戦争と人間 第二部 愛と悲しみの山河(二)「命を賭ける」 | 俺の命はウルトラ・アイ

戦争と人間 第二部 愛と悲しみの山河(二)「命を賭ける」

『戦争と人間 第二部 愛と悲しみの山河』

映画 トーキー  カラー
昭和四十六年(1971年)六月十二日公開  

製作国     日本

製作      日活株式会社
配給      日活株式会社

 

 

高橋悦史(伍代英介)

高橋英樹(柘植進太郎)

滝沢修(伍代由介)

北大路欣也(伍代俊介)

 

浅丘ルリ子(伍代由紀子)

佐久間良子(狩野温子)

 

監督     山本薩夫

 

原作     五味川純平
脚本     山田信夫

        武田敦

 

 

企画     大塚和

        武田靖

        宮古とく子

 

 


撮影     姫田真佐久

音楽     佐藤勝

 

 

照明     岩木保夫

録音     古山常夫

美術     横尾嘉良

        深民浩

編集     丹治陸夫

製作担当者  柴垣達郎

 

☆☆☆

首題  戦争と人間 第二部

尾題  戦争と人間 第二部 愛と悲しみの山河

☆☆☆

平成二十七年(2015年)九月七日

シネ・ヌーヴォにて鑑賞

☆☆☆

 台詞の引用・ストーリーの要約・

シーンの考察は、研究・学習の為

です。

 日活様におかれましては、何卒

ご寛恕・ご理解を賜りますようお願

い申し上げます。

  ☆☆☆

 

  統制派・皇道派いずれも古狸の連中が若い軍人を利用

 しているだけで、生意気盛りの子供が時計を壊して、どう

 修理するかは時計屋に持っていかざるを得ないことと同じ

 だと由介は軍部の主導権争いを厳しく見る、

    

   英介「国家の改革と子供の遊びと一緒にされてはたまり

       ません。認識不足ですよ。」

 

   由介「機能的には子供の遊びと同じだ。血腥いだけ余計

       に始末が悪い。天皇だ国家だと旗印を立てるが、

       国という複雑な社会の中で一つの歯車がどっちに

       回るかも知っていないだろう。」

 

  由紀子が喬介の電報を由介に届ける。

 

   由紀子「あたし御父様の意見に賛成だわ。早い話、お兄様

        一人の手で伍代産業が運営できて?」

 

   英介「僕は伍代産業をどうするかという観点で考えてるんで

       す、三井三菱ですら軍需産業に切換えるという目算

       を立てているのに、もっと旗色を鮮明にすべきじゃない

       ですか?」

 

   由介「軍に対してか?滿洲の事か?」

 

   

   英介「両方です。」

 

 

   由介「私は近く滿洲に行く。お前の問いに対する答えはそれから

       でいいだろう。」

 

   英介「由紀子。お前も生意気な口ばかり叩いていないで、お父さ

       んと一緒に滿洲に行ったらどうだ?最新情報だがな、柘植

       大尉は滿洲にいるぞ。関東軍の特務機関にだ。柘植大尉

       のことだ。特殊任務についている時は手紙一本寄越す事

       はない。待っていたって無駄だね。」

 

   

   由紀子「私は滿洲なんか興味は無くってよ。」

 

  狩野家。俊介が呼び鈴を鳴らす。温子が出てきて喜ぶ。

 

   温子「やっぱり来て下さったのね。どうして来て下さらなかったの?

       土曜日と申し上げたのに。いえ、何故いらしたの?いけませ

       んとあれだけ申し上げたのに。あたくしの事なんか忘れてお

       しまいにならなければ。」

 

  温子は迷い悩む。正反対の事柄を語る。俊介に会う喜びを語りつつ、

「いらしては駄目」と自身が年長の人妻であることから、出会いを終わり

にすべきとも語る。この迷う心が、俊介の若き恋心を一層熱くする。

 

   二人は抱きしめ合う。

 

  温子「骨が挫けそう。お座敷に行きましょう。おあがりになって。ゆっく

     りしてらしていいんでしょう。御食事を一緒にしましょうね。それと

      も何処かに行きましょうか?」

 

  俊介「いえ、此処で。」

 

 温子はここに来ることを御家の方に言われましたかと問い、俊介は否定

する。電話しましょうかという温子に、不良少年が一人来ているっていうこ

とですかと俊介は問い、何て酷い事仰るのと温子は注意し、紅茶を沸かし、

砂糖を二つ入れてあげる。

 

 俊介さんにとって年上の女だからと温子は会う事を止めるべきだと言う。

僕が子供だということですかと俊介は問うが、温子は「私汚れてる」と言い、

愛情の欠片も無い結婚生活で身も心も汚れてるのと語る。

 

 

     「久慈さんの心が汚れているならば、汚れてない人は

      いません!」

 

  俊介は温子を旧姓で「久慈さん」と呼ぶことに拘る。彼女の心こそ美しい

と讃える。温子は「お兄様の言いなり」になったことから自分を粗末に扱い、

よく考えもしないで結婚してしまい、あれこれ悩んだことを告げる。

 

   俊介は帰宅を宣言する。

 

     俊介「僕もそうだけど、久慈さんは自分に正直じゃないんです!

