必殺仕置人 はみだし者に情なし | 俺の命はウルトラ・アイ

必殺仕置人 はみだし者に情なし

 『必殺仕置人 はみだし者に情なし』

 テレビ映画 トーキー 55分 カラー 

  放映日 昭和四十八年(1973年)五月五日

 放送局 朝日放送 TBS系

 製作国 日本

 製作言語 日本語

 

 

 

 

     のさばる悪をなんとする
 

 

 

     天の裁きは待ってはおれぬ

 

     この世の正義もあてにはならぬ

 

     闇に裁いて仕置する

 

     南無阿弥陀仏

  ☆

  性暴力・虐待・拷問のシーンに関する記述

 があります。

 

 

  残酷なシーンが展開しますが、感想に述べ

 ますようにドラマは興味本位で制作された

 ものではありません。

 

 

  未見の方・十八歳未満の方・女性の方は

 閲覧ご注意下さい。

 ☆



 目明かしの六蔵は女湯を覗き娘の身体を無理

矢理奪って言う事を聞かせて強請り、北町奉行所

与力高坂多聞や同心島本達に渡していた。上州屋

の娘も六蔵に乱暴されそのことを悲しみ縊死した。

 

 夜

 

 

 「ロクな女いねえな」

 

 六蔵は女風呂を覗き中にいる女性達を見て落

胆するが一人の女性に惹かれ風呂屋の親爺に名

を聞く。

 

 女性の名はりんだ。十手をかざして六蔵はお

りんに「聞きたいことがある」と問い、寺に誘

って乱暴しようとする。隻眼の浮浪者亀吉が驚

喜して覗こうとする。

 鉄が現れて、六蔵の首を絞めて「早く逃げろ」

と叫んでおりんを救う。

 

  鉄「おめえを仕置してくれって。

    そういう訴えが出てるんだ。」

 

 鉄は骨はずしで六蔵を殺害する。亀吉は無言で

去ってゆく鉄を見る。

 

 舟の中。

 

 錠が仕置人達の寄場を作っていた。鉄・おきん・

半次が集う。おきんは頼み人の上州屋から得た後

金を払い、「死んだ娘も浮かばれます」という頼

み人の言葉を伝える。

 

   鉄「人でなしはどんどん殺しちまって

    いいんだよ。十手を笠に女漁りを

    されたんじゃ、こっちに女が回って

    こねえ。」

 

 

 鉄は後金のうち二両を取って去っていく。

 

  おきん「あいつだけ二両?」

 

 

  半次「な」

 

  おきん「あたしも骨外し習お」

 

 主水は下着を洗濯していた。りつとせんは高坂

の奥方に挨拶に行く。食事は米と梅干のみで主水

は不満を感じ魚を見つけ調理しようとするが、田

口から目明し殺しを告げられる。高坂は部下の同

心達を集め下手人逮捕を厳命する。

 

  高坂「一つだけ申しておくが、十手持ちが殺

     されては奉行所の面目が立たん。下手

     人は草の根を分けても探し出せ!」

 

 

 島本ら部下が「は」と返事し一礼する。

 

 高坂は仕置人を放置せぬと宣言し、主水はそ

の眼光に恐怖感を覚え視線をそらす。

 

 島本は亀吉を捕え、殴る蹴るの拷問を加える。

「乞食仲間にお前が殺しを見たと語ったことは

わかってるんだ!」と島本は問い詰め凄惨な拷

問を加える。隻眼の亀吉は見てねえと主張する。

 

 すると島本は蝋燭の炎で見える亀吉の眼を潰

し「おめえは見えねえ筈だな」と冷笑する。た

だ一つ見えていた目を潰された亀吉は「あち!あ

ち」と熱さと激痛で苦しみのたうちまわる。

 

 

 高坂と島本は三國屋の催しに参加する。蝋燭問

屋の豪商三國屋は、表面的には貧しい庶民が無料

で医師道安の診療を受けられるように取り計らっ

ている慈善家であったが裏の顔は変態であった。

道安が女性を洗脳し、その女性を三國屋達は拉致

して嬲りものにするという趣向がなされていた。

六蔵も三國屋の配下の岡っ引きであった。

 

