必殺仕置人 いのちを売ってさらし首 七 番組四十歳誕生日 | 俺の命はウルトラ・アイ

必殺仕置人 いのちを売ってさらし首 七 番組四十歳誕生日

 

 『必殺仕置人 いのちを売ってさらし首』

 テレビドラマ トーキー 55分 カラー

 放映日 昭和四十八年(1973年)四月二十一日

 製作国 日本

 製作言語 日本語

 放送局 朝日放送系

 

 のさばる悪をなんとする

 

 天の裁きは待ってはおれぬ

 

 この世の正義もあてにはならぬ

 

 闇に裁いて仕置する

 

 南無阿弥陀仏


 

 大雨の降る刑場。役人の持つ傘に雨が激しく

当たる。


 

 死刑囚の囚人が「助けてくれ!俺じゃねえ!

死にたくねえ!助けてくれ!」と泣きながら命乞

いをする。

 

 

 北町奉行所の与力的場弥平次は、囚人長次

郎に対して、強盗殺人の罪科により死罪に処す

ることを冷厳に申し渡す。長次郎は「闇の御前」

と名のっていた盗賊であった。

 

 長次郎と呼ばれる罪人は、「自分には身に覚

えなのないことで、自身は長次郎でないこと」を

強調し、助命を願うが、役人達に取り押さえられ

る。

 

 


 

 的場の命で、囚人は長次郎として斬首され、無

残にもその首が晒される。

 

 葉から露がおちる。

 

 郡山から江戸に働きに来た娘お咲は、さらし

首にされた首を見て、


 

  「おとう」

 

 と呼んだ。

 

 お咲にとって、長次郎として処刑された囚人の

首は父松造の首だったのだ。

 

 

 観音長屋。

 

 瓦版屋のおひろめの半次が竹馬で遊んでいる。

八丁堀がやってきたので、長屋の住人に知らせる。

 

 北町奉行所同心中村主水だ。

 

 主水「おい、これどこで手に入れた?

    これ、先月、室町の越後屋で

    盗まれたもんだぞ」

 

 主水は住人たちの市で、「盗品を売っているので

はないか?」と問いつめ、袖の下を要求している。

 

 賄賂の変わりに鋭い指が、主水の手の平に当たっ

た!

 

 坊主頭の骨接ぎ師念仏の鉄だ。



 鉄「あんまりガツガツしてると今にやられるぞ」


 

 主水「よせよ、念仏。おめえの指はやばくて

    いけねえ」


 

 鉄「ま、気をつけるこったな」


 

 主水「いいか、お前らがこうしてお天道様の下

    を歩けるのも俺が目こぼししてやってる

    からだぞ」


 

 鉄「ケッ」

 

 鉄は恋人のお島との逢瀬を楽しもうとするが、酒

を飲んでいた棺桶職人錠に、「身を清めてこい」と

怒りの声をあげる。


 

 墓場で錠は、的場の部下に襲われていたお咲を

助ける。

 

 的場の部下は観音長屋を探索し、スリの鉄砲玉

のおきんは、彼等の横暴を叱り飛ばす。

 

 お咲は刑場で晒されたのは自身の実父だと主張

する。


 

 錠「闇の御前がおめえの親父だ?馬鹿なことを

   言うもんじゃねえ。夢でも見てんだ、おめえは。

   闇の御前ってのは火付人殺し何でもござれの

   大悪党だ」


 

 お咲「おらはこの目で見たんです」


 

 錠「首になりゃ人相は変わるんだ」

 

 お咲「いくら変わっても自分のおとうを見間違えは

     しません」

 

 話を聞いていた鉄はお咲に同意する。

 

 錠は、お咲に首の見聞をすることを主張する。

 

 お咲・錠・鉄・半次・おきんは獄門台に行くが既に首

は無かった。


 

 錠から「お咲が恨みを晴らしてくれるならば三十両

払う」という言葉を聞かされた鉄は主水を誘う。

 

 しかし、「お咲が三十両払う」ということは錠が言った

嘘であった。

 