         いつも自分の心に反対のことを言ったりしたりする。狩野

         さんと結婚したこともそうです。今頃後悔して一体何にな

         ります。」

 

  帰宅した俊介は、その後自宅自室に入ってきた姉由紀子から、「貴方

温子さんに何か言ったの?」と問われる。

  「久慈さんが何か言ったの?」と俊介は問い、由紀子は「可哀相に貴方

にかき乱されてるじゃないの」と指摘する。俊介は「久慈さん」と呼び続け、

由紀子は現在の姓「狩野さん」と呼び、「貴方に会えない」と言っているわと

温子の心を伝える。

 俊介は会いたくなければ会わなければいいと語る。会わないほうが貴方

の為にもいいわと由紀子は述べ、温子さんはお芝居の出来る人じゃないと

確かめる。

 

   俊介「久慈さんだって、もう自分の意志で生きていい頃だよ。それより

       姉さんは自分の事はどうなの?何故滿洲に行かないんだ?何故

       柘植さんとの愛に全てを賭けないんだ?激しく愛する。激しく愛

       される。破滅しかない。としてもそれでいい。」

 

   

 

  由紀子「俊ちゃんの言う通りだわ。でもあたしが求めてるのはそれ

       だけじゃないの。男の人が命がけで何かをする。その事に

       あたしの愛がどう関わっているかを知りたいし、求めても

       いるのか。もし柘植さんが任務の為ではなくてご自分の意志

       で何かを為さろうとするなら、あたしは全てを擲ってでも飛ん

       で行くことに。」

 

  滿洲四平街

  日本兵が捕えた中国人達を歩かせている。

 

  その光景を、特務機関柘植進太郎大尉が、車の窓から凝視する。

 

 

☆☆命を賭けて☆☆

 

 由介は軍人による政権に疑問を持ち、英介は軍需産業に切換える

べきだと五代産業の方針を求める。滿洲に行ってからお前の問に答

えると父由介は答える。

 

 滝沢修の風格に感嘆する。父の威厳と実業家の胆力を厳かに表現

する。

 

  浅丘ルリ子の由紀子には気高く凛としている令嬢の美がある。

 

  英介から愛する柘植大尉が滿洲に勤務していることを知らされるが、

滿洲に興味はないのと言い放つ。

 

  冷酷非情な英介だが、妹由紀子に厳しく指摘されでも、彼女が愛す

る柘植大尉の近況を知らせ、「追いかけるべきじゃないか」と提案するの

は、彼なりの優しさでもある。だが、兄に気を遣われても、「滿洲になんか

興味は無くってよ」と強気に語るところが由紀子の個性でもある。

 

  ルリ子様の気位の高い美女は当たり役だ。

 

  俊介の純粋な愛は人妻温子への恋に燃え上がる。温子も俊介に

惹かれながら、自身が年上の人妻であることを理由に躊躇する。

 

  北大路欣也と佐久間良子。東映時代劇の美男美女が、日活の記念

大作でも、切ない恋愛ドラマを情感豊かに見せる。

 

 欣也は俊介の一徹さを鮮やかに明かす。

 

  良子は美しき人妻のよろめきと悩みを繊細に勤める。

 

  温子さんに厳しく言い過ぎと由紀子は弟を注意する。

 

  だが、俊介は何故「柘植さんとの愛に全てを賭けない?」と姉の生き方

に疑問をぶつける。

 

 由紀子は男性が命がけで為すことに、自身の愛がどう関わるのかを

知りたいと希望を語る。

 

 浅丘ルリ子の凛とした魅力がここで輝く。

 

 柘植さんが任務とは違って命がけで何かをなさるのなら、私は

飛んで行きますと由紀子は語る。彼女は柘植を愛しつつ、彼が命

がけで何かを為すかに注目している。しかし、進太郎は軍人として

生きることに全てを捧げている。

 

 俊介は一本気に「久慈さん」温子への恋に生きている。

 

 姉由紀子は悩み待ちつつ、男の人の命がけの営みに、自己の愛

がどう関連するかを見る。

 

 四平街での日本軍による中国人の人体実験。

 

 その様子を見る柘植進太郎の目には悲しみがある。

 

 高橋英樹の眼光が鋭い。

 

 戦時における人体実験という残酷な行為を悲嘆する存在として

柘植が描かれる。

 

 

 

 高橋英樹さん

 七十四歳誕生日 おめでとうございます。

 

 

 

                                    合掌

 

                               南無阿弥陀仏

 

                                    セブン