必殺仕置人 利用する奴される奴 本日安倍徹郎八十八歳誕生日 | 俺の命はウルトラ・アイ

必殺仕置人 利用する奴される奴 本日安倍徹郎八十八歳誕生日

 『必殺仕置人 利用する奴される奴』

 テレビ映画 54分 トーキー カラー
 放映日 昭和四十八年(1973年)六月十六日

 放送局 朝日放送 TBS系

 製作国 日本

 製作言語 日本語

 

 のさばる悪をなんとする

 天の裁きはまってはおれぬ

 この世の正義もあてにはならぬ

 闇に裁いて仕置きする  

 南無阿弥陀仏     

 

 ☆☆☆
 演出の考察・シークエンスへの言及・台

詞の引用は研究・学習の為です。

 松竹様・ABC様におかれましては、お許

しと御理解を賜りますようお願い申し上げ

ます。感想では結末に言及します。未見の

方はご注意下さい。

 ☆☆☆

 

 吉原の女郎屋で女達の悲鳴があがる。

 客の武士佐々木半十郎が、太鼓持ちの歌

に激怒し、「戯事」として許さず、武士を愚弄

する歌として糾弾し抜刀して、「刀の前で歌

って見ろ」と刃を太鼓持ちの顔面前に突きつ

けた。

 

 亭主が謝罪し、金を渡し、店の清純で美し

い女郎お順に相手をさせることを提案する。

 怒りに燃えていた佐々木だったが、絶世の

美しさを輝かせているお順が相手ということ

で機嫌を直し、彼女に迫ろうとした。

 

 そこへ、佐々木の背後に太い手が現れ、

首を抑えて、首の骨を外す。

 

 お順が美しい目を見開いて吃驚する。

 

 佐々木半十郎の首の骨を折った殺し屋は

念仏の鉄だ。

 鉄は、半十郎が店から脅し取った金を取り、

お順に渡し、「花魁。今見た事は忘れて貰いま

すぜ」と念を押す。

 

 夜の吉原。鉄が仲間の同心中村主水に「済

んだぜ」と報告する。

 

   鉄「馬鹿な野郎だ!中で強請を働きゃ、ど

     うなるか。侍ってのは始末が悪いぜ。」

 

   主水「約束の五両だ。」

 

   鉄「出何処は旦那衆か?」

 

   主水「余計な心配するな!」

 

 鉄は夜の街を歩む。勿論後金の報酬を掴

み、遊びに行くのだ。

 

 メインタイトル・サブタイトルが表示される。

 

 仕置の報酬五両をすぐに浪費した鉄は、仲

間の掏摸鉄砲玉のおきんに借金を申し込む。

 おきんは鉄の金の荒い使い方に呆れる。

   

   鉄「ちょっと美味いもん食って、女抱きゃ、

     五両なんて屁みてぇなもんだ。女は

     いいな。女遊びをしねえからな。」

 

 仕置人の一人で瓦版屋のおひろめの半次

は、吉原に同道しつつ、鉄がおきんから借金

してでも遊ぶことに疑問を呈する。

 

   鉄「おめえは嫌いか?」

 

   半次「大好きだよ。」

 

 鉄は女郎の一人にお順が居ることを見て吃驚

する。仕置を見られていることもあり、怯えて立ち

去ろうとする。 

 しかし、お順は暴れていた佐々木を仕置してく

れた感謝もあってか、彼女のほうから鉄を呼び、

「お兄さん」と声をかける。朋輩の女郎達は「荒

稼ぎだね」と皮肉を言う。

 

 鉄は美しくて優しいお順に一目惚れする。お順

は国の父や弟妹を助ける為に働き金を貯めてい

ると語る。お順は頑張って女郎の仕事に励んでい

るのだが、懸命に貯金していることに生き甲斐を

感じているようだ。鉄は佐々木殺しをお上に訴え

ないことを確認する。

 

   お順「訴え出たらお金にでもなるのかい?」

 

   鉄「その時はお前の首がポロリだ。」

 

