必殺仕置人 大悪党のニセ涙 | 俺の命はウルトラ・アイ

必殺仕置人 大悪党のニセ涙

『必殺仕置人 大悪党のニセ涙』

 

 放映日 昭和四十八年(1973年)八月四日

 

 のさばる悪をなんとする
 

 天の裁きは待ってはおれぬ

 

 この世の正義もあてにはならぬ

 

 闇に裁いて仕置する

 

 南無阿弥陀仏


 

 ☆☆この感想記事では、ドラマの核心部分を

   ネタバレします。

 

   本編をご覧になっていない方は、ご注意く

  ださい☆☆

 

 夜。

 

 祭が盛大に行われている。

 

 豪商三国屋が笑顔を浮かべている。

 

 ひょっとこの面をかぶった男が三国屋に近づく。

 

 男が三国屋を背後から刺殺した。

 

 「俺じゃねえ!」

 

 板前仙八は、役人・捕手に追求されて逃るが、捕えら

れる。

 

 同心は、仙八を拷問にかけて、三国屋殺しの犯行を

追求し、下手人として糾弾する。

 

 水責めの拷問に遭って、仙八は必死に無実を訴え

る。

 

 

 

 仙八は光明寺の境内で寝ていたと証言する。

 

 「何の証拠があって、あっしが殺ったって言うんす」と彼

が訴えると、同心は役人と御用提灯を見て逃げたことを

抑える。

 

 役人に見つけられて逃げたのは、博奕での前科があり

怖かったたからだと弁明するが、同心は彼を下手人と見な

して、厳しく拷問を続けた。

 

 仙八「人違いだ!俺は殺っちゃいねえんだ!」

 

 牢内で仙八は、囚人仲間の政吉達から看護を受ける。

 

 牢名主天神の小六は仙八の澄んだ瞳を見て、その真

っ直ぐな気持ちに心を打たれる。

 

 小六「仙八とか言ったな。こないだからおめえは三国屋

     を殺っちゃいねえと言ってるが、本当だな?」


 

 仙八「本当に殺っちゃいねえんです。」


 

 政吉「このまま三国屋殺しをおっ被せられて

     良くて遠島、悪く行って死罪だぜ」

 

 仙八「そいつはあんまりだ。牢名主様、そりゃ、あっしは、

     他人様に迷惑ばかりかけているろくでなしです。で

     も博奕は打っても、人殺しはしねえ。

     それにあっしには病気のおふくろがいるんです。そ

      のおふくろ明日をも知れねえ命なんです。

     牢名主様、どうか、あっしをこの牢から出してやって

     おくんなせえ!

     あっしは牢の中で見ていた。牢名主様は何時でも

     自由に出たり入ったりしていなさる。それには何か

     良い手蔓がお有りなんだと思います。その手蔓に

     縋らせてやっておくんなせえ。あっしには何一つ身の

     証の立てようがありません。お願いでございます。」

 

 仙八は二両出し、「後生一生のお願いでございます」と懇願

する。


 

 鉄・錠・主水が語り合う。

 

 「一目おふくろに会いたい」という仙八の気持ちを思い、錠は

出してやるべきだと語るが、主水は「そうはいかねえ」と奉行所

の厳しさを強調する。

 

 仙八が無実を主張しても、「殺っちゃいねえ」という証拠もな

いことも抑える。

 

 三国屋と仲間が頼母子講をしていたことを仙八が覗いていた

光景を目撃した者もいる。

 

 だが、ひょっとこの面も凶器の匕首も発見されていない。

 

 鉄「ああ嫌だ、嫌だ。奉行所はすぐに無実の者を咎人に仕立

   てやがる」


 

 主水「いい風が出た。もっと吹け、もっと吹け!」

 

 主水は風を実感してにやりと微笑む。

 

 牢内において小六は、仙八の一途な願いに応えたいと願う。

せんぱち
 

 

 小六「おめえの出てえという気持ちはよくわかる。だから今から

     出してやる。」

 

 仙八「本当でございますか?」

 

