新必殺仕置人 貸借無用(一)
『新必殺仕置人』「貸借無用」
テレビ映画 トーキー
54分 カラー(一部白黒)
放映日 昭和五十二年(1977年)三月四日
オープニングナレーション
のさばる悪を なんとする
天の裁きは 待ってはおれぬ
この世の正義も あてにはならぬ
闇に裁いて 仕置する
南無阿弥陀仏
☆感想記事ではドラマの物語のネ
タバレをにしています。
☆暴力・性暴力・残虐シーンについて
の記述があります。
☆未見の方・女性の方・十八歳未満の
方はご注意ください。
☆ドラマは安易に暴力を肯定するもの
ではありません。
柳湯で働く湯女の入浴を覗く若者が居
た。浅草の大親分羅漢寺政五郎の一人
息子重吉だ。
念仏の鉄は美人の湯女おかねと遊
んでいた。
深夜。
仕事を終えた湯女達は「男ってしつこく
てやーね」と語り合って別れる。おかねは
後を追ってきた重吉に鳥居で襲われて殺
害される。
重吉はおかねの遺体に性暴力行為を
犯し、剃刀を出して微笑んで傷つけた。
同心村上兵之進が事件を調査する。与力
高井は奉行所で同心中村主水が昼寝して
いることを叱責する。村上が「湯女が殺され
ズタズタに斬られました」と報告する。
残虐な犯行に対して、与力高井は中村主
水に「村上の尻にくっついてでも下手人を捕
えよ!」と厳命する。
主水は愛犬コロともに村上に従うが、村上
は「なんとかならんのか、その犬」と叱り、羅
漢寺の妾宅に入る。
村上は重吉の父、政五郎に買収されてい
た。大金を出して「息子を助けて頂けませ
んか」と政五郎は頼む。村上は身代わりの
下手人を作るしかねえ」と提案する。重吉
がしつこく女を狙っていることを知り、政五
郎は「女が欲しけりゃ吉原に行きゃいいじゃ
ねえか!」と溺愛する息子を殴り、子分に部
屋から出さないようにと命ずる。
風呂屋に薪を入れている仙太が無実の罪
で捕えられ、村上の拷問を受ける。村上は
手拭や刃物の証拠を仙太の部屋に入れて
無実の彼を罪に陥れようと画策し竹で打擲
する。
仙太の姉の女郎お袖は、弟の無実を確信
し奉行所に訴えるが門前払いをされる。主水
は彼女の眼に強烈な印象を受ける。
正八が本を売り歩くと、女郎は「あたしゃ文
字のあるのは駄目」と言われ絵草紙を勧め
る。
お袖は正八の顔の広さを見込み、部屋に
呼び、「仕置人に頼んで欲しい」と二両の金
を出し、政五郎と村上を殺して欲しいと依頼
を語る。
仙太は重吉の犯行を見ていたが、怖くて
届けられなかった。この会話を偶々隣室に
遊びに来ていた政五郎の配下のやくざ妙法
の七に聞かれてしまった。
「頂くもの頂きますね」と語り正八はお袖と
遊ぶ。
鉄は激怒し羅漢寺政五郎と同心村上兵之
進を二両で仕置できるかと怒り、正八の「可
哀相」の言葉を聞いて更に激怒し、「俺は可
哀相とか気の毒とか聞くと頭に来るんだ」と
語り、正八を蹴飛ばして、飯を顔に塗って、「
金を返して来い」と命じる。
正八は鉄に命じられるまま、金を持ってお
袖の部屋に向かう。その頃、お袖は体調を
崩し、部屋にやってきた男達に「具合が悪い
んだ。又にしおくれ」と頼む。だが男達は妙法
の七とその子分達だった。七は「おめえに話
があるんだ」と背後に回り、お袖の首を絞めて
お袖は七ら政五郎の配下に殺害される。
正八がおていと語り合っていると、妙法の
七とその部下に呼び出される。おていが
一人言を語る間に戸は絞められ、正八は
拉致され殴る蹴るの暴行を受ける。おてい
は暴行の音から正八の命が狙われている
ことを察し、咄嗟の機転で魚が焼ける匂い
から「火事だ」と叫び観音長屋の住人を起こ