   お順「おお怖」

  

 鉄はお順を抱きしめる。

 

   お順「あんな骨外しなんか何処で覚えたん

       だい?」

 

   鉄「佐渡の金山だ。」

 

 鉄は罪人として島送りになっていた時期、佐渡

では落盤や事故が多発し、囚人は医者にも診て

貰えなかったので、見よう見真似で骨接ぎ治療を

していたことを語り、自身の指を確かめる。

 

  鉄「人も殺してるが、人助けもしてるんだ。」

 

 仕置人の一人で、棺桶屋の青年錠が、棺桶作り

の勤めをしている。鉄が上機嫌で遊びにきた。錠

はお順に一途に惚れ込んでいる鉄の様子を見つ

める。

 

   鉄「誘い出して鰻でも食おうと思ってな。錠。

     誰にも言うなよ。お順って女。俺が振ら

     れた女に眼元がそっくりなんだ。」

 

 錠は呆れる。鉄は主水の邸内に現れ、借金を

頼み、金を貰う。主水の妻りつが鉄を見て不審

に思う。鉄は「奥様でございますか!旦那に手柄

を立てて頂こうと思って」と元気よく挨拶する。

 主水は鉄を返し、りつに「下っ引きに使ってる者

なんだが」と説明する。

 

 鉄が外で鰻を食べようと提案されて、お順は「こ

こんとこ、外で美味しい物、食べたことないから」と

喜ぶ。店の遣手の婆さんと思われる女性が、「お

順さん」と彼女を呼んで来訪者を知らせる。

 お順は自身を尋ねてきた存在のことを聞き、鉄

に「ちょっと」と言い、隠していた金の包みを持って

外に出る。

 

 外では職人風の美男の青年清造が待っていた。

お順は驚喜と感動をこめて、指を清造の顔に当て、

金を渡す。

 

  清造「すまねえな。」

 

 お順は清造に再会した感激で胸が一杯だ。

 

  お順「どうして来てくれなかったの?」

  

 清造はお順が身体を売って稼いだ金で援助

して貰っていることを詫びる。

 

   お順「そんな水臭い事言っちゃ、いや」

 

   清造「お順」

 

 清造はお順を抱きしめる。

 

 時は夕暮れになりかけていた。鉄は一人で

待たされていた。

 

   鉄「何してやがんで?」

 

 鉄が障子を開けると、お順と清造が愛を確

かめ合っている。

 

  清造「苦労かけるな」

 

  お順「三年の年季なんてあっという間じゃな

      いか!うんと稼いで、お前さんと所帯

      を持つ。それだけが楽しみなんだ。」

 

  清造「お袋が死ぬ前に、『一目おめえに会い

      たい』って。」

 

 清造は簪をお順に渡す。

 

   清造「お袋の形見なんだが差してくれねえ

      か?いけねえ。お袋の事忘れようと思

      って、おめえに会いに来たのに。」

 

 清造は男泣きに泣く。鉄は、お順が真剣に清造

を愛している光景を見て身を引く決心をして店を出

る。お順は「鉄さん」と呼びに来た。鉄はお順に金を

渡し、「二人で美味いもんでも喰ってくれ。あばよ!

また来るぜ!」と挨拶し去っていく。

 

 酒場で鉄・錠・おきん・半次の四人が飲んでい

る。鉄は失恋の悲しみで酒の量が多い。おきん

が爆笑する。

 

   おきん「馬鹿な話!丘場所の女に色が居ね 

        え訳ないじゃないか!」

 

   鉄「うるせえ!」

 

   錠「こいつは逆さに降っても、鼻血一滴出ねえよ。」

 

 おきんは金を貸しているから仕事して稼げと鉄

に督励する。鉄・錠は仕置の仕事かと関心を持つ。

 

   おきん「托鉢して稼いだらどうだい!乞食坊主」

 

 鉄は托鉢してお布施をもらう。読経中に三人の

男が歓談しながら歩いている光景を見る。恰幅の

良い体格の二人金次と三吉が、親分風の色男に

付き従っている。

 

