ウルトラセブン 北へ還れ! | 俺の命はウルトラ・アイ

ウルトラセブン 北へ還れ!

『ウルトラセブン』「北へ還れ!」

テレビ トーキー カラー 30分

1968年3月17日放送

 

放送局  TBS系

製作国  日本

製作言語 日本語

 

 

監修 円谷英二

 

プロデューサー  末安昌美

脚本  市川森一

 

撮影 永井仙吉

美術  岩崎致躬

     成田亨

照明  新井盛

音楽  冬木透

録音  松本好正

効果  西本定正

編集  柳川義博

助監督 山本正孝

制作主任 高山篤

 

特殊技術

撮影   鈴木清

美術   池谷仙克

操演   平鍋功

照明   小林哲也

光学撮影 中野稔

助監督  円谷粲

制作主任 熊谷健

 

東京現像所 

キヌタラボラトリー

TBS映画社

 

 

 

出演

 

中山昭二(キリヤマ)

 

森次浩司(モロボシ・ダン ウルトラセブンの声)

菱見百合子(友里アンヌ)

 

石井伊吉(フルハシ・シゲル)

阿知波信介(ソガ)

古谷敏(アマギ)

 

山口奈々(フルハシ・マナ)

矢野陽子(旅客機乗員)

ブルーノ・ルシケ(機長)

小島岩(副機長)

小沢直平(パトロール機パイロット)

 

佐原健二(タケナカ参謀)

市川春代(フルハシ・シゲル、フルハシ・マナの母)

 

上西弘次(ウルトラセブンスーツアクター)

浦野光(ナレーター)

 

特殊技術 高野宏一

 

監督  満田禾斉

 

製作  円谷プロダクション

     TBS

森次浩司→森次晃嗣

菱見百合子→ひし美ゆり子

石井伊吉→毒蝮三太夫

満田 禾斉(「かずほ」の漢字は本来は一字だが

変換で出ないので出ないので「禾」と「斉」の二字

を合わせる)→満田かずほ

台詞出典『ウルトラセブン』DVD vol.6

台詞の引用、シークェンスの考察は研究・学習の

ためです。

円谷プロダクション様・TBS様には、何卒ご理解・

ご寛恕を賜りますようお願い申し上げます。

  雪の北海道。電車が走っている。車内のフルハシ・シゲル

は窓を触り風景を見る。

 

   ナレーター「フルハシ隊員は母が病気という連絡を受け、

          彼の故郷北海道に来た。

 

 駅では妹のマナが兄シゲルを迎えにきた。シゲルの運転

するジープで兄妹は雪の上を走る。

 

    シゲル「それで具合はどうなんだ?」

 

    マナ「具合って」

 

    シゲル「決まってるじゃないか!母さんの具合だよ。」

 

 マナは笑った。 

 

   マナ「病気なんて嘘よ。」

 

   シゲル「嘘!それじゃ母さんが病気だったのは俺を呼び

        戻す為の?」

 

   マナ「そう。母さん。どうしても兄さんに牧場継いでも

      らいたいのよ。『あたしも年だし、体も弱ったし、

      あんなウルトラ警備隊なんか』」

 

   シゲル「あんな?」

 

   マナ「あんなウルトラ警備隊なんか辞めて早く帰ってき

       てくれるといいのにねえ。」

 

   シゲル「母さん、まだそんなこと言ってんのか。」

 

  マナは兄にはウルトラ警備隊を辞める気持ちはないことを聞く。

シゲルは意外にも「あるよ」と答え、マナは驚く。シゲルはもうウル

トラ警備隊に飽き飽きしてると言い、車が動かなくなったので、マナ

に前を見てくれと頼む。マナが降りるとシゲルはジープを走らせる。

 

   マナ「兄さん、待ってよ。」

 

   シゲル「母さんに宜しくな!」

 

 シゲルは嘘をつかれたことのお返しをしてウルトラ警備隊に帰る。

 

 北極上をパトロール中だったウルトラ警備隊のジェット機に異変が

起る。パトロール機は北極上空で光の帯に捕まり、正面から飛んで

くる旅客機に近づく。防衛隊員は必死にかわそうとするが動けず、旅

客機と正面衝突し炎上する。

 

  タケナカ参謀はウルトラ警備隊のパトロール機が旅客機と衝突

して犠牲者を出し、当人も事故死したという事態を重く受け止め、

ウルトラ警備隊初の事として悲しみ、キリヤマ隊長に徹底調査を

指示する。キリヤマは「はっ」と答える。

 

 ウルトラ警備隊の電話が鳴り、ダンが受ける。

 

   ダン「こちらウルトラ警備隊作戦室。フルハシ隊員!」

 

   フルハシ「こちらフルハシ。母さん!」

 

 電話をかけてきたのはフルハシの母だった。

 

