新必殺仕置人 問答無用 | 俺の命はウルトラ・アイ

新必殺仕置人 問答無用

 『新必殺仕置人』「問答無用」

 テレビ映画 54分  

 トーキー カラー(一部白黒)

 昭和五十二年(1977年)一月二十一日放送






 のさばる悪をなんとする



 

 天の裁きはまってはおれぬ

 

 この世の正義もあてにはならぬ



 

 闇に裁いて仕置きする  

 

 南無阿弥陀仏   

 

 ☆☆☆
  演出の考察・シークエンスへの言及・台詞

の引用は研究・学習の為です。


 松竹様・朝日放送(ABC)様におかれましては、

お許しと御理解を賜りますようお願い申し上げま

す。

 

 感想では物語の核心について言及します。

本作及び『必殺仕置人』「お江戸華街未練なし」

『必殺仕業人』「あんたこの結果をどう思う」を

未見の方はご注意下さい。

 ☆☆☆

 

 句会が開かれている。

 

 奥に着座している人物が世話役である。

 

 名を虎という。

 

 

 部下の喜平が進行役を勤めている。

 

 俳諧師の一人には、骨接ぎ師の念仏の鉄が

いる。


 

 

    喜平「それは揚句を頂戴いたしまして本日

       の興行を終わりたいと存じます。

 

       八丁の 堀に中村 主水かな」

 

 鉄はハッとする。 

 

 月例俳諧興行 寅拾番會

 

 この俳諧の会は、仕置人達の集いであり、元締

虎が俳句の中に標的に名を入れて喜平が読みあ

げ、集まった仕置人達が競り落とすという闇の組織

であった。

 

 虎の用心棒の仕置人死神は仕置人の監視と裏

切者を粛清する役目を荷っていた。

 
 

俳諧師達が、競りの声を掛け合う。

 

 「百五十兩」 

 「百三十九両」
 「八十両」

 

  喜平「ございませんね」

 

  虎「この命、八十両にて落札」

 

 八十両で仕置人市郎太が競り落とした。

 

  鉄「八丁掘 中村主水」

 

 中村主水とは南町奉行所定町廻りの同心なの

だが、鉄にとっては、過去に仕置人として組んだ

仲間なのだ。

 

タイトルが現れる。

 

 新必殺仕置人

 

 問答無用

 

南町奉行所門前

 

 長髪の絵草子屋の青年正八が門を見て、門

前の鋳掛屋の職人己代松に語りかける

 

   正八「出てきたよ。」




 

   己代松「あれか」



 

 「おはようございます」の声を役人がかける。

 

 中村主水は「おはようございます」と返事する。

 
 

 門から与力筑波重四郎が現れる。

 

  主水「筑波様!」

 

 己代松が焼けた鍋に水をかけシューと音がし

て煙があがり主水は咳き込みつつも、恩人の筑波

に決意を語る。


 

  

  主水「これより市中見回りに出かけます。」

 

  筑波「ご苦労」

 

 

  主水「例の庄兵衛の一件でございますが」

 

   筑波「何かわかったか?」

 

  主水「いえ、これがまだいっこうに。」

 

  筑波「気にするな。おぬし、中々評判が良

      いぞ。儂も鼻が高い。」

 

  主水「そのように仰せられると面目が立ちませ

      ん。この際一挙に庄兵衛の一件を解明し

      お引き立て下さいました御恩に報いる覚

      悟でございます。」

 

  筑波「しっかりやれよ。」


 

  観音長屋

 

 女掏摸おていが正八の懐から財布をする。



 

 主水は正八に財布を掏られたぞと教え、お

ていを追う。おていの履物は絵草子屋の門前

に有った。主水は絵草子屋の中に入り地下に

通じる部屋に降りてゆく。

 

 絵草子の後ろに坊主頭の男が居た。

 

 鉄だ。

 

 
 

 鉄「しばらくだったな。八丁掘。」

 

 主水「おめえ、未だ生きてたのか。

     裏の稼業は続けてるか?」

 

 鉄「ん」

 

 主水「おめえには会わなかったことにし

     とくぞ。」

 

 主水はおていと己代松を見る。

 

 鉄「ああ、いいんだ、いいんだ。俺の仲間だ。」

 

 主水「仲間か」

 

 鉄「そうすんなり出ていってもらっちゃ困るんだ。

   上にも仲間がいるぞ。」

 

