犬神家の一族 構成雑だが、高梨臨珠世は平成一番の美しさ | 俺の命はウルトラ・アイ

犬神家の一族 構成雑だが、高梨臨珠世は平成一番の美しさ

 『犬神家の一族』

 テレビ トーキー カラー 放送時間枠は123分

 放映日 平成三十年(2018年)十二月二十四日(月曜日)

       二十一三十分より二十三時三十三分

 放送局 フジテレビ系

 原作 横溝正史

 

 出演

 加藤シゲアキ(金田一耕助)

 

 賀来賢人(犬神佐清 青沼静馬)

 

 

 高梨臨(野々宮珠世)

 

 

 平祐奈(美代)

 品川徹(大山泰輔)

 笠原秀幸(犬神佐武)

 安藤聖(青沼菊乃)

 田鍋謙一郎(弥助)

 少路勇介(若林豊一郎)

 坂口涼太郎(犬神佐智)

 

 松田美由紀(犬神竹子)

 りょう(犬神梅子)

 

 梶原善(藤崎正一)

 佐戸井けん太(犬神寅之助)

 大倉孝二(猿蔵)

 梶芽衣子(宮川香琴)

 板尾創路(犬神幸吉)

 小野武彦(古館恭三)

 生瀬勝久(橘重蔵)

 

 里見浩太朗(犬神佐兵衛)

 

 黒木瞳(犬神松子)

 

 脚本 根本ノンジ

 音楽 ワンミュージック

 特殊造形 松井祐一

 襖絵 志世都りも

     遠藤麻木子

 琴演奏 上田麻里名

 プロデュース 金城綾香

 演出 澤田鎌作

 

 製作 フジテレビ

 

 昭和二十二年、犬神財閥の創始者で大富豪の犬神佐兵衛

は八十一歳の年齢で重い病に罹り信州那須湖畔の本宅で

床に臥せっていた。

 長女松子・次女梅子とその夫寅之助、三女梅子とその夫幸

吉、竹子夫婦の息子佐武、梅子夫婦の息子佐智は厳しい表

情で佐兵衛翁を凝視している。娘夫婦と二人の孫は、佐兵衛

の巨額の財産がどのように分配されるかに強い関心を抱いて

いるのだ。

 佐兵衛の美しい養女の野々宮珠世のみ、老人の重篤を悲

しみ、懸命に回復を祈る。三人の娘と次女・三女の夫達を警

戒する翁は、ただ一人養女にだけは愛情を感じている。

 

 松子が「御父様ご遺言は?」と問う。佐兵衛は顧問弁護士古

館恭三を指さす。古館弁護士は、ビルマの戦地に従軍してい

た、松子の息子佐清が復員してきた時に遺言状が開封される

事を明かす。松子・竹子・梅子は異母姉妹で、佐兵衛が三人の

愛人に産ませた娘達であった。姉妹の仲は厳しく対立していた。

 古館弁護士はもし佐清の身に危険な事態が迫っていたら、佐

兵衛翁の一周忌に遺言状が発表されることになっていることを

説く。珠世以外の犬神家の人々は莫大な遺産の配分に想いを

巡らし視線の厳しさを強めた。

 佐兵衛が亡くなる。翁の死は犬神家に起こる連続殺人事件の

発端の出来事であった。

 

 那須ホテルにもじゃもじゃ頭でよれよれの袴を着た青年が客

として尋ねてきた。金田一耕助と名乗った青年は、ホテルの主

人と女中美代に職業を聞かれ探偵と答えた。主人が探偵であ

ることを立証できるかと迫ると、耕助は主人の服装や足から彼

の状況・経済状態を言い当て、美代が驚く。古館弁護士事務所

職員若林豊一郎から、犬神家に「血みどろの事件が起こる」と

予測する手紙を受け取り、那須ホテルで会って、彼からの相談

を聞く約束であったのだ。

 湖そばに在る犬神家豪邸に耕助は驚く。湖を優雅に進むボー

トがあり、オールを操る珠世が、犬神家の養女であることを美

代から聞かされた耕助は、双眼鏡で彼女の絶世の美貌を見て

感嘆する。その時、珠世がボートの浸水に怯え、助けを求め

た。耕助はホテルから駆け出し、必死に救助に向かうが、珠

世の下男猿蔵が彼女を救った。耕助はボートの底に穴が開け

られていたことを語り、珠世は怯える。客を待たせてしまったか

なと思う耕助がホテルに戻ると、若林は毒入り煙草を喫煙し

毒殺されていた。

 橘警察署長から詰問を受けた耕助だが、若林の死亡状況

を聞き、死因を推理し、警察も推理力を見る。古館は若林に

代わって、事件の調査を改めて依頼する。

 