 小六「だが、巧く行くかはこの風次第だ。」

 

 小六は仙八だけでなく、囚人全員の解き放しを為すと宣言する。

 

 牢番に届けさせた桶を解体し、布団から綿を取り出し、「赤猫招

き」の棒を作る。

 

 中村家では、りつが知人の仲間の着物を縫って、内職している

ことの厳しさを主水に当たり散らす。

 

 牢内で小六は明暦の大火で囚人が解き放たれたことを確認し、

火事の火の粉を、「赤猫招き」の棒に当てて、牢内に火が飛び火

した事実を作り出すことが大事だと述べる。




 

 小六「てめえ達が出られるか、仙八がおふくろに会えるかどう

     かの瀬戸際だ!」

 

 鉄と半次は仙八の老母みつを見舞う。仙八の弟分で親友の

万造形とその妻おしずがみつの介護を献身的に為していた。


 

 みつ「仙八はどうしているでしょうか?あんな極道な息子で

    も、私にとってはたった一人の可愛い子供でございま

    す。人を殺めるなんて、あたしにはどうしても信じるこ

    とが出来ないんでございます。」

 

 半次「いや、まだ仙八さんが殺ったと決まった訳じゃない

    ですからね。」


 

 火事の火の粉は牢内に飛んできた。

 

 囚人たちは、「神様・仏様・赤猫様」と必死に火の粉を招き

棒に呼び寄せる。

 

 遂に綿に火の粉が当たり、火が点いた!

 

 囚人達は牢内に火が点いた事実を成り立たせることに成

功する。

 

 小六「牢番!牢に火が入った!出せ!出してくれ!」

 

 主水と仲間の同心が現れる。

 

 同心は奉行の御達しとして、火事の為、囚人を三日の間

解き放ち、回向院の境内に三日後帰ってきた者には罪一等

を減じ、帰って来れなかった者は死罪に処すと宣言する。

 

 主水「よし、出ませい!」

 

 囚人達は驚喜して牢内から出た!

 

 主水「上手くいったな?」

 

 小六「あんたの悪智恵にも恐れいったぜ」

 

 主水「あそこに居る奴よりもっと悪いことしてる奴が娑婆に

    はもっとゴマンと居るんだ。」

 

 小六は仙八を追う。

 

 仙八は冷静に走り去って行く。

 

 遊里井筒において鉄と半次は遊んでいたが、囚人達のお解

放しで店終いになり、叩き出される。

 

 鉄「畜生!俺を誰だと思ってやがる!念仏の鉄を知らねえ

   な!」


 

 政吉達囚人は、仙八を追うやくざ音松の追求をかわし、井筒

を襲撃し、女郎達を襲う。

 

 勿論、無銭の遊びであり、乱暴狼藉である。

 

 遊里でも囚人達に払える金が無いことは承知しており、暗黙の

事柄として、短期間の傷として辛抱している訳だ。

 

 仙八は光明寺の墓地で土を掘り返し、壺を見つけるが中が空

であることに怒りを覚える。

 

 「畜生、万造の奴」

 

 仙八は、知人おりんから万造夫婦が自身の母みつを連れて

引っ越したことを知らされる。

 

 小六は、鉄・錠・主水の隠れ家で仙八への想いを語る。

 

 小六「俺は仙八が三国屋殺しの下手人だ思いたくねえんだ。

    餓鬼っぽい事を言うようだがな、俺は野郎を信じたいん

    だ。野郎は三国屋殺しをやっていねえ。それどころじゃ

    ねえ。一目だけでいいからおふくろに会いてえ。

    せめて半日でもいいから出して欲しいって言うんだ。

    それが嘘だったら俺が仙八を許しちゃおかねえ。」

 

 万造は風鈴売りの商売をしながら妻しずと共におみつの世話を

していた。


 

 おみつ「実の息子の仙八が極道ばっかりしているのに、あんた

      達他人がすまないねえ。」


 

 万造が表で風鈴を見て家に入った。

 

 何者かが万造の背中を蹴った!