 主水はまつぞうが長次郎の身代わりに処刑された

かもしれないと聞いてショックを受ける。


 

 「俺は怖いんだ、鉄。

 正しいことなんかねえ。

 綺麗なことなんかこの世の中にある訳ねえ

 と思いつつ、こころのどっかでそれを信じて

 十手を握ってきたんだ」

 

 主水の恐怖は深かったが、まつぞうの無念の死を

思い立ち上がる決意を固める。

 

 牢内で茶会を開いている天神の小六が主水に呼び

出される。

 

 刑場で主水は、長次郎として処刑された男が本物

であったかどうかを小六に問う。


 

 「ひょっとしてこの砂利になんの罪咎もねえ男の

 血が吸い込まれているかもしれねえんだ。」
 

 小六の協力で、的場の庇護を受けている浜田屋庄兵

衛こそ、「闇の御前」こと長次郎であることを確かめ、お

咲の父まつぞうが身替りに処刑されたことが事実であっ

たことが確かめられる。

 

 お咲は「三十両の金を持っていない」し払えないので

「もういいんです」と錠に語る。

 

 錠は「馬鹿野郎」と激怒する。

 

 錠「おめえの親父はな、首と胴が金輪際繋がらなくな

   る死に方をしたんだ。おめえのおとうのお蔭でな

  誰かがのうのうと酒をくらって生きているんだ。バラ

  バラだ。バラバラだ。バラバラにされたんだ!」

 

 長次郎こと浜田屋を助けたのは北町奉行牧野備中

守であった。備中守は、将軍家お側衆の職を望んでい

た。

 

 備中守は、浜田屋の命を助け、松造を犠牲にして

身替りにして処刑した。浜田屋に恩を着せて、お側

衆就任の為の資金・賄賂の献金を命じる。

 

 

 錠「どうにもこうにも我慢できねえ。何をもたもた

   してんだ。さっさとバラしゃいいじゃねえか?」

 

 主水「それだけじゃ足りねえよ」


 

 錠「細切れにして肥溜めにぶちこむとか」


 

 主水「まだまだ」


 

 鉄「病×持ちの夜●、○かして、鼻×けにして

  やるってのはどうだ?」


 

 主水「まだまだ」


 

 鉄「畜生、体中ゾクゾクしてきやがる。

  生きてるってのも満更悪かねえな。

  あの外道共をどうしてくれようかい?」


 

 主水「男三十越えていい恰好しようたぁ、

    落ち目になった証拠だぜ」


 

 

 

 備中守は錠に拉致される。

 

 おきんは観音長屋の住人に、若い女性の死体を見つけ

てくることを頼む。住人は遺体を見つけて、おきんは六百

文を払う。

 

 半次は眠っている備中守の髷を切る。

 

 覚醒した備中守は、鉄・おきん・半次に驚き、「名を名乗

れ」と怒る。


 

 鉄は備中守の背骨をはずし、言葉を語る力を奪う。

 

 

 夜の沼地。

 

 主水・錠は的場と浜田屋を手紙を用いておびき出し、お

咲と対面させる。

 

 お咲は父を殺した的場と浜田屋を睨みつける。

 

 主水は、襲い掛かってくる的場の部下喜助を斬る。

 

 的場が激しく怒る。

 

 主水「的場さん、死んで下さい。浜田屋さん、あんたもだ。

     この娘はあんたの身替りになって死んだ百姓松造

     の娘です。」

 

 的場は錠に斬りかかって斬られる。

 

 浜田屋は逃げようとするが、主水に斬られる。

いのちを売ってさらし首

 錠と主水の「仕置」をお咲はじっと見つめる。


 

 鉄・おきん・半次は、備中守と亡くなった若い女性の遺体を

並べて、体が動いている備中守を心中で生き残った男として

糾弾し、定法通り、さらしものにして住民たちを扇動して、石

をぶつけさせる。

 

 言葉を奪われ、抵抗も出来ぬまま、縛られた備中守りは

観音長屋の住民から石をぶつけられる。

 

