男はつらいよ 寅次郎子守唄 | 俺の命はウルトラ・アイ

男はつらいよ 寅次郎子守唄

 

『男はつらいよ 寅次郎子守唄』

映画 トーキー 104分 カラー

昭和四十九年(1974年)十二月二十八日封切

製作国 日本

製作言語 日本語

製作会社 松竹大船撮影所

 

出演

 

渥美清(車寅次郎)

 

倍賞千恵子(諏訪さくら)

 

 

三崎千恵子(車つね)

前田吟(諏訪博)

佐藤蛾次郎(源公)

太宰久雄(蛸社長こと桂梅太郎)

 

 

春川ますみ(踊子)

月亭八方(佐藤幸夫)

上條恒彦(大川弥太郎)

中村はやと(諏訪満男)

 

内村友志(印刷工)

羽生昭彦(印刷工)

長谷川英敏(印刷工)

松下努(印刷工)

 

木村賢治(吉田病院の先生)

渡辺隆治(行員)

中原美樹

秩父晴子(薬局のおばさん)

戸川美子

松原直

高木信夫

土田桂司

統一劇場(歌唱団)

露木幸次(松寿司)

 

 

下條正巳(車竜造)

笠智衆(御前様)

 

十朱幸代(木谷京子)

 

 

製作 島津清

企画 高島幸夫

   小林俊一

 

脚本 山田洋次

   朝間義隆

 

撮影 高羽哲夫

美術 佐藤公信

録音 中村寛

調音 松本隆司

照明 青木好文

編集 石井巌

スチール 堺謙一

 

音楽 山本直純

主題歌 「男はつらいよ」

作詞 星野哲郎

作曲 山本直純

唄  渥美清

 

原作・監督 山田洋次

 

山田洋次=山田よしお

鑑賞日時

令和二年(2020年)七月十七日

大阪ステーションシティシネマ

シアター5

 時は徳川時代と思われる。

 桜と夫は子供が生まれぬ事を悲しみ

うぶすなの神に懸命に祈る。その奇特

で真面目な心をうぶすなの神は愛でて

夫婦は子供を授かる。うぶすなの神は

子供を車寅次郎と名付けるようにと語

る。

 

 車寅次郎は目覚める。義弟の諏訪博

は印刷の仕事で怪我をする。タコ社長は

怪我をさせてしまったことをとらや・さ

くらに謝る。

 

 さくらがかけつけると博の怪我は軽傷

で済んでいた。

 

 御前様が見舞いに来る。寅次郎はとら

やに帰還する。

 

 竜造は長生きをして学んでいることを

御前様に語る。

 

 寅次郎は将来への展望で誇大な事を語り、

とらやの人々と口論になり又旅に出る。

 

 九州唐津で売(バイ)をする寅次郎は赤ん

坊の息子に厳しい物言いをする父親佐藤幸夫

に注意し語り合う。弥太郎は女房に逃げられ

男手一つで赤ん坊を育てている。

 

 佐藤は「子供を頼みます」と置手紙を残

して失踪し、赤ん坊を寅次郎が負ぶってとらや

に帰ってくる。さくらが赤ん坊を背負う。

 「寅に子供ができた」とおいちゃんは慌て

る。寅次郎は事情を話し一同は落ち着くもの

の子供の進路をどうするかで悩む。

 

 赤ん坊が熱を出し病院に診てもらうことに

なるが、博は美人看護師木谷京子に兄さんが

一目惚れするのではないかと案じる。

 

 京子の看護で博は元気になったのだ。

 

 とらやに赤ん坊が元気になったかどうかを

京子が現れ、寅次郎はその笑顔に惚れる。

 

 佐藤は踊子を伴ってとらやに現れ謝罪す

る。

 

 踊子は赤ん坊を真剣に育てたいと語り、と

らやの人々は彼女と父親弥太郎に赤ん坊を託

す。

 

 寅次郎とさくらは京子が通うコーラスグル

ープに行く。合唱団は熱心に歌っているが寅

はふざけたことを語り、さくらに怒られる。

 

 コーラス団のリーダー大川弥太郎は悲しみ

を感じる。さくらの注意もあり、寅次郎は大

川のアパートを尋ね、彼が京子の写真を大事

にしていることを知り、恋の成就は難しいぞ

と告げる。大川弥太郎の真剣な想いを知り、

寅次郎は恋愛塾を開く。

 

 とらやに京子は来ていた。寅次郎と弥太郎

が酔って帰ってきた。

 

 弥太郎は寅次郎の指南を思い出し、「京子

さん」と語り掛け、「なあに?」と問われる

と「好きです」と告白する。

 

 京子は弥太郎の想いを受ける。

 

 失恋した寅次郎は九州呼子港に戻り、気に

なった赤ん坊と再会し、夫婦になった踊子と

佐藤幸夫の献身的な養育を見届ける。

 

 ◎優しくて哀しい◎

 

 