 向島の催しでは紀州藩の家老小笠原頼母が登場

し、女性がおせきが蝋燭で 高坂や島本や三國屋

に虐待される光景を見て喜んでいた。

 

 

 

 

  おせき「三國屋!私はお前が誰だがわかっている。

      訴えてやる!」

 

 

 おせきは逃げるが島本に取り押さえられ、庭の池に

顔を押しつけられ殺害される。

 

 

 小笠原は「もっとやれ!」と驚喜する。

 

 

 主水は船の中の寄場で鉄・錠・おきん・半次

が自身に隠れて仕置をしたことを咎め奉行所の

調べが進んでいることを告げ四人に警告する。

 

 

 島本の冷酷で執拗な拷問に遭い、亀吉は遂に

六蔵殺害の下手人が鉄であることを吐いてしまう。

 

 危機を感じた主水は、観音長屋において自分

の手で鉄・錠を捕える。

はみだし者に情なし に

 

 長屋のおかまの男性熊さんは、島本を見て彼の顔

を思い出す。奉行所において鉄・錠は、島本から残

酷な拷問と凄惨な虐待を受ける。島本は煙草の火種

を鉄の禿頭に乗せる。

 

 

  鉄「なんてことしやがんだ!

    禿になるじゃねえか!」

 

 

 島本は錠を見て冷笑し「おめえも吸いてえか?」

と言って錠の鼻孔に熱い煙管を入れる。熱さで苦し

んでも錠は笑いを浮かべ島本はますます怒る。牢内

で錠は主水に裏切られたと怒るが小六が諌める。小

六は錠に対して、「中村主水ってのは喰えねえ男」

と確かめて裏切ったのではないと強調する。牢番に

対して小六は「用を足す」と言って外出することを

告げる。牢番は「ごゆっくり」と言って送り出す。

 小六は主水と共に亀吉の訴えを聞く。

 

  亀吉「すまねえ。俺が吐いてしまったんじゃ。

     親分、聞いてくれ。俺はたった一つの片

     目をあの同心の島本って奴に潰されてし

     まったんだ。これじゃあ二度とお天道様

     を拝めやしねえ。この金はな、俺が二十

     年貰い貯めた金なんじゃ。水呑百姓が江

     戸で食い詰めて乞食しながら貯め抜いて

     それでもいつかは田舎に帰って少しの田

     圃でも買うて百姓に戻ろうと。ただ、そ

     れだけで貯めた金なんじゃ」

 

 

 亀吉は包帯を取って潰された目を見せる。

 

  亀吉「これじゃそれも叶わんよ。どうかこの金

     で俺の恨みを晴らしてくれ。」

 

  小六「引き受けたぜ。お天道様が拝めねえって

     ことがどれほど辛いことか。その同心野郎に

    思い知らせてやる。」

 

 

 主水はおきん・半次から熊さんを紹介される。熊さ

んは「恥ずかしい」と照れながら向島の三国屋屋敷で

見世物にされたことを語り、その席に島本がいたこと

を報告する。三國屋は、六蔵が殺害され、「女が手に

入らなくなった」と嘆き、道安に催しの為の女性を手

配するように求める。おきんは囮となって道安の元に

潜入し催眠術を受ける。

 

 島本は鉄・錠を虐待するが、二人が耐え忍ぶことに

いらだって立腹する。主水から「向島でのお楽しみ」を

指摘され驚愕し対応を高坂に相談する。

 

  高坂「二人を釈放しろ!」

 

  島本「釈放して?」

 

  高坂「消すんだ」

 

 道安はおきんに「一晩だけじゃ」と言い聞かせる。

 

 島本は、鉄・錠を敢えて釈放する。小六は鉄・錠に

「こいつは罠だ」と注意する。

 

 

 夜。島本とその配下は錠・鉄を襲うが逆襲される。

 

 鉄は覆面の男を平手打ちにしてその覆面を取り、島

本と確認し拉致する。

 

 

  鉄「やっぱりおめえか!」

 

 鉄・錠は島本を縛り上げ虐待し殴る。主水は饅頭を

食べている。

 

  鉄「六蔵はお前たちの指図で女漁りをしていたん

    だな?」

 

  島本「俺はただ・・・!」

 

