ウルトラセブン  消された時間 | 俺の命はウルトラ・アイ

ウルトラセブン  消された時間

『ウルトラセブン』「消された時間」

テレビ トーキー 30分 カラー

放映日 1967年10月29日

 

監修 円谷英二

プロデューサー 末安昌美

脚本 菅野昭彦  

 

撮影  永井仙吉

美術  成田亨

     岩崎致躬

照明  新井盛

音楽  冬木透

録音  松本好正

効果  西本定正

編集  柳川義博

助監督 山本正孝

製作主任 高山篤

製作担当者 塚原正弘

 

特殊技術

撮影 鈴木清

美術 池谷仙克

操演 平鍋功

照明 小林哲也

光学撮影 中野稔

助監督 円谷粲

製作主任 熊谷健

 

東京現像所 

キヌタラボラトリー

TBS映画社

 


出演

中山昭二(キリヤマ隊長)

森次浩司(モロボシ・ダン ウルトラセブン声の出演)
菱見百合子(友里アンヌ)

 

石井伊吉(フルハシ・シゲル)
阿知波信介(ソガ)  

古谷敏(アマギ)  

 

丸山謙一郎

勝部義夫

緒方燐作

若山真樹

加藤茂雄


辻村真人(ヴィラ星人 声の出演)
満田禾斉(ウルトラ警備隊隊員 声の出演)

藤田進(ヤマオカ長官)
山本耕一(ユシマ博士)   

宮川洋一(マナベ参謀)

 


上西弘次(ウルトラセブン スーツアクター)
浦野光(ナレーター)

 


特殊技術 高野宏一    

監督 円谷一

制作 円谷プロダクション TBS

 

森次浩司→森次晃嗣

菱見百合子→ひし美ゆり子
石井伊吉→毒蝮三太夫

 

 ナレーター
 「南極にある地球防衛軍科学センターから、
  一機の超高速ジェット旅客機が飛び立った。
  目的地は日本。中には、『地球の頭脳』
  と呼ばれている、ユシマ博士が乗っていた。」


 ユシマ博士は、女性隊員からコーヒーを入れて
もらい、礼を言う。


 地球防衛軍極東基地


 フルハシが、ダン・アンヌに、与えられた任務
について語っている。


  フルハシ「つまり、その、ユシマ博士が基地に
       滞在している一週間、俺に博士の
       身辺警護をやれっていう命令なんだ
       よ。しかし、そんな、ボデーガード
       みたいな仕事、俺、弱いんだよ。」


  ダン「しかし、そんなことないと思うな。博士
     にもしものことがあったら、この基地の
     防衛力もがた落ちになってしまう。現に
     博士は視察に来るっていう話じゃなくて、
     本当の目的は、別にあるっていう話です
     よ。」

 
  フルハシ「なんだい、その本当の目的ってのは?」


  フルハシ「何でも博士が発明したユシマダイオード
       を使って、この基地に遠距離レーダーを
       セッティングするんだそうです。」

 


 ジェット旅客機内

 機長が、飛行は順調でることを博士に報告する。

 ユシマ博士が葉巻に点火しようとすると、ロケットは
謎の光線に包まれ、一瞬時間が止まる。

 時間は、再び、動き出す。

 


  機長「今回のフライトは疲れましたよ。お乗せして
     いるのが、『地球の頭脳』と言われているユ
     シマ博士ですからね。メガトン級の水爆を腹
     一杯詰め込んでいる気分でしたよ。」

 

  ユシマ「水爆ですか?僕は」


 

 ジェット機は、日本のウルトラ警備隊基地の滑走路
に着陸する。


 マナべ参謀・キリヤマ隊長・フルハシ・アンヌ、
そして、ダンが出迎えに現れる。


 

  アンヌ「ヨボヨボのお爺さんかと思ったら、
      若いのね。」

 

  ダン「29歳で博士号を5つも持ってるんだってさ。」

 


  アンヌ「素敵だわ。」

 


 マナべが、ユシマ博士にキリヤマ隊長を紹介し、博士
と隊長は挨拶を交わす。

 


  キリヤマ「ようこそ、お待ちしておりました。
       この基地を一層強固なものにする
       為、よろしくお願い致します。」

 