 錠はお咲に、備中守について語る。

 

 「こいつはおめえの

 親父を殺した奴らの中で

 一番悪い野郎だ。

 好きなようにやんな」


 

 お咲は、錠から石をもらうが、投げられない。

 

 涙があふれてくる。

 

 錠「いいのか?本当にこれで気が済んだんだな?」

 

 お咲は錠の胸で泣く。

 

 鉄は錠に三十両の金を出すように求めるが、金はない。

 

 錠が住人を乗せるためについた嘘だったのだ。


 

 鉄は激怒し、錠に「背骨外してやる!」と戦いを挑むが主水

が止める。

 

 「今度のことは金でやりたくなかったんだ」

 

 錠は自分のこころを語る。

 

 鉄は怒り、主水も「酷過ぎるぜ」と嘆く。

 

 だが、鉄や主水に金は届けられた。

 

 お咲が身を売ったのだった。

 

 

 数日後、錠の家を鉄・おきん・半次・主水が尋ねる。

 

 備中守が切腹したことを主水は語る。

 

  鉄は、「俺達はな、これからもずっと今度みてえな

仕置をしていくことに決めた」と闇の稼業の道を歩み続

けることを語る。


 

 主水「これは先の長い汚ねえ仕事だ。向こうが悪なら、

    俺達はその上を行くワルにならなきゃいけねえ」


 

 鉄は「俺達と一緒にやる気があるんだったら、その金

取れ!やる気がないならどっかへ消えちまえ」と態度表

明を求める。

 

 錠が取った決断は、金を取って、四人と組むことだった。

 

 こうして仕置人五人のチームが誕生したのである。

 

 ☆怒りのドラマ☆


 

  昭和四十八年(1973年)四月二十一日

 

  『必殺仕置人』の放映が始まった。

 

 昭和四十七年(1972年)九月二日に始まった「必殺シリ

ーズ」第一弾『必殺仕掛人』は、偉大な傑作であった。

 

  池波正太郎の小説『殺しの四人』を原作にして、闇の

稼業に生きる殺し屋達の姿を描いた。『殺しの四人』から

主人公鍼医藤枝梅安を、ドラマにおいても主人公に位置

付けた。

 

 ドラマでは梅安と共に殺し屋として生きる浪人西村左内

をもう一人の主人公に位置づける。


 

 二人を雇う口入れ屋の主人音羽屋半右衛門が、闇の稼

業として元締の任務を果たして、組織を掌握している。

 

 音羽屋に働く岬の千蔵は、梅安の弟分として情報係を

勤めている。

 

 原作はテレビとメディアミックスの形式で進行した。

 

 小説においては梅安・左内は、テレビ版とは性格・設定は

異なっている点もある。

 

 音羽屋半右衛門に相当する音羽の半右衛門もかなりテ

レビ版と性格は異なっている点が多い。

 

 岬の千蔵は、テレビ版と小説版において似ている点が多い

のだ。

 

 「金を貰って人を殺す」という番組テーマが、視聴者に受容

されるかどうかが、スタッフにとって悩みの種であった。

 

 殺し屋達は悪人を殺し、頼み人や被害者の晴らせぬ恨み

を晴らし、「怨念」に焦点を当てて、社会矛盾や悲劇に対する

悲しみや痛みを問うた。

 

 「世の為人の為にならぬ」とされる悪人も又、尊い命を生きる

存在であり、彼等を仕掛けた仕掛人は、より凶悪な存在であり、

その罪は深く重いと言う事柄も、始めから繰り返し確認されてい

た。

 

 主なスタッフ・レギュラー出演者は以下の人々である。

 

 制作/山内久司・仲川利久・櫻井洋三

 原作/池波正太郎( 『殺しの掟』)

 脚本/池上金男(池宮彰一郎)・国弘威雄

    安倍徹郎・山田隆之・石堂淑朗・

    松田司・山崎かず子・本田英郎・

    鈴木安・津田幸夫

 