 

 ☆☆

 改めて申します。ここからの要約で筋の核心を全面的に語り

ますので、未見の方は注意して下さいね

 ☆☆

 

 仙八だった。

 

 仙八は「万造探したぜ」と言い、万造を殴り倒す。

 

 おしずとおみつが懸命に諌めるが、仙八は万造に殴る蹴るの

暴力を執拗に為し、万造の口から血が流れる。

 

 おしずは、「うちのが、あんたが光明寺の墓石に」と述べるが

言葉を続けることを控える。

 

 仙八は母おみつに対する気兼ねは無用であり、「構うことは

ねえ。聞かせてやんな。どうせくたばっちまうんだ。聞かせて

やったほうが功徳というもんだぜ」と明言する。

 

 仙八はおみつに強く太い声で語りかける。


 

 仙八「噂には聞いてるだろ?三国屋が殺されて、頼母子講の

     百五十両がぱくられたことはよ」

 

 おみつ「仙八」

 

 仙八「その咎で俺はしょっぴかれたが、それを殺ったのは、

     ほかでもねえ、正真正銘この俺だ。俺が三国屋の

     野郎をぶっ殺したのよ!」


 

 おみつ「お前って男は!」

 

  仙八「その金を墓地に隠す所を万造の野郎が見やがった!

     俺が心配なのは金のことよ。誰かに見つからないかと

     心配で夜もおちおち寝れなかった。だから俺はやって

     ませんの候の、おふくろに一目会いたいの候の、哀れ

     な声を張り上げて、小六の野郎を乗せたんだ。それを

     あの馬鹿。まんまと嵌りやがって、赤猫招きで解き放し

     だ。はは甘めえもんだぜ、小六なんて野郎は!」


 

 この言葉は全て、家の外絵で立ち聞きしていた小六・錠・鉄に

聞かれていた。

 

 万造は金を盗んだことを認めるが、それは商売を大きくして

おみつの薬代を稼ぐためだったと強調した。

 

 仙八はそれでも激怒して万造を打擲・殴打する。

 

 夫の被害を見て耐えられなくなったおしずが風呂敷を差し出

す!

 

 百五十両の金!ひょっとこの面!匕首。

 

 凶行の証拠であるものが入っていた。

 

 仙八は驚喜して歓喜の笑みを浮かべて大喜びする。

 

 仙八「俺の金だ!」

 

 

 おみつが号泣する。

 

 錠が室内に入ろうとするが、小六が制止する。

 

 仙八は、おしずに酒を要求し、匕首で脅して体を奪おうとする。

 

 万造が止めようとするが、仙八は蹴り倒し、部屋の外に出し、

万造が聞き耳を立てる障子の側の紙を破る。

 

 仙八「お互いに明日の朝までの辛抱さ。俺は牢に帰るんだ。

    あの牢にな。」

 

 おしずは、哀れ、無理矢理、仙八に身体を奪われる。

 

 翌朝。

 

 解き放しの期日の三日目の朝だ。

 

 鉄と錠は朝日を受けて、光明寺に向かう。

 

 寺では、主水と小六が仙八について語り合う。

 

 小六は、鉄に金を渡し、仙八の仕置を頼む。

 

 仙八は音松一味と戦いながら、寺に帰ってきた。

 

 小六は仙八を睨みつけつが、殺気を感じた主水は必死に小六

親分を諌める。

 

 囚人達は本堂に集められ、点呼を受ける。

 

 鉄は本堂に入り、静かに仙八の背後に座り、右手でその背骨

をはずして殺害する。

 

 同心が「江戸百閒堀板前職人仙八!」

 

 仙八が倒れて政吉達囚人仲間が駆け寄って看護するが、仙

八は既に死去していた。

 

 小六「申しあげます。仙八はただ今急死致しました。」

藤田主水
 

 主水「そうか、折角帰ってきたのに、惜しいことをしたな。

    見苦しい!取り下げい!」


 

 その時、鉄と錠が回向院の石段を駆け降りていた。

 

 

 

 

 

 ☆☆森次浩司の仙八 人間探求を極めた芸☆☆


 