  ユシマ「やあ、私のほうこそ、勉強させてもら
      いたいと思ってるんです。日本の基地
      は世界のどの基地よりも優れた装備を
      持っているということですね。」


 

  キリヤマ「どうも。本日より、ご滞在中の警備
       を担当するウルトラ警備隊のフルハ
       シ隊員です。」

 


  フルハシ「フルハシです。」


 

  ユシマ「や、心配はご無用に願いたいですね。
      地球防衛の第一戦に立つウルトラ警備隊
      の隊員の皆さんを私なんかの為に。」


 

  フルハシ「とんでもありません。博士をお守り
       するのは、宇宙人と戦うよりも、もっ
       と大事な任務です。」

 

  ユシマ「ありがとう。しかし、こんな警戒が
      厳重な基地に忍び込んで、私をどう
      にかしようという宇宙人がいますかね?」


 ダンは博士とフルハシをポインターでホテルまで
送り、フルハシは明朝8時30分までに迎えに来てくれ、
と頼む。

 

 深夜。
 
 ユシマ博士は熟睡している。隣室では、フルハシが
夜を徹して警戒している。

 

 ホテルが光に包まれ、眠くなったフルハシが椅子
に腰かけたまま、転倒しようとすると、動きが静止
する。

 就寝中のユシマ博士に、何者かの声が、突然点い
たテレビ画像から話しかける。

 

 「起きろ、ユシマ博士、起きるのだ」


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 ユシマ博士が眠気を覚えながら、起きる。

 テレビ画像に映る宇宙人の姿は、海老に似て

いる。

 

  「我々はビラ星人。全宇宙の征服者だ。
   我々は地球侵略の手下にお前を選んだ。
   お前の乗ったロケットを時間停止光線
   で捕らえ、時間の進行を止めておいて
   お前の頭にビラ星人の心を植え付けた。
   お前の体はユシマ博士だが、心は完全
   にビラ星人になってしまったのだ。
   これからは、我々の指令を忠実に守っ
   て、征服に協力しなければならない。

   わかったな?」

 

ユシマ博士が頷く。

  
   ビラ星人「命令する。ユシマダイオード
        を出せ、出すのだ。」


 博士が従い、ビラ星人はテレビ画像から光線
をユシマダイモードに放つ。


  ビラ星人
  「よろしい、明日はレーダーの心臓部を破壊せよ。
   地球人に味方する宇宙人がいる。名前をモロボ
   シ・ダンという。その男に気を付けろ。」

 

 ビラ星人は不気味に語りかけて、博士は再び眠りに
つく。


 隣室では、時間が再び動き出したので、フルハシ
が椅子に腰かけたまま、転倒する。
 

 翌朝。ダンは博士を基地に送りつつ、昨日の発言に
注意し、心の中で、自問する。


  ダン(独白)
  「この男、本当に博士なのだろうか?
   いや、間違いない。前に写真で見たことが
   ある。
   しかし、何故、あんなことを言ったんだろう?
   僕が宇宙人であることを知ったんだろうか?
   まさか、そんなことは有り得ない。いずれ
   にしても注意しなければ。」
  

 地球防衛軍のレーダー視察でユシマ博士は、ダンに
ダイオードを第3回路にセットするように頼む。


  作戦室

 キリヤマ隊長がアマギ・アンヌと、ユシマ博士の
研究について語っている。


  キリヤマ「超遠距離レーダーが完成すれば、これ迄
       の4倍も遠くにいる基地がキャッチ出来
       る。その間に防衛体制を固める。怖い者
       なしだよ。」

 

 レーダー室。

 ダンは博士に命じられたまま、回路にダイオードを
セットし終えた。

 

  ダン「終わりました。」


  ユシマ「これを一つ変えただけでも、レーダーの
      反応は随分違いますから。」


  隊員「ありがとうございました。」


 だが、スイッチを入れると、レーダーから煙が立ち
こめ、る。


 隊員は、キリヤマ隊長にレーダー故障という「信
じられない」事態・アクシデントについて、驚愕し
ながら報告する。


 キリヤマ「弁解はいい。すぐに修理にかかれ。
      レーダーは、防衛基地にとって、
      大事な目だぞ。」

 


