新必殺仕置人 情愛無用 | 俺の命はウルトラ・アイ

新必殺仕置人 情愛無用

 『新必殺仕置人』「情愛無用」

 『新・必殺仕置人』「情愛無用」

 (しんひっさつしおきにん なさけむよう)

 テレビドラマ  54分  カラー

 放映日 昭和五十二年(1977年)一月二十八日

 製作国 日本

 製作言語 日本語

 製作放送局 朝日放送系

 

 のさばる悪をなんとする


 天の裁きはまってはおれぬ

 

 この世の正義もあてにはならぬ


 闇に裁いて仕置きする  

 

 南無阿弥陀仏   

 

 ☆
 演出の考察・シークエンスへの言及・

台詞の引用は研究・学習の為です。


 松竹様・朝日放送(ABC)様におかれ

しては、お許しと御理解を賜りますよう

お願い申し上げます。

 

 

 残酷なシーンについて言及します。

 

 

 感想文では物語の核心について言及し

ます。

 

 女性の方・十八歳未満の方・未見の方

はご注意下さい。

 

 

 平成二十七年一月二十八日に発表した

記事を令和四年九月二十三日に再編して

います。

 ☆

 

 

  泥棒市。

 

 

 正八は絵草子を三冊掏られて、おてい

に笑われる。

 

 中村主水は町人や正八からしっかりと

金を取り、おていを叩く。

 

 

 娘おつゆが五両で自分の身体を買って

欲しいと頼み込み、己代松は戸惑う。鉄

は一両で買うと喜び、松が制止する。

 

 

 松はおつゆに「馬鹿なことをするな」

と叱り、二人で川辺に行く。

 

 

 その様子を鉄がじっと見ている。

 

 

 

 

   鉄「(独白)いい年して

     純情ぶりやがって。

     体に欠陥があるんじゃねえか。

     相手は小野小町じゃないん

     だから、××んなら、

     早く×っちゃえよ。」

 

 

 松はおつゆに手出しせず、家まで送る。

 

 

 

 おつゆの父は検校の道玄に騙されて借金

を背負わされ自害し、金を残し恨みを晴ら

して欲しいと頼む。

 

 

 借金のかたにおつゆは道玄一味に連行され

る。

 

 

 鉄は「ぶっ殺してやる」と怒り、松は金

を手にして「ぶっ殺してもよさそうだぜ」

語り、寅の会で競り落としてくれと頼む。

 

 

 寅の会では、鉄の他にも道玄殺しの仕

置を頼んだ者がいた。仕置人吉五郎が妹

一家が道玄の非道の犠牲になったことを

理由に競り落とさせてくれと頼むが鉄が

断り、死神が警告する。

 

 

 

 巳代松にとって道玄は実の兄の徳造だった。

 

 兄が博奕のいかさまで失明し、身代わりで

流刑になった。

 

 

 飛騨の雪の中で二人は別れた。

 

 

 

 

 道玄は豪商河内屋を騙して、身代を乗

っ取った。

 

 

 鉄は徳造の頼みでかつて松を狙い、弾

丸を体内に受けて、彼のあばら骨を折った。

 二人は殺し合ったことが縁で組んだのだ

った。

 
 松は兄に駆け寄るが拒絶される。

 

 

 

 道玄が屋敷に戻ると吉五郎が仕置を試

みるが、松が兄を助けて吉五郎は殺され

る。

 

 

 流石に道玄は礼を弟に言うが、すぐに

冷たくする。

 

 

 

 この光景を死神が見ていた。

 

 

 

 主水は自分の身替りで毒殺された犬の

子供犬コロを保護する。りつは怒る。

 

 

 せんが落ち着いて夫婦喧嘩を止める。

弁護してくれると思った主水は「母上の

言う通り」と述べるが、せんは態度を豹

変し、「お捨てなさい!」と叱責する。

 

 

 主水はコロに、我慢が大事と語りかけ

る。

 