 正八も仕置人で鉄の仲間であった。

 

 鉄「驚くなよ。昨日おめえの命がよ、八十両で

   売られたんだ。」

 

 主水「何だって!?」

 

 鉄は虎の会の傘下に入って仕置をしていること

を報告する。虎の会の掟は厳しく、引き受けた仕置

は必ずやり遂げる組織であることを告げる。鉄が昔

馴染みの主水を思って、守秘義務を破って告げた

ことも、ばれれば粛清されてしまう。つまり鉄は命

賭けで主水に危機を知らせたのだ。

 

 主水は競り落とした仕置人の人相を聞くが、鉄は

競り落とした殺し屋は一人でどんな仲間が居るか

はわからないことを告げる。

 

   おてい「ま、逃げるんだね」


 

  己代松「一旦競り落したからには、頼み人が死ぬ

       か、取り下げる迄終わりにはならねえんだ」

 

   鉄「心当たりはねえのか?金払ってでもおめえを

     殺したいと憎んでる奴が居る筈だ?」

 

   主水「まるで見当がつかねえな」

 

 

 出会い茶屋

 

  筑波が妾にしている女性お兼と逢引している。

 

   筑波「全て手は打った。中村主水は間も無く死ぬ。

       お前との約束は果たしたことになる。嬉しく

       はないのか?」

 

   お兼は目を見開いてじっと聞いている。

 

 絵草子屋

 

  鉄「牢屋同心が定町廻りとはえれえ出世じゃねえ

     か。どういう訳なんだ?」

 

  主水「怪我の功名でな。」

 

 寒い夜、泊まり番であった主水は脱走を企て刀を

奪おうとした囚人矢切の庄兵衛ともみ合って、彼を

斬った。

 

 庄兵衛「おかね」

 

 庄兵衛は「おかね」と叫んで死去した。

 

 

 牢破りを未然に防いだ功績で、主水は定町廻りに

出世し、筑波に激励されている。


 

  主水「俺は赤井剣之介という男と組んで仕事を

      してた。」

 

  鉄は豆を喰う。

 

  鉄「どうしたんだ、その男は?死んだのか?」

 

  主水「うん。俺は剣之介の事を忘れてた。剣之介

      だけじゃねえ。野垂れ死にしていった昔の

      仲間も、俺の手にかかって死んでいった

      連中のことも、みんな忘れてた。この稼業

      に一旦手を染めたら幸せなんて掴めねえ。

      来るならきてみやがれ!叩っ殺してやる。

      ま、俺が生き延びられたら、その時は、又、

      仲間に入れて貰うぜ!」

 

 主水は鉄の背を叩いて、出て行く。

 

 鉄は落した豆の皮を見つめる。

 

 主水が中村家に帰宅し妻りつと姑せんが迎える。

 

 せんとりつは越後屋が御礼にと持ってきた豪勢な

活造りの刺身を見せる。主水は越後屋に押し入った

万引を捕まえたのだ。せんとりつは着物を負けて欲

しいとたのんでくれとせがむ。主水は人の好意につけ

こむことはできないので刺身を食べないといい、せん・

りつも怒り退席する。


 

 主水は入ってきた犬に刺身を与える。きびすを返す

と悲鳴が聞こえた。犬が刺身に入っていた毒で急死

したのだ。驚いた主水は犬の子供の犬を保護する。

 

   「悪いことは言わねえから、中村に話付けて一人

   百両ずつもらって江戸からずらかろうぜ!」

 

 仕置人次郎次は仕置をせずに、主水を脅迫して金

を取って逃げようと仲間の市郎太・未三に持ちかける。

だが、市郎太・未三は死神を恐れて規則からの掟破り

を断る。

 

 「死神が何でえ」と豪語する次郎次は、単身主水に

交渉し、「四日後に三百兩出せ」と脅して金を取ろうと

する。

 

 だが、この言葉を土中に潜んでいた死神が聞いて

いた。

 

 逃走していた次郎次の前に顔の上部に遮光器を

付けた死神が現れた。

 

   死神「虎ハ取引ヲ許サナイ。殺ス」

 

 死神は鋭利な刃物で次郎次を殺害し粛清する。

 

 鉄が骨つぎで正八に施術している。

 

   鉄「おめえみたいに心が捻じ曲がった奴はな、

     ばらばらにして分解しないと治らないんだ。

     二百文出せ」

 

