雲霧仁左衛門 野上龍雄脚本 萬屋錦之介主演版 | 俺の命はウルトラ・アイ

雲霧仁左衛門 野上龍雄脚本 萬屋錦之介主演版

 『雲霧仁左衛門』

 テレビドラマ トーキー カラー

 放映日 平成三年(1991年)三月二十九日

       フジテレビ系

 再放送 平成二十六年(2014年)十月十日

       時代劇専門チャンネル

 

 出演

 

 萬屋錦之介(雲霧仁左衛門実は辻伊織)


 

 石立鉄男(木鼠の吉五郎)

 

 川谷拓三(山猫の三次)

 

 二宮さよ子(七化けのお千代)


 

 桜木健一(お役者小僧六之助)

 赤塚真人(州走りの熊五郎)

 芹沢直美(お松)

 野口貴史(留次郎)

 福本清三

 

 

 若山富三郎(櫓の福右衛門)


 

 十朱幸代(志乃)


 

 平幹二朗(寺田市之進)


 

 大橋吾郎(高瀬俵太郎)

 横光克彦(山田藤兵衛)

 大前均(権八)

 

 御木本伸介(松屋吉兵衛)

 山田吾一(富の市)

 綿引勝彦(岡田甚之助)

 

 

 花澤徳衛(治兵衛)

 神山繁(越後屋善右衛門)


 

 田村高廣(辻蔵之助)


 

 松方弘樹(安部式部信旨)


 

 製作  フジテレビ 

      東映

 企画  能村庸一

 プロデューサー 河野雄一

            清水敬三

 

 

 原作 池波正太郎


 

 脚本 野上龍雄

 音楽 渡辺俊幸

 撮影 羽田辰治

 美術 塚本隆治

 語り  横内正

 

 監督 田中徳三

 

 ◎

 小川錦一→初代中村錦之助

      =小川矜一郎

      →初代萬屋錦之介

 

 奥村勝=城健三朗→若山富三郎

 

 能村庸一=能村太郎

 ◎

 画像はインターネットより拝借引用して

いる。

 ◎

 

 享保の時代。夜の江戸を盗賊集団が走り、豪

商のもとから大金を奪い去っていく。

 

 盗賊の頭領は雲霧仁左衛門。大金持ちの商人

から金を奪うが、「犯さず、殺さず、非道はせず」の

原則を厳守している。

 

 火付盗賊改方長官安部式部は雲霧一味の捜索

に尽力し、配下の高瀬・山田も必死に追うが、取り

逃がしてしまう。

 

 名古屋の豪商松屋吉兵衛は六之助に誘われて、

比丘尼との遊びに感動し、彼女への恋心を燃やす。

 

 比丘尼の正体は、雲霧の配下で情婦の七化けの

お千代。松屋を誘惑・籠絡して、金蔵の在処を聞き

出すことが課題だったのだ。

 

 その動きを高瀬のもとで密偵(狗)をしている留次

郎が探るが、雲霧一味の小頭吉五郎に見つかり殺

害される。

 

 奉行所の雲霧探索の動きは、与力岡田甚之助が

スパイをしており、全て雲霧一味に筒抜けになって

おり、高瀬たちが捜索しても事前に逃げられてしまう。

 

 式部は吉五郎・お松を罠にかけるが、雲霧の兄蔵

之助が弟の部下達を救う。式部は蔵之助の剣の腕

の凄まじさに驚嘆する。

 

 仁左衛門はお千代に辛い勤めを強いていることを

詫びる。金力に物を言わせる人間を懲らしめたいと

いう思いが仁左衛門の胸にあった。

 

 錠前の名人である山猫の三次を吉五郎の推薦で

仁左衛門は呼ぶが、大金を渡された三次は豪遊し

大盗賊の櫓の福右衛門から財布を与えられる。

 

 雲霧は櫓が名古屋に出現したことを不審に思う。

 

 竹藪で面会を希望する。

 

 仁左衛門「名古屋は俺達二人に狭すぎる」

 

 雲霧は何をしようとお互いに手を出さぬことへの確

認を求めるが、櫓は大きな盗めを果たすことを宣言す

る。

 

  仁左衛門は主張を伝え挨拶をすませて去ろうとする

が、櫓の部下に囲まれる。

 

 仁左衛門「櫓の。ここは互いに盗めでけりをつけねえ

       か?」

 

 櫓もその提案を承諾し、「お盗め」で失敗したほうが

命を落とすと語る。

 

 三次は櫓に殴られ、完全に寝返ってしまった。

 

 仁左衛門は三次の裏切を察知して、松屋襲撃の日

程の誤情報を櫓に伝達させ、吉五郎に三次を捕縛さ

せる。

 

 福右衛門は屋根に縛られた三次の死体を見て驚く。

高瀬達役人に囲まれて、拳銃で自殺をする。

 

 松屋とお千代に寝所に仁左衛門一味が襲ってきた。

金蔵の在処を殺されても言わぬと堪える松屋だが、仁

左衛門は部下に命じて、千代に対して乱暴狼藉を働

かせようとする。

 

 松屋の一途な愛を仁左衛門は突いたのだ。

 

 耐えきれなくなった吉兵衛は、鍵を開け大金を渡し

てしまう。

 

 仁左衛門一味は千代を連れて去って行く。

 

 「お盗め」の後、仁左衛門は千代に狂言とはいえ、

部下に乱暴させようとしたことを詫びる。千代も仁左

衛門の心はわかっている。

 

