天井棧敷の人々  Les enfants du Paradis 鑑賞三十一年 | 俺の命はウルトラ・アイ

天井棧敷の人々  Les enfants du Paradis 鑑賞三十一年


BG

 『天井棧敷の人々』

 (てんじょうさじきのひとびと)

 

 Les enfants du Paradis
 (レザンファン デュ パラディ)
 

 Le Boulevard du Crime

 (ル ブルヴァール デュ クリム)

 「第一部   犯罪大通り」

 

 L'Homme Blanc

 (ロンム ブラン)

 「第二部   白い男」

 

 映画 195分 トーキー 白黒

 

 フランス公開    1945年3月9日

 日本公開      昭和二十七年(1952年)二月二十日

 

 製作国       フランス

 製作         フレッド・ブラン

 脚本         ジャック・プレヴェール

 音楽         モーリス・ティリエ

             ジョゼフ・コズマ

 撮影         ロジェ・ユペール

 美術         アレクサンドル・トローネル

 

 出演  

       

 アルレッティ(ギャランスことクレール 無言劇の女神)


 

 ジャン=ルイ・バロー(バチスト・ドゥビュロー

              無言劇のピエロ)
 

 ピエール・ブラッスールフレデリック・ルメートル

  無言劇のアルルカン 劇中劇『アドレの宿屋』の

  ロベール・マルケール 劇中劇「オセロー』のオセロー)

 

 

 ピエール・ルノワール(古着屋ジェリコ)

 

 

 マリア・カザレス(ナタリー)

 

 

 ファビアン・ロリス(アヴリル)

 エチエンヌ・ドゥグルー(アンセルム・ドゥビュロー)

 リヴェール・カデ(ブルジョアの中年男)

 ジャーヌ・マルカン(マダム・エルミーヌ)

 ジャン=ピエール・デルモン(バチスト坊や)

 ジャン・ラニエ(劇中劇『オセロー』のイアーゴー)

 アルベール・レミー(スカルピア・バリニ)

 マルセル・メルロー(巡査)

 ポール・フランクール(警視)

 ガストン・モドー(絹糸)

 
 

 ルイ・サルー(エドゥアルド・ド・モントレー伯爵)

 

 

 マルセル・エラン(ピエール・フランソワ・ラスネール)

 

 監督        マルセル・カルネ

 

 ☆☆☆鑑賞日時 場所☆☆☆

 昭和五十九年(1984年)四月二十日・二十二日

 祇園会館

 

 平成十三年(2001年)四月二十八日

 シアター1200(京都劇場)

 

 平成二十二年(2010年)七月十九日

 TOHOシネマズ二条

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 昭和五十九年(1984年)四月二十日、ドキドキ緊張し

ながらバスに乗りました。「今から見る映画は凄い作品

だと思う。映画館に着いて欲しい」と思いながら京都市

内の光景を見ていました。市バスのバスはバス停祇園

に着きます。このバス停の傍に祇園会館に着きました。

 

 平成二十七年(2015年)四月二十日の現在、祇園会

館はよしもと祇園花月の劇場ですが、当時は二本立て

映画館の名画座でした。

 

 日本映画・外国映画、無声映画・トーキー映画、白黒

映画・カラ―映画、実写映画・アニメ映画とありとあらゆ

るジャンルの映画を上映してくれていました。三十一年

前は入れ替え制なしで、一日複数回見ることも可能で

した。 

 

 この日は、テオ・アンゲロプロス監督『アレクサンダー

大王』とマルセル・カルネ監督『天井桟敷の人々』という

超大作二本の上映でした。

 

 『アレクサンダー大王』は難解ではありましたが、その

壮大な画と重厚な描写に圧倒されました。ワンシーンワ

ンカットの長回しで歴史が進む演出に、震えました。

 