 犬神家に佐清が復員してきたという知らせが届く。遺言状

公開の場に、耕助も同席を許されるが、佐清はビルマ戦線で

顔に大きな傷を負い、かつての容姿とよく似たゴムマスクを

被っていた。竹子や梅子は本人であるかどうかも確認でき

ないことを指摘し、仮面を取ってもらわないと分からないと

疑問を提起する。松子は怒りつつも佐清にマスクを半分め

くるように指示する。仮面が半分めくられると、佐清の顔の

大怪我が現れ、犬神家の人々は驚愕する。

 古館弁護士は佐兵衛の遺言状を開封し、「犬神家の全財

産、並びに全財産の相続権を意味する斧琴菊」が、一定条

件の下において「野々宮珠に譲られる」ことが発表される。

 珠世自身も、犬神家の人々も驚く。珠世が相続権を得る

為には、佐清・佐武・佐智の三人のうちから配偶者を選ぶ

こと、珠世が三人を全て選ばず、他の配偶者を選ぶ場合

は相続権を失うこと、もし珠世が遺言状開封以後三か月に

死亡したり、相続権を失った場合は、財産は五等分され、

佐清・佐武・佐智がそれぞれ五分の一、青沼菊乃の一子

静馬が残り五分の二を相続することが発表される。菊乃

は佐兵衛の愛人で、静馬は息子であった。

 

 松子・竹子・梅子の実父に対する怒りは更に熱くなる。

仲の悪い三姉妹はかつて菊乃を折檻し、静馬が佐兵衛

の子でないと無理矢理嘘を認めさせ、乳幼児の静馬の

下半身に火傷を負わせるという残虐な行為を犯してい

た。

 

 犬神家の人々は血を吹く遺言状で更に確執と憎悪を

深め合う。

 猿蔵が手入れをする菊畑の側に仮面を付けた佐清

が立つ。珠世が現れて、壊れた懐中時計を渡し、昔し

て下さったように直して頂けませんかと頼むが、佐清

は時計に触れた後、彼女に返した。

 

 佐武・佐智は那須神社に出征前の佐清の手形が奉

納されていることを確かめ、耕助と共に尋ねて神主大

山から借りて、仮面の男に手形を押させて照合すると

主張し、松子は猛反対をする。佐武も怒り、仮面の男

を佐清と認められないと厳しく言い放った。

 

 翌朝耕助は古館から犬神家の菊畑に来るように呼び

出される。菊畑の人形の一つを見て、人形の首である

場所に佐武の生首が置かれていることに驚愕する。

 

 何者かが佐武を殺害し、首を斬って菊畑に置いたの

だ。警察の捜査で遺体が発見される。

 事件は鉄筋コンクリートの建物の展望台で起こった。

 橘はブローチを見つけ、珠世の持ち物であることを確

かめる。署長の尋問を受けた珠世は、事件当夜十一時

に佐武を呼び出し、仮面の佐清が触れた懐中時計を渡

し、奉納手形と対応されればと勧めた事を証言した。

 佐武に挨拶して部屋に帰ろうとしたら、彼に抱きすくめ

られ、強姦されそうになった事を告白し、ブローチはそ

の時飛んだのだと思うと述べ、危機を秘かに警護して

くれていた猿蔵に助けられたと報告する。

 

 仮面の佐清は母松子に手形を自ら押したいと申し出

て、松子も手形押しに立ち合い、藤崎正一鑑識員が奉

納手形と照合し、同一の物であることを確認し、松子は

安堵する。

 

 珠世の部屋に復員服の男が乱入し、荒らした。

 

