山﨑努さん 八十二歳御誕生日一日
山﨑努（やまざき・つとむ）
昭和十一年（1936年）十二月二日千葉県生まれ。
山崎努表記あり
俳優・ナレーター
『必殺仕置人』
テレビドラマ 全二十六回
昭和四十八年（1973年）四月二十一日→十月十三日
朝日放送・TBS系にて放送
製作 朝日放送 松竹株式会社
念仏の鉄役 主演
『新必殺仕置人』
テレビドラマ 各60分 全四十一回
昭和五十二年（1977年）一月二十一日→十一月四日
朝日放送系にて放送
製作 朝日放送 松竹株式会社
念仏の鉄役 主演
おはようございます。
昨日平成三十年（2018年）十二月二日は山崎努さんの
八十二歳のお誕生日でした。
仕事の後帰宅して夕飯を作り、『必殺仕置人』「かけた命
のかわら版」を再見して感激して、「御祝記事を書こう」と
意気込んでいたのですが、疲労があったためか、夕飯後
「五分だけ横になろう」と思うと寝てしまい、気が付けば朝
になっていました。
凄み・迫力・恐さ。鉄さんは、史上最強のヒーローで
す。
怪力・凄腕の仕置人で、女好きの極道坊主で、享楽的に
生きる男。
『必殺仕置人』第一回「いのちを売ってさらし首」におい
て、仲間の中村主水が「悪のそのまた上を行く悪にならな
きゃいけねえ」と語った言葉に頷く鉄は、悪の成敗は金で
しちゃいけねえという純粋な棺桶職人錠に、「世のため人
のためなんて言ってたらすぐにへたばっちまうんだよ」と
語ります。
『新必殺仕置人』第四十一回「解散無用」で、殺し屋に在り
方において「外道にだけはなりたくねえ」という意地と誇りに
目覚めたことが、辰蔵の罠に嵌り、最大の武器である右手を
焼かれ、仕置人としての腕を潰されることになってしまう。
殺し屋仕置人は正義感で動く稼業ではないが、外道にだ
けはなりたくねえというプライドが、鉄の人生を決めました。
殺し屋仕置人の仲間己代松を守り奪還する為に、強敵辰蔵の
もとに戦いを挑む。この仕置人魂に全てを燃やし切った。
辰蔵の刃を受けることは、鉄にとって覚悟のことであったと思い
ます。
刺された後、激痛を堪えて馴染みの女郎のもとへ遊びに行く。
女郎を演ずる方は森みつるさん。「裏切無用」で女郎おしまを
勤めた方です。「裏切無用」のおしまと「解散無用」の女郎が、
同一人物かどうかは分かりません。
自分は同じ女性であると思います。鉄は馴染みの女郎のもと
に行って最期に女への義理を果たす。
殺し屋の非情に徹しきれず、外道にならねえという義に覚醒
し、大激闘で致命的な重傷を負うが、痛みを堪えて笑顔で、馴
染みの女郎の居る丘場所に行く。
単に「裏切無用」と「解散無用」の整合性等と言うことではな
くて、人間鉄の生き方が明かされていると思います。
野上龍雄氏・國弘威雄氏・貞永方久氏・安倍徹郎氏・村尾
昭氏の精密で完璧な脚本。
貞永方久監督・三隅研次監督・松本明監督・工藤栄一監督・
原田雄一監督の重厚で深い演出。
『必殺仕置人』『新必殺仕置人』全六十七回のサーガは永遠
不滅の大傑作であります。
平成三十年（2018年）五月二十二日の『exiteニュース』で
山﨑さんご自身が、念仏の鉄について、「あの役が僕の演じ
た役の中で代表作なんじゃないかな」と仰って下さり、大感激
しました。
黒澤明監督『天国と地獄』の竹内銀次郎役は怖かった。
自分はアンチ黒澤明監督の映画ファンですが、その事を
抜きにしても、警察官が麻薬患者を殺害することに、何の
疑問も呈さない演出・脚本はどうなのかという問いを持
っています。犯人竹内よりも、戸倉警部のほうが巨悪と
いう演出姿勢では無かったからね。
しかし、竹内役の山﨑さんの凄みは圧巻でした。
戸倉役の仲代達矢さんと竹内役の山﨑さんが義兄弟
で競演したテレビドラマ。
昭和四十七年（1972年）のNHK大河ドラマ『新・平家物
語』です。
右から