した。七は残念に思いつつも仲間と共に逃げ
て正八は命を取り留める。
翌朝。おそでは首つり死体となっていた。
村上は「自殺だな」と決める。女郎は「お袖
ちゃんは弟の無罪を晴らそうとしていた。自殺
じゃねえよ」と語り、村上からビンタを受けて、
叩き出された。
牢から仙太を呼ぶ村上は「おめえ。下手人を
知ってるんだってな」と問い、頷かれると、「初
めからそう言えばいんだ。」と微笑み、茶碗に
入れた薬を見せ「飲みな」と命じる仙太が断る
と村上は無理矢理顎を抑え「何。おめえの命ま
で取りゃしねえ。喉を潰すだけよ」と茶碗に入
った水銀を飲ませ、喉を潰し喋る力を奪う。
強大な力を誇る政五郎と村上の陰謀により、
重吉は守られ、逆らう者は潰される。主水は
牢で仙太と会い仙太は主水の手に指で、「ノド
ヲツブサレタ。ウラミヲ」と書く。「村上が」と主水
は直感する。
寅の会で政五郎・村上の仕置が競りにかけ
られる。他の仕置人達が怖がっている中、鉄は
「頼み人は誰なのか?」と疑問に思いつつ、五
十両で仕置を落札する。
鉄は「俺の我儘」で無謀とも言える政五郎・村
上への挑戦を選び取った。羅漢寺政五郎・村上
兵之進という強敵相手の仕事は命がけであり、
「五十両でも安い」と感じる仕置人達の意識を察
しつつ自身の決意仲間達に述べる。
鉄「正直言って、今度の仕事は俺の我儘
だ。嫌なら降りろ。」
巳代松「おい鉄つぁん、誰が降りると言った?
水臭え言い草は無しにしてもれえて
えな」
正八「俺だって、このままじゃ、腹の虫が治ま
らねえ」
おてい「あたしだって、お金が欲しいもん」
主水は激しく咳き込む。
鉄「もういい、もういい!
お前はもう、帰れ!」
主水「そうさしてもらうわ」
正八が羅漢寺に詫びを入れて住み込みで働く。
それは仲間の仕置人に情報を伝える為だった。
主水は奉行所の手入れの時を縫って羅漢寺
一家の仕置を為すことを計画する。
村上が形式的に手入れをする。
捕手の一人に鉄が扮していた。
鉄は、おかね・お袖の仇討もこめて羅漢寺を
狙う。
政五郎は鉄に捕えられ、村上に助けを求める
が、気づいてもらえない。
鉄は政五郎の骨を外して殺害する。
重吉は騒ぎにまぎれて、女性を狙いに行く。
そこへおていが現れて、「若旦那が覗いてた、
お・ん・な」と名乗って誘惑する。
狼藉を働こうとする重吉に、おていは、
ここは若旦那が弱い女をさんざん
弄んで殺した場所じゃないですか?
お前なんか地獄に堕ちて死んじまえ
と語る。
松の竹鉄砲が重吉を狙う。
村上は咳払いする主水の声を聞いた。
主水「わたくしに頂くものをお忘れかと」
村上「金か?」
主水「いいえ」
村上は主水に秘密を握られたことを察知し
刀を抜くが、主水に斬られる。
主水「おめえの命だ!」
☆☆☆
『新必殺仕置人』「貸借無用」から大いなる
衝撃を受けた。最も強い驚きを与えてくれた
テレビドラマである。
自分にとっては、テレビだけでなく、映画や
演劇や音楽や文学も含めて、「驚き」という事
柄では最大の作品が『新必殺仕置人』「貸借無
用」である。
ドラマのシナリオを執筆した人は、
大和屋竺(やまとや・あつし)である。
昭和十二年(1937年)六月十九日、北海道に
誕生された。早稲田大学を卒業後、日活におい
て脚本家・俳優として活躍された。
鈴木清順・木村威夫・田中陽造・曾根中生・岡
田裕・山口清一郎・榛名泰明と「具流八郎」を結成
した。
映画『殺しの烙印』は脚本具流八郎、主演宍戸
錠、共演真理アンヌ・大和屋竺・南原宏治、監督
鈴木清順のチームによって日活において製作され、
