ライアンの娘

『ライアンの娘』

Ryan's Daughter

映画　195分　カラー　

製作国　イギリス

1970年12月9日　イギリス公開

昭和四十六年（1971年）四月二十四日　日本公開

出演

ロバート・ミッチャム（チャールズ・ジョーネシー）

トレヴァー・ハワード（コリンズ神父）

レオ・マッカーン（トーマス・ライアン）

クリストファー・ジョーンズ（ラルフ・ドリアン）

ジョン・ミルズ（マイケル）

バリー・フォスター（ティム・オリアリー）

サラ・マイルズ（ロージー・ライアン）

脚本　　ロバート・ボルト

撮影　　フレディ・ヤング

音楽　　モーリス・ジャール

監督　　デヴィッド・リーン

☆☆☆

平成二十七年（2015年）六月二十九日

TOHOシネマズ二条にて鑑賞

☆☆☆

　感想記述の中で、物語中の性的な問題に

触れますが、ご了承ください。

　映画の物語は徒に性欲を煽るものではなく、

真剣に描いております。

☆☆☆

 

（画像出典『昭和外国映画史』

　1978　毎日新聞社）

　昭和五十三年『昭和外国映画史』で『ライアン

の娘』におけるサラ・マイルズとクリストファー・

ジョーンズが抱擁しようとする画像（引用の白黒

画像）を見て以来、ずっと見たいという思いを抱

いていた。

　『アラビアのロレンス』のリーン組の作品と聞い

て期待も高鳴った。

　公休日の今日、新・午前十時の映画祭で観

ることが成り立った。

　サラとクリストファーが駆けあって抱擁するシー

ン（作品はカラー）を見た時は感慨があった。

　20世紀初めのアイルランドの物語である。

　海岸を若い美人ロージーが歩む。彼女は何事

にも積極的に取り組む性格だ。

　神父コリンズは恋に夢中になろうとしているロー

ジーを見て、早く結婚して落ち着いたほうがいいと

考えている。

　海岸で言語障害を持つ中年男マイケルがザリガ

ニを捕えて、ハサミを引きちぎって、愛するロージー

にプレゼントする。

　コリンズは「神が創り給うたものに何をする」と怒

り、ロージーも残酷な所業に「大嫌い」と怒り、マイケル

は悲しむ。

　マイケルがザリガニを捕えた光景を見て、村人達

はからかい虐める。

　コリンズは村の弱い者虐めを嘆く。

　ロージーの父ライアンは居酒屋の亭主で村人達

から慕われている。聞いた情報を警察に流し、スパイ

のような振舞もしている。

　コリンズは娘を早く結婚させるようにと勧める。

　海岸を教師チャールズ・ジョーネシーが歩む。

　その歩んだ後をロージーは裸足で大切に踏み

しめる。

　チャールズは亡き妻の墓に参る。

　温厚な中年教師チャールズを愛していたロージー

はその想いが叶って結ばれる。

　結婚祝賀会では、村のマドンナだったロージーを

得たチャールズは村の男達から手厚く祝福され、村

人達が花嫁の頬にキスをするが、一途なマイケルは

拒絶されてしまう。

　初夜の晩に、チャールズはロージーを抱きしめる

が疲れてすぐに寝てしまう。

　ロージーは満たされない思いを抱き、悶々と悩む。

　村に足の不自由なイギリス軍人ラルフ・ドリアン

が赴任する。

　彼は妻帯しているが、独り身で島にやってきた。

　戦争の恐ろしい記憶が心の傷となり悩んでいた。

　ライアンの店で戦場のトラウマが起こり、机の下に

隠れた。父の代わりに店番をしていたロージーが手

を握って慰める。

　ラルフは一目惚れして彼女の唇を奪い、恋を告白

した。

　ライアンが仲間を連れて帰宅し、アヒルを机に置き、

娘ロージーへのプレゼントとして純血種の馬を見せる。

　高いプレンゼントにロージーは驚く。

　彼女は父から贈られた馬に乗り、同じく馬上のラルフ

と森でデートして、緑の木々の下で愛し合う。

　中年の夫よりも、若い妻帯者ラルフとの不倫は、ロー

ジーの心を熱く燃やした。

　チャールズが生徒達を連れて、海岸で特別授業を

していた。

　彼は妻とラルフのデートを見てしまう。

　深く傷つくが、生徒の前では悲しみを一切出さず、

じっと忍ぶ。

　ロージーも崖の上のデートで砂浜を歩む夫を見て

吃驚する。

　嵐の夜。

　ライアンの店に旧知の軍人ティムが仲間と共に

現れ、イギリスからの独立運動の為に協力を依頼

する。

　男12人の協力の依頼だったが、イギリスからの