 寅の会の監視は厳しい。吉五郎が仕置

に失敗して殺害され、仕置は競り合った

鉄に回ってくる。

 

 松が吉五郎の仕置から道玄を守った光

景を死神が目撃した。

 道玄を兄弟の情愛で庇うのならば、鉄の

組織の全員が虎に狙われる。寅の会は非情

で掟を破った者は粛清される。

 

 

 主水は松が兄の仕置をできないのならば

虎に仕置されるので危険だと警告する。

 

 

   主水「答えは二つに一つだ。

      松が兄貴を

      仕置するかどうかだ。」

 

 

   おてい「しない時はどうするの?」

 

 

 

 

   主水「殺しちまうんだ。兄弟の情で俺達を

      裏切られたらたまらねえからな。」

 

 

 

   鉄「松、俺が虎のもとから帰ってくるまでに

     腹決めとけ。」

 

 

 松は兄に面会にいく。

 

 

 

 

 道玄はおつゆを襲うが拒否され、「目の

見えねえ女郎は、客が面白がってな、よく

売れるんだよ」と彼女の眼を潰す。

 

 

 松は怒る。

 

 

  道玄は目を見開く。

 

   己代松「あんちゃん、目が見えるのか」

 

   道玄「目が見えねえほうがいろいろ都

       合がいいんだ。

       己代松、俺の片腕にならねえか?

       腹一杯美味えもん喰えるし、女は

       思いのままだ!」

 

 

 松は去る。

 

 

 

   道玄「あいつの始末は俺がつける!」

 

 

 

 

  松は鉄・主水・正八・おていに言った、

 

 

  「頼みがある。道玄は俺の手で殺らせてくれ」

 

 

  と。

 

 

 

 

 主水・鉄が道玄の部下を仕置する。

 

 

 

 怯える道玄が襖を開けると、そこには

竹鉄砲を構える松がいた。

 

 

  「己代松!あんちゃんに

   何するんじゃ!?」

 

 

 松は銃を撃った。

 

 

 弟の仕置人が、兄の検校を仕置した。

 

 

 

 

 道玄の部屋を出た己代松はおつゆを救い

だし、鉄と共に逃げた。

 

 

 雪の中。

 

 

 

 

 主水は子犬のコロとかけまわる。

 

 

 

 キャスト

 

 

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 中村嘉葎雄(己代松)


 

 火野正平(正八)

 

 

 中尾ミエ(おてい)



 

 河原崎建三(死神)

 

 

 

 

 

 関根世津子(おつゆ)

 灰地順(喜平)

 辻万長(与力高井)

 

 

 井関一(吉五郎)

 柳川清(同心吉村)

 永田光男(河内屋)

 

 

 藤村富美男(虎)

 

 

 

 

 

 

 暁新太郎(源次)

 新郷隆(権八)

 吉田聖一(平蔵)

 扇田喜久一(兼吉)

 

 

 

 

 小笠原町子(小母さん)

 町田米子(小母さん)

 松田晴子(小母さん)

 小林泉(母親)

 

 阿井美千子(闇の俳諧師)

 瀬下和久(闇の俳諧師)

 藤沢薫(闇の俳諧師)

 原聖四郎(闇の俳諧師)

 堀北幸夫(闇の俳諧師)

 

 

 

 

 

 細井伸悟(子供)

 上田恵子(河内屋の妻)

 高橋美智子(河内屋の娘)

 丸尾好広(用心棒)
 鈴木義章(用心棒)

 

  

 山本麟一(道玄実は徳造)

 

 

 

 菅井きん(中村せん)

 

 

 

 白木万理(中村りつ)

 

 

 

 

 山崎努(念仏の鉄)


 

 

 スタッフ

 

 

 制作   山内久司(朝日放送)

      仲川利久(朝日放送)

      桜井洋三(松竹)

 
 

 


 

 脚本           村尾昭
 

 音楽          平尾昌晃

 編曲          竜崎孝路

 