  錠「高坂って与力の指図だろ!この野郎!」

 主水は島本を殴り打擲し、三國屋の黒幕に小笠原頼母

がいることを知り、強敵の存在に驚愕する。仕置人は「葵

の御紋」と対決することになる。

 

 小笠原はおせきが殺害される光景に興奮したことを喜

喜として語り、三國屋・高坂に新たな趣向を要求する。道

安は藤娘の着物を着たおきんに人形振りを指導し、「高貴

なお方」のお座興の相手をするようにと命じる。

 

 

 向島の三國屋の屋敷に小笠原・三國屋・高坂が集う。

三國屋は、男の人形と女の人形に扮した役者と女の情を

交わすことを企画していたが、女と思われた人形役者は、

おきんにあらずして、熊さんであった。熊さんに言い寄

られて小笠原は気分が悪くなるが、高坂・三國屋と共に、

鉄・錠に捕えられ、拉致される。熊さんは男の人形に扮

した男が制止している光景を見て触れる。鉄は「そいつ

は関わりはねえんだ!」と注意する。男の人形に扮した

男は恐怖感から逃げ出す。

 

 舟の中の寄場。

 

 小笠原・高坂・島本・三國屋とその仲間達は捕えられ、

目隠しをされていた。彼らは恐怖の余り震えが止まらな

い。鉄・錠が見つめている。主水が宣言する。

 

  「悪い事は出来ねえな。天網恢恢疎にして漏らさず

   って奴だだが、俺達、天網なんて夢みてえな事、

   誰も信じちゃいねえ。生身の人間の恨みをこめて、

   てめえらに仕置してやるんだ。

    てめえら、目明かしの六蔵を手先に使って、何の

   罪咎も無え娘を、てめえらの慰みもんにしやがった。

    その為に、首をくくった女もいる。川に身を投げた女

   もいる。身を持ち崩した女は、二人や三人じゃねえ。

   その訴えを取り上げてやる筈の奉行所の役人がグル

   になってちゃ、一体、この恨み、誰が晴らすんでえ?

   いいか、奉行所は北町と南町だけじゃねえぞ。

   ここにも、あるんだ。ここに、地獄の奉行所がな!」

 

  三國屋「金なら出す!いくらでも出す!」

 

   主水「金ならあるんだ、ここに。乞食がためた十三両の金

     がな。おう、乞食の胴巻が臭えか?これだけは、覚

     えとけ。乞食が二十年間、汗水垂らした金で、てめえ

     らに、仕置をしてくれと頼んでるんだ!」

 

 

 

 

 

 主水は亀吉を呼ぶ。

 

 

 主水「亀、おめえの眼を潰したのは島本って野郎だったな?」

 

 

 亀吉「居るのかい?あの野郎が!」

 

 

 

 

 島本は悲鳴をあげる。

 

 

 

 

 主水「おめえのすぐ後ろに居るじゃねえか!」

 

 

 

 

 目が見えない亀吉は、島本と思いこんで間違えた鉄に飛

びかかろうとする。鉄は恐怖感じ逃げて「亀、亀、亀!」

となだめる。亀吉にとって仇島本と出会うという「優曇華」

の事柄であった。島本は叫び許しを乞い、何とか仕置から

逃れようとするが仕置人達に取り押さえられ、目を大きく

開けさせられる。錠が盲目の亀吉の手をしっかりと支え、

蝋燭を持たせる。島本は叫び声を上げ、逃げようとするが

縛られている為に動けない。亀吉は錠の助けで、蝋燭を握り

恐怖感を十分に味あわせた後に、仇敵・怨敵島本の眼を潰す。

 

 鉄・主水は「高貴なお方」である小笠原一味全員にこの

制裁を加えるように命じる。

 

 翌朝、高坂・島本・三国屋・小笠原らは両目を潰され、胸

を煙草の火種にやけどを負わされ、葵の褌を締めて、錯乱状

態となり、橋の下で裸踊りをさせられる。

 

 

  鉄「あの胸のぶつぶつは何ですかい?」

 

  主水「おめえ、一言多いんだよ。」

 

 目明しは「見て見ぬ振りがいいんだ。」と配下の者に関

わり合いにならないようと注意する。

 

 

 半次は目隠しをされた高貴なお方たちがぶつかりそうに

なり、「あぶない!」と注意する。

 

