必殺仕置人 恋情すてて死の願い | 俺の命はウルトラ・アイ

必殺仕置人 恋情すてて死の願い

『必殺仕置人 恋情捨てて死の願い』


 テレビ映画 トーキー 55分 カラー

 放映日 昭和四十八年(1973年)八月十一日

 放送局 朝日放送 TBS系

 製作国 日本

 製作言語 日本語

 

 のさばる悪をなんとする

 

 天の裁きはまってはおれぬ

 

 この世の正義もあてにはならぬ

 

 闇に裁いて仕置きする  

 

 南無阿弥陀仏                         


 中村主水は油問屋但馬屋の火炙り

処刑の警固役人として勤務した。但馬

屋は無実の罪で嵌められた。商売仲間

の堺屋は火付を起こし、その罪を但馬

屋に擦りすけた。

 必死に無実を訴える但馬屋。娘のお

美弥が聞き、助けに行こうとして、主水

に制止される。

 

 五年後。江戸では油問屋に二人組の

盗人が入るという事件が頻発していた。

 鉄と錠は老婆の仕置を済ませ、主水

に報告する。

 

 主水は表の仕事で盗人を追っていると

いう。二人組の盗人を仕置人三人が見て

追う。一人は川に飛び込んで逃げ、足を

負傷した仲間も飛び込むが錠が身柄を

確保する。

 

 盗人はお美弥だった。仲間は彼女の妹

鈴であった。お美弥は父が無実の罪で処

刑されたことを調べ、堺屋とその仲間達が

交わした念書に、父が嵌められ悪どい商売

に反対していた証拠があることを突き止め

る。その念書を奪おうと危ない盗みを為して

いたのだった。

 

 錠は懸命に父の無罪を晴らそうとするお美

弥の心に敬意を覚える。同時に危ない橋を

渡らず、幸せになって欲しいという想いも感

じる。

 お美弥は見逃してくれた錠の優しさに感動

する。

 

 お鈴は百姓の真面目な青年作次郎と恋に

おちた。二人は所帯を持ち、共に暮らしたい

と願っていた。

 

 お美弥は妹の恋を察しつつ、殺された父と

後追い自殺した母の無念を語る。

 

 かつて但馬屋の番頭で今や油問屋上総屋

の主人となっている清七が、堺屋とその仲間

達と彼等を動かす与力永尾の話し合いがある

ことを知らせてくれた。

 

 鈴は作次郎との恋に生きたいが、足の負傷

を堪えて盗みだそうとする姉の一途さを思い、

ただ一人で堺屋・永尾らの会合に盗みに入る

が、何者かが彼女の盗みを密告しており、鈴

は警固の浪人に斬られる。

 

 永尾は贋の念書を掴ませたと安心するが、本

物を錠が奪う。

 錠は清七が怪しいと睨むが、お美弥は彼を

信頼していた。錠は本物の念書を渡す。

 

 清七は堺屋に強請に入り、千両箱を要求する。

五年前の火付事件の下宿人は何と清七であった

のだ。

 
ウルトラアイは我が命-岩下清七  

 お美弥は念書で堺屋・永尾の悪事を暴き、父

の無念をようやく晴らせることを確かめ、清七

に礼を言う。

 

 清七は「いつまでもお待ちしています」と語り、

感極まったお美弥は「抱いて」と抱き付く。

 

 だが、清七の罠は陰湿・狡猾だった。お美弥

を永尾に渡し、永尾は即座に彼女を死刑に処

した。

 

 錠・主水は強い悲しみを覚える。彼女が錠の

家に残した書置には御礼の言葉と金があった。

 

 鉄・錠・おきん・主水は金を仕置料として収め

る。

 

 永尾は主水・鉄の連合軍に嬲られ、首の骨を

おられ刃で斬られる。

 

 清七はお美弥に「何にも知らずに死にやがっ

た」と笑い、風車を手にした。

 

 その時錠が乱入し、清七の銃撃をかわし、手

槍で襲い、メッタ突きにして刺殺する。

 

 ☆☆☆女を騙す色男☆☆☆

 