 オープニング語り作・第十六・三十話脚本/

 早坂暁

 語り/睦五朗

 音楽/平尾昌晃

 

 レギュラー出演者 (括弧内は役名)

 

 林与一(西村左内)

 

 緒形拳(藤枝梅安)


 

 津坂匡章(岬の千蔵)

 太田博之(櫓の万吉)

 松本留美(西村美代)

 岡本健(西村彦次郎)

 野川由美子(おぎん)

 田村高廣(神谷兵十郎)

 中村玉緒(おくら)


 

 山村聰(音羽屋半右衛門)

 

 監督/深作欣二・三隅研次・大熊邦也・

     松本明・松野宏軌・長谷和夫

 

 

 初め、山内は東映での政策を考案し、脚本に結束信二

を想定していたという。

 

 昭和四十七年当時、フジテレビが『木枯し紋次郎』を制作

し、内容的にも傑作で視聴率も大ヒットしており、朝日放送

には質量ともに対抗する名作ヒットドラマの製作が課題に

なっていたのだ。

 

  番組は四十七年九月二日から翌四十八年四月十

四日に制作・放映された。

 

 第一回「仕掛けて仕損じなし」は脚本に池上金男(池宮

彰一郎)、監督に深作欣二を迎えた。

 

 池上の緻密・精緻な脚本・深作のスピーディかつ重厚な

演出により、梅安と左内の出遇いのドラマ、半右衛門の風

格と凄みが、鋭く語られ不滅の傑作になった。

 

 第二十一回『地獄花』は安倍徹郎の文学的な繊細さに

よって書かれた悲劇である。愛し合う夫婦が、相手を思って

一夜限りのみ選ぶ行為が、決定的な悲劇を産んでしまう

という物語だ。

 

 巨匠三隅研次の深遠な演出により、時代劇テレビドラマ

史上の大傑作となった。

 

 テレビ『必殺仕掛人』は大ヒットして、視聴者に愛される

作品となった。

 

 テレビ『必殺仕掛人』は、池波正太郎の小説を原作とし

ているが、オリジナル設定が多い。

 

 原作とはかなり多くの点で違っている。

 

 第二弾はテレビスタッフによる完全オリジナルの作品とな

った。

 

 タイトルは『必殺仕置人』である。

 

 第一作が傑作の場合、第二作が超えるのは難しいのは

沢山の例が示している。

 

 文学・演劇・映画・音楽においてもシリーズを続けていくこ

とは厳しく難しい営みである。

 

 しかし、第一弾の大傑作を超える永遠の大傑作の第二弾

のドラマが誕生したのである。

 

 スタッフは「怨念」「憎悪」「激怒」の問題をより深く語

ることに情熱を傾注した。

 

 悪人達の蛮行により、大切な存在を殺害され傷ついた者達

が頼み人になり、殺し屋が悪人を「仕置」するという物語が筋

の基本設定になった。

 

 『必殺仕掛人』では、元締半右衛門が「世の為人の為になら

ねえ人でないと殺しませんよ」と語るが、殺し屋の正義感があ

ったことも否定できない。

 

 『必殺仕置人』は「世の為人の為」等と言う綺麗事ではなくて、

被害者の恨みを晴らす為に金を貰って悪人を殺す仕置人は

極悪人の中の極悪人なのだという事柄をテーマに位置づけた。

 

 主人公の坊主頭の骨接ぎ師念仏の鉄には山崎努が選ばれ

た。

 

 鉄はかつて僧侶であったが、寺を追い出されて、骨接ぎの仕

事を生業としている。女好きの遊び人である。

 

 怪力によって骨を外すと言う技は、山崎の深い存在感によっ

って成り立った設定でもある。

 

 棺桶職人錠は熱く一途な青年である。正義感が強くて優しくて

逞しい男だ。

 

 日活映画で活躍していた沖雅也が選ばれた。

 

 沖の一徹な芸風が錠の生命を輝かした。

 

 観音長屋の鉄火姐さんおぎんは野川由美子、情報屋の瓦版お

ひろめの半次は津坂匡章が勤めた。

 

