新必殺仕置人 暴徒無用 | 俺の命はウルトラ・アイ

新必殺仕置人 暴徒無用



『新必殺仕置人 暴徒無用』

  テレビ 54分 カラー

 昭和五十二年(1977年)二月十一日放映

 

  のさばる悪を  なんとする

   天の裁きは  待ってはおれぬ

  この世の正義も あてにはならぬ

   闇に裁いて  仕置する

  南無阿弥陀仏

  ☆☆☆
  演出の考察・シークエンスへの言及・台詞

の引用は研究・学習の為です。


 松竹様・朝日放送(ABC)様におかれましては、

お許しと御理解を賜りますようお願い申し上げま

す。

 

 

 感想では本作と『必殺仕置人 利用する奴され

る奴』の物語の核心について言及します。両作品

を未見の方はご注意下さい。

 ☆☆☆

 

 

 江戸の街

 

 旅人に宿を勧めるふりをして、おていと正八

は胴巻を掏る。中には十三両の金があった。

 

おてい・正八から金を見せられ、分け前を取

る鉄は、胴巻きに同封されていた手紙をを聞き、

中の文面を読んで驚く。

 

 虎宛の仕置の依頼であった。

 

 死神が監視に来て、「頼み人の金を掏っては

いけない」と叱って、金を返却させる。

 

 虎の会。

 

 元締配下の吉蔵が句を読み上げる。

 

 仕置の相手は影沢村を占領している暴徒霞

の伊右衛門だ。

 

 十三両の頼み両で、鉄が六両で競り落とす。

女仕置人が鉄の安い仕置両に抗議するが、鉄

は「死神が見てるぜ」と警告する。

 

 安い報酬に主水と松は不満である。

 

  鉄「今度の仕事は久しぶりに俺一人か。今

    度の相手は相当に手強そうだぞ。」

 

 奥多摩を支配する賊徒霞の伊右衛門に苦し

召られている影沢村の住民達が虎に仕置を依

頼した。

 

 正八が奥多摩へ行って絵草子売りをしながら

調査する。伊右衛門は山道を封鎖しており、入

ってきた者達を捕えていた。仕置の頼み人二人

が伊右衛門に拉致されたうえ、射殺される。

 部下は伊右衛門の腕を褒めるが、伊右衛門自身

は銃に錆があったことを怒り、銃で部下を打擲する。

 

 鉄は座頭に扮して、松と共に影沢村に向かう。主

水はせんとりつに出張と偽、鉄・松と共に影沢村に

向かう。

 

 伊右衛門部下二人が、鉄・松と対立するが、主水

が十手の力で、鉄・松と共に通る。

 

 三人は影沢村に着いた。松が座っている老人に村

について問うと、老人は座ったまま餓死していた。

 

 村長宗兵エと出会った三人は、村の苦境を教わ

る。

 

 影沢村は飢饉に苦しめられていた。村長宗兵エ

は食糧の米が無くなり、犬猫も食べてしまった惨状

であると語る。

 

 宗兵エは村の娘香絵を妾に差し出せと求めてき

た伊右衛門の要求を断り、苦しめられ、仕置を決意

したのだ。

 

 

 鉄は村の女が香絵に米の飯を運んでいる光景

を見て驚く。

 

 影沢村の住民は平家の落人の末裔であった。

村には美しい娘が生まれる。大飢饉に襲われた

際には、都の富裕な者達に美人の娘を売って、

村の危機を突破してきたのだった。

 

 伊右衛門の手下に香絵が強奪された。

 

 鉄・松が伊右衛門の邸に向かう。

 

 松が護衛の浪人高木を竹鉄砲で狙う。

 

 伊右衛門は香絵を奪った感動で胸が一杯になり、

彼女に愛を告白する。

 

   「美しい。影沢の女は美しい。

   儂はお前が欲しかった。影沢で一目お前を見

   た時から、儂の目は眩んだ。世の中の全ての

   女が疎ましゅうなり、女房や仰山居た女達も

   追い出してしもうた。

   お前さえ居てくれれば霞の伊右衛門は滅んで

   も良いのじゃ!」

 

 

 伊右衛門は香絵の着物を脱がせる。裸にされた

香絵は全く動ぜず歌を歌う。その光景に伊右衛門

は見とれる。

 

 そこへ鉄が入ってきた。

 

  
   伊右衛門「貴様は?」

 

   鉄「江戸から来た按摩でございます。」

 

   伊右衛門「用は無い、失せろ!」

 

   鉄「そう仰らずにたっぷりと揉ませて頂きます。」

 