 第十六話「大悪党のニセ涙」は国弘威雄の脚本、森次浩司

の芸、工藤栄一の演出が輝く大傑作である。

 

 冒頭の祭の夜。

 

 三国屋の背後に近づくひょっとこ面の男が為す凶行を工藤

演出は映す。

 

 「ひょっとこの面の男の体型から見て、演じている人は森次

さんのようだ。すると下手人は仙八なのか?」

 

 この問いを森次浩司の映像を見ているファンに投げつけて

その心を離さない。

 

 工藤栄一演出には粘り強さと吸引力がある。

 

 工藤監督は昭和四年(1929年)七月十七日北海道生まれ。

昭和三十八年十二月七日に公開された東映京都制作の映画

『十三人の刺客』は集団抗争時代劇の大傑作であり、暗殺者の

行為が虐げられた者達の恨みを晴らすという物語を明かした。

 

 この映画は『必殺仕置人』の原点であったと見てよいと思う。

 

    『光と影 映画監督工藤栄一』(インタビュアー ダーテ

ィ工藤 平成十四年五月一日発行 ワイズ出版)における工

藤栄一が讃えた名画と『必殺仕置人』についての方針を尋ね

たい。

 

 

 

    エリッヒ・フォン・シュトロハイムが出演していた『大いなる

  幻影』(’37ジャン・ルノワール)なんかよかったな(44頁)

 

  当時は殺しの場面とかの表現規制もそんなにうるさくな  

  かったから、俺は好き勝手にやってたね(163頁)

 

 戦争を悲しみ平和を希求し願う『大いなる幻影』への讃嘆。

雪のシーンの鮮やかな撮り方・映し方は工藤栄一映像とも

通底するものを感じている。

 

 「好き勝手」に撮って演出して大傑作になる。カッコいい。

 

 

 第十六話「大悪党のニセ涙」は文字通り「悪の華」をブ

ラウン管に咲かせた。

  

 

 

 ゲストの森次浩司は放映時三十歳の若さであった。

 

 森次は昭和十八年(1943年)三月十五日、北海道生まれ。

本名を森次浩三と申し上げる。

 

 昭和四十二年(1967年)十月一日から四十三年(1968年)に

TBS系で放送された円谷プロ制作のドラマ『ウルトラセブン』に

おいて主人公モロボシ・ダンを熱演してスターになった。

 

 山内久司は恐らくダンの繊細で暖かく優しいイメージに着目し

て、「イメージをを裏切る」ことを課題として、仙八役に森次を抜

擢したのであろう。


 

 北海道出身の監督・ゲスト名優が組んだ不滅の傑作が本第

十六話である。

 

 仙八が御用提灯を見て逃げ取り押さえられる場面のアク

ション演出は凄まじい。

 

 牢内で同心が仙八を水責めの拷問にかけるシーンで、スロー

モーションのキャメラワークで工藤演出は物語を語る。

 

 ゆっくりとしたキャメラの動きで、残酷な拷問のシーンが静かに

語られるので、視聴者は仙八が哀れに思えて、つい同情してしま

う。

 

 「仙八は無実の罪なのではないか?」という思いが抑え難くなる。

 

 牢内で小六に哀願する仙八の言葉には真実の叫びと思える程

の迫力がある。

 

 小六にとって、心の琴線に触れるものがあり、仙八の「母に会い

たい」という涙ながらの訴えに応えたいという気持ちに、視聴者の

胸も熱くなる。

 

 囚人仲間が仙八を支え励まして絆が熱くなっていく過程も感動

的だ。

 

 仙八が格子から娑婆を思い、おみねの病床が映る。

 

 母子の心と心が呼応して篤い絆がある。

 

 このように視聴者に思わせる工藤演出の巧さは絶品である。

 

 森次浩司は、「優しい仙八」の誠実さ・真面目さ・一途さを熱く

演じ切った。

 

 仙八の「おふくろに会いたい」という親孝行の気持ちを叶えて

あげて欲しいという気持ちを視聴者に抱かせる。

 