 『天井棧敷の人々』は『昭和外国映画史』において紫

色で刷られたジャン・ルイ・バローとマリア・カザレス

の写真画像を見て、「目が綺麗だな」と思い、気にな

っていたのでした。

 「世界映画史上のベストワン」として選ばれている

ということも聞いていましたが名作かどうかは、自分

自身で見聞し確認しなければわかりません。

 

 リバイバル上映の広告を見て、「これは見たい!」

という気持ちを覚えて、祇園会館で上映されることが

決まり、四月二十日同館へ飛ぶように走るように向

かったのであります。

 

 三時間十五分の上映があって、全身全心を挙げて

生命全体で大感激を実感しました。

 

 

 ☆以下「犯罪大通り」の物語のネタバレを感想で書き

 ますので、未見の方はご注意下さい☆


 

 19世紀のフランスパリの犯罪大通りでは沢山の人々

が歩みにぎわっています。大道芸人たちは芸を競いあ

って客を集めようとしています。老いた古着屋ジェリコ

は「古着屋でござい」と叫んでいます。

 

 呼び込み男は、「一糸まとわぬ裸の美女。目の保養」

と呼びこんでいます。小屋では確かに鏡を持った美女

が入浴していますが、客の視界に入るのは、美女の肩

先から顔まででした。

 

 芝居小屋に演劇志望の若者が来ていました。フレデ

リック・ルメートルと言う名の若者です。彼はウィリアム・

シェイクスピアの戯曲を演ずるという大夢を持っていま

した。

 

 見世物小屋で肩を露出していた美女を見てフレデリッ

クは惹かれて声をかけます。現代で言うところのナンパ

です。

 

    「君は笑った。人生は美しい。君も美しい。」

 

  しかし、女性は「約束があるの」とフレデリックの誘い

を断ります。フレデリックは名乗り、女性の名を聞き、彼女

はギャランスと名乗ります。「犯罪大通りに置き去りとは

と失意のフレデリックに、ギャランスは「恋する二人にパ

リは狭しよ」と慰めます。

 

 ギャランスは友人の代書人のピエール・フランソワ・

スネールを尋ねます。ラスネールは復縁を求める男性

の手紙を書きました。ギャランスは肩を露出する仕事は、

肩のみでお客が集まらず終わったことを報告します。

 

 ピエール・フランソワ・スネールはギャランスの裸を

目当てにした男達に敵意を語り、自身の在り方を宣言

します。

 

   「親や教師にどなられた。〝自己に戻れ〟。俺は

    自己に戻った。そして閉じこもった。すべてが禁じ

    られた。その結果は、どうだ。今の俺さ。なんたる

    見事な運命だ。誰も愛さない、絶対の孤独。誰

    からも愛されない、絶対の自由。俺は誰も愛さな

    いのだ。君さえもな、ギャランス」

 

  ナルシストで自信家で口髭をたくわえてお洒落な

扮装をするラスネールは、社会を相手に宣戦布告して

いました。

 

 ジェリコはラスネールの下にも出入りして小遣いを

貰っていました。

 

 フュナンビル座の前では、四人の踊り子が踊り、口

役の男性が語り、ピエロの扮装の男性が樽に座っ

て澄み切った瞳で一点を見つめています。

 

 口上役は彼の父親で役者のアンセルム・ドゥビュロ

ーです。アンセルムは息子を「木偶の坊」と呼んで棒

で打擲し、舞台に戻ることを告げ、劇場に来ない見物

人の為に、バチストと名付けた息子を残します。

 

 ブルジョアの中年男が冷やかしの罵声を語り、「間

け面」と侮蔑しますが、ギャランスは「綺麗な目をし

てるわ」と語ります。その隙にラスネールはブルジョア

の中年男から時計を掏り逃げます。

 

 

 バチストの瞳が大きくなります。

 

 中年男は掏られて、隣にいたギャランスを犯人だと

主張し、彼女の手を掴んで巡査を呼びます。巡査の

尋問にギャランスは無罪を主張します。巡査は目撃者

がいるのかと彼女に問います。

 

   「私だ!」

 

 バチストが答えました。

 