 冬の日の午後、佐智は珠世に「形だけ夫婦になってく

れへんか?」と頼むが、珠世は会釈で拒絶し去ろうとする

が、眠り薬をかがされ拉致され、犬神家がかつて所有し

ていた廃屋に監禁され、佐智に衣類を剥がされる。佐智

が犬神家の財産と欲望の全てを手に入れようと、珠世の

身体を無理矢理奪おうとすると、復員服姿の男が入って

来て彼を棒で殴って気絶させた。猿蔵は謎の男性から

電話を貰い、お嬢様が廃屋に監禁されている事を知らさ

れ救助する。

 

 佐智は絞殺され犬神家で琴の糸を首に巻きつけた死体

となって発見される。

 

 竹子と梅子は怒り心頭に達し、姉松子を罵り、犬神家か

ら出て行く。

 松子は佐智殺害事件の当日、犬神家を訪問していた琴

の師匠宮川香琴の指導を受けていた。

 

 耕助は、佐智が紐で絞殺された後に、首に琴の糸が

巻かれた事を確かめる。佐武の死体は菊、佐智の死体

は琴の見立てとなっていた。

 

 青沼菊乃が松子・竹子・梅子三姉妹に暴行を受け、嬰児

時代の静馬迄火傷を負わされた際に「よきこときく」の言葉

を呪った事を、耕助は聞かされた。

 佐兵衛は少年時代に那須神社神官野々宮大弐に助け

られ、大弐の妻晴世に恋心を抱いており、大弐・晴世夫妻

の孫珠世をこよなく愛し、自身の養女にした。

 

 松子は佐武・佐智の死を受け、佐清との結婚を珠世に

勧めるが、珠世は拒否する。夜息子を探す松子は、仮面

の佐清が煙草を吸っている事に驚く。仮面の男は、自身

が佐清ではないと告白し、松子は驚愕する。

 

 朝。那須湖畔に男の死体が逆立ちの体位で突き出て

いた。警察が遺体を引き上げると仮面の男であった。

 藤崎が指紋を調べると、今度は那須の佐清の奉納手

形とは一致しなかった。耕助は仮面の佐清の死体が頭

から湖に落されたことから、「スケキヨ」が「ヨキケス」と

なり、犯人が判じ物を作成し、「斧」(よき)の呪いに見せて

いると指摘する。

 

 珠世の部屋に顔を隠した復員服の男が入ってきた。男

は顔を明かす。珠世は驚く。その驚きは感動であった。

 

 ☆☆☆絶世の美女 平成末期に現る☆☆☆

 

 『犬神家の一族』は横溝正史が書いた傑作推理小説で

ある。昭和二十五年(1950年)一月から二十六年(1951年)

五月迄雑誌『キング』に掲載されたと言う。第一回連載から

今月平成三十一年(2019年)は六十九年目に当たり、最終

回発表からは六十七年八か月が経過した事になる。

 

 原作小説はドキドキ緊張する推理作品で、結末や犯人

を知っているどころか、フレーズのいくつかは暗記していて

も読む度に怖さで震えさせてくれる。一行一行一文字一文

字に怖さが詰まり溢れて居り、読み進める時に震えが起こ

ってくるのだ。

 

 昭和二十×年二月十八日信州財閥の一巨頭、犬神財

閥の創始者、日本の生糸王犬神佐兵衛が八十一歳の年

齢で病死した。彼が生前書いていた遺言状は、遺族達に

血で血を洗う戦いを繰り広げさせる事が目的ではないか

と思わる程奇妙な物であった。

 

 犬神家の莫大な遺産を巡り、一族が対立し、松子・竹子

・梅子の異母三姉妹の葛藤が激化し、松子の息子佐清、

竹子の息子佐武・娘小夜子、梅子の息子佐智の立場は

緊張感に満ちたものと成り、三姉妹の怒りで犬神家の姓を

許されず、下半身を松子の暴力で火傷を負わされた青年

静馬も含めて、佐兵衛の子供・孫達の関係性は厳しくなっ

て行く。珠世を守る下男の猿蔵は常に警戒を怠らなかった。

 若林を第一の犠牲者として殺人事件が起こり、佐武の

死体は「菊」、佐智の死体は「琴」の見立てで、湖の底から

突き出た仮面の男の遺体は「斧」(よき)を現す判じ物に

なっていた。

 

