新必殺仕置人 偽善無用 | 俺の命はウルトラ・アイ

新必殺仕置人 偽善無用



 『新必殺仕置人 偽善無用』

(『新・必殺仕置人 偽善無用』)

 テレビ映画 トーキー 54分 カラー

  昭和五十二年(1977年)二月二十五日放映

 

  のさばる悪を  なんとする

  天の裁きは  待ってはおれぬ

  この世の正義も あてにはならぬ

  闇に裁いて  仕置する

 

  南無阿弥陀仏

 

  ☆☆☆
  演出の考察・シークエンスへの言及・

台詞の引用は研究・学習の為です。

 松竹様・朝日放送(ABC)様におかれ

ましては、お許しと御理解を賜りますよ

うお願い申し上げます。

 

 感想では物語の核心について言及し

ます。未見の方はご注意下さい。

 

 ☆☆☆

 観音長屋のおちか婆さんは、町の人々を

ビシビシ叱る怖い存在だ。だが、一人娘おた

よを深く愛している。

 

 鳴海屋の手代佐吉は真面目・勤勉で奉公

の素晴らしさを奉行所で表彰される。

 だが、佐吉の正体は泥棒だとおちかは強く

主張する。

 

 山城屋が泥棒に入られ、主人が殺され、店

の大金が盗まれた事件において、盗賊の手

引きをした人物が佐吉なのだとおちかは語る。

 

 佐吉はおたよを誘惑し、彼女は真面目な人

と佐吉を想い真剣に愛し合っていた。おちか

は大切な娘が悪党だと確信している佐吉に

惚れていることに危機感を抱く。

 

 長屋で力強く歩む婆さんは松や住民達に物

の置き方が悪いかと厳しく叱声を浴びせる。鉄

のほねつぎの看板で額を打って、おちかは怒

る。

 

 鉄はおちかの足腰を按摩で揉んであげるが

おちか婆さんは鉄にも強く言い張る気性の持ち

主だ。

 

その彼女が佐吉は極悪人だと繰り返す。

 

 寅の会で佐吉の仕置が読まれた。頼み両は

一両であった。鉄は迷う。この仕置は競りにか

けても落札されることはなかった。頼み人は勿

論おちかだ。

 

 佐吉は手紙で母親へ挨拶することを書いて

いた。この文章に問題は盗人仲間への伝達と

仕置人は喝破する。

 

 おちかは仕置の頼み料が安かったことを思

い、三十両の金を盗んで虎・死神に改めて仕置

を頼む。

 

 寅の会が開かれた。佐吉とその仲間の仕置

が詠まれ、鉄が落札する。

 おちかは三十両の盗みを自首して主水の縛

につく。おたよは母が盗みをしたことを悲しむ。

 

 夜。佐吉はやはり強盗の手引き役だった。一

味は鳴海屋に押し込もうとしていた。佐吉の首

を太い腕が掴みかかる。鉄の手だ。佐吉は鉄に

捕まり、骨はずしで殺害される。佐吉の仲間達

は己代松と主水に仕置される。

 

 朝。おちかが島送りになる日が来た。

 

 主水が見届ける。

 

 おちかは「中村様。娘を頼みます。」とおたよの

ことを頼む。主水は頷く。島の勤めは年寄りに厳

しいことを案じる。

 おちかはこうれくらいのことで死にゃしませんと

元気に語った。

 

 ☆☆☆清川虹子のおちかの母性☆☆☆

 

 『新必殺仕置人』はゲスト清川虹子のドラ

マだ。中村勝行のシナリオは初めから清川

おっかさんを想定したのではないかと思わ

れる程の当たり役だ。

 

 

 口うるさくて喧しく自他に厳しいが、娘への愛

は人一倍熱い。町で真面目な勤勉青年と評判

の佐吉が極悪人だと見破って語る。ドラマは

本当に佐吉が悪党なのだろうかという興味を

視聴者の心に呼び起こし、グイグイ緊張感を

持って引っ張ってくれる。

 

 森下哲夫が繊細で優しそうな佐吉を鋭く勤め

る。クライマックスまで佐吉が悪党であるかどう

かわからない展開にゾクゾクする。

 

 吉本真由美のおたよは可憐で綺麗で無垢な

娘心を鮮やかに見せてくれる。

 

 与力役で酒井哲が登場する。『仁義なき戦い』

シリーズで語りを担当された方だが、渋い声を

此処でも聞かせてくれる。

 