 語らずに彼は示したのです。

 

 無言劇でギャランス・中年男・口髭の男を示し、口

髭の男が中年男の懐から懐中時計を掏り取って逃げ

たことを芸で明かしたのでした。

 

 野次馬の人々は大笑いで感嘆します。

 

 バチストの芸に、疑われたギャランスも、被害者の

中年男も、巡査も、皆共に見とれました。

 

 犯人ラスネールが逃走したことを知り、中年男は

ギャランスに謝罪します。無実を明かしてくれたお礼

にギャランスはバチストに一輪の薔薇の花を投げま

す。

 

 バチストはドキドキ緊張します。

 

 フュナンビル座では美しい娘ナタリーが恋煩いで

一途な思いを胸に秘めていました。バチストを慕って

いるのです。ジェリコは此処へもやってきて、「儂は

縁結び屋じゃ」と自称して、ナタリーの手相を見て、

「素晴らしい運勢。愛しい人と結ばれる」と語ります。

 

 フレデリックはナタリーに一座に入りたいという

希望を伝えます。

 

 舞台では、アンセルムが共演者のスカルピア・バ

リニと喧嘩しパニックになります。

 

 バチストとフレデリックが抜擢され、舞台は成功

します。

 

 若き役者二人は、夢を語り合います。

 

 バチストは無言劇、フレデリックはシェイクスピア

劇で、御客を感激させたいというそれぞれの夢に

二人は燃えていました。フレデリックは下宿先が

決まっておらず、バチストは自身の下宿グラン・ル

レーを紹介します。

 

 バチストは目が不自由な老人絹糸と知り合い

ます。絹糸は一杯奢りたいと申し出て、前の主人

が咽喉を斬られて血を流したということから「赤い

咽喉」と名付けられた居酒屋に案内します。鑑定

を頼みに来た者の依頼を聞き、絹糸は目を開いて

鑑定します。目が不自由なことは嘘だったのです。

 

 ジェリコは此処にも表れます。バチストに対して、

「ナタリーのように無垢な娘はいないぞ」と語りますが、

「お前は嫌いだ!」と怒鳴られます。

 

 店には、ラスネールがギャランス・子分のアヴリ

ルと飲みに来て、残酷なジョークを語っています。

 

 バチストは、ギャランスとの思わぬ再会に感動

します。

 

 

 ギャランスはラスネールと離れて踊りたい気持ち

を語ります。


 

 

 

 バチストは熱視線で、じっとギャランスを凝視しま

す。絹糸は、前の主人の喉笛を斬って殺害したの

は、ラスネール一味だと語り、そのラスネールが誘

っているギャランスに近づくのは危険だから諦める

ようにと忠告します。

 

 

 ジェリコはギャランスの手相を見て、「綺麗な手じ

ゃ」と讃えますが、ラスネールから「蝙蝠」と在り方を

指摘され、「お前はお役人に仲間を売っているんじゃ

ないか?」と指摘され、震えるように去って行きます。

 

 バチストはギャランスに踊って欲しいと頼み

諾して貰います。アヴリルがバチストをギャランス

から引き離し、店の外に叩き出します。ガラスが

割れたことを主人が悲しむと、ラスネールは「赤

い咽喉でお楽しみだぞ」と語り、威嚇します。

 

 バチストは店に帰ってきて落ちた薔薇の花を胸

にさします。アヴリルが尚も腕を掴もうとすると、バ

チストは胸倉を蹴り倒し、ギャランスを送ることを

言し二人はいっしょに店を出ます。

 

 

 ラスネールは「女のことで騒ぐな」と部下達に語り、

計画している集金人襲撃の強盗計画について謀議

を話し合います。

 

 夜の街路でバチストとギャランスは語り合います。

ギャランスの父は母を捨て、母は洗濯女をしていま

すが、亡くなり一人になった彼女は十五歳で男達と

出会ったことを語ります。

 

  バチストは「私の命はあなただ」と愛を告白しま

す。二人はキスをします。ギャランスは「恋なんて簡

単よ」と語ります。

 