 松は高木を二間の距離に誘き寄せて射殺する。

 

 
 

 伊右衛門は鉄に「失せろと言うに」と怒鳴る。

 

 鉄は伊右衛門を俯せにして背骨を外して殺害し、

香絵を救出する。

 

 村には香絵が戻ってきた。

 

 鉄・松は江戸へ帰った。

 

 宗兵エは鉄・松・主水の正体がただならぬ者で

あることを感じつつ、主水に自分一人の胸にしま

うので、あなたも見たことを忘れて欲しいと頼む。

 

 主水も承諾する。

 

 影沢村に都の金持ちが香絵を妾に買いに来て

村に金や米が齎される。

 

 別れの宴が催され、香絵は踊る。

 

   主水「宗兵エ殿。私には腑に落ちんことがあ

      る。どうして娘を伊右衛門に売らなかった

      のですか?」

 

 

   宗兵エ「それは村の掟じゃ。影沢の女は都の

        高貴なお方にお売りするのじゃ。それ

        がこの村の掟じゃ。」


 

 ☆☆安倍徹郎脚本は美しい☆☆


 安倍徹郎が久々に念仏の鉄の物語を書く。

『仕置人』サーガを学ぶ者にとって胸がときめき

緊張する事柄である。『必殺仕置人』において、

安倍は第三回「はみだし者に情なし」(昭和四十

八年五月五日放映)・第九回「利用する奴され

る奴」(昭和四十八年六月十六日放映)の脚本

を書いている。この二本は共に松本明が監督を

担当した。

 

 前者は「高貴なお方」の男達に弄ばれ斬殺され

た女達の恨みを受けて、主水が地獄の奉行所を

宣言する物語である。

 

 後者は鉄が愛した女お順の絶対的な愛を語る

物語である。順は恋人清造に利用され裏切られ

捨てられる。だが、裏切られ、生命を傷つけられ

ても、清造への愛を貫き通す。

 安倍徹郎が探求した愛の永遠性に息を呑んだ。

 

 野上龍雄と共に『必殺仕置人』の傑作ドラマを

書いた安倍徹郎。『必殺シリーズ』を支えた脚本

家である。

 

 安倍徹郎は昭和三年(1928年)八月二十九日

に東京中野区に誕生した。早稲田大学英文科

を経て脚本家として沢山の傑作シナリオを発表

された。日本共産党党員としても活躍された。

 

 池波正太郎の信頼は篤く、小説のエピソード

を多数脚色している。『必殺仕置人』が放映さ

れていた昭和四十八年は、加藤剛・山形勲版

『剣客商売』の脚本も担当されている。その執筆

力の凄まじさに驚嘆する。

 

 安倍徹郎脚本の魅力は、心の深さの探求であ

ろう。人いちにんの心の世界は繊細であり、他

者が理解することは難しい。人間関係の中で人

はそれぞれの心の世界を抱き持っていることを

深い筆致で洞察される。

 

 「利用する奴される奴」では騙され、苦しめられ、

致命傷まで負わされたお順が、幻影の中の清造

を愛する生き方・死に方に、無限の愛が語られた。

 

 『新必殺仕置人 暴徒無用』において安倍徹郎

は「美」を探求する。ドラマの構成は絶妙であり、

緊張感に満ちている。江戸の街でおていと正八

は掏摸で十三両の金を稼いで、仲間の鉄と喜ぶ

が、頼み人が虎に頼んだ仕置の金で、恐怖を覚

え、死神にバレてしまう。

 

 それでも金の横領のみだったので、処刑は勘弁

されて、競りにも参加されて六両で競り落とす。

俳諧師の女仕置人から鉄は安く競り落とすことを

注意される。

 

 大映映画のスター阿井美千子の風格と貫録は

重い。鉄は「死神が見てるぜ」と警告する。この

シーンでは河原崎建三が登場せずに、山﨑努

の台詞で死神の存在感を語る。

 

 仕置は影沢村が場である。松と主水は出張の

仕置を嫌がるが、鉄は仕置料の分け前が増える

と喜び、二人も同道する。休暇を取って甲府出張

と偽る主水は、せんにばれるが「お奉行の密命」

と咄嗟の嘘で切り抜ける。

 

 正八が絵草子行商で影沢村を探索する。

 

 伊右衛門の手下に江戸で胴巻を掏った頼み人

が捕えられる。頼み人二人は影沢村に帰ってき

たが、暴徒達に捕えられたのだ。伊右衛門は二人

に「放してやる」と解放を宣言し、二人が歩み出す

と背後から試し撃ちで狙撃するという酷い殺し方

で惨殺する。

 