 

 目隠しをした「高貴なお方」の一人は錯乱して川に落ちて

水死する。

 

 

 半次「だから言ったじゃないか」

 

 鉄・半次・おきんは遊女たちと酒盛りする。

 

  鉄「拾ったもんにやるぞお!」

 

鉄が投げた金を遊女達が追うが拾ったのはおきんだった。

 

 亀吉は乞食として物乞いをして金を貯める。

 

 錠が彼の前に立ち、一両を椀に投げ渡す。

 

 

 小判の音を聞いた亀吉は、驚喜し小判を噛んでその

感触を確認し深謝する。
 

 主水はへそくり帳に小判を入れて、「やっぱり俺

は三両取るべきだったかなあ?」と自問して溜息を

つく。

 

 

 

 

 

  ☆安倍徹郎が探求する怨念

   巨悪を現す入川保則の至芸☆

 

 

 『必殺仕置人』第三話「はみだし者に情なし」は凄まじ

い怨念の物語である。

 

 

 『必殺シリーズ』全体が「のさばる悪をなんとする」と

いう問いを語り、「天の裁きはまってはおれぬ」という復

讐のこころを尋ねる物語ではあるが、「はみだし者に情な

し」の憎悪の世界はあまりにも激しくて震えが止まらない。
 

 奉行所の役人・大藩の家老・豪商といった実力者達が、

目明かし六蔵を手先に使って、女性を強姦した上、嬲りも

のにして、時には殺害もしていた。

 

 

 仕置人達は、虐殺された女性達や目を潰された亀吉の

恨みを思い、その恨みを晴らす為に、悪人達に凄まじい

仕置を行って、復讐を果たさせる。

 

 その怨念の表現の凄まじさに圧倒される。

 

 脚本の安倍徹郎(あべ・てつろう)は昭和三年(1928年)

八月二十九日に東京都に誕生した。

 

 

 大映脚本部において池波正太郎の指導を受け、数多くの

時代劇の脚本を書かれた。池波の信頼は篤く『仕掛人藤枝

梅安』シリーズでは解説も担当している。

 

 

 『必殺シリーズ』を支えた大脚本家のお一人であらせられ

る。

 

 

 凄惨なドラマと激しい怨念のドラマを執筆されたが、その

根底には繊細な心遣いが溢れている。

 

 

 『必殺仕掛人』「地獄花」は永遠の大傑作である。

 

 

 

 

 「地獄花」は梅安が殺しの現場を神谷兵十郎に見られたとこ

ろからドラマが大きく展開するが、この「はみだし者に情なし」

においても、鉄が亀吉に「仕置」を目撃されたことがドラマの

鍵となっている。

 

 

 目明し六蔵が湯女おりんを抑えつけて力づくで身体を奪おう

とする場面で、隻眼の浮浪者乞食の六蔵が喜んで覗こうとす

るが、ここに安倍脚本の人間観察の鋭さがある。

 

 

 男性浮浪者乞食には、女性達との出会いは殆どないし、振り

返られることも殆どない。

 

 

 女性が他の男に虐待されている光景を見て、自身の愉悦に

するという厳しくも哀しい状況が確かめられている。

 

 常田富士男の演技も鋭い。

 

 

 

 

 窮地のおりんを救い六蔵を仕置する鉄は迫力豊かだ。

 

 山崎努のカッコ良さと男らしさが光り輝く。

 

 亀吉が鉄を見つめてタイトルが表示される。

 

 安倍徹郎の脚本は構成が緻密である。

 

 

 

 

 亀吉が片目を潰され、後に錠の助けを得て仇の島本に

復讐として両目を潰し、「目には目を」というより「片

目には両目を」の報復を為す。

 

 

 おせきは水に顔を付けられて虐殺され、島本・高坂・

三國屋・小笠原らは、川に突き落とされて水死する。

 

 

 主水は中村家で洗濯をして褌を干すが、これが大詰

で高貴なお方達は締める「葵の褌」との照応になって

いる。

 

 

 「天網恢恢疎にして漏らさず」の教えに主水は懐疑

的だが、仕置人達の制裁を受ける「高貴なお方」の末

路に自業自得を実感せざるを得ない。

 

