緋牡丹博徒 花札勝負 | 俺の命はウルトラ・アイ

緋牡丹博徒 花札勝負

hanahuda syoubu

『緋牡丹博徒 花札勝負』
泰ポスター

 映画 トーキー 98分 カラー

 昭和四十四年(1969年)二月一日公開

 製作国   日本

 製作     東映京都

 

 企画 俊藤浩滋
     日下部五朗

 脚本 鈴木則文

     鳥居元宏

 音楽 渡辺岳夫
 美術 富田治郎
 撮影 古谷伸

 照明 和多田弘
 編集 宮本信太郎
 照明 金子凱美

 助監督 本田達男

       牧口雄二

       関本郁夫

 記録 梅津泰子

 装置 稲田源兵衛

 装飾 布部栄一

 美粧 佐藤宇之助

 結髪 妹尾茂子

 衣裳 松田孝 

 擬斗 谷明憲

 古武道 中島正義

 進行主任 福井良春

 


 出演 藤純子(矢野竜子)



     若山富三郎(熊坂虎吉)

     待田京介(富士松)
     清川虹子(おたか)

 

     小池朝雄(金原鉄之助)

     天津敏(滝村) 

     林彰太郎(保寺正作)  

     山本麟一(北村兼造)

     内田朝雄(古田頼輝)

   

     沢淑子(お時)

     柴田美保子(金原八重子)

     石山律(杉山次郎)

     古城門昌美(お君)

     汐路章(バケ安)

 

     関山耕司(道明寺譲介)

     沢彰謙(美濃市)

     村居京之輔(修平)

     矢奈木邦二郎(粂蔵)

     阿波地大輔(フランネル)

     鈴木金哉(木島)

     波多野博(常吉)

     平沢彰(コレラ)

     若水淳(田所)

     三枝由佳(夢子)

     紙谷外美(月子)

     丸平峰子(熊坂清子)

     野口泉

     有川正治

     富永佳代子

     岡島艶子

 

 

     嵐寛寿郎(杉山貞次郎)

     藤山寛美(巡査)

     
     
     高倉健(花岡彰吾)


 監督 加藤泰

 

 ☆☆☆

 藤純子→富司純子

 沢淑子→任田順好→任田多岐

 石山律→石山輝夫

 ☆☆☆

 平成二十八年(2016年)十月十五日

 シネ・ヌーヴォにて鑑賞
 ☆☆☆

 

 矢野竜子は渡世の道を学んでいた。美人

で清純な魅力を見せる竜子は、博徒お竜の

名で知られるやくざでもあった。

 時は明治、場所は名古屋。線路でお竜は

電車に轢かれそうになった幼女お君を助け

る。お君の母時は、お竜の優しさに深謝し

礼を言って電車で娘と共に去っていく。

 お竜は、大親分杉山貞次郎が率いる西之

丸一家の食客となる。

 だが、お竜は、「緋牡丹お竜がいかさまを

働いた」という身に覚えが無い噂を聞かされ

潔癖を明かしたいと願う。

 熱田神宮の勧進賭博を杉山が荷っていた

が、ライバルの金原鉄之助はその利権を狙い

国会議員の古田と結託して、西之丸に圧力

をかける。

 金原は、亡妻が生んだ娘八重子を古田に紹

介する。古田は強引に八重子の手を取り「儂

の妻にする」と宣言する。

 八重子は杉山の息子で学生の次郎と愛し

合っていた。

 お竜はいかさま博徒を調査し、お時のしわざ

であったことを突き止める。お時はお君を助け

てくれたことに感謝しつつ、いかさまについては

開き直る。お君の眼の治療代を稼ぐ為にいかさ

まをしていたのだ。

 次郎は八重子を諦めきれず、金原に談判を申

しこむ。金原と部下の滝村は、次郎を子供扱い

する。

 金原は賽子で勝敗をつけようと提案し、罠に

嵌った次郎は、お時と勝負をして負ける。

 

 お竜と西之丸の幹部北村は、金原の高圧的

な態度に怒りを堪える。二人は帰路に逞しい

体格の渡世人から金原一家の場所を聞かれる。

 雨降る日であった。お竜は傘を渡世人に貸す。

渡世人は美しいお竜に一目惚れするが、その

思いを隠し、傘を借りたことを深謝する。

 渡世人の名は花岡彰吾。彼は金原一家の客

人となる。

 

 お時はお竜が人質にされた次郎を探している

ことと、次郎と八重子が愛し合っていることを確

かめ、身を挺して次郎・八重子を逃がし、滝村一

党をドアを閉めて阻む。

 残忍な滝村は部下達にドア越しに刀を刺させ

て、お時を斬殺する。

 

 お竜は次郎・八重子を逃がすが、馬に乗って

花岡が追ってきた。花岡の情ある計らいで、次郎・

八重子は見逃してもらう。

 名古屋に熊虎親分がやってきて、巡査に地理

を尋ねた。

 お竜は金原に拉致される。西之丸の親分杉山

が現れ、お竜と金原の勝負で勧進賭博の権利を

決めようと提案する。

 花札勝負に、金原の代理人に博奕の神様と言

われるバケ安が現れた。彼は斬殺されたお時の

夫でお君の父親であった。

 お竜とバケ安の勝負は、お竜が勝ち、金原の子

分保寺がいかさまの札とすり替えようとした瞬間、

熊虎の放った小刀が保寺の手を刺した。

 熊虎の働きで金原のいかさまが晒され、お竜は

助かる。

 金原・滝村は、花岡彰吾を呼び、杉山を斬ること

を依頼する。一宿一飯の義理がある彰吾は断れ

ない。

 夜道を急ぐ杉山のもとに彰吾が現れ、「親分さん

に何の怨みもありません」と断ったうえで、義理か

ら親分を狙うことになったことを語る。杉山は彰吾

の誠実さに感動し、勝負を受ける。彰吾は杉山を

斬るが、杉山は彰吾が自身の急所を外したことを

察する。

 