 更に鉄砲の手入れで部下を叱責し殴る。

 

 このシーンの遠藤太津朗の悪役演技は凄まじい。

昭和の悪役名優の第一人者の風格がある。

 

 鉄が座頭に扮する。このあたりに『新・座頭市』を

意識したのかなとも思う。松と共に影沢村に行き、

伊右衛門の部下から追求されるが、主水の十手の

力で危機を突破する。

 

 飢饉に喘ぐ影沢村の惨状を村長の宗兵エから

聞かされる。

 

 名優岩田直二の渋い演技が、苦悩の中で村を

守る男の生き方を伝える。岩田は大正三年(1914

年)三月二十五日大阪市生まれ。『必殺シリーズ』

においても数多くの名演を発表された。


 

 平家の末裔である影沢村村民は、美しい娘を都

の金持ちに売って村の飢えをしのいでいた。凄絶な

事柄である。

 

 松野宏軌や安倍徹郎が少年時代の日本におい

ては、一家の困窮を救う為に娘達が苦界に身を沈め

売られていた時代でもあった。

 

 江戸時代の日本では人身売買が表向きは禁止さ

れていたが、娘達を売ることは行われていた。

 

 実質的には人身売買は為されていた。

 

 安倍徹郎脚本には深い悲しみがある。村を救う為に

美女が犠牲になる。

 

 村民達は飢えを忍び、娘にだけは白米の食事を与

え、金持ちに売れる日を待っていたのだ。

 

 娘香絵が伊右衛門に略奪されてしまう。村の生命線

を奪われ、宗兵エが奪還を呼びかけるが、主水が制す

る。

 

 松と高木の戦いは、誘導作戦で松が勝利するが、こ

の仕置も危機に満ちていた。

 

 伊右衛門が愛する香絵を遂に強奪し喜びを語る場面

に、安倍徹郎脚本の美の探求がある。

 

 
   「美しい。影沢の女は美しい。

   儂はお前が欲しかった。影沢で一目お前を見

   た時から、儂の目は眩んだ。世の中の全ての

   女が疎ましゅうなり、女房や仰山居た女達も

   追い出してしもうた。

   お前さえ居てくれれば霞の伊右衛門は滅んで

   も良いのじゃ!」

 

 安倍徹郎脚本における台詞の美しさは、言葉を超え

ている。伊右衛門は香絵の美を讃える。初めて会った

時に一目惚れし目が眩み、世の中の一切の女が疎ま

しくなり、妻も愛人も追い出して、只管香絵を妾にする

ことのみを追い求め、遂にその夢を近づけた。

 

 この伊右衛門の言葉には混じり気の無い純粋な真実

がある。極悪人の彼は、残忍な殺人・強盗・占領を犯し

てまで、香絵を奪おうとした。彼をして残忍非道の暴虐を

なさ閉めた根源は、香絵への恋であったのだ。

 

 虐殺を犯す極悪人の心に深く一途で純粋な恋愛が

生まれる。ここに安倍徹郎脚本の美が光り輝く。

 

 遠藤太津朗が極悪人伊右衛門の純愛を熱演する。


    「お前さえ居てくれれば霞の伊右衛門は滅んで

    も良いのじゃ!」

 

 この言葉が彼の未来を予言するものとなってしまうこ

とにも、安倍徹郎脚本の深さがある。

 

 服を脱がされ裸にされても、香絵は全く動ぜず、歌を

平然と歌う。このシーンの浅田奈々の美貌は超絶的な

素晴らしさである。

 

 鉄が按摩として現れる。

 

 遠藤太津朗は『必殺仕置人 仏の首にナワかけろ』

(昭和四十八年五月二十九日放映、脚本山田隆之、

監督大熊邦也)で大八親分を演じている。大八は極悪

人ではないが、鉄に挑んで懲らしめられる。「暴徒無用」

では四年ぶりの山﨑努の鉄との対決である。

 

 大八とは別人に見えるところが流石である。

 

 極悪人だが、純粋な愛を抱く伊右衛門。

 

 そこに男のロマンがある。

 

 鉄は彼が愛する香絵の前で俯せに倒して、伊右衛門

の背骨を折って殺害する。

 

 この時、香絵は歌を歌って落ち着いている。

 

 ここにも、安倍徹郎脚本の冷静な美があると自分は

思う。

 

 伊右衛門は最期において命がけで愛した香絵の前で

死んだ。

 

 ここに、安倍徹郎脚本の残酷美がある。

 

