切られ与三郎 | 俺の命はウルトラ・アイ

切られ与三郎

『切られ与三郎』

映画 トーキー 94分 カラー 大映スコープ

昭和三十五年(1960年)七月十日公開

製作国 日本

製作  大映京都

製作 武田一義

脚本  伊藤大輔

撮影  宮川一夫

音楽  齋藤一郎

美術  西岡善信

録音  大谷厳

照明  中岡源権

 

出演

 

市川雷蔵(与三郎)

 

冨士眞奈美(お金)

淡路恵子(お富)

中村玉緒(かつら)

 

多々良純(蝙蝠ノ安五郎)

浦辺粂子(お源)

寺島貢(三八)

村田知栄子(お菅)

潮万太郎(源右衛門)

小堀阿吉雄(市場鶴)

浅尾奥山(藤八)

嵐三右衛門(権九郎)

山路義人(亥太郎)

尾上栄五郎(留公)

天野一郎(十辺九十郎)

五代千太郎(佐野川杜若)

原聖四郎(飯沼左門)

犬丸智太郎(己之)

三木譲(辰吉)

小松みどり(お里)

高野信子(ちさ)

種井信子(お吉)

清水明(勘十)

水原浩一(松五郎)

高倉一郎(若芝)

 

小沢栄太郎(山城屋多左衛門)

香川良介(伊豆屋与左衛門)

 

監督 伊藤大輔

 

市川雷蔵=二代目市川莚蔵=八代目市川雷蔵

 

小沢栄太郎=小沢栄

平成十一年(1999年)十一月二十四日

朝日シネマにて鑑賞

 蝋燭問屋伊豆与の養子与三郎は、実施与之助・

お金の誕生により家を出て、放蕩の日々を送り、三

味線の腕は鍛えていた。父与左衛門の与三郎継承

の意向とは別に、継母お菅と山城屋多左衛門の意

向で与之助が後継者となる。

 

 与三郎は旅に出て、木更津亭女将お富と恋仲

になるが、網元源右衛門に捕まり、全身三十四か

所に傷を負う。

 

 海へ放り込まれた与三郎は女歌舞伎一座に救

われる。

 一年後貸元三八を殺した役者かつらに頼られ

るが裏切られる。牢を出た与三郎は仲間の蝙蝠

ノ安五郎と組んで山城屋を強請るが、そこにはお

富が居た。

 

    「いやさ、お富久しぶりだなあ」

 

 与三郎は語る。山城屋の思惑で妹お金が旗本

飯沼左門の妻になることを強いられていた。与三

郎はお金救出をお富に相談し助力を頼むが裏切

られ、お富を斬殺し、お金を救いだす。

 

 お金は兄の与三郎に秘めていた想いを打ち明

け、「お兄様」と語り、添い遂げられない悲しみか

ら喉を付いて自害する。

 

 与三郎は、お金の遺体を抱き、他の女に裏切

られたが、心底愛してくれた妹に感謝し、川の中

入って行く。

 

 ☆改変への疑問☆

 

 市川雷蔵の美しい与三郎が、可憐な冨士眞奈

美のお金を抱き締め川に入るシーンは、宮川一

夫のキャメラによって、名場面として輝いている。

 

 淡路恵子はお富の色気と哀れさを深く表現する。

 

 中村玉緒のかつらは、怖かった。三八の絞殺を

穏やかに語り、与三郎に弱さを見せてすがり頼り、

危機が迫れば裏切るという女性像だ。

 男を手玉にとって、翻弄する。セクシーな悪女

で品格も豊かだ。玉緒はんは、二十代前半から

演技の巧さが光っている。

 

 多々良純の蝙蝠安は粘りがあって、渋い。

 

 雷蔵と眞奈美によって、兄妹愛の清らかさが

切なく明かされた。

 

 だが、脚本の源にある戯曲『与話情浮名横櫛』(よ

わなさけうきなのよこぐし)をここまで大きく改変する

必要があったか?

 『与話情浮名横櫛』は三代目瀬如皐作である。

 嘉永六年(1853年)五月江戸中村座で初演され

ている。

 『源氏店』の題名で現代歌舞伎でもよく上演されて

いる。

 

 映画『切られ与三郎』が与三郎・お金の兄妹の

愛を描き切ない悲劇として存在感を放っているこ

とは認める。これはこれで鋭い作品である。

 しかし、与三郎がお富を刺殺するシーンは辛

い。

 

 伊藤大輔は戯曲・小説改変の名手である。『御

誂次郎吉格子』は、吉川英治の原作小説『治郎

吉格子』より深い作品になったと自分は確かめ

ている。

 

 原作を題材にして、映画ではその命を新たに息

吹かせる。大輔はこれまで沢山の映画でその偉

業を為してきた。だが、与三郎がお富を刺殺する

新たな物語は、その説得力が欠けているように

思われるのだ。

 

 演劇は演劇、映画は映画と割り切ったとしても、

与三郎がお富を殺してしまう物語には納得がい

かない。例え先入観と言われても、お富与三郎は

歌舞伎を代表する恋人達であり、二人に殺害事

件が起こったとする改変を提起するならば、歌舞

伎ファンの観客を唸らせるニュー・ストーリーを出

して欲しいとする要求は自然だろう。よって、『切

られ与三郎』における改変に自分は反対である。

 

 伊藤大輔を崇拝しているわたくしだが、疑問や

違和感を覚えたことは、正直に申し上げる。

 

 

 歌舞伎から時代劇がどう脱するかという課題

を実験的に試みた作品なのかもしれない。

 

 冨士眞奈美が「お兄ぃ様」と可憐な声で語る。

愛する人と一緒になれないので命を絶つドラマ

に、与三郎を悲しませることを何故選んだのか

という問いを実感した。

 

 市川雷蔵の与三郎が、ただ一人自身を真に

愛してくれた存在として亡き金に感謝するラス

トは確かに深く切ない。

 

 改変への悲しみは深いが、兄妹愛悲劇とし

ては迫力があることは確かめておきたい。

 ◎

 この記事を読み直して歌舞伎『与話情浮名

横櫛』(よわなさけうきなのよこぐし)に強烈な

印象を受けた自分自身を実感した。

 

 歌舞伎『与話情浮名横櫛』を映画『切られ

与三郎』に映像化する試みで、与三郎が昔

の恋人お富を斬り殺してしまう物語に感情

移入することが無理だった。

 

  お金が愛する与三郎と結ばれることが

無理なので命を絶ってしまう展開にも疑問

を感じる。

 

 伊藤大輔が、悲劇に与三郎とお金の兄妹

愛が燃え上がる事を探求したことは想像し

ている。

 ◎

 2021年6月26日に記事を大幅に加筆しま

した。

 ◎

                               

 

                       合掌