 

 高坂多聞は第二話「牢屋でのこす血のねがい」にお

いておしんを処刑し、山城屋を利用するだけ利用して

捨てて処刑する黒幕として登場する。

 

 

 唐沢民賢(からさわ・みんけん)の重厚で深遠な名

演は圧巻であった。無言の眼光で「巨悪」が厳かに語

られた。

 

 

 主水は「金が無くなりゃ高坂の野郎も動かねえ。ど

うやら次は奴を仕置にかけなきゃならねえようだな」

と宣言し、鉄は「そのうち野郎の首根っこも抑えるさ」

と答えるが、安倍脚本はこの第二話を繊細に受けて、

仕置人対高坂一味の激闘を丁寧に描写する。

 

 唐沢民賢は昭和十二年(1937年)一月三日長野県に

誕生した。東映において数百本の映画に出演している

名優である。現代においてGREEでブログもされている。

 

 

 http://gree.jp/karasawa_minken/

 

 

 『仁義なき戦い』シリーズでは第一作で若杉寛に射

殺される中村課長、第二部『広島死闘篇』では新聞記

者を鮮やかに演じ分けている。因みに「牢屋でのこす

血のねがい」放映日と『仁義なき戦い 広島死闘篇』

封切日は同じ昭和四十八年四月二十八日である。国弘

威雄・貞永方久と笠原和夫・深作欣二が、テレビ映画

と映画で「唐沢民賢出演作品対決」を為した。

 

 

 それから一週間後の昭和四十八年五月五日に「はみ

だし者に情なし」は放映された。

 

 

 唐沢の眼力は鋭く、視聴者を震撼せしめる。声も綺

麗である。島本ら配下の者に六蔵殺しの下手人を捕え

るように厳命するシーンでは主水を睨む眼光が強烈な

印象を与えてくれる。

 

 

 島本を演ずる方は、入川保則(いりかわ・やすのり)

である。青白い表情で島本を演じきった入川の存在感

は強烈だ。

 入川は昭和十四年(1939年)十一月十日兵庫県東灘

区に誕生した。

 著書で少年時代を次のように確かめている。

 

   僕は1939年生まれ、神戸育ち。物心ついた頃には、

   街は空襲で一面、焼け野原でした。きのう遊んでいた

  近所の友達が、今日には焼死体になってそこらへん

  に転がっていた。

   野坂昭如さんの『火垂の墓』を思い出して頂ければ

  よろしいでしょう。妹が餓死していくのを、そっと腕に

  抱きながら見守る兄貴・・・・・・。あのまんまの景色を

  見て育ったと言ってもあながち過言ではないのです。

  実際、僕の妹は戦時中、僕の腕の中で息を引き取り 

  ました。それ以来、僕は一人っ子として育つことになり

  ます。

  (入川保則著『その時は笑ってさよなら

   俳優・入川保則 余命半年の生き方』 19頁

   2011年 ワニブックス)

 

 

 入川保則が語った、少年時代の戦争の悲惨さは、戦後

生まれのわたくしには重い。同郷の大先輩が語って下さっ

た戦時中の事実に、戦争の残酷さと平和の尊さを学ばね

ばならないことを痛感する。島本役における徹底した残

酷さの探求は、入川の戦争時代の悲しみが根底にあると

拝察する。島本は亀吉を虐め抜きたった一つの目を嬲り

蝋燭の炎で潰す。「高貴なお方」達のもよおしで虐待を

受けて抗議するおせきを捕えて、迷わず水にその顔を押

しつけて虐殺する。人間は限り無く残酷になれることを

入川の名演は伝えている。 

 

 

 『必殺シリーズ』は放映当時の「現代」を問うドラマ

と言われている。小笠原頼母が所属する紀州藩は、徳川

御三家の一つで「葵」の御紋の藩である。それ故に鉄・

主水は「仕置」で頼母達に「葵の褌」を締めさせて虐待

する。徳川期において「葵」の紋は最大の権威である。

 昭和四十八年(1973年)五月五日とはどんな時代で

あったか?