 仁左衛門はかつて武士辻伊織だった。尾張藩の

財政の失敗の問題は兄蔵之助に押し付けられて

しまった。

 

 伊織は、友で恋人志乃の兄市之進の計らいで

上意討ちの危機を脱して、蔵之助と共に逃れた。

 

 伊織は志乃に再会し、市之進の義への感謝を伝え

彼女の幸を願う。

 

 仁左衛門こと伊織の課題は、無実の罪を着せた

尾張藩への復讐であった。

 

 その為に財力を確保するために豪商越後屋に狙い

を定めた。

 

 岡田は吉五郎に賄賂が少ないと怒る。彼のスパイ

活動が式部に睨まれる。そのことを察知した岡田は

按摩を頼んでいた富の市を殺害し、雲霧一党を裏切

り、お松を刺殺し、六之助や熊五郎を捕え、拷問に

かけ、仁左衛門の在処を問い質す。

 

 「雲霧仁左衛門なら、ここに居る」

 

 岡田の前に、仁左衛門が立っていた。

 

 ☆錦兄の怪盗仁左衛門☆

 

 萬屋錦之介が重く深く雲霧仁左衛門を勤めた。

日本時代劇映像の第一人者の貫録を鮮やかに示し

たドラマでもあった。

 

 長く闘病していた錦兄が体調を回復して、久々に

主演を勤めるドラマであった。

 

 プロデューサーは時代劇ドラマの歴史を荷ってきた

能村庸一である。


 

 脚本は巨匠野上龍雄が書いた。膨大なドラマを綴る

原作小説を松屋襲撃・岡田との対決に絞って、雲霧物

語をコンパクトに纏めている。

 

 監督は大映時代劇の巨匠田中徳三である。

 

 石立鉄男・川谷拓三・二宮さよ子・若山富三郎・十朱

幸代・平幹二朗・花澤徳衛・御木本伸介・神山繁・山田

吾一・綿引勝彦・大前均・田村高廣・松方弘樹と映画・

舞台でも難しいと思われる程豪華な顔ぶれが競演者

として集まった。


 

 若山富三郎・川谷拓三は錦之介の快気を祝って出演

を志願したという記事を放映当時に読んだ記憶がある。

 

 かつて自身の映画の当たり役拝一刀を錦之介が演ず

るテレビ版『子連れ狼』が製作されると聞いた若山は激怒

して、弟の勝新太郎に諌められたエピソードは有名だが、

錦兄の芸の凄まじさを熟知しているが故の怒りであった

ろう。

 

 そうした過去の怒りがあっても、錦兄の回復を聞いて

共演を望むところに、若山先生の暖かさを思う。

 

 竹藪で仁左衛門と福右衛門が会話するシーンは、萬屋

錦之介と若山富三郎の激突という日本時代劇の二大スタ

ーのがっぷり四つの競演場面で凄まじい迫力がある。

 

 時代劇の魅力は大物名優の演技合戦にあることを確認

した。

 

 錦兄と若山先生のがっぷり四つの競演では実質最後の

作品と自分は見ている。

 

 共演者達は、前後の映像版『雲霧仁左衛門』に出る人が

多いことも特徴的である。

 

 川谷拓三は、1978年の映画版で演じた三次に再び挑戦

する。腕はいいが、銭と女と酒と博奕が好きで失敗してしま

い、裏切って粛清される三次。テレビでは「良いひと」の役柄

が多かった拓ボンが、久々に東映映画でよく演じた「小悪党

」の魅力をたっぷりと見せる。

 

 大前均は1979年のテレビ版では櫓の福右衛門を演じた

が、今回は部下の権八役である。

 

 神山繁は越後屋を気品豊かに演ずる。残念ながら放送

時間の関係か、息子由太郎との葛藤のエピソードはカット

されていた。

 

 このドラマでは松屋と越後屋が親戚という設定である。

 

 御木本伸介は頑強で貫録ある松屋という原作のイメージ

を鮮やかに表現する。

 

 お千代に溺れる男の弱さをたっぷりと見せてくれる。

 

 二宮さよ子のお千代は七化けの気品が鮮やかだ。

 1979年テレビ版でナレーター、1987年テレビ版で岡田を

演じた横内正が再びナレーションを担当し、渋い語りを

聞かせてくれる。

 

 野上龍雄は岡田を原作よりも悪辣な与力として描写し

ている。富の市・お松が岡田に刺殺されるという展開は

野上脚本の物語で、原作と大きく違っている。

 

 綿引勝彦が岡田を憎々しく憎たらしく演じ切る。

 

 悪役演技が光り輝いている。

 

 錦兄の雲霧が綿引の岡田と対決するシーンが山場と

なる。

 

 大詰は蔵之助が自己を犠牲にして仁左衛門こと伊織を

助けて、安部式部のもとに仁左衛門の名を名乗って自首

する場面だ。

 

 式部が贋者と知って蔵之助の自首を受け入れるシーン

は原作も映像版も名場面だ。

 

 1979年テレビ版で式部を演じた田村高廣が蔵之助を演

じ、1987年テレビ版で仁左衛門を演じた松方弘樹が式部

を演じ、終盤に激突共演する。

 

 松方弘樹と田村高廣の心と心が呼応し、『雲霧仁左衛門』

のドラマ史が一つに集約されたようにも思えた。

 

 

 ラストは尾張を歩む仁左衛門が武士に扮して大名行列を

装う場面である。

 

 萬屋錦之介は日本時代劇の王であることを改めて実感

した。


 

                             文中敬称略



 

                                合掌