  ナレーター「ウルトラ警備隊に非常招集がかけ
        られた。」


  作戦室

 

  ヤマオカ長官「諸君も知っての通り、本日基地内の
         レーダーが故障を起こすという不祥
         事が起こった。原因は未だ不明であ
         るが、この防衛基地が絶えず、宇宙
         からの侵略に狙われていることを考
         え合わせると、単なる偶然とはどう
         しても思えぬ節がある。
          お前、フルハシ、ボディーガード
         として、何をやっとった!?」

 

  フルハシ「本当に、申し訳ありません。」

 

  ユシマ「いや、フルハシ隊員の責任ではありません。
      残念なことにこの基地には宇宙人がいるよ
      うですな。
      ダン君、私の手から受け取ったダイオード
      を、あの時、何かにすり替えたんじゃない
      ですか?」

 

  ダン「何ですって、博士、貴男は私がスパイだと言
     うのですか?」


  ユシマ、笑う。

  キリヤマ「お言葉ですが、何の証拠があって、その
       ようなことを」


  ユシマ「証拠、レーダーが故障するというアクシ
      デントが起きているじゃありませんか?
      ま、私は敢えてこの中にスパイが居る、
      とは言いませんが、明らかに私の仕事を
      妨害しようとする何者かの犯行であるこ
      とは間違いありませんな。」

 

  ヤマオカ長官「最悪の事態を予測して、早急に
         対策を立てよう。博士のお知恵
         を拝借して、このピンチを切り
         抜けるんだ。ウルトラ警備隊は
         直ちに緊急非常体制に入れ!」


  隊員一同「はい!」


  ナレーター
  「基地の大事な目であり、レーダーを失った地球
   防衛軍から、日本の上空偵察をするために、ホ
   ーク3号が基地を飛び立っていた。

   その頃、遙か大宇宙の彼方から、地球に向かっ
   て飛ぶ宇宙船団があった。

   だが、ウルトラ警備隊のレーダーはその異変を
   捉えることは出来なかった。」
     


  ダン(独白)
  「ユシマ博士から目を離してはいかん。彼は僕の
   秘密を知り、罠に陥れようとしているんだ。何
   か企みがあるんだ。そうはさせんぞ。」


 
 フルハシが、「誰もスパイだなんて思ってないよ」
と、ダンを励ます。

 ダンは、控室にユシマ博士が作業中であることを、
フルハシから聞かされ、控室に向かうが、警護の隊員
が、「だれ一人入れてはいかん」という博士の厳命を
墨守しているために、入室を諦めるが、室内を透視
する。

 室内では、ビラ星人に褒められて喜ぶ、ユシマ博士
の姿があった。


  ビラ星人「よくやったぞ、ユシマ博士。レーダー
       の故障を利用して、我々の宇宙船は集
       結を完了した。総攻撃の準備は既に
       整っている。
       お前は直ちに、ウルトラ警備隊の発射
       台に行き、3つのウルトラホークを徹底
       的に破壊せよ。」


  ユシマ博士、頷く。


  ビラ星人「防衛基地の混乱に乗じて、我々は一気に
       地球に突入する。行け、ユシマ博士。」

 

  ユシマ博士が控室を出ると、ダンが待っていた。


  ダン「見たぞ!」

 

 ダンはユシマ博士を取り押さえようとするが、隊員に
羽交い締めにされる。


  ダン「あなたは宇宙人に利用されているんです。
     目を覚ますんです。」

 

 ダンとユシマ博士は激しく争い、キリヤマ・フルハ
シがかけつけ、ダンを押さえるが、ダンはフルハシの
手を解いた際に、揉み合ったあった反動で、思わず
ウルトラ・ガンを抜き、銃口をユシマ博士に向けて
しまう。

 アンヌ・ソガもかけつけ、ダンを制止する。


  アンヌ「ユシマ博士は、地球の頭脳なのよ!」


  ダン「博士は宇宙人に利用されているんです。」


  ソガ「ダン、やめろ」
 

  ユシマ「見たかね、諸君?この男は僕を殺そうと
     迄したんだ。これで、ハッキリしたでし
     ょう。この男こそ、宇宙人のスパイなん
     だ!」


  キリヤマ「フルハシ・ソガ、ダンを独房に監禁し
       よう。」


  フルハシ・ソガ「はい。」


  ダン「隊長、違います。この男の言うことを信じ
     てはいけません。後で酷い目に会いますよ。」


  フルハシ「おとなしくしないか!」


  ソガ「ダン!」


  キリヤマはユシマに謝罪する。

 