  三吉が「あ!痛」と腹を抑えて膝をつく。親分

風の男が「どうかしなすったかい」と聞く。三吉は

女形の声色で「一両の借が」とおどけて答えて、

色男は「馬鹿だね、こいつは」と笑う。

 鉄には聞き覚えのある声、見覚えのある顔だ

った。色男の親分は、清造だったのだ!清造は

良い着物を着て、道行く女性達に流し目で熱視

線を送る。

 

 女郎に売り飛ばした恋人の一人お新が足抜

けの脱走をしたことで、請人として怒られ、清造

は親分に「申し訳ございません。二度とこんな

馬鹿な真似はせません」と謝罪する。

 金次・三吉がお新に足抜けを叱り殴る蹴るの

暴行を加え、清造が金を渡し、「勘弁してやって

下さい」と謝り、金次・三吉は「今度やったら承知

しねえぞ」と脅し、泣くお新を、清造が抱きしめ、

「辛抱しておくれ。泣くんじゃないよ、お新」と優し

く語りかける。

 

 女郎屋の木戸の鍵を壊し屋根裏に潜んでいた

鉄は一部始終を聞き、居酒屋でも気付かれない

ように近くの席に座り、清造・三吉・金次の会話

を聞く。三吉・金次は「兄貴はうめえな!嬲られ

た後、優しくされりゃ。女はコロっとくる」と清造の

色男の手法に感嘆する。   

 

 店の少女に着眼した清造は手招きで呼び、机

を指して「片付けてくれ」と頼み、「初めて見る顔

だが、勤めは今日が初めてか?」と問う。少女が

頷くと、清造は「おめえ、妹にそっくりなんだ。これ

は妹の形見なんだが、お前なら似合いそうだ」と

簪を渡す。少女が貰っていいかどうか逡巡する

と三吉・金次は「いいんだ。この人は気前が良い

んだ」と語る。清造は少女の耳をくすぐりながら簪

を少女の頭髪に差す。少女も優しい清造の口説

きに微笑む。    

 三吉・金次は「行けますぜ」「磨きゃ上玉になり

ますぜ」と期待し、清造も口説きのターゲットの一

人として心の中で選ぶ。

 

  鉄・錠に半次は、「大した野郎だぜ。あの清造

って奴は!お順だけじゃないぜ。十四、五人はい

るぜ」と女を食い物にして貢がせて悪逆非道を報

告する。錠・半次は「殺っちまえ!」と仕置を主張

するが、鉄は反対する。   

 

  鉄「奴の正体がバレた所で泥沼に堕ちた女達

    が幸せになる訳じゃね。お順も悪い籤を引

    いたんだ」

 

 おきん・半次は、五両で清造の正体を知らせると

提案して、女をたらし、売り飛ばしていることを知

らせる。だがお順は清造を堅気の青年と思い込み、

二人の話を一蹴する。

 

  半次「商売柄私の調べたことに万が一つも間

     違いは無いんだ!」

 

 お順は「念仏さんの焼き餅?」と聞いて、清造が

悪人の筈はないという確信を確かめる。

 おきんは、地図を出し、清造の家とその周辺は、

堅気の人間が住む場ではないと語り、清造の家

には女房気取りの女が住み込んでいると報告す

る。

   お順「女」

 

 清造の家では、中年女性のおようが包丁で調

理をしていた。   

 

   およう「嫌ですよ。そんなにジロジロ見ちゃ。

        廓では包丁なんか持ったことない

        んだから。昨日ようりかは巧くなっ

        たでしょう?」

 

   清造「外で喰うぜ」

 

 三吉・金次は「へい」と返事する。おようは、清造

の贅沢に恐ろしさを覚える。

 清造・三吉・金次はおようを連れて人気のない場

を歩む。おようは「こんな所にお店なんかあるんで

すか?」と問う。それには答えぬ清造は「銚子で働

かないか?」と問い返す。ここで言う勤務は勿論

女郎の勤めである。

 