 渥美清は、昭和三年(1928年)三月十日

東京府に誕生した本名を田所康雄である。

 船乗りを目指したが、肺結核に罹り手術で

右肺を除去し術後に胃腸を患い入院生活を送

った。

 舞台の喜劇俳優として活躍し、映画・テレ

ビに出演し大スタアとなった。

 平成八年(1996年)八月四日六十八歳で

死去した。

 

 

 山田洋次は昭和六年(1931年)九月十三日

大阪府に誕生した。父は満鉄のエンジニアで

洋次は二歳で満洲に渡り、昭和二十二年(19

47年)一家で大連から日本に引き揚げた。

 東京大学に学んだ洋次は学生時代、前進座

映画にエキストラとして出演したという。

 松竹に入り助監督として勤務し、脚本家とし

ても活躍した。

 

 昭和三十六年(1961年)十二月十五日公開

『二階の他人』が第一回監督作品である。

 

 

 昭和四十四年(1969年)八月二十七日、渥

美清主演・山田洋次原作・監督の映画『男はつ

らいよ』が公開された。

 

 

 『男はつらいよ 寅次郎紙風船』はシリーズ

第十四作である。

 

 下條正巳が三代目車竜造として初めて出演し

た。

 

 大正四年(1915年)八月二十六日釜山で下條

正巳は誕生した。下正巳が本来の本名の表記

である。映画監督を志し、新派劇団・劇団民藝

の舞台に立った。昭和四十六年(1971年)劇団

民藝を退団した。

 深く緻密な演技で悪役においても数々の名演

を発表した。

 本作で優しさと厳しさを備えたおいちゃんの

イメージがファンに広がった。

 

 原子力は平和利用をとの気持ちから昭和二十一

年(1946年)十一月二十六日に誕生した息子に

下條アトムと命名した。

 

 新聞のインタビューで「戦争が嫌いなんです」

と語った言葉を読んだことがある。

 

 昭和四十二年(1967年)七月二十五日生まれの

自分にとっては、リアルタイムおいちゃんは三代

目の下條正巳である。

 

 真面目で厳しいが、寅次郎の事が心配で実は心

の底で見守っているという叔父の愛情をしみじみ

と伝えてくれた。

 

 平成十六年(2004年)七月二十五日下條正巳

は八十八歳で死去した。

 

 おいちゃん第一作の本作は家族愛の重さを教え

てくれる。

 

 山田洋次の傑作群の中でも本作程男の悲しみと

女の逞しさを深く伝えた作品は珍しいのではない

か?

 

 渥美清は夢のシーンのうぶすなの神から乗りに

乗っている。

 

 博の怪我と療養、呼子での佐藤親子と寅の出

会い、子供を背負う寅を見たとらやの人々の驚

嘆、寅の京子に一目ぼれ、佐藤の謝罪と踊子の

女気、寅の弥太郎への恋愛指南、弥太郎の京子

への告白、寅と赤ん坊の再会と筋は一気に駆け

る。

 

 寅次郎は血の繋がりのない赤ん坊に父性愛を

抱きおぶるがとらやの人々の助力が要る。

 

 女気と母性愛を覚えた踊子によって赤ん坊の

育児は成り立つ。

 

 シリーズ二回目登場の春川ますみが、踊子の

逞しさを伝えてくれる。

 

 月亭八方が気の弱い佐藤幸夫を繊細に演じる。

 

 

 上條恒彦のシリーズ初出演作品でもある。コ

ーラス団リーダーで一途な恋心を抱く大川をデ

リケートに勤める。

 

 寅次郎の暴れ方をさくらが厳しく叱る。倍賞

千恵子がさくらの母性愛を深い演技で伝える。

 

 アパートの部屋で京子の写真が落ちてしまう

が、これが大川に取って告白の一大決心へと導

く。

 

 寅次郎は恋愛指導では見事な腕前を発揮し、

大川は美しい京子に告白しその想いは叶う。

 

 同時に寅自身の失恋が明かされる。

 

 本作は血の繋がりがなくても芽生える家族

愛や自己を滅却して育てる恋愛塾が語られる。

 

 愛の傑作だが、切なさの重さも又強烈なの

だ。

 

 感動というよりも重量感が強烈である。

 

 

 

 私的な事柄だが、1975年が近付いている

年末の描写に幼年期を想い起す。

 

 封切当時に見ていないのだが、鑑賞当時五

十二歳の自分は小学校一年生時代に感じた19

74年のムードに懐かしさを覚える。

 

 十朱幸代の京子は美しさと共に母性が輝い

ている。

 

 

 呼子で結ばれた踊子と幸夫に大事に育てら

れている赤ん坊を見て寅次郎は安心するが、

その幸は寅と赤ん坊が精神的家族として決定

的に離れた事の明示でもある。

 

 山田洋次の演出は暖かくて哀しい。

 

 下條正巳生誕百七年 百七歳誕生日

    令和四年(2022年)八月二十六日

 

               文中敬称略

 

 

                 合掌