  ダン「宇宙人は博士のほうです。離して下さい!」


  フルハシ「こいつは大分重症だな。」

 

  ダン「どうして、僕の言うことを信じないんです
     か?博士は宇宙人に操られているんです。
     あの頭脳は確かに世界的なものかもしれ
     ないが、宇宙人はそこに目を付けたんです。
     信じて下さい!」


  フルハシ「あんまり騒ぐと、これくらいじゃ、
       済まんぞ!」

 
 フルハシ・ソガはダンを独房に幽閉する。

  ナレーター「ついにビラ星人の宇宙船団が地球に
        姿を現した。」
       
 

 キリヤマはアンヌを連絡要員として基地に残し、ビ
ラ星人を迎撃するため、フルハシ・ソガ・アマギと共
にホーク発射台に向かう。


  独房

 

  ダン「おーい、開けてくれ!開けてくれ!」
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 ダンはセブンに変身して、鉄格子を折り曲げて戸を
開け、発射台に向かう。

 
ウルトラアイは我が命-pict000004

 その発射台では、ユシマ博士がホーク1号を破壊し
ようとしていた。かけつけたセブンは、博士をエメ
リウム光線で気絶させて眠らせる。

 
 ビラ星人の船団が飛来し、地球侵略を開始した。ホ
ーク1・3号で応戦する警備隊。

 

 セブンもかけつけ、ビラの船を光線で打ち落とすと、

炎上する船から煙と共に首魁ビラ星人が現れた。


ウルトラアイは我が命-pict000004


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セブンが宇宙船の一つにエメリウム光線を放ち、

宇宙船が落下する。


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ウルトラアイは我が命-5v

ウルトラアイは我が命-五12
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ビラ星人が姿を現した。

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セブンとビラ星人の戦いが、始まった。

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ウルトラアイは我が命-決戦 11


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ウルトラアイは我が命-5v13
セブンはアイスラッガーを放つ。
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アイスラッガーは、ビラ星人の体を切断する。

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ウルトラアイは我が命-5l6


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ビラ星人の遺体は、炎上する。
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ウルトラアイは我が命-5t7
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 セブンは、空に向かって飛ぶ。


 

 メディカルセンター

 

 アンヌの手当を受けた、ユシマ博士が、長い

眠りから覚醒する。


  キリヤマ「あ!」


  ヤマオカ長官「気が付いきましたね」


  ユシマ「ここは何処です?私はロケットの中に
      乗っていたのでは?」

 

  ダン「博士、貴方はビラ星人の陰謀に利用されて
     いたんです。貴方を自由に操ってこの防衛
     基地を破壊しようとしたんです。」


  ユシマ「私が、この基地を・・・・・・・」

 

  アンヌ「いいえ、博士が悪いんじゃありません。
      ビラ星人がいけなかったんですわ。」

 

    
  ナレーター
  「地球は再び平和を取り戻した。この平和が何時
   迄も続くように。
   宇宙人の侵略から地球を守る為に、そして市民
   の生活を守る為に、ウルトラ警備隊は今日も活
   躍を続けているのです。」

 


 ダンの孤独な戦い


 第5話「消された時間」は、ミステリアスで神秘的な
ムードを豊かに現し、視聴者の心に熱い緊張感を与えて
くれる傑作である。この深いドラマの魅力の源は、一体

何であろうか?