 放映日から六日前の昭和四十八年四月二十九日に昭和

天皇裕仁は七十二歳の誕生日を迎えた。昭和天皇が統治

していた大日本帝国は中華民国を侵略し、昭和十二年(193

7年)十二月の南京において、天皇の軍隊である帝国軍

人達は中国の民衆を虐殺した。七三一部隊の日本軍兵士た

ちは中国人達を人体実験にした。大日本帝国の軍人達は

朝鮮人の女性達を従軍慰安婦として凌辱暴行した。

 

 

 これらの歴史事実は、日本人が心に刻まねばならないこ

とである。大日本帝国のアジア諸国侵略と共に、連合国と

の戦争において日本人兵士の数多の生命が犠牲になった。

 

 

 昭和二十年(1945年)三月から六月にかけて沖縄では戦い

がなされ、沢山の人々が犠牲になった。八月には連合国は広

島・長崎に原子爆弾を投下して、日本人を虐殺した。

 

 

 大日本帝国の戦争において最大の責任者は元首として帝国

を統治していた昭和天皇である。

 だが、東京裁判は昭和天皇を許し、東條英機らの政治指導

者をA級戦犯として糾弾し彼らに責任を負わせた。連合国は

日本統治に役立つ存在として昭和天皇を利用し象徴としてそ

の地位を与えた。日本国憲法は天皇を象徴として残し昭和天

皇の戦争責任を問わないことの変わりに、第九条で日本国に

戦争放棄を確約させた。

 

 戦後日本国となった日本は、天皇を象徴として位置付け戦

争を放棄する平和国家として歩んできた。

 昭和天皇はアジア諸国や日本国民に対して、戦争責任を謝

罪しなかった。

 

『必殺仕置人 はみだし者に情なし』を見ていると、「葵の褌」

を締めさせて、「高貴なお方」達の猟奇的な蛮行の仕置を為す

クライマックスに、戦争中の大日本帝国のアジア諸国民への虐

殺の責任を全く取らずに、アメリカ政府・日本政府にぬくぬくと

守られて象徴として在る昭和天皇の無責任を厳しく問うている

ことを実感した。

 

 

 

 主水の怒りの声は怖い。

 

 

 

 

 『必殺仕置人』において「地獄の奉行所」として立場を明示し、

「生身の人間の恨みをこめて、てめえらに仕置してやるんだ。」

と力強く態度表明を為す。

 

 

 主水がこれ程強く自身の在り方を述べるシーンは、『必殺』全

史を見ても、この回のこのシーンのみと思われる。

 

 

 それ故に、その迫力と存在感は凄まじい。

 

 

 

 

 亀吉を呼んで、その眼を無残に潰した島本に引き合わせ、待

たせたが、ようやく報復の機会が来たことを語る主水の声は喜

びに溢れている。

 

 

  「居るのかえ?あの野郎が!」

 

  「おめえのすぐ後ろに居るじゃねえか」

 

 

 

 

  亀吉は叫び声をあげて鉄を島本と間違えて懲らしめようと

する。

 

 

 鉄は怖がって「亀、亀」と宥める。

 

 

 島本は恐怖感から助けを求める。

 

 

 

 

 冷酷非情・残虐非道の虐殺者島本が「命を生きたい、死にたく

ない」という願いから助命を嘆願し、跳ね付けられ、亀吉・錠に両

眼を潰される

 

 

 入川保則の体当たりの名演は、極重悪人もまた、この上なく尊

い命を生きてる存在であるという事柄を教えてくれている。

 

 

 川に突き落とされて水死するる島本や三國屋や高坂や小笠原

に対して視聴者は悲しみも感ずる。

 

 

 入川保則は平成二十三年(2011年)に末期癌であることを公表

し、福島県を舞台にした主演映画『ビターコーヒーライフ』の撮影・

演技に取り組んだ。

 

 

 映画の演技を成し遂げた入川は同年十月三十一日に、BGMが

未収録の『ビターコーヒーライフ』を試写会で鑑賞した。

 

 

 平成二十三年(2011年)十二月二十四日、入川保則は死去した。

七十二歳。

 

 

 平成二十四年(2012年)五月十二日に、ビターコーヒーライフ』は

映画館で公開された。

 

 

  入川は『その時は笑ってさよなら』において書籍や映画を「虚無

の華」として確かめている。

  

   人生は無であり空です。

  作家も、俳優も、脚本家も、映画監督も、最期は虚無に

  還っていきます。 

    しかし銘々が、その短い人生でありったけの智恵を

  絞り、咲かせた華こそ、数々の作品にほかなりません。

   名作と呼ばれる本や映画は、いわば虚無の華なので

  す。この大輪の華を観賞する限りにおいて、人生は充分

  に忙しい。

 

 (『その時は笑ってさよなら

   俳優・入川保則 余命半年の生き方』 143頁

   平成二十三年(2011年)七月八日発行 ワニブックス)

 

 

 人生はただ一度であり、たった一つの生命をどのように

燃やすか?