 しんねりと強い松子夫人。太った中年女性だが人の良

さは微塵もない竹子夫人。美貌の人だが、底意地の悪そ

うな梅子夫人。寡黙な仮面の佐清。衝立のような巨体の

持ち主で傲慢な佐武。華奢な身体つきで軽薄で狡猾な

佐智。冷たい佐智を献身的に愛する美人小夜子。巨体

の持ち主で横柄な寅之助。小柄で色白で腹黒い幸吉。

頑丈な身体つきで珠世を守る大男下男の猿蔵。

 犬神家に引き取られている二十六歳の絶世の美女野

々宮珠世。

 これが原作における人物像なのである事を確かめて

おきたい。

 

 佐兵衛は少年時代神官大弐に助けられ、二人は男性

同性愛で愛し合うが、女性を愛せない大弐は妻晴世に

詫びたい気持ちを持っており、晴世と佐兵衛の不倫の恋

を許し公認の出来事としており、佐兵衛・晴世の間に生ま

れた祝子を自身の娘として育て、祝子が珠世を出産した。

 佐兵衛は、孫の珠世を引き取って可愛がり、祖父孫の

関係性が明かせぬまま病に倒れ、彼女が従兄弟に当た

る佐清・佐武・佐智の一人と結婚すれば、斧・琴・菊の継

承者となり、遺産を得ると遺言し亡くなった。

 

 『犬神家の一族』には沢山の映画版・テレビ版・舞台版

がある。ここで過去の作品のタイトルを確かめたい。

 

 映画版

 『犬神家の謎 悪魔は踊る』

 昭和二十九年(1954年)八月八日公開

 製作東映京都  配給東映

 主演 片岡千恵蔵(金田一耕助)

 共演 小夜福子(犬神松子)

     千原しのぶ(野々宮珠世)

 監督 渡辺邦男

 

 『犬神家の一族』

 昭和五十一年(1976年)十月十六日公開

 製作角川春樹事務所    配給東宝

 脚本 長田紀生 日高真也 市川崑

 音楽 大野雄二

 出演 石坂浩二(金田一耕助)

     島田陽子(野々宮珠世)

     あおい輝彦(犬神佐清 青沼静馬)

     高峰三枝子(犬神松子)

     草笛光子(犬神梅子)

     三條美紀(犬神竹子)    

     地井武男(犬神佐武)

     川口恒(犬神佐智)

     川口晶後の国重晶(犬神小夜子)

     加藤武(橘警察署長)

     小沢栄太郎(古舘恭三)

     三國連太郎(犬神佐兵衛)

監督  市川崑

犬神家の一族 1976

 

『犬神家の一族』

平成十四年(2006年)十二月十六日公開

脚本 市川崑 日高真也 長田紀生 

製作 黒井和男

プロデューサー 一瀬隆重

音楽 谷川賢作

    大野雄二(テーマ曲)

出演 石坂浩二(金田一耕助)

    松島菜々子(野々宮珠世)

    尾上菊之助(犬神佐清 青沼静馬)

    富司純子(犬神松子)

    加藤武(等々力警察署長)

    仲代達矢(犬神佐兵衛)

監督 市川崑

 

 テレビ版

『蒼いけものたち』

日本テレビ系

昭和四十五年(1970年)八月二十五日から九月二十九日迄

脚本佐々木守   監督鈴木敏郎

出演 酒井和歌子(水川美矢子)

 

 

 『横溝正史シリーズⅠ 犬神家の一族』

 TBS系

 昭和五十二年(1977年)四月二日から四月三十日迄

 脚本 服部佳

 音楽 眞鍋理一郎

 出演

 京マチ子(犬神松子)

 月丘夢路(犬神竹子)

 小山明子(犬神梅子)

 四季乃花恵(野々宮珠世)

 田村亮(犬神佐清 青沼静馬)

 岡田英次(犬神佐兵衛)

 松橋登(犬神佐智)

 成瀬正後の成瀬正孝(犬神佐武)

 丘夏子(犬神小夜子)

 ハナ肇(橘署長)

 西村晃(古館恭三)

 古谷一行(金田一耕助)

 監督 工藤栄一

 

 『横溝正史傑作 サスペンス 犬神家の一族』

平成二年(1990年)三月二十七日放送

製作 テレビ朝日

脚本 長田紀生

出演 中井貴一(金田一耕助)

    財前直見(野々宮珠世)

    石黒賢(犬神佐清 青沼静馬)