 

 脚本を担当したのは、菅野昭彦。『ウルトラセブン』
で、氏が書かれたのは、この一本のみだが、本第5話

の重厚なドラマ作りによって、堂々たる存在感を顕示

されている。
 
 ユシマ博士の繊細で暖かい人柄。その博士を洗脳

する宇宙蝦人間ビラ星人の不気味な存在感。ビラに

操られ、ダンを敵視・誹謗する博士。博士を洗脳から

覚醒せしめんとして覚醒を促すも、隊長に誤解され、

独房に監禁されるダン。博士が破壊したレーダーの

故障に乗じて、仲間を呼び、地球侵略を開始する
ビラ星人。

 何度も見て、結末を熟知していても、見る度に、新

たな興奮と感動を届けてくれる、不滅の傑作である。

 
 緻密・繊細にして深遠な菅野脚本には、寸毫の隙

もなく、完璧な構造を具現している。

 シナリオの神秘・幻想のドラマを、鋭く探求し、厚
みのある画で描ききった円谷一監督の演出も、息を

呑む素晴らしさだ。

 

 ユシマ博士を知的に好演するのは山本耕一。氏

は1935年(昭和10年)生まれ。学者や医師といった、
人々の演技で、至芸を見せて下さる名優である。
低音の声もかっこいい。この第五回の二年後、『や
くざ番外地 抹殺』(1969、日活、監督柳瀬観)では、

やくざを好演されている。その芸域は広い。

 

 ヤマオカ長官を貫禄豊かに演じるのは藤田進(19

12-1990)。富田常雄の名作の映画版『姿三四郎』

(1943、東宝、脚本・監督黒澤明)において主人公

三四郎を情熱的に力演した名優である。

 

 冷酷なビラ星人を静かに落ち着いた声で語る、ベ

テラン声優辻村真人の演技も深い。「よろしい」の言

い回しにゾクゾクさせてくれる。知的で高貴な雰囲気

が粋だ。

 
 冒頭、機長と談笑し、コーヒーを飲んで、コーヒー
を入れてくれた女性隊員に礼を言う、ユシマ博士の

表情を捉える。天才だが、決して驕らぬ博士の優しい
性格を見事に描いている。

 

 その優しく、温厚な博士に忍び寄る魔の手・・・。

 

 時間が止まり、ジェット機は光に包まれ、博士の表
情も固くなる。画面はストップモーションで静止する。

 視聴者は、ここで、「何かが博士に起こったな、何
だろう?」という問いを貰う訳だ。博士は知らないが、
視聴者は何かを感じている。絶妙の構成である。

 

 光を放った宇宙人の正体が遂に明かされる。宇宙

人が現れる場所が、テレビ、というのも、見事な発想

で、その着想の妙には瞠目する。

 自らは危険な行為を為さずに、天才ユシマ博士を

操って、ウルトラ警備隊撹乱のスパイにして操る、ビ

ラ星人の謀略は、実に恐ろしい。
 

 ビラ星人の奸智に超エリートのユシマ博士が幻惑
され、洗脳されてしまうところも、ある意味、リアリティ

ーがあるとも言える。博覧強記と呼ばれる秀才が、凶

悪な陰謀にコロッと乗せられてしまうようなことは、よく

起こり得ることなのだ。「優秀な先生がひどいことをす

る筈はない」という先入観は偏見とわかっていても人は

持ってしまうものだが、そこに着目したビラ星人は、鋭

い。

 
 完璧な脚本を、豊かに映像化している演出だが、一

箇所、残念なミスがある。ダンが、車の中で、博士の態

度に不審を感じて、独白する場面だ。


 

ダン(独白)
   「この男、本当に博士なのだろうか?
   いや、間違いない。前に写真で見たことが
   ある。
   しかし、何故、あんなことを言ったんだろう?
   僕が宇宙人であることを知ったんだろうか?
   まさか、そんなことは有り得ない。いずれ
   にしても注意しなければ。」
  

この部分のみを聞いていると、何が起こったのか、
視聴者は、さっぱりわからない。私も長年疑問に
思っていたのだ。


 シナリオでは、ビラ星人に洗脳されていたユシマ
博士が、宇宙人が地球防衛軍の中に潜入している

夢を見た、と語ってダンを緊張させる場面があるが、
放送時間の都合で、本編はでカットされたのだ(1)。

 

 巨匠一監督にしては、珍しい編集ミスである。菅
野氏の傑作シナリオを、鮮やかに映像化されていた
だけに、惜しまれる。

 

 本第5話では、ダンの悩みも、テーマの一つであ
る。一監督は、ダンの苦悩の探求のドラマを、いつ
も丁寧に描いておられた。想像が許されるならば、
「ダンの悲しみ」を尋ねる営み、監督にとって、課
題であり、監督もダンにご自身の像を託しておられ
たのではなろうか?

