八月の鯨 | 俺の命はウルトラ・アイ

八月の鯨

『八月の鯨』

The Whales of August


八月の鯨4

映画 93分 トーキー 白黒・カラ―

製作国   アメリカ合衆国

1987年8月19日 イギリス公開

1987年10月16日 アメリカ公開

1988年11月26日 日本公開

 

           出演

 

             リリアン・ギッシュ(サラ・ウェッバー)

べティ・デイヴィス(リビー・ストロング)


 

    ヴィンセント・プライス(マラノフ)

    アン・サザーン(ティシャ)

    ハリー・ケリー・ジュニア(ジョシュア)

    フランク・グライムズ(ベックウィズ)

 

 脚本     デヴィッド・ベリー

 

 製作     キャロライン・ファイファー

         マイク・カプラン

 製作総指揮  シップ・ゴートン

 

 音楽     アラン・プライス

 撮影     マイク・ファッシュ

 

 

監督      リンゼイ・アンダースン

 

☆☆☆

平成二十七年(2015年)七月二十八日

TOHOシネマズ二条にて鑑賞

☆☆☆

 感想記事では結末に言及します。

 

 未見の方はご注意下さい

☆☆☆

 物語は白黒画像から始まる。恐らくは19世紀末

から20世紀初頭の時代。季節は夏の8月だ。

 

 アメリカ・メイン島で仲良し姉妹の少女リビーと

サラは海で鯨を見つけに行くことが趣味だった。

 

 それから60年以上の月日が流れ、姉妹は老女

になった。夏は別荘で共に暮らしている。

 

 画面の色彩はカラーになる。

 

 サラは第一次世界大戦で愛する夫を亡くした。

それ以来ずっと独身生活を送って再婚はしていな

い。

 

 リビーはサラの面倒をみてきたが、今もそのこと

を自分から語ってしまう。目が不自由になり、短気に

なった姉リビーに、妹サラはご飯を作り、テラスに誘

い、じっくり話を聞く。

 

 リビーには娘が居るが、当たり散らしながらも、妹

サラとの会話が一番落ち着くようだ。

 

 近所に住んでいるロシアの移民マラノフは、サラに

近所で釣りをする許可を求めて、二人は仲良く語り

合う。

 

 姉妹の幼馴染のティシャが二人を尋ね、20世紀

初頭から運転しているが、ぶつけてしまい、半年間

免許停止を命じられショックを受けていることを語る。

 

 老いた大工のジョシュアが親切心から水漏れの為

に配管工事を行うが、余りの大きな音に姉妹は驚き

静かにして欲しいと頼む。

 

 優しく社交的なサラは来訪者と仲良くするが、気難

しいリビーは、つい厳しく言葉を語ってしまう。

 

 姉妹はふたりで激動の人生を語り合う。

 

 姉リビーは死を意識して、「全て無くなるのよ」と語る

が、老いても妹サラは前向きだ。

 

 サラに夫との生活を聞かれると、リビーは「毎日セ×

×スしてた訳じゃないから」と微笑んで語る。

 

 サラは戦死した夫との49年目の結婚式記念日を大

切に確かめる。

 

 初夜の晩、コルセットの複雑な絡み方に夫が驚き

困ると、ファッションは自分自身の大切な事と答えた

思い出。

 

 マラノフと姉妹の食事の日が来た。彼はサラを愛し

ているようだ。サラも好感を持っているようだ。

 

 リビーとサラは口論になり、サラが焼いていたマフィ

ンが焦げてしまう。リビーは謝る。


 

    リビー「サラ。私達の貴重な残り時間は、長くない

         のよ。」

 

 最初は正装するのを嫌がっていたリビーは、綺麗

なドレスを着用する。

 

 サラも可愛いドレスを着る。

 

 マラノフがやってきた。


 

   サラ「いかが?」


 

   マラノフ「とても綺麗です」

 

  姉妹とマラノフの楽しい食事が為された。

 

   リビー「マラノフさん。新しい住処を探しなさい。

       但し此処は駄目よ。」

 

   マラノフ「姉上に私の心を見透かされていた。」

 

  マラノフは、サラにはっきりと告白はしなかったが、

感謝の心をこめて去る。

 

 サラは姉の厳しい言葉が、ボーイフレンドを傷つけ

たことを悩む。

  

 戦死した夫との結婚生活を思う。

 

 

 ティシャは姉妹が別荘を「売ろうか」と何気なく言った

言葉を聞きとめ、おせっかいの心から不動産屋を連れ

てきて独断で別荘売却の話を進めるが、サラは断る。

 

 ティシャは詫びる。

 

 サラは「差し出がましいわ」と注意する。

 

 ジョシュアがやってくると、リビーは新たな工事

を頼む。

 

 悲観的だった姉の心に前向きに歩む気持ちが

出てきた。

 

 サラとリビーは岬を愛する。

 