    岡田茉莉子(犬神松子)

監督 松尾昭典

 

『横溝正史シリーズ5 犬神家の一族』

平成六年(1994年)十月七日放送

製作 フジテレビ

脚本 佐伯俊道

出演 片岡鶴太郎(金田一耕助)

    牧瀬里穂(野々宮珠世 野々宮晴世)

    椎名桔平(犬神佐清 青沼静馬) 

    平幹二朗(犬神佐兵衛)

    栗原小巻(松子)

監督 福本義人

 

『犬神家の一族』

平成十六年(2004年)四月三日放送

製作 フジテレビ

脚本 佐藤志麻子

出演 稲垣吾郎(金田一耕助)

    加藤あい(野々宮珠世)

    西島秀俊(犬神佐清 青沼静馬)  

    佐藤慶(犬神佐兵衛)

    三田佳子(犬神松子)

監督 星護

 

舞台版

『犬神家の一族』

平成三十年(2018年)十一月 大阪松竹座  新橋演舞場

脚色・演出 齋藤雅文

出演 水谷八重子(宮川香琴)

    波乃久里子(犬神松子)

    春本由香(野々宮珠世)

    河合宥季(野々宮珠世)

    浜中文一(犬神佐清 青沼静馬)  

    喜多村禄郎(金田一耕助)

 

 何故過去の映画化・テレビ化・舞台化作品のデータを

掲げたかと言うと、『犬神家の一族』の大人気を確かめ

たかったからだ。舞台版は新派公演以外も数多い。

 自分は映画『犬神家の謎 悪魔は踊る』とテレビ『蒼い

けものたち』と舞台新派公演『犬神家の一族』は未見で

ある。この三作を除くと、映像版では映画は劇場で、テレ

ビ版はほぼ全てリアルタイムで視聴している。1976年版

は大きく遅れて2016年3月4日にシネ・ヌーヴォで、2006年

版は一か月遅れて2007年1月14日新京極シネラリーべ

において鑑賞した。

 

 昭和五十一年(1976年)十月十六日に公開の映画『犬

神家の一族』がはミステリーの一大名作であるが、後続す

る映像作品は殆どこの1976年映画版に習う形で人物像や

設定を継承することとなっている。

 

 犯人は佐兵衛の怨念に支配され、恐ろしい犯罪に手

を染めてしまった、哀れな存在である。

 佐清は純真な青年だが、静馬は野心家の復讐鬼で

冷酷な性格。

 珠世は心も絶世の美女で、小夜子は勝気で我儘な

気性の持ち主。

 青沼菊乃と宮川香琴は別人の設定。

 

 佐清・静馬は容貌が酷似し世代も近い甥と叔父で一人二

役で演ずるので性格を極端に対照的にしたのだろう。

 

 ヒロイン珠世と悲劇の女性小夜子は従姉妹どうしだが、ヒ

ロインを顔も心も美しい純真無垢な女性にして、重要な脇役

小夜子を勝気な女性にして、これまた対照を明確化したので

あろう。

 

 しかし、原作は1976年版の映画版とは大きく違っているの

だ。否、この言い方はおかしいよね。原作の人物像・設定か

ら市川崑映画版から大きく改変した版が広く知られるように

なったのである。

 

 犯人は欲望から連続殺人事件を犯したのである。金田一

耕助に犯行を暴かれても動ぜず、竹子の前で佐武殺害を

明かされても平然としており、梅子の前でニコニコと佐智

絞殺を語り、菊乃後の香琴の前で静馬殺害に全く後悔し

ていないことを語る冷酷さを見せる。この冷たさが犯人の

特徴であり、被害者の母親達は息子の殺害を聞かされ、

悲しみを覚え、犯人はその凶悪な犯行を全く感じておら

ず、徹頭徹尾冷たい。

 

 この巨悪を描き切らなければ、『犬神家の一族』の映像

版や舞台版に成り得ない。これが自分の意見であります。

 