 名匠桜井泰裕の脚本は完璧・緻密である。

純粋無垢な美人姉妹が父の無念を晴らそう

として、協力者と思われる男清七の罠に嵌り

裏切られ、無残に殺される。

 

 錠は清七の計画に気付き忠告するが、美

弥の恋情が正体に気付かず騙されてしまい、

大切な彼女を救えない悲劇が、痛ましく切な

い。

 岩下浩の清七の極悪ぶりが強烈である。自

身を愛したお美弥の親思いの心を利用し、彼

女に盗みを働かせ、堺屋たちを怯えさせて金を

巻き上げ、お鈴を死に追いやり、お美弥には

身体を一度抱いて、裏切って永尾の刃に斬ら

せる。

 

 悪逆非道の大悪であり、悪の天才である。

 

 岩下浩が静かな名演で清七を生きる。

 

 火付も彼の仕業であり、上総屋の身代を手に

入れて永尾と共に堺屋達から大金をせしめる

ことにも成功する。

 

 お美弥・お鈴姉妹の信頼を掴んでおり、二人

から善良な男と思い込んでもらっている。

 実際清七もお美弥を愛していたことだろう。

惚れた女も裏切って殺す残酷さが、清七の

性格・生き方である。

 

 長谷川澄子・中田喜子が悲劇の美人姉妹を

熱演する。

 

 高峰圭二の純朴な青年作次郎も印象的だ。

明石潮の堺屋は哀れさも見せる。

 

 高野真二が冷酷な永尾を重厚に勤める。

 

 岩下浩の極悪ぶりは強烈である。

 プレイボーイの悪役ということでは、スペル星

人佐竹に匹敵する。

 

 

  山内久司は盟友佐々木守の傑作『ウルトラ

セブン』「遊星より愛をこめて」が封印にされて

しまったことに悲しみを覚えたのか?今とな

っては謎だが、スペル星人佐竹で冷酷なプレ

イボーイを演じた岩下浩が、清七役で愛してく

れたお美弥を騙して裏切って間接的に殺す

極悪人を深く見せる。

 

 美弥が「抱いて」と涙ながらに抱き付き、ニ

ヤッと微笑むシーンの残酷さが忘れられない。

 沖雅也の錠は優しさが光っている。

 

 お美弥へのほのかな想いと彼女を救えなか

ったことの悲しみが強烈だ。

 その怒りが手槍による清七メッタ突きに表現

される。

 

 手槍と簪を共に取る錠。

 

 長谷和夫監督のラストカットの撮り方が渋い。

 

 キャスト
 

 山崎努(念仏の鉄)

 

 

 沖雅也(棺桶の錠)


 野川由美子(鉄砲玉のおきん)

 

 長谷川澄子(お美弥)

 中田喜子(お鈴)

 

 岩下浩(清七)

 高野真二(永尾忠之)

 

 明石潮(堺屋)

 高峰圭二(作次郎)

 

 

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 スタッフ

 

 制作      山内久司 

          仲川利久 

          桜井洋三

 

 脚本     桜井康裕

 

 音楽      平尾昌晃     

 撮影      石原興

 

 

 美術      倉橋利韶

 照明      染川広義

 録音      武山大蔵

 調音      本田文人

 編集      園井弘一

 

 

 助監督     家喜俊彦

 装飾      玉井憲一

 記録      牛田二三子

 進行      鈴木政喜

 特技      宍戸大全

 

 装置      新映美術工芸

 床山結髪   八木かつら

 衣裳      松竹衣裳

 現像      東洋現像所

 

 製作主任   渡辺寿男

 殺陣      美山晋八

 題字      糸見渓南

 

 

 ナレーター  芥川隆行

 制作協力   京都映画株式会社

 

 

 主題歌 「やがて愛の日が」

 作詞   茜まさお

 作曲   平尾昌晃

 編曲   竜崎孝路

 唄    三井由美子

 ビクターレコード

 

 監督      長谷和夫

 

 沖雅也没後三十四年・三十五回忌命日

 平成二十九年六月二十八日


 

                     合掌

 

 

                南無阿弥陀仏