   清造「おめえぐらいの年になるとな、江戸じゃ、

       働く口が無えんだ。」

   

   およう「あたしゃ、年季があけたんだよ。やっと

       泥沼から足を洗ったんだよ。まさか、お

       前さん・・・・・・」

 

   清造「じゃ勝手にしな」

 

 おようは騙されたことに気付き、逆上し簪を抜い

て清造を襲う。清造・三吉・金次はおようを取り押

さえる。

 清造は「帯を解け」と命じ、簪で灯篭の障子を

破り、灯を吹き消す。三吉・金次はおようの帯を

解き、木に括り付け、輪を作り、おようの首に

かける。

 清造は「世を儚んで死ぬんだよと」と笑い、首

吊り自殺に見せかけて殺す計画を楽しそうに語

る。おようが「清さん、助けて」と命乞いをすると、

清造は、「お!楽にしてやらあ」とおようの足を

引いて絞殺する。

 木陰からこの殺人を見たお順は衝撃を受けて

顔を押さえる。

 

 鉄が酔って、鼻歌を歌いつつほねつぎの自宅

に戻る。お順が家の前で座っていた。茫然自失

の状態で絶望的な悲しみに打ちひしがれ、落ち

込んでいることがはっきりと現れていた。

 

  鉄の部屋で、お順は有り金の三両を畳の上にこぼす。

 

   「惚れた男が居たんです。

    命賭けて惚れた男が。

    あんな男!

    死んだほうがいいんだ!

    あんな獣みたいな男!

    殺して下さいよ!

    あんな男。

    お願いします」!

 

  鉄は無言のまま、右の方角に視線を映す。


  居酒屋で鉄・錠・半次・主水が清造の仕置

について語り合う。半次は「三両」の仕置両が

安く、おきん・鉄・自身で一人一両にしかならな

いことに迷う。鉄は三両の金は、お順が身体を

売って作った銭だと強調する。

 錠は「念仏の色事に口を出す気はねえ」と降

りる意向を伝える。主水は妻りつと江ノ島詣に

行くので降りたいと申し出る。

 

  体調を崩したお順を、おきんが看病してい

た。お順はおきんが献身的に介抱してくれる

ことに深謝する。追手が襲ってこない場である

ことを確かめたおきんは、騙した清造は忘れ

たほうがいいと忠告する。

 

   お順「あんな人じゃなかったんですよ。あ

       たしが病気をした時、二十日程一

       緒に暮らした事があるんですよ。あ

       たしの汚れ物、嫌な顔一つせずに

       洗ってくれて。世の中にこんな優しい

       男が居るんだろうかって。あたしな

       んか人に優しくされた事無かったん

       だから。」

 

 お順は清造の優しい心を回想する。汚れた

下着を洗い笑を見せ、体調を崩した自身に粥を

作り食べさせてくれたこと。

 抱き上げて目を瞑るように言われて開眼した

ら咲いている躑躅の花を見せてくれたこと。

 殺人者とわかっていても、お順は清造への愛

を捨てきれなかった。 

 

   おきん「それが手なんだよ。女、食い物に

        する奴は、みんなそうだよ。」

 

   お順「あの頃は、女騙すなんて!そんな人

       じゃなかった!」

 

 おきんを錠が尋ねてきた。寝転びつつ、お順は

二人の会話に聞き耳を立てた。錠はお順が寝て

いるかどうかを聞き、おきんが頷くと、「念仏と半

次が片を付ける」と方針を伝え、自身は降りる事

を伝える。

 

   錠「たかが女たらしの色男だ。念仏に思う

     存分殺らせるさ。」

   

 おきんは念仏にとって色敵の清造は、一人で

念入りに仕置するだろうと予測する。

 

 お順は裸足で駆け出し、心の中で「清さん」と

叫ぶ。

 

 清造の家では親分清造が金次に髪を結わし

ている。金次は「お順さんが足抜けするとは」と

驚き、清造は「あいつだけは大丈夫と思ったん

だが」と驚きを語る。

 

 そこへ当のお順が息せき切って現れた。清造

・金次・三吉は吃驚する。

 

   お順「清さん!逃げとくれ。

       殺し屋が来るんだよ!」

 

   清造「おめえ、夢でも見てんじゃねえのか?