 鉄が井筒で遊んでいて、追い出されるシーンも印象的だ。

 

 「念仏の鉄を知らねえな!」の激怒の声も迫力がある。

 

 生き甲斐を奪われた鉄の怒りである。

 

 こうした「笑い」の探求に、初期「必殺」の脚本・演出の鋭さが

光っている。


 

 政吉達囚人が井筒を急襲して女郎達に襲いかかるシーンに

工藤演出の群衆の激動を見つめる視座があると思う。

 

 惨たらしい乱暴狼藉だが、本能に帰って生きる人間の赤裸々

な姿を見つめるリアル感がある。

 

 囚人達が「三日だけの極楽」を実感する驚喜の解放感の演出

に、工藤監督の鋭い人間観察が光っている。


 

 夜の光明寺の仙八の怒りに、視聴者は、「ひょっとして」という

思いを覚える。

 

 そして、仙八・万造の再会シーンになってその思いは強いもの

となる。

 

 万造は優しくおしずを介護し、風鈴の商売をしている。

 

 風鈴の音の後に、万造が暴行を受ける。

 

 この対照が物語の構成として絶妙なのだ。

 

 再会場面では万造が背を蹴られて、蹴った男が仙八だとわかる

構成になっている。

 

 足から入るところにも、工藤演出の深さがある。

 万造に暴行を加え、金の在処を追求する仙八。

 

 外道の蛮行に観て、視聴者は「どんでん返し」に出会ったことに

近い感覚を覚える。

 

 ここで森次の名演が凄まじい迫力を示す。

 

 静かな声で、母おみつに対して、「功徳」として蛮行を語り出す。

 

 得意げに自慢の意味もこめて、自身の才能と能力を誇示しなが

ら、凶行に関連していることについて静かに触れはじめる。

 

 そして立ち上がって大きな声で、「その咎で俺はしょっぴかれた

が、それを殺ったのは、ほかでもねえ、正真正銘この俺だ。俺が

三国屋の野郎をぶっ殺したのよ!」の台詞を力強く宣言する。

 

 極悪人仙八の姿を視聴者は見届けるのである。

 

 森次浩司の鬼気迫る至芸が、悪を極め尽くす男仙八の冷酷さ

を明かす。

 

 演技であると知っていっても、その凄まじい迫力に震えてしまう。

 

 小六を小馬鹿にするシーンの傲慢さも強烈である。

 

 まさに極悪のヒーローである。

 

 ここまで悪を極め尽くしている姿は、魅力的なものともなっている

という感覚を視聴者は抑え難くなると思う。

 

 実生活では暴力と犯罪に悲しみを感ずるが、フィクションにおける

「悪」の凄まじさに視聴者・観客は人間の極限的な姿を思うこともある。

 

 残酷・冷酷な蛮行を描くことで、「何が下手人をしてここまで惨たら

しい凶行を為さしめたのか?」と問わせる迫力がある。

 

 「俺の金だ!」と驚喜大笑するシーンに、工藤演出の人間洞察・探

求が極まりを示す。

 

 視聴者はぶるぶる震えが止まらない。

 

 森次の名演が人間が極限的なあり方を鮮やかに示している。

 

 ここでもスローモーションのキャメラワークが巧みに用いられる。

 

 静かな動き・歩みなので、仙八の残酷さ・冷酷非情さが一層強烈に

視聴者の心に響くのだ。

 

 ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『リチャード三世』のリチャードや

『オセロー』のイアーゴーに匹敵する極悪さであり、「悪の天才」とし

ての存在感を仙八は光らせている。

 

 仙八が母を怒鳴りはねのけ、万造を殴り、おしずの身体を奪うシーン

に、悪を極めながら生きる男仙八の凄絶な生き方が語られる。

 

 弱みを握った者を痛めつけ、肉体的・体力的に勝てると思った女性

達は苛め抜く。

 

 まさに外道の悪業であるが、仙八はその道を歩むことを生きがいに

しているようでもある。

 