 鉄は男娼の若者とも仲良くする。観音長屋は

住民達が支え合って暮らしている場所なのだ。

 

 山﨑努が清川虹子をマッサージして、虹子お

かっさんが山さんに力強く語るシーンも名場面

だ。念仏の鉄を怖がらないおちか婆さんは肝っ

玉のひとだ。

 

 『必殺仕置人』の時代から登場している観音

長屋の住人たち。『仕置人』サーガの影の主役

と言えると思う。

 

 おちかはその観音長屋のおっかさんでもある

のだ。ビシバシ住民を叱り怒鳴るが、その根底

には深い愛情がある。

 

 三十両を盗んで仕置料を工面し、自身は盗み

の罪で島送りになる。おたよは自分が罪を被り

たいと望むが、そのこころを察しつつも主水はお

ちかが娘の幸を願っていることを知り、おちかの

望みが叶えるように計らう。

 

 この情のドラマの暖かさを清川虹子と藤田まこ

との重厚な演技が静かに語ってくれる。

 

 ラストの清川虹子と藤田まことの語り合いは

名場面の白眉であり、親子愛の熱さと見届ける

者の優しさを、深く伝えてくれる。

 

                   文中一部敬称略


 

                        合掌

 

 キャスト

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 中村嘉葎雄(己代松)

 

 

 火野正平(正八)

 

 

 中尾ミエ(おてい)

 

 

 河原崎建三(死神)

 

 

 

 森下哲夫(佐吉)

 吉本真由美(おたよ)

 

 伊東亮英(鳴海屋)
 田畑猛雄(伝次)

 柳原久仁夫(弥助)

 

 

 藤村富美男(元締虎)


 北村光生(吉蔵)

 滝譲二(藤吉)

 酒井哲(与力)

 山口幸生(同心)

 

 浜田雅史(同心)

 河野実(同心)

 吉川珠重(同心)

 淀神勝利(船頭)

 

 佐名手ひろ子(長屋の女)

 町田米子(長屋の女)

 小笠原町子(長屋の女)

 藤川準(客)

 

 

 瀬下和久(俳諧師)

 藤沢薫(俳諧師)

 原聖四郎(俳諧師)

 堀北幸夫(俳諧師)

 

 

 清川虹子(おちか)

 

 

 菅井きん(中村せん)

 

 白木万理(中村りつ)

 

 

 

 山崎努(念仏の鉄)

 

 

 



 

 


 スタッフ
 

 

 制作   山内久司(朝日放送)

      仲川利久(朝日放送)

      桜井洋三(松竹)

 

 

 脚本          中村勝行
 

 

 音楽          平尾昌晃

 編曲          竜崎孝路

 


 撮影          石原興

 製作主任       渡辺寿男

 

 美術          川村鬼世志

 照明          中島利男

 録音          木村清次郎

 調音          本田文人 

 編集          園井弘一

 

 助監督        高坂光幸

 装飾         玉井憲一

 記録         杉山栄理子

 進行         黒田満重

 特技         宍戸大全

 

 装置          新映美術工芸

 床山結髪       八木かつら

 衣装          松竹衣裳

 小道具         高津商会

 現像          東洋現像所

 


 

 制作補         佐生哲雄

 殺陣           美山晋八

               布目真爾

 題字           糸見渓南

 

 ナレーター       芥川隆行

 


 オープニング 

 ナレーション作     早坂暁

 予告編ナレーター   野島一郎

 


主題歌          あかね雲

 作曲           平尾昌晃

 編曲           竜崎孝路

 唄             川田ともこ

              東芝レコード

 



 監督           大熊邦也

 


 制作協力        京都映画株式会社

 

 制作            朝日放送

                松竹株式会社

 

 ☆☆

 

 藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 中村賀津雄→中村嘉葎雄

 

 二瓶康一→火野正平

 

 中尾ミエ=中尾ミヱ

 

 白木万理=松島恭子=白木マリ

 

 

 山崎努=山﨑努

 

 

 中村勝行=黒崎裕一郎

 

 平尾昌晃=平尾昌章

 ☆☆

 早坂暁・野島一郎はノークレジット

 ☆☆

 「己代松」の表記は本編字幕に依った

 ☆☆

 

 (画像出典 『新必殺仕置人』DVD vol.2)

 

  2015年2月25日の記事に加筆し

 2017年3月4日に再発表します。

 

                 南無阿弥陀仏