   フルハシの母「どうしてもお前に帰ってきてもらいたく

            て、今着いたんだよ。」

 

 フルハシは警備隊の上司・同僚に母が「出てきちゃったんですよ」

と報告する。

 

   フルハシ「とにかく、今忙しいんだよ、後で!」

  

 フルハシは電話を切った。ダン・アマギ・ソガがフルハシの任務を

代わりにやりますと申し出た。

 

   フルハシ「ちょっと待った。皆さんがたの友情は嬉しいんです

         けどね、仕事は仕事、俺のぶんを横取りされちゃ困

         るな。アンヌ、お袋のほうは頼むよ。」

 

  フルハシ・シゲルは北極事故の探索にホーク3号で向かう。

 

  ダンが運転する車にフルハシの母は乗り、アンヌから説明を受

ける。

 

    アンヌ「フルハシ隊員はパトロール中なんですよ。すぐに

         戻ってきますから。」

 

    フルハシの母「はあ。」

 

 ダンは民間人はウルトラ警備隊基地に立ち入り禁止でふもとに

ホテルがあることを告げる。

 

    ダン「ホテルにご案内します。」

 

    フルハシの母「はあ」

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 フルハシの操縦するホーク3号は北極に向かって走っている。

ベーリング海に入ろうとするホーク3号。キリヤマはフルハシに

自動操縦に切り替えるよう指示してフルハシは応答する。 

 灯台から光が放たれる。フルハシは自動操縦装置に異常が

起ったことを報告する。キリヤマは他の異常を問う。フルハシは

他には特に異常がないことを告げる。ソガはマッハ2・8で120分

で目的地に着くことを語り、キリヤマ隊長は普通操縦で向かえ

とフルハシに指示する。

 

  喫茶店でフルハシの母とダンがお茶を飲んでいる。

 

   ダン「ご病気と伺ったんですが、もういいんですか?」

 

   フルハシの母「はあ。」

 

   ダン「そうですか。今度は何か急用でいらしたんですか?」

 

    フルハシの母「シゲルを連れ戻しに参りました。」

 

   ダン「連れ戻すって北海道へ?」

 

   フルハシの母「はあ。」

 

   ダン「フルハシ隊員、ウルトラ警備隊を辞めるんですか?」

 

   フルハシの母「はあ、そうしたいと思いまして。」

 

   ダン「そんな!」

 

 

 アンヌが喫茶店に来て、ダンを呼び、すぐにウルトラ警備隊に

戻って欲しいと告げ、フルハシ隊員の身に大変な事態が起こって

いることを語る。ダンはこっちも大変であると報告し、アンヌは私

にフルハシ隊員のお母さんを任せて欲しいと言った。

 

 北極にホーク3号は到着するが怪しい灯台に惑わされ、操縦

桿が動かなくなる。フルハシは原因不明として、アマギは単なる

事故ではないと推理する。作戦室にダンが戻りフルハシの身に

起った異変について問う。キリヤマは北極でホーク3号が操縦

できなくなっていることを告げ、ダンに調査を指示し、ダンはホ

ーク1号で北極に向かう。キリヤマは各航空会社の旅客機に

北極には飛ばないようにと要請する。

 

 灯台から怪しい光線が放たれている。

 

 ソガは一機の民間の飛行機が北極を飛んでいることをキリ

ヤマに報告する。キリヤマ隊長は驚愕する。このままではホ

ーク3号と旅客機激突してしまう。旅客機のコクピットでは機長

と副機長が空路を外れている異常事態が起こっていることに

苦悩する。乗客たちはパニックになり、客室乗務員の女性が

懸命に落ち着いてもらうように頼む。

 

 キリヤマはこのままいけば、フルハシのホーク3号と旅客機

が正面衝突してしまうと恐れる。ソガは旅客機には300人の

乗客が乗っているそうですと告げる。キリヤマは300人と呟く。

アマギはコンピューターの計算では20分後にホーク3号と旅

客機がぶつかると警告する。キリヤマはフルハシが脱出し

ホーク3号を自爆せしめる作戦を打ち出す。フルハシは自爆

装置セットを操作し完了するが脱出できないことに気付いた。

 

    キリヤマ「何、脱出できない?」

 

    フルハシ「そうなんです。脱出できません。」

 

 キリヤマはフルハシに慌てるなと指示を出す。ソガは自爆を

中止しないとフルハシは爆死してしまうことを告げる。

 

    キリヤマ「分かっている。自爆を中止したところで、いず

          れホーク3号と旅客機は正面衝突するんだ。

          だがな、せめてフルハシのホーク3号が自爆す

          れば旅客機は助かる。自分の命を犠牲にして

          300人の命を助ける。それがウルトラ警備隊の

          使命なんだ。」

 