 

 

 入川保則はこの重い問いを受け確かめ、演技に情熱を

燃やし「虚無の華」を満開に咲かせた。

 

 

 同心島本役は「虚無の華」の歩みにおける「大輪の華」

と確信している。

 

 

 入川保則の七十二年のご生涯に敬意を表します。

 

                      文中一部敬称略

 

 キャスト

 

 

 山崎努(念仏の鉄)


 

 沖雅也(棺桶の錠)

 

 

 野川由美子(鉄砲玉のおきん)

 

 白木万理(中村せん)

 

 

 常田富士男(亀吉)

 茶川一郎(熊さん)

 

 

 山本耕一(道安)

 生井健夫(田口)

 谷口完(三國屋)

 

 津坂匡章(おひろめの半次)

 

 

 神戸瓢介(目明し六蔵)

 時美沙(おせき)

 唐沢民賢(高坂多聞)

 

 高松英郎(天神の小六)

 

 

 溝口繁(家老小笠原頼母)

 松田明(囚人)

 嵐冠十郎(人形風の役者)

 

 

 乃木年雄(湯屋の親爺) 

 益尾久子(おりん)

 高畑喜三(牢番)

 笹吾郎(目明し文蔵)

 

 

 入川保則(同心島本)

 

 

 菅井きん(中村せん)

 

 藤田まこと(中村主水)


 

 

 スタッフ

 

 制作    山内久司

       仲川利久

       桜井洋三

 

 脚本    安倍徹郎

 

 

 音楽    平尾昌晃

 撮影     石原興

 

 美術  倉橋利韶

 照明  中島利男

 録音  二見貞行

 調音  本田文人

 編集  園井弘一

 

 助監督 家喜俊彦

 装飾  稲川兼二

 記録  野口多喜子

 進行  黒田満重

 特技  宍戸大全

 

 

 装置      新映美術工芸

 床山結髪    八木かつら

 衣裳      松竹衣裳

 現像      東洋現像所

 

 

 製作主任    渡辺寿男

 殺陣      楠本栄一

 題字      糸見渓南

 

 

 ナレーター  芥川隆行

 

 オープニングナレーション作 早坂暁

 エンディングナレーション作 野上龍雄

 予告篇ナレーション      野島一郎

 

 

 主題歌       「やがて愛の日が」

 作詞         茜まさお

 作曲         平尾昌晃

 編曲         竜崎隆路

 唄          三井由美子


 

 オープニングナレーション作 早坂暁

 エンディナレーション 野上龍雄

 語り           芥川隆行

 

 制作協力      京都映画株式会社

 

 

 監督         松本明

 

 

 制作         朝日放送

            松竹株式会社

 

 

 ◎

  山崎努=山﨑努

 

 白木万理=松島恭子=白木マリ

  

 津坂匡章=津坂まさあき→秋野太作

 

 溝口繁は溝田繁の誤記と思われる

 

 原田眞=藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 

 山内久司=松田司

 

 平尾昌晃=平尾昌章

 

 

 早坂暁・野上龍雄・野島一郎はノークレジ

ット

 

参考文献  

 

 

入川保則 著

 

 

『その時は笑ってさよなら

 俳優・入川保則 余命半年の生き方』

平成二十三年(2011年)七月八日発行

ワニブックス

 

画像出典    『必殺仕置人』DVD vol.1

                  

     『必殺仕置人』 第三話 四十歳   

             平成二十五年五日

    

 

 

   ☆平成二十六年(2014年)五月十二日・

    令和五年(2023年)四月二十一日に

    加筆再編しました☆
 

 

                  南無阿弥陀仏