 正八が嫌がるとおていが払う。

 

 気風の良さに正八が感動すると、鉄は財布を掏られ

たことを正八に指摘する。

 

人混みの中仕置人二人は語り合う。


  鉄「親父、元気でやってるか?」


 主水「夕べ来やがった。手強い野郎だ。

    俺しばらく姿を消すぜ」

おかねが包丁を隠しつつ主水を凝視する。

鉄「それがいい」

 主水は筑波がお兼を妾として囲っている別宅に行く。

 お兼は主水を狙い会話に聞き耳を立てる。

 主水「中村でございます」

 筑波「何の用だ」

 主水「お休みを頂戴したのであがりました」


 筑波「何処が悪いのだ」

 

 主水「労咳の疑いが有りと言われまして」


 主水は移る事を恐れて目黒近くの林の小屋で

療養すると告げる。お兼がじっと聞いていた。

 己代松が鋳掛け仕事をしながら怒りを露にする。

 鉄「何怒ってんだ?」


 己代松「女は当てにならねえってことよ」

 松はお兼と知り合いで、庄兵衛が斬られたこと

に傷ついていると思い、慰めの言葉をかけようと

したが、庄兵衛を捕らえた筑波を引っ張りこんで

妾になったので、裏切と見て立腹している。

 鉄ははっとして主水が潜む小屋に走る。
 

 小屋にお兼が尋ねてくる。

  主水「むさ苦しいところですが」

 お兼「筑波さまからお見舞の品をことずかって

     参りました」

  主水「有り難く頂戴します」

  主水は茶を入れようと用意する。


 お兼が包丁を取りだし、背後から主水を狙っ

て突き進む。鉄がかけつけて、お兼を主水から

放す。この時お兼は誤って自身の身体を刺して

しまう。

  主水「この女が俺を」

  鉄「この女がおめえを狙うには訳がある。

    お兼と言ってな、矢切の庄兵衛の女だ」


  主水「かね。そうか奴は死ぬ時にこいつの

     名前を呼んだんだ」

鉄はお兼の身体に突き刺さった包丁を抜く。

  主水「しっかりしろ」

 

 主水はおかねを背負う。


 鉄「早くしろ」

 鉄・主水はお兼を医者のもとへ運ぶ。

  主水「俺を恨みてえのは気持ちはわかる

      が筋違いってもんだぜ。庄兵衛は

     島送りになって首斬られることにな

     ってたんだ」

  お兼「嘘だ。お前が殺したんだ」

  主水「嘘じゃねえよ。お調書の横にちゃん

      と筑波様の字で書いてあった」

  お兼「筑波」


 筑波は庄兵衛がもともと死罪になる身であ

ったことを隠して、主水に斬られた事実のみ

を強調して、敵愾心と怨念を燃やさせ、お兼

を自分の妾にした。

 お兼は背後関係を語らなかった筑波の不実

に怒りを覚える。主水を狙って重傷を受けたが、

筑波が事実関係を語っていれば、この激痛・負

傷は避けられた。筑波には言えぬ訳があった。

   鉄「駄目だ」

   主水はお兼をおろす。

   お兼の傷は致命傷だった。

 

   お兼「騙された。この恨みを」

   お兼は目を見開いたまま死ぬ。

 

  鉄「騙されたとってところを見ると、庄兵衛

    と取引してたんだ」
 

 

  主水「庄兵衛は俺の刀で筑波様を叩っ斬

     る気だったんだ」

  鉄「おめえが庄兵衛のことほじくりかえす

     から邪魔になったんじゃねえのか?」


  主水「まさか」


  鉄「俺が確かめる」

   鉄は走る。
 

 

  夜の林。

  土饅頭にお兼の履き物が供えられた。主水・

松・正八・おてい・鉄が哀悼の気持ちを表したのだ。

  鉄「これで間違いねえ。虎に頼んだのは

   あの野郎だ」

  主水「世話かけたな」

  主水は歩みだす。

  正八「俺も行こかな」

  鉄「余計なこと言うんじゃねえ」
 


林の小屋


 己代松が竹鉄砲の手入れを丹念にしている。正

八とおていは熱心な松の姿勢に感心する。おてい

は一発の銃撃で箪笥ごとぶっ飛ぶ力があることを

語る。正八は頭が良いという自負があり、竹鉄砲

を習うべきではないと自己確認する。


 鉄「どうしても二間迄か?」

 己代松「飛ぶ距離迄はな。火薬を増やすと俺が吹

      っ飛んじまう」

 松の竹鉄砲は標的を二間の距離に置かない

と打てない仕組みになっていた。

 正八「ね、誰か来るよ」

 おてい「こっちからも来た」


 市郎太と未三の襲撃だ。

 市郎太「裏切りやがって!」

 