 撮影          石原興

 製作主任        渡辺寿男

 

 美術          川村鬼世志

 照明          中島利男

 録音          木村清次郎

 調音          本田文人 

 編集          園井弘一


 

 助監督        高坂光幸

 装飾         玉井憲一

 記録         杉山栄理子

 進行         黒田満重

 特技         宍戸大全


 

 装置          新映美術工芸

 床山結髪       八木かつら

 衣装          松竹衣裳

 小道具         高津商会

 現像          東洋現像所


 

 制作補         佐生哲雄

 殺陣           美山晋八

               布目真爾

 題字           糸見渓南

 

 ナレーター       芥川隆行

 

 オープニング 

 ナレーション作     早坂暁

 予告編ナレーター   野島一郎

 

 主題歌          あかね雲

 作詞           片桐和子

 作曲           平尾昌晃

 編曲           竜崎孝路

 唄            川田ともこ

 東芝レコード


 

 制作協力        京都映画株式会社

 

 監督           工藤栄一




 

 制作            朝日放送

               松竹株式会社

 

 

 ☆

 藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 中村嘉葎雄=初代中村賀津雄

      =初代中村嘉葎雄

 

 

 二瓶康一→火野正平

 

 中尾ミエ=中尾ミヱ

 

 白木万理=松島恭子=白木マリ

 

 山崎努=山﨑努

 

 村尾昭=但島栄

 

 平尾昌晃=平尾昌章

 

 早坂暁・野島一郎はノークレジット

 

 

 「己代松」の表記は本編字幕に

依った

 

 

 ☆雪の中の絆☆

 

 

 

 

 第二話「情愛無用」は己代松の悲しみ

の物語である。

 第一話「問答無用」で松は「俺みてえ

に生まれた時からついてない奴は程々が

一番だ」と苦労多き人生を確かめる。野

上龍雄が書いた台詞を受けて、村尾昭が

その松の悲しみの半生における大事件を

書いた。

 

 

 村尾昭と野上龍雄は東映任侠映画に

おいてもコンビ・チームを組み、数多

くの傑作脚本を書いている。二人の息

はピッタリである。

 

 

 『新必殺仕置人』開幕の一・二回を

巨匠工藤栄一が演出した。脚本を野上・

村尾が担当し、非情の組織寅の会にお

いて仕置を為す主水・松・鉄の緊張感

がひしひしと伝わるドラマが深く語ら

れた。

 

 開巻の泥棒市の場面は、市井の人々

の逞しさが示される。賄賂を要求する

主水は、『必殺仕置人』「いのちを売

ってさらし首」(脚本野上龍雄、監督

貞永方久、昭和四十八年四月二十一日

放映)を想起させる。村尾脚本が仲間

の脚本を継ぐ見事さは心憎い程素晴ら

しい。

 

 

 松はおつゆに身体を買って欲しいと

頼まれて当惑する。優しい松は、若い

女性の身売りにつけこめない。

 

 

 ところが、好色の鉄は大喜びで「五

両の料金を一両に負けて遊ばせてくれ」

と図に乗って、おつゆに迫る。

 

 

 本第二回は、村尾昭が最初に書いた

念仏の鉄の物語だ。女好きで荒っぽい

鉄の性格を完璧に捉え明かし切ってい

る。

 

 

 山﨑努も楽しそうだ。

 

 

 

 

 村尾昭と山﨑努が『必殺シリーズ』

で最初に組んだのは、『助け人走る』

「落選大多数」(昭和四十八年十二月

二十九日放映)で脚本家とナレーター

として参加したのだが、奇しくもこの

回の監督は工藤栄一で、雪のシーンが

印象的であった。

 

 

 鉄は、松が可愛いおつゆの境遇につけ

こまず、紳士的な態度を貫いて、彼女を

守ることが不満である。

 

 

 しかし、おつゆの父が道玄に騙され

て自害したことを聞いて、鉄の怒りは

燃える。

 

 

 松も怒り心頭に達する。

 

