大忠臣蔵 元禄の一番長い日  | 俺の命はウルトラ・アイ

大忠臣蔵 元禄の一番長い日 

『大忠臣蔵』

「元禄の一番長い日」

テレビ トーキー 60分

放映日 昭和四十六年(1971年)二月二日

プロデューサー 勝田康三

           西川善男

脚本 高岩肇 

     土居通芳

音楽 冨田勲


出演


    三船敏郎(大石内蔵助)



    司葉子(大石りく)



    尾上菊之助(浅野内匠頭)


    渡哲也(堀部安兵衛)


    有島一郎(堀部弥兵衛)



    神山繁(柳沢吉保)

    稲葉義男(梶川与惣兵衛)

    高橋昌也(徳川綱吉)


    長谷川明男(磯貝十郎左衛門)

    和崎俊哉(早水藤左衛門)

    新克利(不破数右衛門)


    武内亨(田村右京太夫)

    明石潮(土屋相模守)

    細川俊夫(稲葉丹後守)

    中吉卓郎(伊達左京亮)

    神田隆(松原多仲)


    田川恒夫(宗達)

    広田竜治(宗円)

    西田昭市(庄田下総守)

    岡部正(阿部豊後守)

    松尾文人(山田五郎左衛門)



    毛利幸子

    川口節子

    緒方燐作

    吉頂寺晃

    坪野鎌之

    三船プロ七曜会


    小山田宗徳(語り)



    市川中車(吉良上野介)


    中村竹弥(多門伝八)


 


    佐久間良子(阿久里)



    中村錦之助(脇坂淡路守)



監督 土居通芳


企画・製作 NET

        三船プロダクション


☆☆☆

尾上菊之助=四代目尾上菊之助

       →七代目尾上菊五郎


市川中車=八代目市川中車


中村錦之助=初代中村錦之助

        →初代萬屋錦之介

☆☆☆
 元禄十四年(1701年)三月、浅野長矩は吉良

義央の執拗ないじめを必死に耐え忍んでいた。


安照

 播州龍野藩主脇坂淡路守安照は、茶坊主

宗達の強者に迎合して、諸大名の誹謗を広

める態度を叱責し、「上様に進言し、茶坊主

共の首を刎ねて頂きたいわ!」と強く言い放つ。

 宗達の密告で虐められている長矩への励ま

しの行為でもあった。


 「儂は憎まれる」と悲しむ長矩。主君の無念を

思い、堀部安兵衛は悲しみを堪える。

 三月十三日、吉良はにこやかに「これまでの

某の仕打ちを水に流して下さらんか」と優しく浅

野に提案する。長矩は感涙を抑えつつ、「その

ようなお申し出なら喜んで」と快諾する。

 明くる十四日は将軍綱吉が勅使に答礼する大

事な儀式の日。「当日の服装は長裃で」と吉良は

浅野に指示する。


 翌十四日。長裃を着て登城した長矩は諸侯

の服装が烏帽子大紋であったのを見て、「吉良

にたばかられた!」と騙されたことを後悔する。

 脇坂淡路守安照が現われ、「諦めてはなりま

せんぞ」と激励してくれる。茶坊主を呼び、「浅

野殿御家臣に烏帽子大紋を持参するように伝

えい」と命じ、「万一間に合わぬ時は、『内匠頭

殿ご病気故、某、代役仕る』とご老中に申し上

げる」と助言してれる淡路守の優しい心に長矩

は感激する。


 片岡源五右衛門が烏帽子大紋を持って現

われ、長矩は危機を突破し、松の大廊下に向

う。二枚舌の詐術が失敗したことを悔しがる吉

良は、「何故、このような遅い刻限に参られた

っ!」と浅野を叱る。


 長矩は「吉良殿のご指示通り長裃を着用し

ましたぞ」と彼の指示通りにしたために時間

が大きく経ってしまったことを告げる。

 自分の嘘を糾弾され、二枚舌の策略が露

見することを恐れた吉良は、卑劣にも「その

ようなことを申した覚えはないっ!」と逃げて、

自己弁護をしたうえに、「そこに手をついて

謝罪されよ」と責任転嫁をして、濡れ衣を長

矩になすり付ける。


 必死に堪える長矩に、梶川与惣兵衛が「桂

昌院様御用」を告げにくる。吉良は「何のお尋

ねかは存ぜぬが、御用があらばこの上野に

申されよ。」と梶川に述べ、長矩を「田舎大名」

と嘲笑い、中啓でぶつ。


 これまで抑えに抑えていた堪忍袋の緒が切

れ、傲慢・狡猾・卑怯な吉良義央に対して、長

矩は刀を抜き斬りつけた。

 


