獅子の座 | 俺の命はウルトラ・アイ

獅子の座

『獅子の座』
獅子の座
映画 トーキー 白黒 124分

昭和二十八年(1953年)六月三日公開

製作国  日本

製作   大映京都

原作   松本たかし

脚本   伊藤大輔

      田中澄江

撮影   石本秀雄

美術   伊藤喜朔

音楽   団伊玖磨


出演


長谷川一夫(宝生弥五郎)


田中絹代(久)


加藤雅彦(宝生石之助)

岸恵子(お染)

堀雄二(幾太郎)

伊志井寛(与兵衛)

大矢市次郎(幾右衛門)

浦辺粂子(かよ)

木村国臣(宝生重次郎)

打田典子(たえ)

尾上栄五郎(松太郎)

荒木忍(徳川家慶)

東山千栄子(きの)


監督 伊藤大輔



☆☆☆

加藤雅彦→津川雅彦

      =マキノ雅彦

☆☆☆

平成九年(2007年)三月二日

京都文化博物館にて鑑賞

☆☆☆

 宝生弥五郎は宝生流十五代の宗家で、能

に命を賭けている。江戸開府以来第六回と

なる勧進能が許され、第十二代征夷大将軍

徳川家慶が上覧するという名誉を賜った。


 息子石之助と『石橋』を踊るに当たって、弥

五郎の芸道指導は厳格であった。

 妻久は息子石之助に厳しい躾を為した。久

の妹お染は絵に情熱を燃やしていた。彼女

を愛している幾太郎は弥五郎の弟子だが、彼

女が羽衣を描きたいと望んでいて、天女の型

をしてしまう。


 師匠弥五郎は激怒し、幾太郎を破門する。

染はショックを受けるが、久は芸道に生きる

者の厳しさを教えた心であったと聞かされる。


 繊細な石之助は雷に恐怖感を持っていた。


 興行の当日。繊細で気が弱い石之助は

姿を消して何処かに行ってしまう。父弥五郎

は切腹を決意する。

 しかし、幾太郎が雷で失神していた石之

助を救助する。

 石之助は舞台に立ち、父弥五郎と共に『

石橋』を踊りきった。宝生十六代目の襲名

を許された。


 ☆☆☆父と子☆☆☆


 長谷川一夫の弥五郎が豊かな迫力を

示す。

 津川雅彦の石之助は繊細で心優しい

少年だ。父弥五郎や母久の厳しい教育を」

受けて身心は疲れ切っている。

 長谷川一夫の父弥五郎と津川雅彦の

息子石之助が親子の情を見せる。芸道修

練で親子は様々な悩みを抱くも、芸におい

て共に歩むことで絆を確かめ合う。

 弥五郎が厳しい接し方を他者に為すこ

とには、芸道を歩む生き方を見せていた

のだった。

 石之助が芸道修行の厳しさに逃げ出す

が幾太郎に救われて『石橋』の芸に生きる

者となる。


 伊藤大輔は敬愛している能を映画に

取り入れたいと希望した。

 劇中の『石橋』の舞台は風格があった。


 だが、伊藤大輔自身の評価は厳しい。


     先生 いつ頃かな。いやな写真

         だったよ。「能」をまっとうに

         映画に取り入れたいと思

         ってそれでしくじった。

     (『時代劇映画の詩と真実』140頁

      昭和五十一年四月十四日発行

      キネマ旬報社)


 伊藤大輔はジョゼフィン・ベーカーが絶賛

してくれたことに感謝している。


 監督自身の評価は厳格だが、親子愛の

物語、芸道の探求という課題においても、

熱い演技を惹起せしめている。


 長谷川一夫・津川雅彦の美男親子の絆

に心を打たれた。


 伊藤大輔は明治三十一年(1898年)十月

十二日(十三日説あり)に愛媛県に誕生し

昭和五十六年(1981年)七月十九日に西陣

病院で死去した。

 満年齢八十二歳、数え年八十三歳であっ

た。


 七月は伊藤大輔監督のご生涯に敬意を

表し、沢山の文章を更新することをお許し

頂きたい。


 伊藤大輔監督・長谷川一夫主演コンビに

よる貴重な芸道映画である。




                     合掌