 鉄「松!面見られた。そっちも生かして帰すな」

 未三は鎖を振り松に近づく。


 己代松「三間。二間半。まだまだ」

 


 未三が二間の距離に進んだ時、松は銃を発射

し射殺し、自身の身を飛ばす。鉄は市郎太の身

を屋根に突き刺し、骨はずしで殺害した。


 夜の舟

 筑波が舟にかかった縄を調べている

  主水「筑波さん」

  筑波「おう、中村か」」

 二人は歩みをだす。

  主水「筑波さん。夜分お呼び出ししてどうも。

     お兼さんが死んじまいましてね。」

 筑波「何?」

 主水はお兼の履き物を筑波の足元に置き、彼

女が「筑波さんに騙された」と言い残したことを

語る。



  主水「息が絶えた後も目を瞑らないで

     いましたよ」

  筑波「何が言いたいんだ、貴様」

  筑波は履き物を蹴る。

  主水「何をするんですか?可哀想じゃありま

      せんか。そんな怖い顔で私を見ないで

      下さい。」

 主水は「どんな悪いことをした」と問い、身を守

るために牢破りを斬り、不審な点を調べただけ

だと語る。
 

  主水「あたしはですね、世の中の仕組という

     ものが人間というものがつくづく信じら

      れなくなりました」


 明日から徹頭徹尾手抜きで行くと姿勢を語り、昼

行灯で結構と確かめ、履き物で筑波の背中をくす

ぐる。筑波は怒り履き物を放り投げる。

  

  主水「ほうちまった。大事にして下さいよ。その

      前にですね、あたしはもう一つやること

      が有ってですね、此処に来たんですがね」
 

 筑波は刀を抜いて斬りかかり、主水も抜刀して

応戦する。主水の剣が筑波を斬り、筑波は膝を

地に付いた。

 

    


 筑波「来い!斬れ!」
 

筑波は目をカッと見開いて絶命した。


 主水はお兼の履き物を筑波の遺体の側に置く。

 夜舟

 主水・鉄・松・おてい・正八が舟に繋がった縄

を調べると沢山の壺と繋がっていた。主水は庄

兵衛が盗んだ銭で、筑波と取引しようとしていた

ことを推理した。壺の中には小判が詰め込まれ

溢れそうになっていた。鉄・松・正八・おていは

驚喜するが、主水は舟に縛られた縄を斬り、壺

をに水底に沈める。

 主水は「いらねえぞ」と宣言する。

 おていは不思議に思う。

 鉄も「いらねえぞ」と語った。


  おてい「あんたもいらないの?」

 鉄「こいつは化けもんだ」

 

  主水「世の中、こんなことがあって良い筈は

      ねえや。俺がいい見本だ。折角目が出

     たと思ったら、どっこい腐れ根っこがず

      るずる繋がっていやがった」

 

  鉄「いいか、これだって、贋金かもしれねえ!」


 

 主水は鉄が隠していた一両を奪って投げ捨

てる。


 

   鉄「最初の一枚使った途端にはりつけに遭

    ったんじゃ、割に合わねえだろ?」


 

   己代松「それもそうだ。俺みてえに生まれた

        時から運の無い奴は程々が一番だ。」


 

 寅の会

 

 虎が着座し、死神が静かに控えている。

 

   喜平「先日の件に関してですが、頼み人が死亡

       しましたので、無かった事に致します。

       風流の まこと鳴くや 不如帰 」

 

 南町奉行所

 

 同心達が、主水に一人二分出して、香典にすること

を語る。主水は香典を持って筑波の葬儀に参列する

役目を命じられたが、秘かに一両を盗る。

 

 筑波の葬儀

 

 せんとりつが参列する。せんは婿殿を引き立ててく

れたり筑波様の死を悼み、主水の運の無さを嘆く。り

つは参列者の着物に注目する。

 

   せん「どうせ、古着でしょ」

 

 主水は、筑波重四郎の位牌に手を合わせる。

 

 ☆☆☆仲間の危機に立つ男☆☆☆ 

 