 

 序盤最大の山場、松の大廊下における刃傷

を描く第五回である。


 高岩・土居脚本の構成は絶妙である。


 内蔵助は吉良の狙いが製塩方法を知るこ

とにあったと看破し、長矩を守るため、吉良

に方法を教える事き決め、使者を送る。

 だが、結果的には間に合わなかったとい

う悲劇である。


 吉良が優しい態度を表面に出すと、コロっと

騙されてしまう浅野。人が良くて裏表のない性

格が吉良の罠に堕ちてしまう悲劇。


 誠実な浅野を守るために粉骨砕身して彼の

窮地を救わんとする淡路守の友情。

 だが彼の熱い心も吉良の挑発にひっかかっ

てしまう長矩の短気を抑えることが出来なかった

悲劇。


 自分の言ったことを指摘され、「そんなことは

言っていない」と卑怯な態度を露骨に示して

ごまかし、謝罪を長矩に強制する吉良。傲慢

さと甘えの背景には、事実を覆い隠して逃げ

たい性格の弱さがある。


 内匠頭の刃傷の背景には、様々な悲劇が錯

綜しており、松の大廊下においてそれらが合

わさって、感情が極点に達してしまったという

筋である。


 1962年稲垣浩監督『忠臣蔵』も傑作で、この

作品でも市川中車が粘り強く吉良を熱演した

ことは既に述べた。この時の浅野は加山雄三、

脇坂は小林桂樹という配役である。


 この第五回、責任転嫁や自己弁護や中傷

誹謗の演技における中車の表現は、映画版

より更に濃厚だ。

 やはり、歌舞伎界の後輩である菊之助が

浅野、歌舞伎界出身の錦之助が脇坂であっ

たことが、名優中車の気迫を更に熱く燃やし

たか?


 吉良/市川中車

 浅野/四代目菊之助(現・菊五郎)、

 脇坂./錦之助(後の錦之介)


 1970年代の「三絶」と申したい完璧な配役

であった。


 錦兄の脇坂もカッコ良くて素晴らしい。繊

細な長矩を弟の如く見守り、励ます友情に

心を暖められる。


 1960年代、五社協定の束縛を抜け出すため、

三船敏郎・中村錦之助・石原裕次郎・勝新太郎の

四大スターは独立し、映画会社所属の時代では

実現し得なかった、互いの共演を実現した作品を

銀幕に発表した。本作テレビ『大忠臣蔵』はその

集大成的作品であったのだ。


 錦兄は当時NHK大河ドラマ『春の坂道』に柳生

宗矩役で主演していた。大変ハードスケジュール

であったと思うが、盟友三船の友情に応える為

に当り役脇坂役で助演した。


 松の大廊下で吉良が浅野をいじめる言葉の中に

「ご先祖浅野長政殿は義理の兄上秀吉公を裏切

って徳川様につかれたな」と先祖の選択を責める

台詞があった。生き残るために徳川につかざるを

得なかった先祖を辱められて悔しがる長矩の無念

がよく描かれていた。


 吉良を斬らんとして刃傷に及ぶ長矩を羽交い絞

めにして諫止する梶川与惣兵衛を演ずるのは稲葉

義男。三船の映画の代表作『七人の侍』(1954年、

監督黒澤明)における七人の一人である。

 このドラマの十年後の昭和五十六年(1981年)、

主君石田三成への忠義に命を燃やす名将島左近

を三船が熱演したTBSの超大作時代劇『関ヶ原』に

おいて、したたかな浅野長政を好演したのが、この

稲葉義男である。


 吉良の背後に控えて圧力を浅野に粘り強くかけて

くる柳沢吉保を、神山繁が厳かに勤める。


 長矩切腹シーンに、四代目尾上菊之助が悲劇美

を光らせた。



                           合掌