十三人の刺客(二) 侍の道 | 俺の命はウルトラ・アイ

十三人の刺客(二) 侍の道

 『十三人の刺客』

 映画 トーキー 125分 白黒 シネマスコープ

 昭和三十八年(1963年)十二月七日公開

 製作 東映京都

 脚本 池上金男

 監督 工藤栄一

 ☆

 平成十四年(2002年)十一月十日

 高槻松竹セントラルにて鑑賞

 ☆

 

十三人の刺客 昭和三十八年十二月七日公開 工藤栄一監督作品(一)

 

 

 ☆記事の中で、暴力表現・性的な事柄について

言及しています☆☆

 

 ☆☆映画の主題は、性暴力を興味本位で見る

 

 ものではありませんが、女性の方・十八歳未満

 の方はご注意下さい☆☆

 

 

 利位は新三に「その御政道の歪をどよう

に正すかが思案の為所なのだ」と胸中を

明かす。

 

 尾張中納言家来木曽上松陣屋詰牧野

靱負を新三に引き合わせる。茶室らしき

部屋で、新三は靱負と対面し、二人は一

礼し互いに挨拶を交わす。

 

 

 靱負は自身が遭遇した出来事を順を

追って、語り出す。

 

 物語は、ここで回想場面となる。

 

 

 斉韶は昨年(天保十五年)十月、参勤

交代において、木曽上松陣屋に一泊した。

 

 尾張中納言家では、家中の者が妻女も

含めて、お世話に勤めた。

 

 靱負には、倅采女とその嫁千世がいた。

自慢の息子とその嫁で、二人を深く愛して

いた。父が息子を呼ぶ。

 

 靱負「奥でご覧に供したい絵巻物は

    おさげ致したか?」

 

 

 采女「気が付きませんでした。」

 

 

 靱負「千世に申しつくるがよい。」

 

 

 靱負は新三に「千世は二か月前に倅

に迎えた嫁でござりまする。倅には過ぎ

たもの。こう申し付けたことが、仇となり

ました」と涙声で語る。

 

 千世は絵巻物を斉韶の高覧に供する

べく、廊下で平伏する。

 

 斉韶は千世を見て、「そのほう、いずれ

の者だ?」と問う。

 

 千世が「牧野采女の家の者にござります

る」と答えると、将軍家御舎弟は、「木曽の

山中に置くには惜しい器量じゃの」と語る。

 

 だが、歩み出すと思われた斉韶は、突然

千世に襲いかかり、部屋に拉致して、無残

にも身体を奪う。

 

 千世は両手で顔を抑える。

 

 

 采女は騒ぎを聞いて、斉韶の部屋に飛び

込み、愛する妻が、身体を奪われた光景を

見て、「何をしたんだ」と妻に問う。

 

 斉韶は采女を斬り、背中に小刀を突き立

てて斬殺する。

 

 

 千世は泣き崩れる。

 

 

 靱負は、新三に、「その夜の内に千世も自害

して果てました」と報告する。

 

 斉韶から何の挨拶もなく、明石藩の行列は出

立し、江戸へ逗留の後は尾張家へ掛け合った

が何の沙汰も無かったことを語る。

 

   「私と致しましては、倅と倅の嫁を

    非業に死なせまして、生きる甲斐

    とてございません。」

 

 靱負は、息子夫婦の命を奪われた悲しみ

を語る。主君尾張中納言の恥辱を思い、生

き証人としての身でもあり、自刃できぬ立場

であるという苦衷を、靱負は新三に訴える。

 

 新三は深い眼差しで、靱負の悲痛な言葉

を聞く。

 

 

 靱負は落ち着いて語っていたが、遂に涙

がこぼれる。

 

 

  「惜しからぬ命を長らえております。

   年寄りの愚痴とお笑い下され。

   私には過ぎた倅、過ぎた嫁でご

   ざりました。」

 

 涙の声を、新三は心で受けとめる。

 

 

 利位の部屋に新三は戻り腕を組む。

 

 

  新三衛門「こうしている間にも、間宮

        図書の声が聞こえてくるよ

        うでございます。」

 

 利位「殺らねば天下の政は乱れ、

     災いは万民に及ぶ。

     どうだ、新三?」

 

 新三衛門「侍として良き死に場所」

 

 

 利位「死んでくれるか?」

 

 

 新三衛門「見事、成し遂げてご覧

        に入れまする。」

 

 

 ☆決意☆

 

 新三衛門と牧野靱負の対面は、序盤の

大きな場である。

 

 

 無声映画の時代から、日本映画界を牽

引し支えて、互いに良きライバルとして競

い合ってきた片岡千恵蔵と月形龍之介の

芸と芸の激突である。

 

 靱負が気遣いから嫁を派遣したことが悲

劇の因となってしまうことを語る台詞回しが

深い。「こう申し付けたことが、仇となりまし

た」で涙声になるところに、芸の深さを思っ

た。

 

 靱負は直接的な下手人は斉韶殿だが、

息子夫婦を守りきれなかった自身を責め

て苦悩する。

 

 斉韶が千世の身体を奪うシーンでは、菅

貫太郎の残忍さの探求が光り輝く。昭和の

暗君・暴君役者としての芸力が鮮やかに示

される。

 

 三島ゆり子が両手で顔を抑えるシーンに、

悲しみの表現が深く探求されていることを

思った。

 

 河原崎長一郎が、愛する妻を奪われた采

女の哀しみを明かす。

 

 

 靱負が語る台詞「その夜の内に千世も自

害して果てました」は静かに語られる。

 

 静かな語りが、息子夫婦の生命を非業に

奪われた老人の悲痛なこころを重く伝える

ものとなっている。

 

  「年寄りの愚痴とお笑い下され。

  私には過ぎた倅、過ぎた嫁でご

  ざりました。」

 

 この台詞において、月形龍之介は泣き

崩れる。

 牧野靱負がいかに深く息子夫婦を愛し

ていたかが語られ、その二人を殺され、

「惜しからぬ命」と自己確認する在り方

を、新三に示し表明する。

 

 靱負の哀しみの言葉を聞き、新三は全

身で受けとめる。

 

 

 この場の千恵蔵の視線の演技が重い。

 

 

 理解者として頷く訳でもなく、余りの残酷

さに逃避しようとする者の怯えでもないよ

うだ。

 

 愛する息子夫婦を殺された靱負の痛み

を聞いて、そのこころを尋ね、確かめよう

とする心を思った。

 

 靱負の哀しみと新三の課題。

 

 

 龍之介と千恵蔵の、胆と胆の照応であり、

命を擲つ覚悟の者の語りとその語を聞く者

の聴聞が、一つとなって、「道」が生まれて

いく。

 

 「惜しからぬ命」と語る靱負の痛みの声

を聞いて、新三は胆を決める。

 

 土井利位との問答において、新三は、命を

捨てて課題に取り組むことを表明する。

 

    利位「どうだ、新三?」

 

 

   新三衛門「侍として良き死に場所」

 

  「斉韶様暗殺」の刺客の使命を為すことを、

新三は語りきる。

 

 男が死に場所として、全生命を託すもの。靱

負の涙の声を聞き、「惜しからぬ命」を投げる

覚悟に接し、「尊き命」と知りつつ、凶悪な殿様

斉韶を討つ決意を定める。その罪も引き受ける

所存である。

 

  利位「死んでくれるか?」

 

  新三衛門「見事、成し遂げてご覧に入れま

       する。」

 

  新三は「剣客」「刺客」としての使命に覚醒した。

 

 

  男が道を見つけた姿があった。

 

 

 

                          合掌