 二人は下宿屋グラン・ルレーに到着します。バチ

ストはギャランスの新しい就職先としてフュナンビル

座を紹介します。

 

 妖艶なギャランスは「私はあなたの夢見るような

女じゃない。単純なの。単純な女よ。愛してくれれ

ば、私も。好きなら好き。それだけなの。」と語りま

す。

 

 純情なバチストは「あなたも同じ愛し方で私を愛し

て欲しい」と宣言して部屋から出て行きます。

 

 隣室では、フレデリックが『オセロー』の大詰でオ

セローが愛する妻デズデモーナが不貞を働いたと

思い込んで絞殺する意志を語る台詞の朗読をして

いました。

 

 ギャランスの歌声が響きます。

 

 窓際からフレデリックは再会を喜び、「恋する二人

にパリは狭しさ」と語り、彼女を誘い快諾してもらい

ます。

 

 物語はここから、ギャランス・バチスト・フレデリック

・ナタリーの男女四人の愛の物語を壮麗に語ります。

 

 無言劇では、バチストの道化がギャランスの女神

に愛を告白し、フレデリックの道化に奪われる物語

が上演されます。しかし、フレデリックはベッドでギャ

ランスがバチストの名を呼んでいる言葉を聞き、彼女

が一番恋している人が誰であるかを知ります。

 

 実力者のモントレー伯爵はギャランスに一目惚れ

して、楽屋に花束を届け、宝石と馬車のゴージャス

な生活を届けると言って、金の力で口説きますが、

ギャランスは救出者・保護者気取りで驕るモントレー

の求愛を拒絶します。モントレーは一目惚れで取り

乱してしまったと述べ、希望を持たせて欲しいという

意志から、「災難の時は身命を擲ってお力になり

す」と言って名刺を渡して去ります。

 

 バチストが現れ、モントレーが贈った花束に、嫉妬か

怒りを露にします。

 

 ギャランスは、モントレーの花は「お葬式みたい」と

言ったことを語り、「誰が愛していないと言ったの?」

と問います。

 

  「私よ」

 

 ナタリーが現れました。ギャランスに恋の宣戦布告を

宣言したのです。

 

  「よせ、ナタリー」

 

  バチストは冷静さを取り戻して、今度はナタリーを

諌めます。

 

 バチストを巡るギャランスとナタリーの戦いも激しく

なります。

 

 ラスネールはフォレスチエという変名で下宿グラン・

ルレーに入居するふりをして、集金人が来た時に襲

撃しようという計画を立てていました。

 

 計画の当日、ラスネールとアヴリルは、集金人に

殴りかかりますが、叫ばれて逃げます。

 

 

 グラン・ルレーにギャランスが帰室すると、警視・

巡査たちが捜査・尋問していました。

 

 グラン・ルレーの主人マダム・エルミーヌは警視に

「あの女です」と語り、フォレスチエ(実はラスネール)

とギャランスが親しかったことを告げます。フレデリック

と恋仲になったことから、女主人はギャランスに対して

否定的な見方をしていました。

 

 ギャランスは、警視の尋問を聞き、ギャランスとは

渾名で、本名はクレールであることを語り、洗濯女

として働いた過去を語り、フォレスチエは知らないと

告げ、集金人襲撃事件とは一切関わりないと無実を

宣言します。

 

 時計掏摸事件の巡査が、偶然にも、警官の部下と

して共に捜査をしており、フォレスチエの人相の聞き

書きから、時計掏摸事件の犯人であり、「この女も

側にいました。グルだったんだ」と言い出します。

 

 巡査が態度を豹変したことにギャランスは落胆し

ますが、警視が顎に触れてくるので、「触らないで」

と気丈に言い放ちます。

 

 無実を主張するギャランスに、警視は「荷造りしろ」

と命令し、逮捕・連行しようとします。

 

  「取扱いご注意よ」

 