 森次浩司は渾身の熱演で仙八の極悪ぶりを勤めきった。

 

 鉄と錠が回向院に入るシーンでは、ツクツクボウシが鳴く。

 

 その牧歌的で優しい声が、仕置人の厳しい「仕置」と対照を為す。

 

 鉄の静かな仕置で、極悪人仙八は命を絶たれる。

 

 悪人仙八よりも、小六は、「ワル」という意味でも大物だった。

 

 森次浩司の仙八の極悪の探求は強烈で凄まじい印象を視聴者

の心に刻みつけた。

 

 もう一つの代表作になったことは確かであろう。

 

 当時の子供達は、「ダンが悪者になった」と悲しみ、泣き出したと

いう。

 

 子供たちの心を傷つけ、涙を呼ぶほどに名演は凄かったのだ。

 

 『ウルトラセブン』のモロボシ・ダンの子供達の涙を呼んだ。森次

浩司の名演の凄まじさを明かす事実である。

 

 「俺の金だ♪」の笑いは、残虐非道を極め尽くした仙八の冷酷さ・

残忍さを象徴するものとなっている。

 

 

 

 工藤栄一監督は「悪」を深く見つめ、極限状態に在る人間はどこま

でも残酷になってしまうことを探求した。

 

 演出の妥協なき姿勢は、必殺史上は勿論のこと、日本映像史の

中で人間探求の歴史的傑作として、不滅の輝きを放つものとなって

いる。

 

 

 悪のヒーロー仙八の冷酷さを勤め切った森次浩司の情熱に敬意

を表したい。

 

                                 文中敬称略




 

 山崎努(念仏の鉄)

 

 

 沖雅也(棺桶の錠)


 

 白木万理(中村りつ)


 

 森次浩司(仙八)


 

 津坂浩史(万造)


 

 西田良(政吉)

 伝法三千雄(源太)

 千代田進一(貞次郎)

 

 

 津坂匡章(おひろめの半次)

 

 

 京春上(おしず)

 香月京子(おりん)

 三田一枝(みつ)

 

 森章二(同心)

 芦田鉄雄(音松)

 徳田実(伝七)

 

 岩田正(三国屋)

 三ツ屋東美(仲居)

 高木峯子(遣り手婆)

 

 

 高松英郎(天神の小六)

 

 

 藤田まこと(中村主水)




 

 
 

 スタッフ

 

 制作      山内久司

          仲川利久

          桜井洋三

 

 脚本      国弘威雄

 

 音楽      平尾昌晃

 撮影      小辻昭三

 

 美術      倉橋利韶

 照明      中島利男

 録音      二見貞行

 調音      本田文人

 編集      園井弘一

 

 助監督    高坂幸光

 装飾     稲川兼三

 記録     野口多喜子

 進行     黒田満重

 特技     宍戸大全

 

 装置     新映美術工芸

 床山結髪  八木かつら

 衣装     松竹衣装

 現像     東洋現像所

 

 制作主任  渡辺寿男

 殺陣     美山晋八

 題字     糸見溪南

 

 ナレーター  芥川隆行

 

 制作協力   京都映画株式会社

 

 主題歌    「やがて愛の日が」

          作詞  茜まさお

          作曲  平尾昌晃

          編曲  竜崎孝路

          唄    三井由美子

          ビクターレコード

 

 監督      工藤栄一

 

 制作      朝日放送

          松竹株式会社

 

 

 ☆☆

 山崎努=山﨑努

 

 白木万理=松島恭子=白木マリ

 

 森次浩司→森次晃嗣

 

 津坂匡章→秋野太作

 

 国弘威雄=國弘威雄

 

 平尾昌晃=平尾昌章

 

 高坂幸光→高坂光幸の誤記と思われる

 

 早坂暁・野上龍雄・野島一郎はノークレジット

 ☆☆


 画像・台詞出典     『必殺仕置人』DVD vol.5
 

                     文中敬称略

              

         

 

              『必殺仕置人』第十六話四十歳   

                  平成二十五年八月四日




 

                        南無阿弥陀仏