 

 宇宙人であって、地球人の平和を祈って、粉骨

砕身して奮闘しているダン。「地球人からどう見られ
ているか」、「宇宙人からどのように思われている
か」、といった諸問題は常に自問されていた事柄で
あったと思われる。ビラはそこに着眼して、針のよ
うな鋭い言葉を、洗脳したユシマに語らせて、ダン
の心を、ズキズキと傷つけて、焦燥状態を彼の胸中
に惹起せしめていく。
 
 この心理戦の緊張感が視聴者の心にもぐいぐい

と迫り、熱き昂揚が惹起せしめれれるのだ。

 

 ユシマに、何とか洗脳から解放され、「目を覚ま
して欲しい」と願うダン。だが、その願いも空しく
博士の陰謀を防ごうとして、博士に害を与えたとい
う咎で、信頼しているキリヤマ隊長から、独房に
監禁される。

 

 地球の平和を願って献身的に自己を捧げているダ
ンが、親しき地球人から誤解され、牢に閉じ込めら
れるのは、痛ましく悲しい。
 菅野脚本・一演出は、ダンを徹底的に追い込み、
試練のドラマに、身を置かせる。無理解と誤解の中に

置かれ孤独であるという厳しい環境が、ダンを鍛えて

いく。

 彼が覚醒を願うユシマ博士は、その卓抜した知識
・能力・知力・技術を、ビラ星人の侵略のために提
供し、ビラに褒められることに、喜びを感じる存在
になってしまっている。


 この描写も鋭い。一度洗脳された存在は、自己を
洗脳した存在に気に入られ、可愛がられることを、

自身の最大目標にしてしまい、洗脳した存在の言葉

を絶対化して、自身に覚醒を促す諫言を、「絶対に通

さないぞ!」と否定してしまい、「果たして、これでいい

のか?」という自己内省の問いを失ってしまう。

 

 洗脳は他者がされていれば、「なんでひっかかる

の?」と傍観しうるが、「果たして自分は洗脳から解

き放たれているか?」と自問するとき、「ハイ」と明瞭
に答えるのは難しいのではなかろうか?私達が思考

する時、何らかの思想や概念を拠り所にしている訳

だし、それらが、決定的に正しく真理である、などと

いうことはあり得ない。「何が正義で、何が不義か?」

ということに、正解は無いのだ。

 

 また、「自分は他人の時間を奪っていないか」と
自問する時、冷や汗を押さえるのも難しいものだ。

私達は生きる歩みにおいて、どうしても、「自己を肯

定して、他者を否定してしまう」エゴイズムに縛られ

てしまう。洗脳はこのエゴに執着する心を付いて、

他者を利用しようとする営み、とも言えそうだ。


 「消された時間」は、「他者の時間と心を奪うこと
の罪がいかに大きいか」という問題を問うたのでは
なかろうか?


 正邪・是非の判定は誰にも下せない。「洗脳」とい
う恐るべき事柄を、どのように受け止めればよいの

か?


 この難問に、菅野・一両氏は、ダンの生き方に、
一つの道を確かめたのではなかろうか?

 


 ダンは、ビラ星人に洗脳されたユシマ博士を、軽

蔑したり、愚弄したりしない。友として、「目を覚まし
て下さい」と願い続ける。

 

 その願いが報われず、当の博士から、「命を狙った
者」という位置付けをされて、牢に幽閉されても、願
いを失わない。


 みすみす損になるとわかっていても、洗脳によって
傷ついた存在に、自己の全てを挙げて、目覚めて欲

しいと、呼びかける。この自己を犠牲にして、自身を

捧げる精神が、洗脳からの目覚めを、人にもたらす

のではなかろうか?

  

 ダンは、何かの効果を挙げるために、地球に身を

置いたのではない。地球の平和を成就するためな

ら、命を失っても悔いはない、という心に、自己の命

を燃やしたのである。



 

                         文中敬称略

 

 ☆

 2007年10月29日に発表した記事を、2011年8月

29日に改訂しました。

 ☆
                             
 



(1)『ULTRA SEVEN CRAZY FAN BOOK』

 を参照させて頂きました。

 

                       

参考資料

『ウルトラセブン』 DVD VOL.2

 

 

                             合掌