 ギャランスは、一枚の名刺を取り出して、警視に渡す

のでした。

 

 ☆マルセル・カルネ演出・ジャック・プレヴェール脚本

が描く永遠不滅の大傑作☆

  この映画について、「宇宙的スケール」という表現

で語られることがありますが、同感であります。

 

 永遠普遍であり、宇宙の歴史において絢爛と輝き、

その永遠性・普遍性において匹敵するのではないか

と思われる存在感を放っている映画が、『天井桟敷の

人々』です。

 

 完璧な作品・完全無欠の名作であると思います。

 文学・音楽・演劇・美術に学びつつ、それらの尊さ

と魅力を鮮やかに吸収して包み取っている総合芸術・

集大成的娯楽としての映画でもあります。

 

 

 ジャック・プレヴェールの脚本は精密・精緻な構成の

元に広大無辺の物語を書きました。

 

 「恋する二人にパリは狭し」

 

 「恋なんて簡単よ」


 

 台詞の美しさに感嘆します。

 

 ジャン=ガスパール・ドビュロー(バチスト)、フレデリッ

ク・ルメートル、ピエール・フランソワ・ラスネールは実在

の人物です。歴史上の人物に登場してもらい、縦横無尽

に壮大なドラマの中で活躍して貰う。この偉業を成し遂げ

たプレヴェールの功績は絶大であります。

 

 無言劇・シェイクスピア劇に命を燃やす役者達の青春

がドラマを熱くします。

 

 ジャン=ルイ・バローの無言劇は純粋で強烈で切なさを極

め、バチストの一途な愛を象徴しているようです。

 

 前述しましように、ピエロ・女神・道化師の三角関係の無言

劇は、バチスト・ギャランス・フレデリックの恋のドラマと呼応

し、凄まじい迫力が銀幕に溢れます。

 

 ピエール・ブラッスールのフレデリックは堂々たる台詞回し

でシェイクスピアの言葉を読みます。『白い男』では、フレデリ

ックにとって長年の課題であったオセロー役が劇中劇で映り

ますが、嫉妬に燃えてしまい判断力を失い、凶行に突き進んで

しまうオセローの悲劇を、ブラッスールが渾身の熱演で勤め

ます。

 

 劇中劇の時間は短いのですが、映像史上のシェイクスピア

劇の大傑作として讃えています。

 

 アルレッティの妖艶で華麗な美しさに感嘆しました。

 

 男達から愛され、男達が命を賭けて奪い合おうとする美女

の魅力が咲き誇っています。

 

 アルレッティは1898年5月15日生まれ。この映画の公開時

は満年齢47歳だったのですが、美しさは壮麗です。

 

 ナタリー役のマリア・カザレスは清純無垢な美しさが光って

います。

 

 誇り高き野心家の怪盗ピエール・フランソワ・ラスネール

は名優マルセル・エランの当たり役です。掏摸事件では疑い

がかかっても構わず逃げて、ギャランスに迷惑をかけて、彼

女に惹かれつつも、強盗という方法で社会と戦うラスネール。

 

 傲慢さを隠さず、愛しいギャランスに朗々と愛を語るモント

レー。

 

 ルイ・サルーの重厚で深い台詞回しが印象的です。

 

 第二部『白い男』では、ギャランスを巡って、フレデリック、

ラスネール、モントレーの三者が、熱きドラマを展開します。

 

 視覚が不自由な浮浪者に扮しつつ、実は視力があって、

鑑定をしている老人絹糸を、渋い名優ガストン・モドーが

勤めます。

 

 ジャン・ルノワール監督『大いなる幻影』『ゲームの規則』

においても活躍した大名優です。

 

 ジャンの兄ピエール・ルノワールが古着屋ジェリコを渋く

勤めて、永遠普遍の物語を締めてくれています。強かで

世渡り上手の古着屋ですが、ナタリーへの気遣いには優

しさが光ります。ナタリーを裏切ってしまっているという痛み

を突かれて、バチストは、ジェリコに怒りをぶつけます。

 