 『新必殺仕置人』は昭和五十二年(1977年)一月

二十一日に始まった。朝日放送・松竹株式会社が

 「必殺シリーズ」にとって、五年目第十作という記

念すべき作品であった。

 

 シリーズ第二作『必殺仕置人』(昭和四十八年 1

973年 四月二十一日ー十月十三日)の続編・姉妹編

である。

 

 藤田まことの中村主水シリーズとしては、第五作

に当たる。『助け人走る 同心大疑惑』はゲスト出演

なので、主水サーガであっても、主水シリーズと呼ぶ

べきかどうかは検討の余地がある。

 

 そして、山﨑努が念仏の鉄で帰ってきた。念仏の

鉄シリーズとしては第二作であり、最終作品である。


 

 「必殺シリーズ」四十三年の歴史において、タイトル

に『仕置人』の言葉が書かれるのは、『必殺仕置人』

と本作『新必殺仕置人』の二作品のみである。

 

 『必殺仕置人』においてレギュラーであった沖雅也・

野川由美子・津坂匡章(後の秋野太作)は、棺桶の

錠・鉄砲玉のおきん・おひろめの半次として再び登場

している。沖の錠は『仕事人大集合』『年忘れ必殺ス

ペシャル 仕事人アヘン戦争へ行く』、野川のおきん、

津坂の半次は『暗闇仕留人』に出演したが、番組タ

イトルに「仕置人」の三字が記されることは無かった。

 

 山﨑努の念仏の鉄、白木万理の中村りつ、菅井き

んの中村せん、藤田まことの中村主水が登場する『

必殺仕置人』『新必殺仕置人』に「仕置人」の三字が

掲げられている。

 二シリーズにおいて主役は山﨑努の鉄であると思

われる。白木万理のりつ、菅井きんのせん、藤田まこ

との主水は、『必殺仕置人』『新必殺仕置人』以外の

「必殺シリーズ」の作品に出演している。

 

 山﨑努が念仏の鉄を勤めた二作品が『必殺仕置人』

『新必殺仕置人』であった。このことからも、『仕置人』

サーガ・シリーズを代表する存在は、山﨑努である。

 主演俳優の役とタイトルが一致したということのみ

ならず、念仏の鉄の壮絶な一生を描ききったという事

を見ても『必殺仕置人』『新必殺仕置人』の主人公とし

ての地位に立っている。

 

 ドラマが製作されるまで、スタッフには幾多の課題が

あった。

 

 山﨑努は一度勤めた役は二度と演らないという主義

がある。山内久司を始めスタッフは熱心に口説いて遂に

出演承諾を得た。

 

 藤田まことは、『必殺仕置人』『暗闇仕留人』『必殺仕置

屋稼業』『必殺仕業人』で出演者紹介の配役クレジットの

序列で留めであったことが不満であった。「留めやったら

主水を降板します」とまでスタッフに語ったと言われてい

る。昭和六十二年(1987年)の『必殺4 恨みはらします』

の特集番組で、藤田は序列で「留め」であったことが不満

で、「若年寄にはなりたない」と確認していた。

 

 『新必殺仕置人』ではオープニングでは最初に藤田ま

ことの主水が登場し、中村嘉葎雄の己代松、山﨑努の

鉄、藤村富美男の虎が登場する。

 出演者紹介の序列では、藤田まことの主水が書き出し

で、山﨑努の鉄が起こしで留めである。

 

 菅井きんがせんのイメージで、実生活も見られることに

心を痛め、ご子息の見合いに迄影響を及ぼしかねない

と危惧し降板を申しいれ、スタッフは慰留をお願いし、長

い時間をかけて説得し、出演の承諾を得た。

 

  第一話「問答無用」の主役は中村主水である。牢屋

同心として厳しい日々を送っていたが、庄兵衛の牢破り

を防いでこれを斬った功により、南町奉行所定町廻りと

成り、引き立ててくれた与力筑波重四郎の知遇に応え

ようと職務に情熱を燃やし、乾坤一擲の闘魂でお役目

を勤めている。だが、その筑波に命を狙われ、利用され

使い捨てにされかかったことを知り、深い悲しみを覚え、

彼と戦うこととなる。

 

 昔の仲間念仏の鉄と再会し、命を何者かに狙われて

いることを告げられ、ドブ川に女房歌とともに斬り死に

した仲間赤井剣之介を想起し、仕置人・仕業人が人並

の幸せを夢見ることは無理だと確かめる。

 