 前述の通り、『必殺仕掛人』において、津坂は岬の千蔵、野川は

芸者おきんを演じていて、引き続きレギュラーとして登場した。

 

 初期必殺四部作において、シリーズ全体の「顔」となって荷って

いた存在は、野川由美子と津坂匡章なのである。

 

 牢名主天神の小六は、仕置人の中でも実力者であり、指令を発

することもある。

 

 「影の首領」とも言うべき存在である。

 

 大映映画で活躍した名優高松英郎が小六親分を重厚に演じた。

 

 現存している資料・ポスターでは、出演者紹介の序列で、高松

英郎が留めに表記されているものもある。

 

 小六が「もう一人の元締」であることを明かすものとも言えよう。

 

 北町奉行所同心で仕置人一味の智恵袋・軍師とも言うべき存在

中村主水には藤田まことが抜擢された。

 

 脚本家野上龍雄の動画の発言によると、山内・深作と共に、旅館で

設定の会議が行われたが、最初に決まった存在が中村主水であった

そうである。

 

 深作欣二は演出も担当する予定であったが、東映との契約もあり、

演出が無理になった。

 

 美能幸三の手記を基にして飯干晃一が書いた広島やくざの抗争の

記録『仁義なき戦い』の映画化を東映は決定していた。

 

 脚本の笠原和夫は美能に会って取材し、重厚深遠な脚本を書き上

げた。

 

 美能をモデルとする主人公に広能昌三には菅原文太が抜擢される

こととなった。その文太が監督に深作欣二を推薦し、プロデューサー

の俊藤浩滋もその案に賛成し、深作の演出が決定した。


 

 『仁義なき戦い』は永遠の大傑作の映画として誕生し、大ヒットした。

 

 東映はシリーズ化を決定し、深作欣二が引き続き演出を担当する

こととなった。

 

 『仁義なき戦い』シリーズの監督と並行して、『必殺仕置人』の演出

も担当するのは、流石の深作でも無理であったろう。

 

 深作は自身の代わりに工藤栄一を監督に推薦した。

 

 笠原和夫が当初『仁義なき戦い』の監督に想定していたのは工藤

栄一であった。

 

 東映『仁義なき戦い』と松竹『必殺仕置人』は、監督問題で結果的に

工藤栄一と深作欣二をトレードしたのである。

 

 笠原和夫と野上龍雄は東映やくざ映画で共に仁侠路線を担当し

た親友どうしであり、良きライバルでもあった。

 

 『仁義なき戦い』と『必殺仕置人』「いのちを売ってさらし首」は怨念・

憎悪・悲嘆の心をを深く見つめ掘り下げて繊細・精緻な脚本で語る

という点においても拮抗している。

 

 深遠な笠原脚本と重厚な野上脚本の対抗勝負の戦いでもあった

のだ。

 

 野上の完璧な脚本を、情念の物語として深く映像化した貞永方久

の演出も偉大であった。


 父親を無実の罪で処刑された娘お咲の悲しみと情念の物語から幕

を開けた。

 

 視聴者は、雨中における長次郎の処刑の場面を見て、人違いを叫び

無実の罪であることを強調する死刑囚松造の涙を見て、「この処刑は

冤罪ではないか?」という疑問を持つ。


 泣き叫び喚き必死に命乞いを願う死刑囚松造が取り押さえされ、刃

を向けられ震えつつ無残に斬首されるシーンは悲しい。

 

 松造役はノークレジットだが、大滝秀治が体当たりで熱演する。

 

 『必殺仕置人』本編の第一声を語り、ドラマ全体の最初の被害者とな

る存在を勤めきった出演者は大滝秀治である。

 

 死刑囚が処刑され首が晒され、露が落ちて、お咲の悲しみとなる。

 

 この冒頭で、処刑は無実の者であるお咲の父が殺された残酷な殺人

であったことが視聴者に告げられるのだ。


 晒されている首は、大滝秀治とそっくりで、どきっとしてしまう。

 

 合成で撮影されたものなのだろうか?あるいは首は本物そっくりに

製作された人形なのであろうか?