       おめえ、その話誰から聞いた?殺し屋

       頼んだのは誰なんだ!?おめえだな?」

 

 お順は泣きだす。

 

   お順「清さん。許して。あんたが憎い、憎いよ。

      だけど、あんたが好きなんだ。あんた無し

      じゃ、あたし生きていけないよ!」

 

   清造「そんなに死にてえか?」

 

 お順が振り向く。清造は微笑む。

 

   清造「馬鹿。死ぬ時は一緒だ。心配すんな。

       殺し屋なんてのは、俺はちっとも怖く

       ないんだ。昔のように一緒に暮らそう。」

 

  清造は、かつてのようにお順を抱き上げる。お

順は感動で胸が一杯になる。

 

   清造「お順。俺はおめえにだけは本気で惚れ

       てたんだ。目を瞑ってごらん。躑躅の花

       が見えるだろ?覚えてるかい・・・」

 

   お順は頷く。

 

  清造は、空井戸にお順の身体を投げ捨てる。

 

  お順「あああ!」

 

 お順は空井戸に落され、身体を強く打った。

 

  清造「あばよ!空井戸も役に立つもんだな」

 

  三吉「惜しいなあ」

 

  清造「本人が死にてえってんだから、仕方ねえ

      じゃねえか!」

     

  金次「それより親分。殺し屋が来たらどうし

      ます? 


 

  清造「こういう時に日頃の付合いが物を言う

      んだ。平塚の親分の所へ一走り行って

      こい」

  

  夜。鉄と半次が歩いている。半次は念仏一人

の仕置を心配するが、鉄は色事師一人なので、巧

く誘い出してくれれば虫けら潰すようなもんだと見

方を語る。 

 何者かが近づいてきた。

 

  鉄「誰だ!」

 

  錠が「俺だよ」と語った。鉄が「おめえも銭が欲し

くなったか」と問うと、錠は「お順さんが居なくなった」

ことを報告し踏み込むことは危険だと忠告する。

 

 清造の家を半次が尋ねる。

 

   半次「こんばんは。あが屋の使いのもんでご

      ざいますが、清造さんは?」

 

   清造「清造はあっしでございますが。」

 

   半次「家のお順が来ておりませんでしょうか?」

 

   清造「お順がどうかしましたか?」

 

   半次「夕べから姿を見せませんで」

 

   清造「わかりました。あっしが参ります。」

 

 夜道を四人の男が歩んでいた。半次が「夜にな

ると冷えますね?」と問うと、清造は「随分あった

かくなってきましたね」と返事を語り、半次は「そう

ですね」と答えた。金次・三吉の二人が清造を護

衛している。

  

  清造「あが屋ってのはこっちの方なんですか?」

 

  半次「こっちのほうが近道なんです。」

 

  清造「そうですか。あたしこの道、初めてなんです。」

 

  半次「そうですか?」

 

  清造「そうなんです。ところで兄さん。あが屋

      の松公。あいつ、元気にしてますか?」

 

  半次「ええ、元気にしてますよ。」

 

  清造「嘘だ。あれ、二年前に死んだんだ。なあ」

 

 金次・三吉の二人が笑う。半次は恐怖から逃

げ出す。金次・三吉が追おうとすると、清造は制

して、「こっちだ。出てきやがったぜ」と現れた鉄・

錠を見つめた。

 

  清造「てめえ達だな。女に雇われた殺し屋ってのは?」

 

   鉄「いや。生憎と殺しゃしねえ。生かしとくん

     だ。ただ、男として使いもんにならねえよ

     うにしてやろうと思ってな?」

   

   清造「ほお!そんな器用な芸当が出来るもんかね?」

                  

   鉄「出来るな。俺にゃ色々と芸があるんでね。」

 