 ジェリコがバチストに抱く感情は父性愛であり、先輩が

後輩に対する兄弟愛のような思いでもあります。バチスト

は「お前は嫌いだ」と怒鳴り、反抗期を隠さずに否定しま

す。

 

 バチスト、フレデリックは青春という意味で、カルネ・プレ

ヴェールの分身であり、ラスネール・モントレーは「誇り」、

ジェリコは「老い」ということで、作者の心を現していると

観れると思うのです。

 

 秀麗な美貌のギャランス。

 

 

 パントマイムに燃えつつ、一途な愛に生きるバチスト。


 

 シェイクスピア劇に情熱を燃やし、ギャランスへの想い

とバチストへの友情を共に確かめるフレデリック。

 

 父のごとくバチストを親身に見守って怒鳴られる好々爺

のジェリコ。

 

 清純無垢で一途で優しい女性ナタリー。


 

 独占欲に満ちた愛に燃えて、恋敵に怒りを隠さぬナルシ

ストのモントレー。

 

 社会に挑戦しつつ、愛するギャランスへの想いを認め

ざるを得なくなる怪盗ピエール・フランソワ・ラスネール。

 

 七人の男女のドラマは、無限の美しさを魅せます。

 

 第二部『白い男』も名台詞が綺羅星のように語られます。


 

   フレデリック「この嫉妬こそ役立つ。そして必要なのだ。

           有難う。君らのおかげで、ついにオセロを

           演じることができる」

 

   ギャランス「昔は良かった。幸福な日々・・・・・・

          甘い生活・・・・・・。」


 

   

  La vie belle.(人生は美しい。)

 

 

  七人の愛のドラマは、熱く燃えます。


 

  昭和五十九年(1984年)四月二十日、この映画を鑑賞して

映画の生命が生き生きと生きていることを実感しました。

 

 地球映画史上オールタイムベストワンでは小さすぎると思い

ます。

 

 オンリーワンの中のオンリーワンであり、唯一性を極めてい

ます。

 

 この日大感激して、二日後の四月二十二日にもう一度見て

改めて感激しました。

 

 その後も、『天井棧敷の人々』に育てられて歩みました。

 

 フランス語を学ぼうと思い立った動機も、この映画を鑑賞し

た感動です。今の自分のフランス語も酷いものですが、日常

会話の初歩ならば、初対面のフランス語圏の方と語ります。

 

 京都は外国人の方が多く来られて、英語で道案内の質問

を聞く事も少なくありません。フランス語圏の方にフランス語

で答えて、「どうしてフランス語を勉強するようになったの?」

と聞かれて、「『天井棧敷の人々』を高校生の時代に見て感激

したからです」と答えると、喜んでもらえました。

 

 平成十三年(2001年)四月二十八日シアター1200(現・京都

劇場)における三度目の鑑賞では、感極まって、感涙の涙を

流してしまいました。

 

 平成二十二年(2010年)七月十九日TOHOシネマズ二条で

は午前十時の映画祭で上映されました。この日は暑かったな

ぁ。195分一挙上映で、「犯罪大通り」と「白い男」の間に休憩

が無かったことが、ちょっと違和感がありましたね。過去三回

では休憩がありました。この当たりに、上映スタッフが若くな

って、大作名画の上映方法への慣れの問題を思いました。

 

 三時間以上の大作の上映では、制作陣が前編と後編の間

に休憩の時間を取っているのですから、休憩時間は入れる

べきだと思います。

 

 その問題は思いましたが、TOHOシネマズ二条における195

分一挙上映においても大感激しました。

 

 本日初鑑賞三十一年記念日です。作品全体の感想記事は

後日発表します。

 

 La vie belle.

 

 

 

 


 

  参考文献 『天井棧敷の人々』 解説・シナリオ採録

                      山田宏一

         2000年12月5日第一刷印刷

         ワイズ出版

 

 参考資料 『天井棧敷の人々』DVD