 

 いずれにせよ、貞永方久の演出、石原興の撮影は凄まじい迫力が

ある。

 

 晒された松造の首は、優しい目をしている。

 

 首の映像に続いて、葉から露が落ちる。

 

 お咲の驚きの表情。

 

 「おとう」の言葉。

 

 墨で書かれた「必殺仕置人」の五文字が、白い画像ににじみ出る。

 

 強烈な冒頭である。

 

  本編の中で大滝秀治と松造と今出川西紀のお咲が共に同じ映像で

競演するシーンは一か所もない。

 

 繰り返しになって申し訳ないが、松造の首が映り、露の映像を経て

お咲の驚きのカットになる。

 

 一か所も競演がないからこそ、松造の無念の死とお咲の恨みがより

強く表現され、松造とお咲の親子愛がいかに深いかが明かされて行く

のである。

 

 怨念はお咲がいかに父松造を深く愛しているかを逆説的に伝えるもの

でもある。

 

 第一話は錠とお咲の物語がメインである。

 

 錠がお咲を深く愛していることは、言葉で多くを語らないからこそ、

一層強く視聴者の心に響くのだ。

 

 お咲は首を斬られ晒しものにされた松造の恨みを晴らしたいとも思う

が、三十両の金を持っていないし、「もういいんです」と錠に告げる。

 

 第一回では、松造の怨念を晴らそうとするのは、錠であることも確認

しておきたい。

 

 人殺しの汚名を着せられ、無実の罪で首を斬られて、バラバラにされた

父松造の無念を忘れていいのかと錠は叫ぶ。

 

 「おめえの親父はな、首と胴が金輪際繋がらなくな

  る死に方をしたんだ。おめえのおとうのお蔭でな

  誰かがのうのうと酒をくらって生きているんだ。バラ

  バラだ。バラバラだ。バラバラにされたんだ!」

 

 錠のこの言葉は重い。

 

 沖雅也の声と目は迫真の凄みがあった。

 

 錠の演技に沖が生命の情熱を燃やしていたことが窺える。

 

 理不尽に殺害された被害者の無念を思い、忘れてはいけないという

ドラマの声は重い。

 

 戦争中に青春を迎え、過酷な時代を歩み、戦後においても深い悩み

を抱きながら、脚本を書き続けてきた野上龍雄の問題意識が、錠の怒

りの言葉に投影されているようにも思われる。

 

 

 錠は松造の恨みを晴らすための「仕置」は金でやっちゃいけない

と主張する。

 

 ここに彼の正義感と深いテーマがある。理不尽に対する復讐は、

被害者の遺族にとって当然の権利であるとする主張である。

 

 法の網をくぐって犯人である闇の御前はのうのうと生きている。

 

 これが錠には許せなかったのだ。

 

 虐殺された存在の痛みと悲しみ。

 

 『必殺仕置人』は殺されていった者達の痛みと悲しみに学ぶド

ラマなのだ。

 

 松造に罪をなすりつけて生き残った本物の「闇の御前」長次郎こと

浜田屋庄兵衛の演技の品格において、大滝秀治は絶世の輝きを見せて

いる。

 

 映像演技における「気品」が溢れている。

 

 浜田屋が的場に賄賂を贈る為に、主水を呼び出して語るシーンも素敵

だ。


 

 「どこへ行っても物を売ったり買ったり同じこと。やはり江戸が良い。

 今朝蜆売りの声で目を覚ましたが、『あヽ帰ってきたんだな』と。この

 気持ちは船乗りでなければわかるまい。」

 

 大滝秀治の台詞は音楽のように澄み切っている。

 

 野上龍雄の精緻な言葉を深い声で語り、様々な感情を伝えてくれる。

 

 浜田屋庄兵衛のような大悪人であっても江戸を愛する郷土への心がある

とも言える。

 