 親分が斬られたことに激怒した北村は金原を糾

弾に行って返り討ちにあう。

 次郎は父が斬られたことに怒るが、お竜が復讐

を諌める。

 おたか親分と不死身の富士松が杉山親分を支え

る。

 勧進賭博で杉山貞次郎は出血を堪えながら、見事

に勤めを果たし後に死ぬ。

 熱田神宮に奉納金を納めに行った西之丸の代貸

が金原一味に斬殺される。

 お竜は、金原・滝村一党の悪辣さに怒りを覚え、斬

りこみに行く。「叔父貴。行きます」と富士松も同道す

る。

 花岡彰吾がお竜に助太刀を申し込んだ。金原の非

道に耐えかねて、客分の身であったが、袂を分かち

戦うことを決めたのだ。

 

 雪の夜。お竜・富士松・彰吾は三人のみで、金原・

滝村に戦いを挑んだ。

 

 ☆☆☆

 傘にこめた愛 泰さんの探求

 ☆☆☆

 

 『緋牡丹博徒 花札勝負』は名作揃いの東映任侠

映画史にあって、鈴木則文・鳥居元宏脚本・加藤泰

演出の情熱が熱く結実し、一大傑作となったシャシン

である。

 

 俊藤浩滋プロデューサーは名古屋のお風呂屋さん

近くでロケをしていたら、泰さんが「アスファルトを掘っ

て地上スレスレにキャメラを据えたい」と提案してきた

ので、「無理だ」と答えたら、「このローアングルには、

僕の映画生命がかかっている」と熱く求め、掘ること

に同意したという。

 お風呂屋さんから赤ちゃんの泣き声が聞こえて来

たら、「お母さんに言って赤ちゃんを泣かさないように

して下さい」と泰さんは望んだという。

 映画の為ならば、無謀と思われる計画も実行し妥協

なく撮り、無理な注文もされた。

 本作に賭ける熱意の熱さを思った。

 

 藤純子姐の美しさと清らかさは文字・言葉を越えて

完璧である。

 若山富三郎先生の熊坂虎吉親分は明るく怖くて

迫力豊かだ。

 

 清川虹子のおたか親分の暖かさ、待田京介の富

士松の優しさも印象的だ。

 対立する杉山・金原一家の子供達である次郎と

八重子が愛し合う筋は、『ロミオとジュリエット』の

影響がある。

 石山律と柴田美保子が愛し合う恋人達を熱演す

る。


 

 日本語シェイクスピア劇の巨星小池朝雄が、金原

の極悪を粘り強く探求する。小池の金原を「柔」のワル

とすると、天津敏の滝村は「剛」のワルだ。

 まさに最強の悪役コンビである。

 

 泰さん作品の名優沢淑子と汐路章が本作に於いて

も大活躍する。

 贋お竜のお時は、いかさまで娘お君の治療費を稼

ぎつつも、恋人達を助けて犠牲になる。妻お時を殺さ

れ、バケ安はお竜を助け金原に抵抗する。

 バケ安とお時がワンシーンも競演することがない

ままで二人の夫婦の絆を観客に伝える。

 汐路章・沢淑子の芸力の凄まじさである。

 

 

 善玉の山麟、好色な代議士の内田朝雄の存在感

が強烈である。

 名古屋の巡査の粘りを、寛美師匠が渋い名演で見

せる。

 

 西之丸の大親分杉山に嵐寛寿郎。作品全体を締め

る重みが光る。

 

 花岡彰吾の侠気と愛を、高倉健が渾身の熱演で

勤める。

 

 彰吾と貞次郎の激突は、高倉健と嵐寛寿郎という

新旧二大スタアの激突で、その迫力と凄みが極まり

を見せる。

 

 杉山親分が斬られた傷を堪えて勧進博徒の勤め

を果たし切る大詰に、耐えに耐え抜く人間を、泰さん

が語りたかったことが窺える。

 

 お竜と彰吾が出会うシーンの傘が、観客の心の琴線

に触れる。

 「愛してる」とも「惚れた」とも「好き」とも言わ

ずして、傘に全てが託される。

 お竜は、雨に濡れるかもしれない彰吾を心配して、傘

を貸す。借りた傘に深謝する彰吾。二人が愛し合って

いることが、しみじみと伝わってくる。

 

 決戦の後、彰吾が全てを引き受ける決意を語る。

 

 彼は愛するお竜と生死を共にする戦いを為し、敵を

倒し、傘の優しさに礼を改めて言った。

 全ての為すべきことを為し、言うべきことを言った

者の心根が彰吾の生き方に明かされた。

 

 藤純子と高倉健が、お竜と彰吾の清潔な愛を明かした。

二人の別れが切ない。切ないが、二人は傘に永遠の愛

を確かめあったのだ。

 

 ラストの汽車の煙は、加藤泰が、恩師伊藤大輔監督

作品『王将』におけるラストの電車の煙を継承したもの

であろう。

 

 高倉健さん

 

 感動をありがとう。

 

 平成二十八年(2016年)十一月十日


 

                              合掌

 

                        南無阿弥陀仏


 

                             セブン