 鉄が右手を出すと、清造は「殺されるのはおめ

え達のほうだな」と余裕たっぷりに語り、隠れてい

た平塚親分の子分五人を呼び出す。

 

 鉄は「そうか。おめえは人殺しもするのか」と清

造に語り、「こうなりゃ贅沢は言ってられねえな」と

方針を語る。

 

  錠「御陰で棺桶が又捌けるな。」

 

  鉄「殺るんなら全部だ。一人でも逃がしたらやばいぞ」

 

 鉄・錠は襲ってきた平塚の五人を返り討ちにし

て仕置し、「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ」と仕

置する度に死体の数を数えた。

 

 安心しきっていた清造・金次・三吉は、立ちは

だかる鉄を見て恐怖感を覚える。三吉・金次を

半次が投げた瓦に助けられつつ、鉄は二人を

仕置し、半次と共に「六つ、七つ」の数字を数え

た。

 

   半次「あと一つ!」

 

 一人になった清造は匕首を抜くが、鉄・錠の

凄みに震え、「勘弁してくれや」と頼みつつ、材

木を倒して抵抗するが、鉄に大事な所を仕置

される。  


  清造「あんにゃあ」

 

 鉄は清造の首の骨を折って仕置し、死体を

殴り倒す。半次が「はい。おしまい」と語る。

 

 鉄・錠・半次は清造の家に入り、行方不明の

お順を捜す。半次は、お順が此処に来ていた

ら生きてる訳はないと予想し、錠も「諦めな」と

鉄に諭す。鉄は空井戸を不審に思い、縄を用

いて底に降りると、お順の足に触れた。

 

 お順は底に落され、全身を強打したが、生

きていた。しかし、意識・体調共に、衰弱が激

しく危険な状態であった。

 

 鉄はお順を抱き起こし、「お順!お順さん」

と名を呼ぶ。

 

  お順が目を開いた。

 

  お順「何処?此処は何処?」

 

 鉄はお順が意識を回復したことに一縷の希望

を持ち、「しっかりしろ!お順」と元気付けようと

する。

 

  お順「やっぱり来てくれた。あたしを助けに

      来てくれたんだね?」

 

 鉄は頷く。

 

   お順「そうだね。そうなんだね。清さん!

       清さん」

 

 鉄はじっとお順を見つめる。

 

 お順は息絶える。

 

 井戸の上から、半次が「生きてるのか?」と聞

き、錠が「念仏。返事しろ」と催促した。

 

 雨の朝。江ノ島。

主水と妻りつがお参りの道を進んでいると、棺

桶を担いだ錠と半次を見る。りつが「朝から縁起

でも」と不機嫌になり、主水は「捨ててはおけん」

と棺桶担ぎを追う。

 

 鉄・錠・半次が土葬の穴を掘り、おきんが見つ

めていた。主水が現れ、「おい、どうしたんだい?

一体何事だ?」と問う。

 

  鉄「女郎が一人死んだんだ。それだけの事だ。」

 

 おきんは鉄に簪を渡す。鉄は棺桶の上の土に

簪を投げ、錠・半次と共に土をかけた。

 

 近くに合掌する地蔵があった。

 

 草に露が光った。

 

 ☆☆☆躑躅の花☆☆☆

 

 安倍徹郎は昭和三年(1928年)八月二十九日に

東京都中野区に誕生した。早稲田大学に入学し、

昭和二十三年(1948年)日本共産党に入党し、大

学卒業後、出版社・編集部等で勤務し、大映脚本

家養成所に入り、池波正太郎の指導を受けた。

 

 脚本家として映画・テレビドラマのシナリオを多数

発表された。生命への深い愛の探求が作品には

貫かれていた。繊細で優しい心理描写により数多

くの傑作を書かれた。

 『鬼平犯科帳』では八代目松本幸四郎(初代松

本白鸚)主演NET版、丹波哲郎主演テレビ朝日版・

初代萬屋錦之介主演テレビ朝日版、二代目中村

吉右衛門主演フジテレビ版と全シリーズの脚本を

執筆している。

 白鸚版・錦之介版・吉右衛門版で「むかしの男」

の脚本を書いていることにも、池波の安倍への

信頼の篤さが窺える。

 