 杉本一文のイラストは怖いねえ。この怖さが、原作の怖さと

呼応するのです。昭和五十年代、角川映画の金田一耕助シリー

ズ・TBS系の横溝正史シリーズの大ヒット・高視聴率で横溝正史

のミステリーはベストセラーになり、書店でのコーナーでは杉本

一文の怖い表紙の角川文庫が沢山平置きになっていたのです。

 杉本先生の怖い表紙でないとゾクゾク感が味わえない。活字

が与えてくれる恐怖感は勿論凄いのだが、読み終わって本を閉

じて一文先生の怖い表紙が一層強く緊張させてくれる。剛腕に

賛否両論あるけれども、角川春樹は素晴らしいプロデューサー

でした。

 映像での恐怖感の描写では1977年の工藤栄一監督のテレビ

版が圧巻であった。

 

 長い前置きになってしまったが、過去の作品との関連性

の確認は大事なので敢えて確かめた。2018年澤田鎌作演

出版も人物設定は、1976年市川崑監督版を継ぐ作品と見て

良い。

 失敗と思われる点から挙げて行く。小夜子のカット。これ

は駄目です。「傷ましき小夜子」という章を横溝正史は書いて

いるのだから、小夜子の悲しみは不可欠です。佐兵衛が

珠世を養女にしている点も納得がいかない。養父が養女に

巨額の資産を送る事は、実の娘達が無視されても、結論

的には問題が無いとも言える。佐兵衛と大弐の同性愛、

晴世との不倫、珠世が孫である事をカットしてはいけない。

 佐武の生首のシーンはあったが、元の人形は『鬼一法

眼三略巻』の登場人物である事がカットされている。これも

あきまへん。『犬神家の一族』の根本に『鬼一法眼三略巻』

があることを忘れてはいけない。

 犯人が静馬殺しの見立てを猿蔵に協力してもらうように

頼むなんて無茶苦茶ですよ。根本ノンジの脚本は、金田一

の謎解きのタイミングが良くない。1976年市川崑監督映画

版以降、静馬殺しは犯人が斧で殺害する設定が多いが、

斧を凶器にしてしまうのでは、「ヨキ」の見立てとしては底が

割れてしまっている。原作通り絞殺が死因で、犯人が死体を

用いて見立てを為そうとしたという設定で描けないものか?

 加藤シゲアキの金田一耕助はまあまあという所だ。手探

りの段階だと思う。

 黒木瞳は、「三十六年くらい前ならこの方が珠世を演じた

ら似合っただろうな」と思うのだが、松子の凄みや粘りや

しんねりとした怖さは、やはり出ていない。元々芸風が違う

のだ。

 竹子・梅子が真犯人の見当を付けながらも、犬神家を

犯人解明前に去るのは全く納得できない。愛息を殺され

た二人が犯人を見つける前に犬神家から姿を消すのは

問題のある改変である。三姉妹では松田美由紀の竹子

凄みがあった。りょうの梅子は綺麗で、意地悪な中年女

に見えない。笠原秀幸の佐武は、名家のボンボンの傲慢

さをもっともっと見せて、憎たらしさを全開にして欲しかっ

た。

 佐武が珠世を襲う。野獣が美女を苛める。ここで野獣が憎た

らしくなければいけない!

 

 今回のテレビ版で一番の不満は、佐智が珠世に計画を話し

断られて薬をかがせて拉致するという改変である。坂口涼太郎

の関西弁の佐智は新鮮さがあり、原作からの研究の演技と

思われる爪を噛む仕草も良かった。原作ではボート上の珠

世に「署長と金田一耕助から重要な話があるから」ともっとも

らしい嘘で信用させて、モーターボートに乗せて薬をかがせて

眠らせてモーターボートで川を渡って豊畑村の屋敷(廃屋)に

拉致するのだ。このモーターボートで川を渡るという犯行の

ミステリー性は重要であり、絶対に改変してはいけない。用意

周到な拉致であり、佐智の冷酷さを確かめる事で、珠世が強

姦されそうになる危機で復員兵姿の男が救出に来る展開にも

迫力が増す筈だ。佐智の絞殺死体が犬神家で発見されるが、

これも1976年市川崑版の影響と思われる。

 

 良かった点は、澤田鎌作が設定で昭和二十二年の戦後すぐ

の風景を再現しようとした事だ。昨今のドラマで何でもかんでも

過去の物語を現代の設定に改変するのは、原作冒涜のみなら

ず、スタッフの勉強不足であり怠慢である。

 