 一度人の命を奪った殺し屋が堅気の人間として生きる

ことが難しく、犯した罪はずっと問われることが抑えられ

ている。

 

  「来るならきてみやがれ!叩っ殺してやる。」の台詞を

語る藤田まことは熱い。これ程熱い藤田まことは中々見れ

ない。『暗闇仕留人』『必殺仕置屋稼業』『必殺仕業人』の

主水は殺し屋チームのリーダー・元締・軍師を兼ねる存在

で、仲間を弟妹のように見守っていた。

 だが、山﨑努の鉄が帰ってくると、熱気が凄まじい。演

技合戦の情熱が熱いのだ。

 ライバル心と良い意味での対抗意識が強烈に燃え盛る。

 

 自分の身替りで犬が毒殺され、子犬のコロを育てること

を決める。『新必殺仕置人』の主水には罪の意識や詫び

の心も語られる。

 

 お兼に狙われ命の危機を感じるが、彼女が筑波に騙さ

れたことを思い、救えなかった痛みが履物への心遣いに

現される。

 

 第一話の野上龍雄脚本は複雑で難解である。一度視聴

しただけでは中々物語を理解することは難しい。推理の展

開が緻密に描かれている。だが、繰り返して見て聞くとその

深い構造にどきどき緊張する。

 

 寅の会の句会が語られる。元締虎の重厚な存在感と用

心棒死神の鋭さが強烈だ。仕置人達が俳諧師として登場

し、仕置を競り落とすが、裏切・違約・掟破りは許されず、

ばれれば次郎次の如く無残に粛清される。

 

 殺し屋達が組織の掟に震え戦きながら闇の稼業を為す。

 

 この恐怖感の中で展開する物語が、『新必殺仕置人』の

ドラマの特徴なのだ。

 

 殺し屋としての生き方を清算し、同心として再起しようと

した主水が、闇の世界の足を洗えず、結局は殺し屋として

の道から逃れられないという筋には、苦さがある。

 

 悲しみのヒロインお兼を美人女優二宮さよ子が勤める。

自身を刺してしまい、恨みを主水・鉄に託して見開いた

目の光が忘れられない。

 

 筑波重四郎を名優岸田森が勤める。冷酷非情な与力を

強烈な存在感で見せる。妾の女さえも利用する冷たさを

鮮明に演じ切る。

 同時に主水にお兼の履物を提示されて、怒りで罪の意識

を見せる場面も印象的だ。

 

 主水と筑波の戦いは第一話のクライマックスである。

 

 「斬れ!来い」は岸田森の声か、藤田まことの声か、議

論になるが、今回DVDを見直して岸田森の声と判断した。

 

 筑波は重傷を負って、主水と戦うことに命を賭けたのだ

と思うのだ。彼にとっても主水は大敵で決戦を待っていた

と言えないだろうか。

 

 遠山欽の庄兵衛と二宮さよ子のお兼が、画面で競演しな

いまま、愛し合っているという筋にも、野上脚本の素晴らしさ

がある。

 

 庄兵衛の役名は、『必殺仕置人』「いのちを売ってさらし

首」における大滝秀治の闇の御前こと長次郎実は浜田屋

庄兵衛と呼応している。

 主水とせんとりつに、活造りの刺身を送ったのは越後屋

だが、「いのちを売ってさらし首」においても反物を扱う店

として越後屋の名が出て来る。

 

 『新必殺仕置人』が『必殺仕置人』に続く物語であり、前

作と応じ合っていることは、両作品の第一話を描いた野上

龍雄の筆によって成り立っている。

 

 主水と鉄の再会シーンは、静かである。

 

 『暗闇仕留人』「集まりて候」(昭和四十九年(1974年)

六月二十九日放映)において、主水はおきん・半次との

再会を喜ぶ。

 

 だが、「問答無用」において鉄と再会したこにとは、落ち

着いた姿勢で応ずる。鉄も落ち着いている。

 

 『必殺仕置人』の時代は鉄・主水が若く、『新必殺仕置人』

の時期には中年となったという見方もある。

 

 だが、私はこの静かな描写の奥に秘められた心にこそ、

『新必殺仕置人』のいのちがあると思うのだ。

 

