小林桂樹さん 死去 | 俺の命はウルトラ・アイ

小林桂樹さん 死去


ウルトラアイは我が命-小林桂樹氏

(画像出典 『浪漫工房』11・12合併号

 「特集 今を生きる映画人 津川雅彦」

 1998年 創作工房)


 戦後の日本映画界・テレビ界を支えて

下さった巨星が亡くなりました。


 俳優小林桂樹氏。2010年9月16日死去。

86歳。


 小林さんは、1923年11月23日、群馬県に

誕生されました。月桂樹にちなんで、「桂樹」

と命名されました。


 1941年日活の入社試験に合格され、42年

に映画界に俳優としてデビューされました。

1943年応召され、満州に渡られ、大変な苦労

をされて、1945年の終戦を経て復員されます。


 1951年吉村公三郎監督、新藤兼人脚本『

偽れる盛装』では、恋人との結婚に踏み切れ

ない青年孝次の苦渋を表現されます。



 『めし』(1951)では信三役、『夫婦』(1953)

では早川茂吉役と、成瀬巳喜男監督作品

で存在感を発揮されます。今井正監督『ここ

に泉あり』(1955)では、井田亀夫役を好演され

ます。


 1952年藤本真澄氏にスカウトされ、東宝に

入社され、以後東宝のスター・名優として、

時代を築かれました。


 1962年黒澤明監督『椿三十郎』では、見張り

の侍木村役で、爽やかな笑いを、観客の胸に

届けて下さいました。

 同年の東宝の超大作『忠臣蔵』(稲垣浩監督)

では、浅野長矩(加山雄三氏)を虐め抜いて、

刃傷を受けて逃げる吉良義央(八代目市川中

車丈)を打擲して、内匠頭の無念を思う脇坂

淡路守安照を重厚に演じておられました。


 1970年時代劇の父伊藤大輔監督の遺作『幕

末』では、初代中村錦之助(後の初代萬屋錦

之介)の坂本龍馬に対して、西郷吉之助を堂々

たる存在感と重厚な迫力で表現され、錦兄との

火花散る演技合戦を展開されます。


 1972ー73年のテレビ版『赤ひげ』では、主人

公の赤ひげ先生こと新出去定医師を情熱的

に演じておられました。

 私的な事柄になりますが、自分が小林氏を

最初に拝見したのが、このドラマで、「赤ひげ」

と言うと小林さんが真っ先に浮かびます。


 1976年大河ドラマ『風と雲と虹と』では主人公

平将門の父良将役を、渋く演じておられました。

厳しさと優しさを兼ね備えた武人の貫録を感じ

ました。



1980年テレビドラマ『歴史の涙』では阿南惟幾

役、1981年には映画『連合艦隊』において山本

五十六役を熱演されます。

大日本帝国軍人役に、こめた小林さんの思い。

身を以て噛みしめられた戦争への痛みが、入

魂の演技となって、見る者を圧倒しました。


 1983年NHK大河ドラマ『徳川家康』では、主

人公松平竹千代後の徳川家康の師太原雪斎

を渋く重く表現されました。


 故成田三樹夫さんの今川義元さんが、「禅

師、聞かれたかな?」と、小林さんの雪斎禅師に

厳かに語りかけておられたのを、よく覚えていま

す。


 加瀬悦孝さんの竹千代を叱る時の小林氏の

雪斎禅師は、本当に怖かったです。


 1986年の映画『マルサの女』(監督伊丹十三氏)

では、査察部管理部長を、実在感一杯に演じて

おられました。部長が電話で語る大詰めのシーン

では、ズームからワイドになる引きのカメラワーク

が印象的です。


 2006年には、盟友岡本喜八氏の脚本・監督の

映画『助太刀屋助六』に棺桶屋のお爺さんの役で

出演されます。ユーモラスで飄々とした味わいは

絶品でした。


 爽やかな軽さも、ずっしりとした重さも、自在に

表現された小林さん。演技であって、演技を越えて

いるというか、役の人物の生活そのものを生きて

おられました。役の呼吸・息吹が銀幕とブラウン管

から響いてきました。


  「客観的な芝居と、自分が役に入り込んでいる

  主観的な芝居とのバランスをうまく取らなければ

  ならないと思う。自分で気持ちよくやっているか

  らいいというものではなく、目配せから動きに至

  るまで、全部冷静に覚えている目が必要だと思い

  ます。」


  (『浪漫工房』11・12合併号 51頁

   「特集 今を生きる映画人 津川雅彦」

   1998年 創作工房)


 自分の気持ちの良さに溺れず、常にご自分の演

技そのものを厳しく冷静にチェックされ、見つめ直し

ておられた眼の厳しさに、ドキッとして冷や汗が流れ

ました。このインタビューを拝読して、小林先生の至

芸の根には、ご自身に対して不断の厳しさがあるこ

とを仰ぎました。


 今年の酷暑でご体調を崩され入院された、と報道

で聞きました。


 日本映画界・テレビ界の歴史において、いぶし銀

の輝きを、渋く放たれる小林桂樹氏。


 西郷隆盛の名演に感動しました。


 小林桂樹様


 長い間、お疲れ様でした。


 謹んで、哀悼の意を表します。



                           合掌



                      南無阿弥陀仏



                          セブン