あばれ獅子 | 俺の命はウルトラ・アイ

あばれ獅子

『あばれ獅子』

映画 トーキー 98分 白黒

昭和二十八年(1953年)八月十二日公開

製作国 日本

製作   松竹

 

製作   小倉浩一郎

原作   子母澤寛『勝海舟』

脚本   八住利雄

音楽   鈴木静一

撮影   石本秀雄

 

出演

 

阪東妻三郎(勝小吉)

 

山田五十鈴(勝信)

 

北上弥太朗(勝麟太郎)

紙京子(君江)

 

有島一郎(都甲市郎左衛門)

徳大寺伸(永井青崖)

山路義人(小林隼太)

戸上城太郎(箕作阮甫)

永田光男(孫一郎)

高山裕子(岡野の奥様)

桂小金治(三太)

堺駿二(妙見の禰宜長谷川)

瀧川美津枝(夜鷹おまつ)

青山宏(若い男)

西田智(大島文太)

 

香川良介(道具市の世話人)

市川春代(常盤津文字二三)

月形龍之介(島田虎之助)

 

監督 大曾根辰夫

 

☆☆☆

阪東妻三郎=阪東要二郎

 

北上弥太郎=嵐鯉昇→八代目嵐吉三郎

 

大曾根辰夫=大曾根辰保=大曽根辰夫

        =大曽根辰雄

☆☆☆

 平成二十九年(2017年)十月三日 

 京都文化博物館にて鑑賞

 

 画像はインターネットより拝借引用

している。

 

 平成三十年(2018年)三月十二日

発表記事を令和六年(2024年)七月

七日に再編している。

☆☆☆

 「一代の名優 阪東妻三郎に捧ぐ」の字幕が映

る。

 

 勝小吉は義侠心に篤く、義を尊ぶ男だ。徳川十

二代将軍家慶公の時代、太平の世に在って、暴

れ者の四十石の旗本小吉は若くして隠居を命じら

れ、淋しさを抱えながら、日々を過ごしていた。

 

 しかし、困っている人が居れば、共に悩み、元気を

回復してもらうべく、懸命に相手に尽くす。それが

暖かき男小吉の在り方だった。

 

 妻お信は気性の激しい夫小吉を優しさで包み、献

身的に支えている。

 

 小吉とお信には一子麟太郎が居た。幼くして学問に

優秀で度胸もある。剣術にも懸命に取り組み、島田虎

之助の門で学んでいた。

 

 蘭学に学びたいという麟太郎に、父小吉は「お袋に

楽しい日を送らせてやってくれ。」と妻思いの言葉を

語る。

 

  小吉は無頼の侍小林隼太を叱り、妙見の禰宜

長谷川や岡野家の人々を救出して、江戸の人びと

の英雄として敬われた。

 

 以前に優秀だった息子麟太郎を通して自身の

立身出世を計ろうとして叶わなかったことに不満

だった小吉は、息子を利用しようとしていた魂胆

を、妻信に叱られはっと気付いたことがあった。

 

 息子が蘭学や剣術に学び、妻に楽をさせてや

れば、それが幸ではないかと目覚めたのであっ

た。

 

 一徹な老人都甲市郎左衛門や女心を鮮やかに

語る常盤津の師匠二三といった人々と勝一家は

出会う。

 

 麟太郎は鳶の者達に絡まれていた芸者君江を

助け、彼女と視線が合い、好きになる。君江も美男

で優しく強い麟太郎を愛してくれた。

 

 二人の恋仲を聞いて、小吉は複雑な思いであっ

たが、報復に来た鳶の者達を倒し、若い二人の仲

を祝福する気持ちになった。

 

 小吉・お信夫婦は愛息麟太郎の成長を祝い、

恋する二人を優しく包み込む。

 

 ☆☆☆阪東妻三郎の小吉 優しい親父殿☆☆☆

 阪東妻三郎主演で昭和二十八年(1953年)に松竹

映画『あばれ獅子』が製作・撮影されていた。原作は

子母澤寛の『勝海舟』で若き日の海舟麟太郎の父小

吉の大いなる父性愛を描いた作品である。

 

 妻さんの小吉は強きを挫き弱きを助ける義侠心に

富む男である。しかし、放蕩無頼を注意され、若くして

隠居を命じられてしまうという事態になり、退屈を悲し

み憤懣を抱えながら日を過ごして喧嘩するという暮ら

しになってしまっていた。

 

 それでも彼の持ち前の優しさは、困っている人を

助け、庶民虐めをする侍を懲らしめて正義感を発揮

していた。

 

 愛息麟太郎の成長に期待と夢を抱いており、それが

生きる支えになっていた。

 

 阪妻の小吉は大いなる男である。心に傷を持ちなが

ら夫の愛、父の優しさを、しみじみと伝えてくれる。

 

 山田五十鈴のお信は歯を黒く塗り、眉毛を剃って、

武士の妻の献身を深く勤める。

 

 北上弥太郎後の八代目嵐吉三郎の麟太郎は美男

で蘭学・剣術の文武両道に精進する若者の清廉さが

光っている。笑顔が素敵だ。

 

 弥太郎は昭和七年(1932年)一月六日生まれ。嵐

鯉昇の芸名で歌舞伎俳優として舞台に立った。

 

 伊藤大輔監督と大谷竹次郎の推薦を受けて松竹に

入り、本名北上弥太郎の名で映画界に入った彼は、

昭和二十年代・三十年代時代劇映画に出演し、後に

歌舞伎に復帰し、八代目嵐吉三郎を襲名した。

 昭和六十二年(1987年)九月三日、五十五歳の若さ

で死去された。

 

 有島一郎は若き日から老け役が得意であったこと

を思った。

 

 紙京子の君江は可愛さが光る。

 

 市川春代の二三師匠は色っぽい。

 

 堺駿二はコミカルな味わいを示す。

 

 香川良介は渋さと重みを見せてくれる。

 

 撮影途中の昭和二十八年(1953年)七月二日

主演阪東妻三郎が倒れ、七日に満年齢五十一

歳で亡くなった。

 

 松竹は代役を立てて撮影を続けた。

 

 代役の役者の名は不明だが、夜にお信と歩む小

吉の後ろ姿の登場シーンでは、妻三郎の渋い声を

巧く真似ていた。

 

 製作途中に妻三郎が亡くなったことは悲しい。

 

 だが全編に妻さんの暖かさが溢れているようにも

思えた。

 

 家族愛の尊さを教えてくれる名画である。

 

 ラストは小吉・お信夫婦が、麟太郎・君江を優しく

見守る。

 

 大曾根辰夫監督の妻さんへの敬愛・敬意・崇拝の

心を仰いだ。

 

 勝家の暖かさの根本に、大名優・大スタア名阪東

妻三郎の熱い心を感じた。

 

 

                        文中敬称略

 

 

 

                           合掌

 

 

                       南無阿弥陀仏

 

 

                          セブン