平時忠 山﨑努
平清盛 仲代達矢
平重盛 原田大二郎
空前の豪華さの大型時代劇でした。清盛の野望と情熱。
時忠の冷静な知性。
仲代さんと山さんの激突は、演技合戦の王道であると
拝察しています。
山田洋次監督『続・男はつらいよ』の二枚目医師藤村。
深作欣二監督『新 仁義なき戦い 組長の首』の麻薬に
溺れて爆走するやくざ楠鉄弥。怖かったです。因みに作
さんは『必殺仕置人』の企画のスタッフの一人で、演出も
担当する予定でしたが、『仁義なき戦い』シリーズで東映
との契約があって降板ぜざるを得なくなり、この作品で
遂に山さんの「鉄」の名の人物を楠役で撮ったという縁
があります。
『必殺仕置人』のパラレルワールド姉妹篇映画として
『新仁義なき戦い 組長の首』を見るという鑑賞を自分は
しております。
昭和五十二年（1977年）十月二十九日公開の映画『八
つ墓村』では殺人鬼多治見要蔵とその息子で毒薬事件
被害者となる多治見久弥を二役で勤められました。
昭和五十九年（1984年）十一月十七日公開の映画『お
葬式』では主人公の俳優井上侘助を勤められました。
義父の急死で急遽勤める葬儀について悩む侘助は
伊丹十三監督自身がモデルと思われますが、山さん
が鮮やかに侘助の悩みと学びを明かされました。
自分は昨年父を亡くし、その葬儀を勤めるに当たって、
仏教に学ぶ身としてどうすべきか悩みましたが、葬儀の
後、伊丹監督のこの名画の名場面を想起しました。
死は重い事実ですが、「送る」ということは亡き存在が
生きている者に何を教えてくれているかを学ぶ。これが
葬儀や法事の課題であると痛感しました。
山さんは、ウィリアム・シェイクスピア劇にも取り組まれて
います。
高橋昌也演出『リチャード三世』をテレビ中継版で見て、
「劇場で見聞したかった」と実感しました。
山さんのリチャード三世の凄みは圧巻でした。
伊丹さんは、山さんが『コリオレイナス』に主演されること
について、熱き名将でありつつマザコン男であるという難役
コリオレイナスを演じ切れる人は山﨑さんしかいないだろう
と、書いておられました。
山﨑さんの舞台はまだ拝見していません。シェイクスピア
劇を見たいです。
仲代達矢さんは、シェイクスピア劇の中で演じたい役に、
『オセロー』のイアーゴーを挙げられました。
イアーゴーは二十八歳の旗手で、主人オセローにその妻
デズデモーナが副官キャシオーと不倫しているという嘘を
事実と思い込ませます。
純情愚直の中年黒人将軍オセローは、若く美しい白人
女性デズデモーナが年長の自身を本当に愛してくれてい
るのか、美男の白人男性キャシオーと不倫したくなるの
もやむを得ないのではないかという疑問から苦悩し、策
略家イアーゴーの操り人形になり、「不義を働いた奥様
を処刑するのです」という指示に支配され、悲劇に向か
ってドラマは進みます。
仲代さんは過去にオセローを演じておらるようです。自分
はその舞台を見ていませんが、写真を見て、迫力に心を
打たれました。その仲代さんがイアーゴーに意欲を燃やして
おられる。
もしその夢の配役が実現するとしたら、仲代さんの大イ
アーゴーが引っかける大オセローを演じ切れる方は、山
﨑努さんしかおられないと確信しています。
『オセロー』は、騙されるオセローと騙すイアーゴーが激突
する物語です。オセロー役者とイアーゴー役者の二人の演
技合戦を基盤とする対決劇であります。
山﨑努さんのオセロー、仲代達矢さんのイアーゴーという
大夢の企画である『オセロー』を上演して頂きたいです。
『モリのいる場所』は予告篇を見て、「行くぞ」と意気込ん
でいたのですが、見落とし再上映を待っております。
八十二歳になられて益々若々しく益々逞しい
山﨑努さん。お誕生日おめでとうございます。
念仏の鉄は宇宙史上最強の男です。
合掌
南無阿弥陀仏
セブン