 主水は、香絵に顔を見られたことを恐れるが、鉄は

香絵の胸中は不思議で、世間の在り方と質を異にし

ているので大丈夫だと確かめる。

 

 影沢村に香絵が帰還し、彼女を買う都の金持ちが

やってくる。

 

 宗兵エは、鉄・松・主水がただならぬ者であることを

知り、主水と秘密を守り合い、宴において香絵の舞を

共に見つめる。

 

 ラストの浅田奈々の美は凄まじい。

 

 主水の問いに対して、宗兵エは、暴徒の伊右衛門

に娘香絵は売られぬのであって、都の「高貴な方」

にお売りするのが村の掟だと語る。

 

 「暴徒無用」は人身売買の悲しみを語っていると

思う。だが、それだけではない。大切な娘を売って

村を守る影沢村の人々の悲痛な生き方があるが、

そこには暴徒に売って生き延びるくらいならば、滅び

を覚悟してでも、都の高貴なお方の買い取りを待つ

という掟を遵守する誇りである。

 

 貧しくても誇りを忘れずに生きる。

 

 大詰めの宗兵エの言葉は凛としていて、美しかった。

 

 岩田直二は番組放映日から丁度二十九年後の平成

十八年(2006年)二月十一日に死去された。九十一歳。

 

 『暴徒無用』は、香絵の美貌と在り方、伊右衛門の恋

と滅び、宗兵エの誇りにおいて、強靭な美を明かした

傑作である。


 

 

 キャスト

                   

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 中村嘉葎雄(巳代松)


 

 

 火野正平(正八)

 

 

 中尾ミエ(おてい)


 

 河原崎建三(死神)

 

 

 浅田奈々(香絵)

 岩田直二(宗兵エ)


 石浜祐次郎(善右衛門)

 千葉敏郎(浪人 高木)

 浜伸二(手下 玄次)

 

 

 藤村富美男(虎)

 

 

 北村光生(吉蔵)

 寺下貞信(重右エ門)

 島村昌子(たよ)

 黛康太郎(三造)

 大迫ひでき(和助)

 千葉保(茶店親爺)

 日高久(宿の主人)

 

 瀬下和久(闇の俳諧師)

 阿井美千子(闇の俳諧師)

 藤沢薫(闇の俳諧師)

 原聖四郎(闇の俳諧師)

 堀北幸夫(闇の俳諧師)

 

 

 

 遠藤太津朗(伊右衛門)


 

 菅井きん(中村せん)

 

 

 白木万理(中村りつ)

 

 

 

 山崎努(念仏の鉄)

 



 


 スタッフ

 

 

 制作      山内久司(朝日放送)

         仲川利久(朝日放送)

         桜井洋三(松竹)

 

 

 脚本           安倍徹郎
 

 音楽          平尾昌晃

 編曲          竜崎孝路

 

 撮影          石原興

 製作主任       渡辺寿男

 

 美術          川村鬼世志

 照明          中島利男

 録音          木村清次郎

 調音          本田文人 

 編集          園井弘一


 

 助監督        高坂光幸

 装飾         玉井憲一

 記録         杉山栄理子

 進行         黒田満重

 特技         宍戸大全

 
 

 装置          新映美術工芸

 床山結髪       八木かつら

 衣装          松竹衣裳

 小道具         高津商会

 現像          東洋現像所


 

 制作補         佐生哲雄

 振付           藤間勘眞次

 殺陣           美山晋八

               布目真爾

 題字           糸見渓南

 

 ナレーター       芥川隆行

 

 オープニング 

 ナレーション作     早坂暁

 予告編ナレーター   野島一郎

 

 主題歌          あかね雲

 作詞           片桐和子

 作曲           平尾昌晃

 編曲           竜崎孝路

 唄             川田ともこ

 東芝レコード


 

 

 

 監督  松野宏軌



 

 制作協力        京都映画株式会社

 

 

 

 制作            朝日放送

                松竹株式会社

 

 

 ☆☆

 藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 中村賀津雄→中村嘉葎雄

 

 二瓶康一→火野正平

 

 中尾ミエ=中尾ミヱ

 

 河原崎建三=河原崎健三

 

 浜伸二→時代吉二郎

 

 

 白木万理=松島恭子=白木マリ

 

 山崎努=山﨑努

 

 早坂暁・野島一郎はノークレジット

 ☆☆

 「己代松」の表記は本編字幕に依った

 ☆☆

 

 (画像出典

  『新必殺仕置人』DVD vol.2)

 

                    文中敬称略


 

                  南無阿弥陀仏
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