 もう一方で船乗りの表稼業について語りつつ、「蜆売りの声で目を覚まし

た」ことへの喜びは、まつぞうを生贄にして捕らわれていた牢内から救助

された僥倖への喜びを秘かに噛みしめているこころとも読めよう。


 

 名優大滝秀治の台詞話法は、様々なこころを想像させてくれる。

 

 こころの世界が視聴者・観客の内面において無限に広がっていく。

 

 偉大な演技は広がっていくものであることを教えてくれている。

 

 鉄はお島との逢瀬で「骨接ぎだけが仕事じゃねえからな」と語り、

踏み込んできたやくざ者の孫八の顎の骨を外す。

 

 「クシャおじさん」こと成田幸雄の演技も強烈だ。

 

 鉄は既に骨外しで裏稼業を為していたのではないかとも想像する

ことが成り立つ。

 

 錠は、無実の罪で処刑されたまつぞうの無念を思い、お咲の恨み

を無償で晴らしてやりたいと願う。

 

 鉄は、お咲の怨念も思いつつ、三十両の報酬に惹かれ、仕置の

後の「大名暮らし」を夢見ている。

 

 主水は、闇の御前長次郎が自分の極悪の所業を、無実のまつぞ

うになすりつけて、彼を助ける為に奉行所が「身代わり処刑」を行った

ことに悲しみを覚える。

 

 野上脚本と貞永演出は、三者の仕置に対する動機つけを明瞭に

語っている。

 

 的場に命じて、庄兵衛を助けて、まつぞうの処刑を命じた悪の

一味の首魁は奉行の牧野備中守である。

 

 演ずるひとは菅貫太郎だ。

 

 鉄の恋人お島は三島ゆり子が勤めている。

 

 悪の首領に菅貫太郎、ヒロインの一人に三島ゆり子という配役は、

昭和三十八年(1963年)の東映京都の集団抗争時代劇の傑作『十

三人の刺客』(脚本池上金男、監督工藤栄一)を意識したものと

思われる。

 

 菅・近藤・大滝の会話のシーンに、「悪」の美が光り輝いている。

 

 昭和四十年代の時代劇は、悪役を魅力豊かで品格ある存在に

描いていることを抑えておきたい。

 

 鳥居を歩む鉄・錠・主水の台詞は「必殺シリーズ」四十年史上に

おいて最も強烈な言葉である。

 

 錠「どうにもこうにも我慢できねえ。何をもたもた

   してんだ。さっさとバラしゃいいじゃねえか?」

 

 主水「それだけじゃ足りねえよ」


 

 錠「細切れにして肥溜めにぶちこむとか」


 

 主水「まだまだ」

 

 

 鉄「病×持ちの夜●、○かして、鼻×けにして

  やるってのはどうだ?」



 野上龍雄の怨念の探求は凄まじい。

 

 錠は、心中の生き残りの男にするために、備中守に当身を喰ら

わせて拉致する。目覚めた備中守を迎える半次・おきん・鉄の笑

顔。ほほえみが仕置人の怖さを一掃強調する。

 

 念仏の鉄の迫力と怖さは圧巻である。レントゲン撮影の骨外しが

初めて映るシーンでもある。

 沼地において錠・主水は、お咲を的場とその護衛と浜田屋に紹介

する。

 

 お咲の眼力が凄まじい。今出川西紀のお咲が、浜田屋の大滝秀治

を鋭くにらみつける場面に圧倒される。

 

 主水が的場と浜田屋に丁寧な挨拶をして、逃げられぬことを二人に

命じて、錠と共に仕置する。

 

 錠の野獣のような迫力と主水の冷静な剣技にも、二人の性格が

現れている。

 

 仕置をじっと凝視するお咲の目がここでも強烈だ。

 

 鉄・おきん・半次の筋書により、備中守は心中に生き残った卑怯者の

男とされて、観音長屋の住人から石を投げられる。

 極悪人を即時的に殺害せず、念入りに苦しみ抜いて痛めつけるという凄

惨が『必殺仕置人』の特徴なのである。

 

 お咲が父を殺した悪人一味の首魁の備中守が石を投げられている

姿を見て、自身は石を投げれず思わず錠の胸で泣いてしまうシーンに

ドラマのいのちが燃える。

 

 「いのちを売ってさらし首」を視聴して疑問に感じる事は、晒され

た牧野備中守が田口に身柄を保護された後、鉄に骨外しをされたこと

を奉行所で伝えたかどうかである。奉行所は備中守と的場と浜田屋の

身代わり処刑を見破って、備中守誘拐犯の捜索をせずに、備中守切腹

を急いだか?