 ホテルではフルハシの母が大相撲をテレビで観戦している。

 

     アナウンサー「寄り倒しで柏戸の勝ち。左前みつ。右差

              しの速攻冴えました。」

 

 キリヤマからアンヌに「フルハシのお母さんを作戦室へ。言わ

れた通りにしてくれ。大至急だ。」という指示が伝えられ、アンヌ

は受ける。

 

 光線を放つ灯台に二人のカナン星人がいた。声は女性である。

 

   カナン星人(1)「又一機地球防衛軍のパトロール機が近づ

             いている。」

    

    カナン星人(2)「地球はカナン星人の物だという事を思い

              知らせてやる。」

 

  ウルトラ警備隊作戦室にフルハシの母は案内され、隊長は

「キリヤマです」と頭を下げフルハシの母を招く。無線で北極の

ホーク3号に連絡する。

 

   キリヤマ「ホーク3号どうぞ。」

 

   フルハシ「こちらホーク3号。」

 

   フルハシの母「シゲル」

 

   フルハシ「こちらシゲル」

 

   フルハシの母「シゲルかい?」

 

   フルハシ「母さん」

 

   フルハシの母「何してるんだい、お前?」

 

   フルハシ「パトロールさ」

 

   フルハシの母「遠いのかい?」

 

   フルハシ「うん。遠いよ。何しろ北極迄来てるん

         だからね。」

 

   フルハシの母「まあ北極。あたしの声も北極迄飛んで

            たんだね。」

 

   フルハシ「ああそうだよ。北極迄来て寒い寒いって震えて

         らあ。」

 

 フルハシは笑う。フルハシの母も笑う。フルハシの頬に涙が

走る。

 作戦室では隊員達が激しく語り合っている。フルハシ救援の

課題に向かって全員必死だ。フルハシの母は息子の職場を

思う。

 

    フルハシの母(独白)「シゲル。ウルトラ警備隊って大変

                 な仕事だね。」

 

  

 一面雪の北極の地上に到着したダンは灯台に不審を感じた

ダンはカプセル怪獣ウィンダムを派遣した。

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 だがウィンダムはカナン星人の光線を頭部に受けてダンを

攻撃する。ダンはウィンダムに呼びかけるがウィンダムは

ダンを敵視して攻めてくる。ダンはウルトラ・アイでウルトラセブン

に変身する。

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 セブンは攻めてくるウィンダムを落ち着かせようとして一本

背負いで投げ、地に伏せる。ウィンダムは悔しがる。セブンは

ウィンダムに追いかけられる。

セブン ウィンダム

 ウィンダムは懸命に追う。セブンは走って逃げる。ウィンダムの

執拗な追跡が続くがセブンはコースを変える。

ウィンダム セブン

 ウィンダムは雪の上を走り廻り疲れて腰を下ろす。

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  セブンは何とかウィンダムを覚醒させ、カナン星人の光線

に苦しめられる彼をカプセルに戻す。

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  カナン星人は灯台ごと脱出し円盤灯台として逃走を図る。

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 ウルトラセブンは追跡し、ワイドショットでカナン星人の灯台

円盤を撃墜する。

 

  フルハシの乗ったホーク3号の故障・不具合が治り、シゲル

は操縦桿を見事に操作し、旅客機との衝突を回避した。

 

 ウルトラ警備隊作戦室に帰還したフルハシは同僚のダン・ソ

ガ・アマギに祝福されるが、母が北海道に帰還した光景を見た。

 

   キリヤマ「お母さんは北海道へ帰ったよ。」

 

   フルハシ「やれやれ、そうですか。助かった。」

 

   キリヤマ「フルハシ早速ですまんがパトロールに行って

         くれ。」

 

   フルハシ「ええ、誰か」

 

  ソガ・アマギ・ダンは「仕事を横取りしちゃ申し訳ない」と

語る。

 

    フルハシ「皆冷てえな。いいよ。いいよ。」

 

    キリヤマ「北海道上空を一回り、頼むぞ。」

   

    フルハシ「はい!」

 

  夕焼けの北海道をホーク3号が飛ぶ。

 

   フルハシ「母さん、何故黙って帰っちゃたんだ?」

 

 フルハシの母がシゲルのこころに語り掛ける。

 

  フルハシの母「シゲル。もういいんだよ。牧場の事

           はシゲルには心配かけない。母さん

           はね、男が自分で選んだ仕事、それ

           が一番良いってことが分かったんです

           よ。シゲルはやっぱりウルトラ警備隊  

           の隊員。」

 

   シゲル「うん」

 

 フルハシ・シゲル隊員は、作戦室に「フルハシより本部

へ。北海道上空異常なし。夕焼けがとっても綺麗だ。もう

一回りして帰る」と語る。

 

  ☆夕焼けに映る母子愛☆

 

