瓢太郎の怒り 吉良常の義 | 俺の命はウルトラ・アイ

瓢太郎の怒り 吉良常の義

加藤泰監督は、昭和四十七年に松竹で


超大作映画『人生劇場』を演出されました。




人生劇場


 『人生劇場』


 映画 トーキー 167分 カラー


 昭和四十七年(1972年)七月十五日公開


 製作国   日本


 製作     松竹


 原作     尾崎士郎


 脚本     野村芳太郎


         三村晴彦


         加藤泰


 音楽     鏑木創


 主演     竹脇無我(青成瓢吉)


 監督     加藤泰




 無我さんの瓢吉を軸にして、精神的な兄・父


の存在である侠客吉良常に田宮二郎さん。恋


人お袖に香山美子さん。吉良常の友となるやく


ざ飛車角に高橋英樹さん。飛車角の恋人おとよ


に倍賞美津子さん。


 瓢吉の父瓢太郎に森繁久彌さん、母おみねに


津島恵子さん、女郎に売られたおとよと恋仲に


なり、義理ある飛車角を傷つけてしまうことに悩


む宮川に渡哲也さん。


 日活・東宝・大映のスター達が集まって、松竹


の泰さん版『人生劇場』に参加されました。




 冒頭では辰巳屋の主人瓢太郎が愛妻おみね


の名を呟いてピストルで自殺します。主人と慕って


いたやくざ吉良常は、「旦那さん、立派におやん


なすったねえ」とその死を悲しみつつ、散り際に


敬意を表します。




 瓢太郎の自殺を聞いた息子瓢吉は実家に帰り、


母おみね・吉良常と共に父の遺体の前に集まり


ます。




 瓢太郎の死体も、森繁氏が演じます。




 このシーンで加藤泰監督と森繁先生の間で大


喧嘩があったそうです。三村晴彦氏(脚本家・助


監督)は当時の二人の激しいやり取りに、動転


しながら聞かれました。




 瓢太郎役の森繁さんの浴衣が動かないように


スタッフがガードをした。しかし、呼吸で浴衣が


動く。撮影の四分間はスタッフも呼吸を憚る程


緊張していた。どれほどガードしても瓢太郎の


浴衣が動いてしまう。


 加藤泰監督は十分の休憩を取った。助監督の


仲倉重郎氏が説明に行くと、森繁先生、御怒り


になり、「無礼」と叫んだ。


 胡坐を組んだ森繁さん、加藤泰さんに「四分


も息を止めるなんてで私にはきませんよ。大体


息を止めるなんてのは芸のうちに入りません


よ」と抗議し怒りの言葉を語った。


  「しかし、撮らない訳には行きませんね」と


応えて、加藤さんは撮り切った。


 この後、加藤さんは、森繁先生が仲倉助監督


を「無礼」と怒鳴ったことに、「森繁さん程の方が


万座の中で将来性ある若者を『無礼』と怒ると


は何事ですか?」と問うた。


 森繁氏は、「プロデューサーを呼べ!」と怒り、


その後失言を取り消した。


 険しいムードを和らげた人がいた。




 吉良常役の田宮二郎さんだ。「私如き若僧が


口を出すのは大変僭越でございますが」と述べ、


森繁さん・泰さんのお二人に、「こちらの先生の


いう事もわかるし、こちらの先生の言う事もわか


る」と確かめ、「良いシーンが撮れたので、今日は


この場で御開きにして頂けないでしょうか?」と


提案され、加藤・森繁両御大の激突を仲裁して


くれた。




  田宮二郎氏の暖かさと優しさは、役の吉良常


と呼応していますね。


 




 加藤泰監督は津島恵子さんのアップを入れて


カットを割って撮影をされました。




  田宮二郎氏の暖かさと優しさは、役の吉良常


と呼応していますね。


 撮影現場の対立を見て、和解を成し遂げた。




?


 明日は森繁久彌様の八回忌命日です。




 森繁さん・泰さんの仲を静めた二郎さんの優しい


心に敬意を表します。




加藤泰は『人生劇場』原作小節における若々しい
吉良常像に注目し、その在り方を、
田宮二郎さんに演じてもらった。

二郎さんの吉良常を絶賛されました。

喧嘩を仲裁してくれたことへの感謝もこめて、よ
き信頼関係があったことが窺えます。


                           合掌