 

 お咲が身を犠牲にして、「仕置」の礼金を作ることに、切なさが極まる。

  

 鉄は、錠に「金をもらうかどうかを決めろ」と迫る。

 

 貞永方久と野上龍雄は「金をもらって人を殺す」という『必殺』のテー

マを強く打ちだした。

 

 純情だった青年錠が、強靭な仕置人になっていく過程に野上ドラマの

深い人間探求がある。

 

 無実の松造を処刑した的場の冷酷さに恐怖を覚えていた主水が

的場を斬って、「悪のそのまた上を行く悪」として自己確認して

微笑む描写に、「極悪人仕置人」の誕生のドラマがある。

 

 仕置人は大悪党の物語でもある。

 

 野上龍雄の深い脚本が、怨念の探求を鮮やかに成し遂げた。

 

 ラストにおいて錠が金を取り、五人の仕置人チームが結成される。

 

 日本映像史において、新たな歴史が開かれた瞬間でもあった。

 

 

 キャスト
 

 山崎努(念仏の鉄)
 

 

 沖雅也(棺桶の錠)


 

 野川由美子(鉄砲玉のおきん)


 

 白木万理(中村せん)


 

 大滝秀治(浜田屋庄兵衛 松造)

 今出川西紀(お咲)

 

 三島ゆり子(お島)

 菅貫太郎(牧野備中守)


 

 津坂匡章(おひろめの半次)



 

 近藤宏(的場弥平次)

 生井健夫(田口)



 

 高松英郎(天神の小六)


 

 黛康太郎(喜助)

 新屋隆弘(与吉)

 成田幸雄(孫八)


 

 菅井きん(中村せん)


 

 藤田まこと(中村主水)


 


 スタッフ

 

 制作  山内久司

      仲川利久

     桜井洋三


 

 脚本  野上龍雄

 

 

 音楽  平尾昌晃

 撮影  石原興

 

 美術 倉橋利韶

 照明  中島利男

 録音  二見貞行

 調音  本田文人

 編集  園井弘一

 

 助監督 家喜俊彦

 装飾  稲川兼二

 記録 野口多喜子

 進行 黒田満重

 特技 宍戸大全

 

 

 装置 新映美術工芸

 床山結髪 八木かつら

 衣装 松竹衣装

 現像 東洋現像所

 

 制作主任 渡辺寿男

 殺陣  美山晋八

 題字 糸見溪南

 

 

 

 

 主題歌「やがて愛の日が」

 作詞 茜まさお

 作曲 平尾昌晃

 編曲 竜崎隆路

 唄   三井由美子

 ビクターレコード


 

 オープニングナレーション作 早坂暁

 語り   芥川隆行

 

 制作協力 京都映画株式会社



 

 監督 貞永方久


 

 制作  朝日放送

     松竹株式会社

 

 

 ☆

 山崎努=山﨑努

 

 今出川西紀=久保にしき

 

 津坂匡章→秋野太作

 

 桜井洋三=櫻井洋三

 

 大滝秀治の役名で松造はノークレジット

 

 早坂暁はノークレジット

 

 野上龍雄 エンディングナレーション作は

 ノークレジット

 ☆

      画像出典『必殺仕置人』DVD

 

                文中敬称略

              

         

 

 『必殺仕置人』四十歳誕生日  

    平成二十五年(2013年)四月二十一日




 

                南無阿弥陀仏

念仏の鉄 棺桶の錠 中村主水