 『剣客商売』『雲霧仁左衛門』『仕掛人梅安』等、

池波文学のテレビドラマ化の名作においては、

安倍徹郎の筆による脚本は、作品を支える基盤

となって働いてくれている。

 

 『必殺シリーズ』においては、第一作『必殺仕掛

人』から脚本を書き、シリーズの大地を明かされた。

 安倍徹郎脚本の個性は、女達の悲しみと痛みと

情念と愛である。「必殺」を支え育み引っ張ってく

れた功労者である。間違いなく「必殺の父」と申し

あげるべき方だが、わたくしは、あえて、安倍徹郎

は「必殺の母」と申し上げたいのだ。安倍徹郎の

脚本には、女の情が書かれているからだ。暖かく

熱い母性愛が溢れている。

 安倍徹郎は男性である。だが、彼が女性の優し

さや暖かさに着眼し、その心を探求し、必殺ドラマ

によって語っていった。この歴史を見る時、安倍徹

郎は、「必殺」の歴史においてあったかい母性を伝

てれくれた存在として、「母」様として仰ぎたいのだ。

 

 平成二十八年(2016年)夏に、「本年二月二十三

日に安倍徹郎が八十七歳で死去された」という記事

がネットで書かれた。ハンマーで心を殴打されたよう

な衝撃を受け。「ええ!」と思わず声が出そうになった。

新聞に訃報は載っていない。

 脚本に全てを打ちこんで語り、自己自身を「俺が、私

が」と自慢したり自惚れたりすることを拒否し、目立つ

在り方を否定され、亡くなられた安倍徹郎。

 脚本・シナリオのみを残して、一切の自己顕示・自己

露出を拒絶された。「安倍徹郎先生らしい終わり方」と

仰いだ。

 

 本作『必殺仕置人』「利用する奴される奴」は安倍徹

郎における絶対的愛の探求が結実した大傑作である。

 清純無垢な美女の女郎お順が命を賭けて清造を愛し

全てを擲って尽くすが、彼が女たらしの色男で情婦の

一人を殺害した極悪人であることを見て、仕置を依頼

するが、やはり愛を捨てきれず、危機を知らされ、命賭

けの愛を告白し、裏切られ、井戸に捨てられる。

 鉄に救出され、意識と視力を失ったお順は、殺され

ても、清造を愛し続け、心の中で清造が助けにきてく

れたと思い込んで、鉄の腕の中で死んでいく。

 まさに、絶対的な愛の証である。

 

 磯野洋子の渾身の熱演が、お順の無垢で清らかな母

性愛を明しきった。

 山﨑努の鉄が、磯野洋子のお順を抱きしめて、彼女

が愛する人と再会したと思い込んで死ぬに当たって、そ

の心を見守る。

 『ミモザ館』Pension Mimosas (映画 制作国フランス

1935年1月18日フランス公開 監督ジャック・フェデー)

に学んだことが窺えるが、本作のクライマックスも大傑

作である。『ミモザ館』はフランソワーズ・ロゼーのヒロイン

ルイーズが生き残って無償の愛を明かすが、「利用する

奴される奴」のお順は死ぬ間際にこれまでの無償の愛

を集大成する。安倍徹郎はジャック・フェデー&シャルル・

スパークの愛の探求を確かめ継ぎ自作で新たに発展せ

しめた。

 

 津川雅彦の清造の冷酷非情な色男は、絶品で演技の

大傑作である。「お袋の形見」「妹の形見」と称して、女

達に簪をあげて、母性本能を刺激して、女の愛に包まれ

愛していると称して利用するプレイボーイである。およう

を首吊り自殺にみせかけて殺すシーンは、殺人を遊戯

のように楽しむ冷酷さを、津川が鋭い演技で明かした。

 山口朱美のお新に抱きつかれて、髪型を直すのは、チ

ャールズ・チャップリン監督・主演作品『殺人狂時代』から

の鮮やかな引用だ。

 回想シーンの躑躅の花の場面は美しい。騙す男と騙さ

れる女の二人の短い幸福な時代を、花が見守っている

ようだ。

  