 鉄にとって、寅の会の掟を破り、守秘義務に反して仕置

の競りの情報を標的とされている主水に知らせることは、

命がけであり、ばれれば処刑されてしまうという危機的状

況である。鉄は自身が、虎に仕置されるかもしれないとい

う危険をくぐって、松・おてい・正八の協力を得て主水救出

に挑むのである。

 

 第一話から鉄が寅の会を裏切るという展開もハードで

あり、危険に満ちた環境であることが視聴者に伝えられ

る。

 

 自分自身が斬られることも覚悟して、仲間主水の生命を

救おうとする。そのこころを秘めてにやりと笑う男。

 

 ここに仕置人念仏の鉄の大いなる愛と熱き義がある。

 

 その友情と義に出会った主水は、その友誼に報いて、

自身の命を捧げ、大敵筑波を斬り、再び鉄と組む。

 

 庄兵衛の大金は横領しないが、筑波への香典はちゃ

っかりくすねる。

 

 自分自身が斬った筑波の葬儀に参列し、何食わぬ顔

で合掌する。

 

 大いなる悪党に中村主水が帰ってきた瞬間だが、こ

の時の落ち着いた目には、斬った筑波への罪の意識

もあった。

 

 悪を極めて図太く生きる。

 

 斬った悪人達への謝罪の心。

 

 主水は無言で手を合わせるが、その内面には深い

ほろ苦さがあったと思われる。



 

 キャスト

 

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 中村嘉葎雄(己代松)


 

 火野正平(正八)

 

 

 中尾ミエ(おてい)



 

 河原崎建三(死神)

 

 

 二宮さよ子(お兼)

 灰地順(喜平)

 

 大林丈史(市郎太)

 阿藤快(次郎次)

 島米八(未三)

 

 



 

 藤村富美男(元締虎)

 


 

 井関一(闇の俳諧師)

 瀬下和久(闇の俳諧師)

 阿井美千子(闇の俳諧師)

 

 

  藤沢薫(闇の俳諧師)

 原聖四郎(闇の俳諧師)

 堀北幸夫(闇の俳諧師)

 遠山欽(矢切の庄兵衛)


 

 浜田雅史(書き役)

 小林加奈枝(おかみ) 

 松尾勝人(職人)

 美鷹健児(職人)


 

 中村敦夫(赤井剣之介)

 

 岸田森(筑波重四郎)


 

 

 菅井きん(中村せん)

 

 白木万理(中村りつ)

 

 

 

 

 山崎努(念仏の鉄)


 

 

 スタッフ
 

 制作   山内久司(朝日放送)

      仲川利久(朝日放送)

      桜井洋三(松竹)


 

 脚本          野上龍雄


 

 音楽          平尾昌晃

 編曲          竜崎孝路

 

 撮影          石原興

 製作主任       渡辺寿男

 

 美術          川村鬼世志

 照明          中島利男

 録音          木村清次郎

 調音          本田文人 

 編集          園井弘一


 

 助監督        高坂光幸

 装飾         玉井憲一

 記録         杉山栄理子

 進行         黒田満重

 特技         宍戸大全


 

 装置          新映美術工芸

 床山結髪       八木かつら

 衣装          松竹衣裳

 小道具         高津商会

 現像          東洋現像所


 

 制作補         佐生哲雄

 殺陣           美山晋八

               布目真爾

 題字           糸見渓南

 

 ナレーター       芥川隆行

 

 オープニング 

 ナレーション作     早坂暁

 予告編ナレーター   野島一郎

 

 主題歌          あかね雲

 作詞           片桐和子

 作曲           平尾昌晃

 編曲           竜崎孝路

 唄             川田ともこ

 東芝レコード


 

 制作協力        京都映画株式会社

 

 監督           工藤栄一




 

 制作            朝日放送

                松竹株式会社

 

 

 ☆☆

 

 藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 

 中村嘉葎雄=中村賀津雄

 

 

 二瓶康一→火野正平

 

 中尾ミエ=中尾ミヱ

 

 白木万理=松島恭子=白木マリ

 

 山崎努=山﨑努

 

 

 中村敦夫は引用映像の静止画像で出演、

ノークレジット

 

 早坂暁・野島一郎はノークレジット

 

 ☆☆

 「己代松」の表記は本編字幕に

依った

 ☆☆



 

  (画像出典

  『新必殺仕置人』DVD vol.1)

 

                    文中敬称略



 

                   南無阿弥陀仏