独立を希望する村人たちが協力する。

　ティム一味は感動し、武器をジープに積み込んで

走るが、ラルフとその部下に見つかり、逮捕される。

　　　ラルフ「欲しいものは？」

　　　ティム「煙草を」

　　ラルフは彼の銃弾を肩か腕に受けて負傷した

ティムに一服吸わせてやる。

　　　ラルフ「他には？」

　　　ティム「俺の国から出て行きやがれ！」

　だが、村人達は、ティム一味を密告したのはロー

ジーだと決めつけ、彼女の不倫の糾弾と共に痛め

つけて、髪の毛を切る。

　妻との離別を決めたチャールズだが、彼女を守

ろうとするも、彼自身も踏みつけにされる。

　コリンズが現れ、村人を叱り去らせる。

　マイケルの導きで、ラルフは、ティム一味が隠し

持っていたと思われる武器弾薬を調査する。

　チャールズはロージーと共に一旦村を去る決意

を固める。

　デヴィッド・リーン監督の超大作である。

　スケールの大きい映像表現は、今回も見られた。

　ディングル島の砂浜と海の雄大さは圧巻である。

　サラ・マイルズが情熱のヒロインロージーを熱く

勤める。

　ジョン・ミルズが、言語障害の男マイケルの心を

表情と目で切なく語る。

　マイケルがロージーを一途に愛する片想いに

泣かされる。

　クリストファー・ジョーンズは戦場の恐怖に怯える

心を濃密に演じる。

　ロージーがラルフを支えざるを得ない母性を、彼

の傷を見て実感したのだと思う。

　ラルフとロージーの森の逢引は、木漏れ日の光

と共に鋭く、華麗である。

　不倫だから、恋も一層強く燃え上がる。

　妻とその愛人の浮気現場を、職務時間に見てしま

うチャールズ。

　ロバート・ミッチャムの悲しみの目に、胸が熱くな

った。

　男は一番辛く傷ついた時ほど、笑顔で落ち着いて

周囲の人々に接する。

　生徒に笑顔で話すチャールズに、男の理想的な

姿を学んだ。

　チャールズは寛大だったが、村人の不倫への怒り

は凄まじかった。

　ロージーは野菜も売って貰えず、店の女将さんに

淫らな浮気者と罵られる。

　チャールズが一人で家を出て、代用教員として

学校に教えにきたロージーを見て、子供達は家

で「浮気した人妻と口をきくな」と厳命され教室か

ら去って行く。

　傷ついたロージーだが、そんな彼女を守ろうと

した人はチャールズだった。

　ロージーとラルフの抱擁シーンは綺麗だ。

　その光景を見つめるチャールズが切ない。

　ロージーを一途に思うマイケルの恋も純粋で

無垢だ。

　大詰でロージーがマイケルの頬にようやくキス

する。胸が熱くなり感動した。

　バリー・フォスターがオリアリーの悔しさを鮮や

かに勤める。

　嵐のシーンはフレディ・ヤングの撮影の凄まじ

さを思った。

　役者さん達も全身ずぶ濡れで役を勤めていた。

　ライアン役は太った名優レオ・マッカーン。ウィ

リアム・シェイクスピア劇で活躍された方である。

　娘を愛しながらも、村人を恐れて救えない父の

弱さを深く勤める。

　大詰の父と娘の会話に泣かされた。

　トレヴァー・ハワードが頑固爺さんの神父を熱く

演じた。

　八十ぐらいの老爺に見えるが、公開当時57歳

の若さなのである！

　『第三の男』では沈着冷静なキャロウェイ少佐を

演じた方である。

　本作の直後にルキノ・ヴィスコンティ監督『ルー

ドヴィヒ』のリヒャルト・ワグナーを勤めた。

　豊かな芸力で多彩な役柄を演じ切った。

　本作では、文字通り、全ての登場人物を叱りな

がら見守る「ファーザー」の役である。

　滝・台風・大自然の光景を映すヤングのキャメラ。

　ジャールの壮麗な音楽。

　豊かなキャメラ術と繊細な音楽に支えられて、デ

ヴィッド・リーンが四人の男女の愛の物語を尋ねる。

　大スクリーンの鑑賞は有り難かった。

　一言付け加えるとするならば、70ミリのフィルムの

上映と昭和映画館風に絵看板があれば、尚嬉しい

のだが。

　『アラビアのロレンス』の大いなる切なさ・壮麗な悲劇

美・史劇の重さや、『インドへの道』の深い荘厳さとは、

違うものの、メロドラマの緊張感は凄まじい。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　文中一部敬称略

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　合掌