御誂次郎吉格子(十一)  屋根の治郎吉 | 俺の命はウルトラ・アイ

御誂次郎吉格子(十一)  屋根の治郎吉

 『御誂次郎吉格子』
 (『御誂治郎吉格子』 おあつらえじろきちごうし)
  映画 無声 白黒
  公開日 昭和六年(1931年)十二月三十一日
  製作国 日本
  制作  日活太秦
  字幕言語 日本語

  原作  吉川英治(『治郎吉格子』)


  脚色  伊藤大輔
  撮影  唐沢弘光


  出演  大河内傳次郎(治郎吉(次郎吉))


      高瀬実乗(仁吉)
      山本礼三郎(重松左次兵衛)
      山口佐喜雄(丑)      

      
      伏見信子(お喜乃)
      伏見直江(お仙)


  監督  伊藤大輔


 ☆

 平成二年(1990年)七月一日

 平成二十四年(2012年)十月二日

 京都文化博物館にて鑑賞

 
 ☆この感想記事では、結末について言及します。
  未見の方はご注意下さい☆

 
 「治郎吉ア今命の瀬戸際」と御用提灯に囲まれて
 治郎吉は縛につく心境を語る。

  だが、お仙は澄んだ瞳で、彼を励ます。

  
  「逃げられる。治郎さん。
   女の一念  逃げさせるとも」


直江


 伊藤大輔の描くお仙は強いのだ。治郎吉に助けられ
たことに感激する。命を助けてくれた治郎吉を、何と
か「助けたい」と願う。

 これが伊藤大輔の描くお仙なのだ。


 原作のお仙は治郎吉に助けを求める女性だ。

 だが、映画は違う。

 積極的で強く逞しく、治郎吉を広大な母性愛で包んで
いる。

 直江様
 「あたしゃお仙といふ女をあんだに
  忘れさせないよ」

 「お仙」の名を、治郎吉の心にしっかりと刻みつけ
たい。


 この願いに生きているのだ。


 仁吉が帰ってくる。

 
 原作では、治郎吉と仁吉の対決は夜の船上で展開する。

 映像にすれば迫力満点の名場面になろう。

 だが、伊藤大輔は迫力満点の激突をあえて描かない。

 匕首を構える治郎吉。


 次のカットでは、捕方が二階に行くと、仁吉が腹を
押さえて倒れるのだ。

 
 伊藤大輔は見事な省略を為した。

 お仙は仁吉に「兄さん、お詫びは」と問う。

 
 「治郎さん、忘れさせないよ」


 お仙はにっこり微笑んで河に身を投げる。

 捕方は治郎吉が河に逃げたと思い込んで、全員
河を探す。
  


 お仙は自己を犠牲にして治郎吉の命を助けたのだ。

 これほど深く大きな愛の表現を他に知らない。

 伏見直江のお仙は永遠の愛を明かした。


 

 屋根に逃げた治郎吉は涙を流す。


 「お仙
  お喜乃
  いいお月様だ」




 二カ月に出会ったお仙治郎吉。

 お仙が命を捨てて治郎吉を救った夜は満月だった。

 治郎吉はお仙の愛によって命を助けられた。

 映画はそののち治郎吉が処刑されたことを告げる
字幕が表示される。

 お仙の犠牲は無駄だったのか?

 否、違う。

 治郎吉はその生涯で、お仙の永遠の愛に出会った
ことに、感激したことは確かであると思う。

 大いなる愛に命を助けられたことに命の尊さを学
んだことであろう。

 「自分のために、命を捨ててくれた人がいた」と
いうことに、治郎吉は涙を流したのだ。

 お仙は喜んで、自ら進んで河に身を投げたのだ。

 「愛に命を捧げる」ということに、お仙の生涯の
テーマがあったのだ。

 伊藤大輔・大河内傳次郎・伏見直江が明かした愛
の世界は広大無辺であり、永遠の深さがある。


                   文中敬称略


 伊藤大輔生誕百十五年 平成二十五年十月二十五日
            


 (画像出典
  『御誂治郎吉格子』DVD 2008年 
   デジタルミーム)


                     合掌

                  

                 南無阿弥陀仏


                    セブン
月夜の治郎吉