昭和四十二年(1967年)六月十五日に公開された。
殺し屋の悲しみを描いた大傑作であり、不思議な
ムードは強烈である。
だが、日活から「わからない映画を作る監督はい
らない」という理由で清順監督は解雇され、清順さ
んは日活を提訴し後に和解するという大事件を呼
び起こした。
大和屋竺は殺し屋役で俳優としても出演し、凄み
を見せた。
その後、テレビアニメドラマ『ルパン三世』におい
て数多くの傑作脚本を執筆された。
昭和四十八年(1973年)十二月十五日には監督
作品『愛欲の罠』が公開されている。
私は『殺しの烙印』に大感激した。この大傑作の
四十日後に誕生したことを誇りに思っている。
だが、『愛欲の罠』は未見である。是非見たい。
大和屋竺の脚本には、悲しみと怒りと鋭さと切なさ
が光る。
「貸借無用」はその全てを集成した大傑作と言える
だろう。
推理ドラマとしての完成度は完全無欠・完璧
である。
「貸借無用」は、大和屋・松野の情熱が燃えた
れた作品であり、完璧な大傑作である。
妙法の七を勤めた俳優は田中弘史。
凄みと怖さは強烈である。
『上方芸能』「文楽を守れ」において、橋下徹
市長の文楽誹謗・文化切り捨ての政策に対して、
堂々と「愚策」と叱責されている。
「貸借無用」で演技において強大な悪を表現し
た田中は、実生活では巨悪に立ち向かい勇気を
持って、「悪を止めろ」と語る義人であらせられる。
重吉の残酷な犯行を最初に見せ、村上や羅漢
寺の無実の仙太が水銀で喉を潰され、お袖は殺
害される。
仕置人たちが五十両の金で強大な敵である
羅漢寺と村上に挑む姿に、大和屋竺は「抵抗」
の精神をこめたと思われる。
キャスト
藤田まこと(中村主水)
中村嘉葎雄(巳代松)
火野正平(正八)
中尾ミエ(おてい)
河原崎建三(死神)
草薙幸二郎(村上兵之進)
片桐夕子(お袖)
平野康(重吉)
松本龍幸(仙太)
池田幸路(おまん)
藤村富美男(虎)
辻万長(与力高井)
鈴木淳(代貸久六)
田中弘史(妙法の七)
北村光生(吉蔵)
三笠敬子(お熊)
山口じゅん(おかね)
中塚和代(お糸)
乃木年雄(牢番)
平井靖(三ん下)
東悦史(三ん下)
松尾勝人(小者)
美鷹健児(子分)
横堀秀勝(子分)
鈴木義章(岡っ引)
瀬下和久(闇の俳諧師)
藤沢薫(闇の俳諧師)
原聖四郎(闇の俳諧師)
堀北幸夫(闇の俳諧師)
沖時男(闇の俳諧師)
須賀不二男(羅漢寺政五郎)
菅井きん(中村せん)
白木万理(中村りつ)
山崎努(念仏の鉄)
スタッフ
制作 山内久司(朝日放送)
仲川利久(朝日放送)
桜井洋三(松竹)
脚本 大和屋竺
音楽 平尾昌晃
編曲 竜崎孝路
撮影 石原興
製作主任 渡辺寿男
美術 川村鬼世志
照明 中島利男
録音 木村清次郎
調音 本田文人
編集 園井弘一
助監督 高坂光幸
装飾 玉井憲一
記録 杉山栄理子
進行 黒田満重
特技 宍戸大全
装置 新映美術工芸
床山結髪 八木かつら
衣装 松竹衣裳
小道具 高津商会
現像 東洋現像所
制作補 佐生哲雄
殺陣 美山晋八
布目真爾
題字 糸見渓南
ナレーター 芥川隆行
オープニング
ナレーション作 早坂暁
予告編ナレーター 野島一郎
主題歌 あかね雲
作曲 平尾昌晃
編曲 竜崎孝路
唄 川田ともこ
東芝レコード
監督 松野宏軌
制作協力 京都映画株式会社
制作 朝日放送
松竹株式会社
◎
藤田まこと=はぐれ亭馬之助
中村嘉葎雄=中村賀津雄
二瓶康一→火野正平
中尾ミエ=中尾ミヱ
白木万理=松島恭子=白木マリ
山崎努=山﨑努
平尾昌晃=平尾昌章
◎
早坂暁はノークレジット
文中一部敬称略
南無阿弥陀仏