  『ウルトラセブン』「北へ還れ!」は母性愛と息子の努力の

呼応のドラマである。市川森一は「V3から来た男「月世界の

戦慄」キリヤマ隊長・クラタ隊長の友情を描き、この第24話

ではフルハシ・シゲルとその母の息子・母の愛のドラマを繊細

に描いた。

 北海道の雪景色を背に走る電車。フルハシ・シゲルとマナの

兄妹の会話は鮮やかなテンポで進む。

 石井伊吉と山口奈々の会話のリズムは素敵だ。シゲルは母の

容態を心配するが、嘘で牧場に帰ってきて欲しいことへの誘い

だったと聞き、マナをひっかけて東京に帰っていく。言葉では

明瞭にしないがウルトラ警備隊任務に全てを賭けて打ち込んで

いる。

 ウルトラ警備隊パトロール機と旅客機の激突事故のシーンは

恐ろしい。

 タケナカ参謀がキリヤマ隊長に事故の徹底調査を頼むシーン

には緊迫感がある。

  

 市川春代は1913年2月9日に誕生した。番組放送当時54歳で

ある。日本映画の傑作群に出演された大女優である。稲垣浩

監督の『独眼龍政宗』では愛姫役を熱演している。

独眼龍政宗 (片岡千恵蔵版)

 ウィキぺディアの市川春代の項によると、フルハシの母はユキ

という名とのことである。

 市川春代の綺麗な着物の着方と気品に深く心を打たれる。銀幕

スタアの重く深い存在感がドラマの情愛を熱くしてくれていることを

感じた。

 母に帰郷を命じられるのが嫌で逃げるように北極探索への任務

に赴くシゲル。同僚の母を慰めホテルに向かうダンとアンヌ。ダン

が運転しアンヌが語りかけ、ユキ母上が聞くシーンには、血の繫が

りがなくても、人生の後輩が先輩をもてなす優しさがある。

 市川森一ドラマはほほえましい兄妹の会話やシゲルの子供っぽい

とすら感じさせるほどの熱い仕事への熱量を爽やかに語りつつ、カ

ナン星人の恐るべき飛行機事故計画へと視聴者の想いを誘導する。  

 フルハシが北極でホーク3号が操縦不能になり、旅客機との衝突

が迫ってくる展開はスリリングで怖い。1970年の再放送で『ウルトラ

セブン』ドラマに熱中したわたくしだが、24話は筋も結末も知ってい

るのに、見るたび聞くたびにドキドキ緊張し興奮し怖くなる。

 

 フルハシの母が視聴していた大相撲の取組は柏戸関が白星を挙げ

た一番だが、アナウンサーの声は北出清五郎氏であることを先輩に

教えて頂いた。放送当時の1968年は柏戸剛・大鵬幸喜の柏鵬時代

である。

 

  ウルトラ警備隊作戦室で母が語り、北極のホーク3号で息子シゲ

ルが語る。二人は同じ場所で顔と顔を合わさず、声と声で語り合って

笑いあう。息子は死を覚悟しており、突撃死の前に母の声を聴かせ

てくれたキリヤマの優しさに深謝し、母を思って泣き笑いとなる。親子

の笑い顔と笑声が親子愛の無限の深さを伝えてくれる。

 

 『ウルトラセブン』の親子愛表現においても最も感動的なシーンで

ある。

 

 市川春代と石井伊吉の微笑みに胸が熱くなる。

 

 フルハシ親子の感動的な笑顔の語り合いという深刻なシーンの次

に、ウルトラセブンとウィンダムの雪の追いかけっことなる。このバラ

ンス感覚も拙妙だ。ウィンダムを操ろうとして失敗するカナン星人は

知的な悪女だった。オーロラのような光線の帯は綺麗だった。怖い

カーテンという印象を受ける。カナン星人のスーツと声の鋭いエロ

ティシズムも忘れられない。カナン星人の灯台円盤がセブンのワイ

ドショットで破壊される。

 フルハシのホーク3号は一切の不具合が治り、旅客機との衝突

を避ける。

 この作品の後、世界的にパニック映画の大作が製作されて行く

ようになる。

 ウルトラ警備隊にシゲルが帰ると母は北海道に帰った後だ。キ

リヤマの粋な気遣いで北海道パトロールを命じられるシゲルは

夕焼けに感嘆する。『ウルトラセブン』の夕焼けは暖かい。

 

 シゲルと母の心の会話は、息子の仕事への情熱を母が理解し

包み取るドラマである。親子は顔と顔を合わさずとも心と心で、

互いにしっかりと分かり合い繋がっている。

 

 市川森一脚本と満田かずほ演出は、親子愛の尊さを私に

教えてくれた。

 

 ☆2008年3月24日記事に2020年5月10日加筆しました☆

 

                                    合掌

 

 

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