緋牡丹博徒 お命戴きます | 俺の命はウルトラ・アイ

緋牡丹博徒 お命戴きます

『緋牡丹博徒 お命戴きます』

映画 トーキー 93分 カラー

昭和四十六年(1971年)六月一日公開


企画 俊藤浩滋

    日下部五朗

脚本 大和久守正

    鈴木則文

    加藤泰

撮影 わし尾元也

音楽 木下忠司

美術 吉村晟

録音 渡部芳丈

照明 中山治雄

スチール 木村文司

擬斗   上野隆三



藤純子 鶴田浩二


出演


藤純子(矢野竜子)


若山富三郎 (熊坂虎吉)


待田京介(常五郎)

上岡紀美子(お文)

関本健(三郎)

沢淑子(よね)

名和宏(小山貞治)


内田朝雄(大村)

汐路章(庄司安次郎)

唐沢民賢(茨木与作)

芦田鉄雄(及川村長)

諸角啓二郎(久保巡介)



浅松三紀子(茨木いち)

平沢彰(倉持仙太)

秋山勝俊(高津の清三)

鈴木金哉(権次)

阿波地大輔(由松)

宇崎尚韶(森本)

志賀勝(丑松)

木谷邦臣(竹)

橋本三郎(親爺)

那須伸太朗(警察署長)

五十嵐義弘(大臣副官)

楠三千代(女中)

岡島艶子(女将)



嵐寛寿郎(大前田英五郎)

石山健二郎(陸軍大臣)


河津清三郎(富岡甚八)

大木実(畑中大尉)



鶴田浩二(結城菊太郎)

お命戴きます

監督 加藤泰




☆☆☆

藤純子→富司純子

加藤泰=加藤泰通

☆☆☆

平成二十八年(2016)年十月十六日

シネ・ヌーヴォにて鑑賞

☆☆☆



 矢野竜子は襲われていた博徒庄司安次

郎を助ける。安次郎は感動する。

 彼女は上州久保田組の賭場で久保田一

家に絡まれ危機に立つが、結城菊太郎の

情けある心で救われる。

 結城は博徒で妻を亡くし、息子と暮らして

いる。お竜と結城は惹かれ合う。


 結城が暮らす武州熊谷では軍の兵器工

場から出る汚水の影響で水が茶色くなって

しまう公害が起こり、人々は苦しんでいた。

 結城はこの民の苦しみを訴えると、畑中大

尉から殴る蹴るの暴行を受ける。だが、何

とか保障金の支払いだけは承諾を取り付

ける。

 

 軍の工場運搬関係の仕事を仕切る富岡

は、用水堀建設の補償金に着目し、工場長

の大村と図りこれを着服する。


 お竜と結城は再会し、互いに敬愛の心を抱

き合う。


 結城は土を舐め、この土地の百姓はこうし

て土地の土を確かめますとお竜に語る。


 結城の息子に「おばちゃん」と自ら称するお

竜。


    「男はな、負けるとわかっていて、

     やらなきゃいけない時がある」


 息子に語られた結城の言葉であった。


 富岡の謀略で、結城菊太郎は殺害される。跡

目を継ぐ小山貞治に、富岡は着眼し、内応させ

るべく誘いをかける。


 百姓常五郎やよねは富岡の横暴に苦しむ。


 お竜は料亭で直接陸軍大臣を尋ねた。その

席には熊坂虎吉もいた。褌をつけてほぼ裸の格

好の大臣は、お竜との喧嘩を挑むが、投げ飛ば

され、「なんじゃ、この強い女は」と虎吉に語り、

彼女の女気に惚れ込み、訴えを聞いてくれた。


 


 遂に富岡・大村・小山は追いこまれ、畑中に

補償金を使い込んだことを報告し、「大尉殿の

芸者遊びの金もそこから支払ったんです」と語

る。ばれれば、畑中は失脚し、厳罰に処される。

 