 姉妹ふたりは、海への気持ちを語り合った。

 

 「八月の鯨」を求める想いを。

 

☆☆☆

べティ・デイヴィスとリリアン・ギッシュの姉妹

☆☆☆


 

 新・午前十時の映画祭で『八月の鯨』を見て

胸が熱くなった。

 

 アメリカ映画の歴史を支えてきた二大女優が

「老い」の新作映画で激突競演を為した。

 

 この作品が製作されたことのニュースを聞いた

時は、映画関係者が驚いた。

 

 「リリアン・ギッシュ&べティ・デイヴィス

 奇跡の共演」

 

 この表現で語られたのだ。


八月の鯨3

 リリアン・ギッシュ(サラ 画像左)

 1893年10月14日生まれ。

 無声映画時代から活躍している大スター。

 本作公開時93歳。

 1993年2月27日死去。99歳。

 

 べティ・デイヴィス(リビー 画像右)

 1908年4月5日生まれ。

 20世紀アメリカ映画を代表する女優。

 本作公開時 79歳。

 1989年10月6日死去。81歳。

 

 リリアン・ギッシュ&べティ・デイヴィスの

全盛期は、1967年7月25日生まれの私に

とっては勿論知らない。

 

 二人が大女優として活躍したことは、『昭和

外国映画史』(1978年 毎日新聞社)を始め

とする書籍で学習し、リバイバル上映で全盛

期の名画を鑑賞した。

 

 

リリアン・ギッシュ出演作品

『散り行く花』

監督 デビッド・W・グリフィス

1919年5月13日 アメリカ公開
散り行く花1

(画像出典 『昭和外国映画史』)


 

 グリフィス監督が撮った、アメリカ人少女と

中国人青年の悲恋物語である。

 

 1980年代関西テレビで放送された際、主演

のリリアンが自ら解説した映像が放映された。

リリアン・ギッシュ3

『ラ・ボエーム』

リリアンとジョン・ギルバート。

(画像出典 『昭和外国名画史』)



 

 リリアン・ギッシュは無声映画の美女スター

である。

 

 1989年3月大阪城ホールで、グリフィス監督

が1916年に演出した超大作『イントレランス』の

完全版が上映された。その壮大さに圧倒され

たが、上映後合唱団のコンサートとリリアンの

解説映像の放映があり、感嘆した。

 

 リリアン・ギッシュは70年以上前に受けたグリ

フィス演出への感謝を熱く語っていた。

 

 べティ・デイヴィスは気性の激しい女性や芯の

強い女性の役を当たり役にした演技派大スター

である。

 

 
イヴの総て
 『イヴの総て』のベティ・デイヴィス(左)
 (画像出典 『昭和外国映画史』)

 

 全盛期には生まれていない私めでさえも、

お二人がアメリカ映画を牽引された巨星で

あることは学び知っていた。

 

 その二人が姉妹役で激突競演する。

 

 生意気な物言いになるが、この企画は二人が

オファーを快諾した瞬間から、「傑作への道」が

開かれたと言えるのではなかろうか?

 

 老いが迫り死の恐怖が高まる思い。

 

 79歳のべティ・デイヴィスと93歳のリリアン・ギッ

シュは、その恐怖を堂々と演じ、恐怖に負けず、

力強く歩む心根を明かしてくれた。

 

 実年齢はリリアンが上で無声映画からのキャリ

アもあり、先輩だが、妹のサラ役だ。

 

 気性の激しい役柄を得意としたベティが重厚に

リビーを勤めた。目が不自由で視力を失った恐怖

を鋭く演じた。

 

 怒りっぽいリビーが、恐怖からサラに縋りつくシ

ーンに姉妹の篤き絆を思い感激した。

 

 ヴィンセント・プライズのマラノフは恋する男の

品格があった。

 

 アン・サザーンが人が良いが出しゃばってしまう

ティシャを明るさと哀感を絡ませて演ずる。

 

 ハリー・ケリー・ジュニアのジョシュアに老いの渋さ

が光る。

 

 

 デヴィッド・ベリーの脚本は、しみじみと「老」と「生」

の道を描く。

 

 リンゼイ・アンダースン監督の演出にも優しさが光

る。

 

 老いを命の内実として確かめることを語る大傑作で

ある。

 

 48歳の私は若輩者だけれども、「老」の問題は避け

られない事柄だ。

 

 勿論48歳と雖も、「明日大事故や災害に遭わない」

という保証は何処にも無い。

 

 迫り来る「老い」を思いつつ、一日一日一分一秒を

大切にして生きて行きたい。

 

 サラとリビーは、老いを受け入れ確かめ、老いの道

を歩むことの大切さを教えてくれていることを思う。

 

 

 

 ラストで肩をしっかり抱き合うリリアン・ギッシュとべテ

ィ・デイヴィスに、老いを生きる在り方が光っていた。

 

                     

                           文中敬称略


                            

                              合掌