ

  津坂匡章→秋野太作 

  ☆☆☆

 

  藤田まこと八十七歳誕生日

  令和二年四月十三日

 

                     南無阿弥陀仏