 

 

 

 だが、道玄の横暴の前におつゆを

守れない。亡父が遺した金を、頼み料

として寅の会で競り落とすことによって

おつゆは恨みを晴らそうとする。

 

 

  村尾昭脚本はここから、道玄・己代

松兄弟の愛憎を繊細に熱く語る。

 

 

 博奕のいかさまがばれて、両目を傷つ

けられて流刑に処せられる兄徳造を弟松

は不憫に思う。

 自身が身代わりになって島送りになる

ことを役人に願い出て了承され島に送ら

れ罪人として生活し兄の罪を償った。

 

 

 雪の夜の徳造・己代松の会話に胸が熱く

なる。

 

 

 兄は弟を騙して引っかけ、弟は欺かれて

いるとも知らず、自己を犠牲にする。

 

 

 狡猾な徳造は、島から出た弟松が邪魔

になり、鉄に仕置を頼んでいた。

 

 

 鉄と松が仕置で殺し合った仲で、骨外し

と銃弾で相手の身体に重傷を負わせた後、

命拾いしたこともあって仲間となった。

 

 

 殺し合った者どうしが、命を捧げあう仲

間となる。

 

 

 

 これも『新必殺仕置人』の主題である。

 

 

 山本麟一の悪役演技は完璧である。

 

 

 

 

 徳造後に道玄が、弟己代松を脅威に思

って、愛憎をこめて仕置しようとしたの

ではないかと自分は見た。

 

 

 「ひょっとしたら暖かさもあるのかも

しれない」と思わせる複雑な個性に、山

麟の名演が光る。

 

 『必殺仕置人』第二回「牢屋でのこす

血のねがい」で山城屋の番頭七兵衛を勤

めた暁晋太郎が奇しくも『新必殺仕置人』

においても第二回で、悪役の配下で出演

する。

 

 

 山麟の豪快・強靭・重厚な芝居に対し

て、暁が静かに悪役を演じていることが、

見事なバランスを明かしている。

 

 

 『必殺仕置人』最終回「お江戸華街未練

なし」(昭和四十八年十月十三日放映、脚

本梅林貴久生、監督工藤栄一)において山

麟は岡っ引きの悪役仁王門の寅松を演じて

いる。

 

 

 

 

 

 鉄・主水にとって『必殺仕置人』で最後

の強敵を演じた。山麟演じる徳造が、鉄に

仕置を依頼したという過去の設定が、旧新

の『必殺仕置人』を鮮やかに繋いでいる。

 

 

 工藤栄一監督の映像にも、第二回は『必

殺仕置人』を想起せしめるカットが多い。

 

 

 

 

 

 己代松は兄に尽くして裏切られ、その

非道を見て自ら仕置する。最愛の兄と戦っ

て殺し合わねばならない松の悲しみを中村

嘉葎雄が熱演する。

 

 

  おつゆが目を潰されるシーンは悲しい。

 

  目を刺されるシーンの直後に、鳥が飛

び立つ映像が映る。

 

 

 己代松の痛みと悲しみを、工藤栄一は象

徴的に明示する。

 

 

 おつゆの激痛の描写に、村尾悲劇の凄ま

じさがある。

 

 

 道玄が目が見えることを自ら示し、松は

騙されて島送りにされていたことを知る。

 おつゆの両目を守りきれなかった事も含

めて、松は、自らのけじめとして兄の仕置

を志願する。

 

 

 愛憎を感じ、情愛を抑えられない。

 

 

 

 

 その兄に松が銃を撃つ大詰に、村尾昭

・工藤栄一の悲劇美が極まる。

 

 最大傑作とはこのドラマの為の言葉である。

 

 

 それ故に、ラストの主水とコロの雪の中

の交流が暖かい。

 

 

 工藤栄一は、雪の中で確かめられる絆を

映してくれた。

 



 

  (画像出典

  『新必殺仕置人』DVD vol.1)

  

              文中敬称略




 

             南無阿弥陀仏