 日高澄子がおようの哀れさ、須永克彦が美女に迫りつ

つも大望の目前で殺される佐々木の悲劇、遠山二郎・

大橋壮多が絶妙のコンビで金次・三吉の小悪党ぶりを

見せた。

 

 津川雅彦と津坂匡章の会話は、清造と半次の騙し合い

だが、仕置の熱戦の前の鋭い笑いがある。

 

 決戦を前にして清造と鉄が語り合う挑戦の言葉も強烈

で、津川雅彦と山﨑努の芸と芸の激突がある。沖雅也の

笑顔も迫力がある。鉄が清造を仕置し、津川が「あんにゃ

あ」と叫ぶシーンは名場面で、この笑いこそ「必殺」の人

間洞察の真骨頂であると感じた。

 

 藤田まこと・白木万理の主水・りつ夫妻の引いた芝居も

絶品である。雨の中の埋葬で、おきんが鉄に簪を渡す。

野川由美子の無言の演技の優しさが光る。

 お順の遺体の側に置かれる簪。地蔵の合掌は、お順

の愛に対する敬意ではないかと感じた。躑躅の花と簪の

描き方は「巧い」という呼び方を越えて、美しい。

 

 自身の命を奪う清造を愛し抜くお順の絶対的母性愛と

共に、『必殺仕置人 利用する奴される奴』の輝きも又、

永遠である。

 

 キャスト
 

 山崎努(念仏の鉄)

 

 

 沖雅也(棺桶の錠)


 野川由美子(鉄砲玉のおきん)


 白木万理(中村りつ)

 

 

 海老江寛(海老屋新左衛門)

 遠山二郎(金次)

 大橋壮多(三吉) 

 

 津坂匡章(おひろめの半次)

 
 山口朱美(お新)
 須永克彦(佐々木半十郎)
 田中圭介(客)
 
 真木祥次郎(芳兵衛)
 内田真紀(女郎)
 松本智子(小女)

 

 日高澄子(およう)


 磯野洋子(お順)

 

 津川雅彦(清造)

 

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 スタッフ

 

 制作      山内久司 

          仲川利久 

          桜井洋三

 

 脚本      安倍徹郎 

 

 音楽      平尾昌晃     

 撮影      中村富哉

 

 美術      倉橋利韶

 照明      中島利男

 録音      二見貞行

 調音      本田文人

 編集      園井弘一

 

 助監督     高坂光幸

 装飾      稲川兼二

 記録      溝尾敦之

 進行      黒田満重

 特技      宍戸大全

 

 装置      新映美術工芸

 床山結髪   八木かつら

 衣裳      松竹衣裳

 現像      東洋現像所

 

 製作主任   渡辺寿男

 殺陣      美山晋八

 題字      糸見渓南

 

 

 ナレーター  芥川隆行

 制作協力   京都映画株式会社

 

 

 主題歌 「やがて愛の日が」

 作詞   茜まさお

 作曲   平尾昌晃

 編曲   竜崎孝路

 唄    三井由美子

 ビクターレコード

 

 監督      松本明

 

 制作      朝日放送

          松竹株式会社

 

 ☆

 山崎努=山﨑努

 

 

 白木万里=松島恭子=白木マリ

 

 津坂匡章→津坂まさき→秋野太作

 

 

 沢村マサヒコ→津川雅彦=マキノ雅彦

 

 藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 

 山内久司=松田司

 

 平尾昌晃=平尾昌章

 

 

 早坂暁・野上龍雄・野島一郎はノークレジット

 ☆

 画像出典  『必殺仕置人』DVD vol.3
(2013年6月16日の記事に加筆しています)

           
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