博奕打ち 総長賭博(十一)錦水内祝い 名和宏一周忌御命日 | 俺の命はウルトラ・アイ

博奕打ち 総長賭博(十一)錦水内祝い 名和宏一周忌御命日


『博奕打ち 総長賭博』

 

 

映画 トーキー 93分 カラー

昭和四十三年(1968年)一月十四日公開

製作国  日本

製作    東映京都

企画  俊藤浩滋

     橋本慶一

脚本  笠原和夫

 

出演

 

鶴田浩二(中井信次郎)

 

名和宏(石戸孝平)

中村錦司(青木勇作)

小田部通麿(北川常次)

国一太郎(岩倉宗太郎)

 

 

若山富三郎(松田鉄男)

金子信雄(仙波多三郎)

 

監督  山下耕作

平成三年(1991年)十一月十三日朝日シネマ

にて鑑賞

 

  料亭錦水広間の内祝い会合で天龍一家と叔父

貴衆が集まり、跡目を継いだ石戸孝平が上座に着

席している。松田鉄男の席は、叔父貴仙波と石戸の

間に用意されている。

 鉄男は紋付袴の正装で現れ、深々と頭を下げ出所

の報告をする。仙波は労いの言葉をかけて呼ぶ。

 鉄男は進み孝平に問う。

 

    「今日は無礼講か?何で中井の上座に座って

    るんだ。そこは五厘下がりの弟分が座る席じゃ

    ねえ、どけ!」

 

  石戸は「俺が跡目を継いだ話は聞いてくれなかった

のか?」と問い返す。

 

  一徹な松田は、話は聞いたが、相談は受けていない

と怒る。信次郎が必死に諌めるが、松田の激怒は止まら

ない。

  中井が跡目の継承を求められて縁筋が違うことから

断ったのは立派な態度だが、無理にも口説くのが弟分の

在り方ではないのかと問う。

 

    松田 「しゃしゃり出やがって、

        てめえ、それでも人間か?

        犬畜生かどっちなんでえ?」

 

 松田鉄男の厳しい問いに、、石戸孝平も怒りが湧くが

内祝いの席を思い、堪える。

 

 

 仙波は松田に渡世の道を外すことになるぜと揶揄する

ように注意し、松田は「道を外してるのはおめえさん達の

ほうじゃねえんですかい?」と問い返す。

 

   仙波「中井がどうしても受けねえ以上石戸に

       落ち着くのは当たり前だろう。」

 

   松田「それがおめえさん達の筋道か。叔父貴衆

       みんな、中井が受けなかったら、何故その

       話を俺に持ってこねえ。一家惣領の子分

       の俺を跡目の貫録じゃねえというのか?」

 

  仙波は「みっともねえ」と嘲笑する。

 

 

   松田「みっともねえ?叔父貴。俺達やくざは

      神様や仏様じゃありません。俺達はな

      んで可愛い子分を殺したんです?」

 

  松田は、『やくざ神仏じゃありません』と語り、可

愛い子分達を出入りで殺し、寄場で勤めてきたのは

一家を思い、何時かは自身に花が咲くと思えばこそ

ですと正直に夢に思っていたことを力説する。

 

    松田「先代の娘婿だからといって、昨日まで

        五厘下がりの弟分が今日は一文上が

        りで親を名乗ったら、渡世人の仁義は

        どうなるんだ!」

 

  松田と石戸の対立は決定的になる。

 

  仙波は「これじゃうめえ酒は飲めねえな」と語り、

石戸は「これまでの付合いがあるから今日は我慢を

する」と告げて叔父貴と共に退席する。

 

  ☆一徹な男☆

 

 内祝いの席での松田の糾弾は凄まじい。

 

 若山富三郎の演技・芸が渾身の熱演を見せる。

 

 挨拶では礼儀正しく落ち着いた声、上目使いに上座

の石戸を睨む眼光が鋭い。

 

 悠々と前に進み、静かで太い声で石戸に上座着席

を注意し、石戸が継承を説くと、何故中井を口説かな

かったのだと詰問する。

 

 松田は渡世人の仁義を石戸が破壊して、序列や長幼

の順を汚したと叱責する。

 