 大村は正直に使い込んだことを告げるしか

道はないことを語り、自主的に真相を告白し

ようと畑中・富岡に謝罪しましょうと真摯に反省

の意を示した。


 その時富岡は、大村の背後に回り、縄で首を

絞めあげて絞殺し、首吊り自殺に見せかけて、

「生き馬の目を抜く」環境にあることを確認し、

「保障金は大村工場長が着服し露見して自殺

したことにしましょう」と恐るべきもみ消しを図っ

た。

 小山は富岡の冷酷さに震える。


 安次郎は富岡の悪事を暴くが、消されてしま

う。


 結城菊太郎の初七日法要が寺で勤修される。

畑中・富岡が補償金を大村一人が使い込んだ

と嘘を語る。


  お竜が乗り込み、富岡の悪事を糾弾する。

大前田親分がお竜の厳しい追求を見届ける。

小山は富岡の悪事を知っているかどうかを

問われ、兄貴結城に「すまない」という気持ちと

良心の呵責から遂に全てを告白し、危機を

感じた富岡に刺殺される。


 これで富岡の悪事は露見した。


 お竜は逃げる富岡を追う。


 もはや逃げ切れぬと悟った畑中は最期に

軍人としての始末を付ける為に、ピストルを

取り出し、頭部を撃って自害する。


 お竜と富岡は汚染水の流れる場で決戦を

為す。



 ☆☆☆泰が尋ねる土の匂い☆☆☆


 加藤泰にとって三本目の『緋牡丹博徒』シ

リーズである。『緋牡丹博徒 花札勝負』が

昭和四十四年二月一日、『緋牡丹博徒 お

竜参上』が昭和四十五年三月五日、本作

が昭和四十六年六月一日公開である。


 藤純子が美しくき女性博徒お竜さんを熱

演する傑作任侠映画である。


 三本全て鈴木則文監督が脚本を書かれ

ている。

 『花札勝負』はソクブン師匠・鳥居元宏氏、

『お竜参上』はソクブン&泰コンビ、本作は

大和久守正氏・ソクブン・泰トリオである。


 お竜さんの相手役が、奇しくも、高倉健・

菅原文太・鶴田浩二と任侠映画の三大スタ

アがそれぞれ勤めていることも興味深い。


 『花札勝負』『お竜参上』は五十嵐君子物

語で筋が前後篇として続いている。


 待田京介は『花札勝負』で不死身の富士

松で出演しているが、本作では前述の通り

富岡の不正と戦う常五郎役である。

 

 本作は鶴田浩二親父さんと藤純子姐さん

の静かで鋭いロマンスが心に残る。

 加藤泰監督、鈴木則文脚本、鶴田浩二・

藤純子出演の任侠映画となると、昭和四十

年九月十八日公開の大傑作『明治侠客伝

三代目襲名』を想起するが、四人のチーム

が再び集まった。


 『三代目襲名』の鶴田浩二・藤純子の浅

次郎・初栄の恋が熱く激しく深いのに対し

て、本作の結城・お竜の関係性は落ち着

きと穏やかさの中にある。

 おんな博徒と妻を亡くした子連れやくざの

信頼が深く観客の心に響くのだ。

 昭和四十年代は公害問題が、人々の生活

に悲しみと痛みを引き起こした。公害に対して

沢山の人々が立ちあがった。


 本作は軍の施設の関係で、命の水を茶

色く汚された農民の抵抗を描く。

 

 土を舐めて農民は土の状態を確かめてい

ることを語る。

 親父さんの深い芸が光る。


 本作に置いても我慢劇が重く語られる。農

民の苦衷を受けて、軍に汚水を流さないよう

に頼みに行くシーンは印象的だ。

 シネ・ヌーヴォの銀幕で観て、大木実親分の

畑中大尉は本気で親父さんの結城を殴ってい

ると確信した。殴られて血が出ている。


  「大木。俺を本気で殴れ」と親父さんは頼

んだのではなかろうか?


 菊太郎が愛息三郎に語った台詞「男は負け

るとわかっていてやらなきゃいけない時がある」

は、深い台詞である。


 伊藤大輔から受け継いだ敗北の美学を、加

藤泰が任侠映画で鈴木則文と共に継承し打ち

出したとも言える。


 負け潰されることがわかっていても、今闘魂

を燃やさねばならない。


 東映任侠映画の我慢劇の真骨頂を聞いたと

感じた。


 親父さんの台詞回しは重い。


 菊太郎は殺され、お竜が仇討を為す物語なの

だが、情けある陸軍大臣や自己を犠牲にして不

正を暴く安次郎や熊虎親分の義が暖かい。


 石山健二郎がおかしみで見せる理解の芝居、

汐路章の渋さ、若山富三郎先生の優しさも印象

的だ。


 村長役の芦田鉄雄、与作役の唐沢民賢が

苦しめられても諦めない民衆の闘志を見せる。


 沢淑子はよね役で、豊かな存在感を示す。


 嵐寛寿郎の大前田英五郎は、大親分の風格

がある。


 悪役では河津清三郎が極悪非道の富岡の

冷酷さを勤める。


 内田朝雄・名和宏・大木実の三大悪役名優が、

良心の呵責に悩み苦悩する人物を表現する。

 富岡が大村をいきなり絞殺し、首吊り自殺に見

せかけて、補償金着服の罪を擦りつけるシーン

は怖い。


 鈴木則文・加藤泰の「巨悪」の探求も深い。


 名和宏が良心の痛みを目で語る。


 大木実は、泰作品では『車夫遊侠伝 喧嘩辰』

の矢島竜雲、『風の武士』の高力、『明治侠客伝

三代目襲名』の星野軍次郎と巨悪の悪役を勤め

てきた。

 畑中も大悪党だが、追い詰められて静かに拳銃

自殺するシーンに、もののふのけじめのつけ方

を思った。


 最後の決戦で、お竜は首魁富岡と対決する。

藤純子と河津清三郎の激闘は迫力豊かだ。



 秘かに慕っていた菊太郎を殺され、農家の人々

を苦しめた富岡に対し、お竜さんの怒りのドスが

一閃する。


 河津清三郎は、所謂「やられっぷり」も良い。巨悪

の表現が凄かった。


 「負けるとわかっていても行かねばならない時が

ある」という男の美学を、鶴田浩二の深い芸を以て

語った傑作映画である。


 社会派任侠映画として本作は光っている。


 ラストにおいて富岡の戦いでお竜さんの髪の

毛が乱れる。このシーンが色っぽい。


 三郎少年の優しさに感謝しつつも、侠客として

の自己を思い、やくざとして生きる竜子。


 その姿に凛とした気品を感じた。


 加藤泰は大正五年(1916年)八月二十四日に

誕生し、昭和六十年(1985年)六月十七日に六十

九歳で死去した。


 
加藤泰
 泰先生

 男と女の愛のシャシン

 感動しました。



                  文中一部敬称略



                         合掌