 賀来蔵人は佐清の清潔感に存在感を感じた。静馬の描写では

原作に習って、姪の珠世とは結婚できないと悩む真面目な青年

として描けないものかね?これも映像スタッフへの課題として提

起しておこう。

 

 生瀬勝久の橘署長は喜劇味が光っている。

 

 梶芽衣子の宮川香琴は重みがあった。

 

 里見浩太朗の佐兵衛は重量感があり、ドラマを締めてくれ

た。

 

 今回一番の収穫は、高梨臨の珠世である。

 

 美しさ・気品・清潔感、素晴らしかった。高梨臨は昭和六十三

年(1988年)十二月十七日生まれで放送日は三十歳誕生日

一週間の日であった。フジテレビでは、過去に牧瀬里穂先輩や

加藤あい先輩が珠世を演じたが、二人共綺麗だったが、牧瀬

は華に欠け、あいは美貌完璧だが演技が棒読みで残念であ

った。松島菜々子の2006年映画版珠世は表現が荒く品が全く

無い。

 スフィンクスの表情・お嬢様の清潔感・事件を推理する思慮

等、原作に帰って演じている点も見受けられ、臨珠世は輝いて

いた。平成時代の映像版野々宮珠世では一番美しくて、品格も

万全である。既に結婚されているそうだが、実生活人妻であって

も、芸では処女の可愛さを出していることも素晴らしい演技である。

 これはセクハラ表現になると分かっていっるが、敢えて言おう。

 佐武に襲われレイプされそうになる危機での臨珠世の「いやぁ、

やめてぇ」の悲鳴に色気があってドキドキ緊張した。ヌードにな

らなくても、下着姿や水着姿を露出せずとも、声で清潔なエロテ

ィシズムを明かす。これなんだよ、正史先生物語で必要な事柄は!

 島田陽子は、1976年市川崑映画版で、珠世が佐智に拉致され

乱暴されそうになるシーンで、川口恒に無理矢理はだけられて、

乳首を映され、市川崑がカットしなかった事を初めは残念に思っ

たが、後にあのシーンのヌードは必要だったと語った。この確か

めも勿論重要である。

 それはそれとして、今回高梨臨が声で魅せてくれた清純エロス

は被虐美が絢爛と輝いていた。

 佐清と再会して「私は信じて居りました」の台詞を愛情豊かに

語ってくれた。

 臨珠世の古風な美しさが脚本・演出の不備・強引さを救った。

彼女の珠世に会えた事実一つを見ても、このドラマを視聴した

事に喜びを感じた。「脚本や演出が拙くても主役が良ければ、

見応えある」という意見に自分は長く反対していたが、今回思い

を覆され、新たな想いを獲得した。『犬神家の一族』の主役は

金田一耕助でもなく、佐清・静馬でもなく、佐兵衛でもなく、犯

人でもない。

 「珠世こそ、実にこの物語の主人公なのだ」(『犬神家の一族』

六頁 昭和四十七年六月十日初版発行)と横溝正史は明記し

ている。主人公は野々宮珠世なのだ。

 

 若く美しくて清純だから絶賛している訳ではないよ。

 

 島田陽子の野々宮珠世は絶世の美女として不滅の輝きを

放っている。これは事実であり昭和『犬神家の一族』の名演

の極まりであろう。だが、市川崑の描く清純無垢な珠世とし

て完全であった事も明記しておきたい。

 

 

 高梨臨ならば、原作の珠世の冷厳さも出してくれると期待さ

せてくれるものがあった。臨珠世の舞台版製作も検討して欲

しい。昭和の島田陽子、平成の高梨臨で、珠世役の名演は決

まった。

 

 

 2018年12月24日は、高梨臨の美しき野々宮珠世という平成

映像の宝に出会えたという事実において、私にとって「聖夜」

であった。平成最後の『犬神家の一族』になる可能性が高い

が最後の最後に平成映像史上決定版の珠世が出現し、高梨

臨が命を息吹かせた。

 

 主人公が素晴らしいとドラマは光る。此の事を教わった。フ

ジテレビ『犬神家の一族』は高梨臨の野々宮珠世によって、見

応えのあるドラマになった。

 

 厳冬に 

   臨と輝く 

      珠世美姫

      (げんとうに りんとかがやく たまよびき)

 

 高梨臨の珠世は、まさに絶世の美女だ。

 

            

                                   合掌