 信次郎は昨日の相談を忘れてしまったのかと止め、

平和的に解決しようとするが、松田の激怒の炎はます

ます熱くなる。

 

 松田の怒りは中井を跡目に立てなかった事なのだ

が、石戸が継ぐ前に俺が継ぐべきだと欲目も正直に

語る。

 死んで行った子分達の為にも自身が継いで、一家

を引っ張りたいと強く望みを明かす。純情な松田は何

故六人衆の叔父貴達が自分の望みを聞いてくれない

かという悲憤も抱いている。彼の筋は渡世人の義理

に合っているが、叔父貴達は仙波の金に買収されて

いることを知らないのだ。

 

 松田の怒りは仙波には好都合で益々嘲り、罠に嵌

めて行く。

 

  『笠原和夫 人とシナリオ』(2003年11月7日発行

シナリオ作家協会)所収『博奕打ち 総長賭博』によ

ると、このシーンで松田が仙波を糾弾する言葉は

常体で、所謂「タメ口」だが、本篇では若山先生が

ネコさんに敬語を外さず語っている事にも注目し

たい。敬語で話し続ける事で、何とか叔父貴には

やくざの筋目を分かって欲しいという松田の一縷の

望みが窺えるし、黒幕が仙波だと気付いていない

事にも通じる。

 

 

 鉄男の純情一徹を若山富三郎が生きる。

 

 名和宏の石戸の苦悩も深い。

 

 筋道の問題が観客の胸に響く。

 

 

 予告編には、本編でカットされたと思われる、シーンがある。

 『笠原和夫 人とシナリオ』所収『博奕打ち 総長賭博』シナ

リオNO.25に、「スワン」において、松田が預けた縄張りのス

ワンを返せと石戸を糾弾するシーンがある。

 

 松田が登場する前に、仙波に将来的には松田に跡目を譲

りたいと石戸は申し出ている。仙波は、松田の事は儂に任せ

るようにと述べ、更に二代目に成れたことはあんた一人の力

じゃないんだぜと強調し、助力してあげたのだと示す。ゆっく

り相談したいことがあると続け、石戸が要件を聞くと、「時期

尚早」と叔父貴は笑う。

 

 シナリオには「狡猾な笑い」とト書きがあり、ネコさんの

狡い笑いを見たかった。

 

 松田が乱入し、厳しく糾弾するので、石戸は縄張りのスワン

は返しても良いが、錦水内祝いの一件で詫びを入れてくれと

迫る。

 

  石戸「俺はみんなに推されて代目を継いだんだ。代目を

      継いだ以上、俺も一家の親だ。それなりの作法を

      あんたに守って貰わなきゃ、他のみんなに示しが

      つかねえんだ」

 

  松田「そんな貫録がてめえにあると思っているのか!」

 

 石戸の子分北川が松田の話し方を注意し、松田は激怒し

北川を突き飛ばす。石戸の子分沢田は抜刀し、松田の子分

音吉と清は親分を守り一触即発になる。

 

 信次郎が懸命に諌める。 石戸は松田に謝罪を要求し、

松田は怒り、信次郎が代わりに謝る。

 

  仙波は「一家内の統制が取れねえ」と厳しく指摘する。

 

 信次郎は松田が出所して間もない事から、日を改めて

話し合いたいと申し出て石戸も了承し、怒り心頭に達し

ている鉄男を信次郎が何とか宥めて帰還する。

 

 この後、本篇に収録されている千鳥のシーンになる。

 

  「あんな野郎に謝るくらいなら、先にぶった斬ってや

る」の松田の台詞を若山先生が激しく語るが、カットされ

た「スワン」の激論を読んでいると一層、その怒りが察せ

られる。

 

 鶴田浩二の信次郎の我慢劇。

 

 若山富三郎の鉄男の熱き激怒。

 

 名和宏の孝平の苦悩。

 

 金子信雄の多三郎の憎たらしさ。

 

 四大名優の大いなる至芸が光り輝いている。

 

 山下耕作の演出が美しい。

 

 名和宏一周忌御命日

                 令和元年六月二十六日

 

                            合掌