誇り高き挑戦 | 俺の命はウルトラ・アイ

誇り高き挑戦

 

『誇り高き挑戦』

映画 トーキー  89分 白黒

シネマスコープ

1962年3月28日公開

 

製作国 日本

製作言語 日本語

製作 東映東京

 

企画 亀田耕司 

       加茂秀男 

      矢部恒

 

脚本 佐治乾

音楽 河辺公一

 

撮影 星島一郎

美術 荒木友道

録音 内田陽造

照明 吉田一

編集 鈴木寛

 

 

出演

 

鶴田浩二(黒木)

 

梅宮辰夫(畑野)

大空眞弓(妙子)

 

中原ひとみ(弘美)

楠侑子(マリン)

 

チコ・ローラント(サム)

春日俊二(張)

山本麟一(パブロ)

安藤三男(島田)

神田隆(田嶋)

沢彰謙(東洋芸術協会の男)

八名信夫(高山の部下)

 

小沢栄太郎(大塚)

松本克平(野上)

 

丹波哲郎(高山)


 

監督 深作欣二

 

 ☆

 チコ・ローラント→チコ・ローランド

 

  深作欣二=ふかさくきんじ

 ☆

 2003年8月16日 シネ・ヌ―ヴォにて鑑賞

 ☆

 

 

 深作欣二監督の若き日の代表作である。社会

派サスペンスの本作は、権力の横暴に対する強

い怒りがあるが、更に強烈な印象を残すのは卓

抜したリズム感によって俊敏に進む演出のリズ

ム感とダイナミズムであると言えよう。

 

 「反米思想よりも、深作欣二の演出の感覚に

痺れた」と多くの先輩が書いているのも窺える。


 後の深作映画・テレビ作品にもよく出てくる「黒木

」という名のヒーローが初めて登場するのも本作で

ある。

 

 演ずるひとは、日本映画史上の大スター鶴田浩

二である。

 

 梅宮辰夫の深作作品初出演作でもある。


 

 以下筋の要約は、結末までネタバレしますので、

未見の方はご注意下さい。

 

 鉄鋼新報の記者黒木はサングラスをかけている。大

新聞の記者だったころ、事件の調査中にGHQの諜報員

高山とその仲間にリンチにかけられ、目を負傷し、傷を

サングラスで隠しているのだ。

 黒木は三原産業を後輩の畑野と共に調査し、米軍諜

報部を背後にして、東南アジアの国々に銃を輸出しよう
とすることを突き止め、そこに高山が、東南アジアの反

革命軍と三原産業をつなぐブローカーとして暗躍してい

ることを確かめる。

 

 黒木が書いた記事は米軍情報部に睨まれ、情報部

は黒木・高山両名を消すことを狙う。反革命軍の代表

と名乗りつつ革命政府に通じていた女性マリンから黒

木は情報を得る。

 

 マリンは高山の情報を米軍情報部に売ろうとするが、

高山はその動きを察知し、反革命派に彼女の裏切りを

知らせ、反革命派の刺客によってマリンは消され、その

後高山も何者かに殺される。

 

 黒木は、友人の女性妙子からサングラスを外すこと
を提案される。

 

  「気づかなかったでしょう?

    例えば目の前にいる私、
   黒木さんが好きなの。

   サングラスを外した黒木さんが。
   人間が変れば世の中だって

   変ると思うわ」
 

 妙子はこの言葉を語って黒木を励ました後、力強く歩

みだす。

 

 黒木は、サングラスを取って、日の丸の国旗をはため

かす国会議事堂をじっと見つめた。


ウルトラアイは我が命-誇り高き挑戦

 

 この映画は「象徴」表現が実に見事に生きている。黒木

のかけている「サングラス」は「心」の傷を隠すものであり、

真っ直ぐに物事を見ることの困難性と二元論のように単

純にはいかない複雑さが現れている。

 

  深作監督は十五歳の頃、「御国のために人を殺せ」と

教育されたことをよく語っていた。昭和二十年の八月十五

日を過ぎたら、戦争協力を力説していた大人達があっさり

と民主主義者・平和主義者に豹変していた。この不信感が

彼の作品の原点にある。


 

 「戦後民主主義で括られるとつらいものがありますわな」
(『映画監督 深作欣二』2003、ワイズ出版)と、『白昼の無
頼漢』と本作への想いを監督は語っている。「戦後民主主

義」の明朗さをどうしても受け入れられない。「戦前・戦中」

の傷を抱えながら「戦後」を生きざるを得ない。そうした屈折

と苦悶がサングラスにこめられている。

 

 鶴田浩二が、戦後になじめず、心の傷を抱えながら、サン

グラスをかけ続ける黒木の孤独を重厚に勤める。

ウルトラアイは我が命-鶴田 丹波

 

 演出の迫力も凄まじいものがある。高山が黒木を車に乗

せるシーンは緊張感に満ちている。青春時代戦争で苦労し

た鶴田・丹波の二大スターの演技合戦も、二人の「戦後」へ

の様々な気持ちがオーバーラップして重層的な迫力を醸成

している。
 

 冷徹で鋭敏な感性の持ち主の高山が、マリンを本気で

愛してしまったばっかりに、破滅していくドラマの展開も

鋭かった。

 


 数寄屋橋公園近くでマリンが二人の刺客によって、命を

奪われる残酷なシーンは、ロングショットで撮影され、観客

の緊張を激しく高める演出と感覚が印象的だ。

 

 畑野が黒木の探求についていけなくなって、離れること

を決意する大詰に、世代間の思想の違いが語られている。

 

 鶴田浩二の黒木は戦前・戦中派、梅宮辰夫の畑野は戦

後派を代表しているのだ。

 

 ラストシーンの象徴性は忘れられない。妙子は黒木に

愛を告白するが、黒木に「サングラスを取って欲しい」と願

う。

 

 サングラスが黒木の執念と屈曲と怒りを表している。

 

 女性から告白を受けるということは、美男の黒木におい

ても、有難いことであったに違いない。だが、そんな嬉しい

出来事に会っても、サングラスへの思いは熱い。

 

 「怒りを抑えて、一市民として静かに暮らして欲しい」と

いう民子の暖かい真心に感謝しつつも、黒木はサングラス

への心が燃えている。


 女性の優しさにふれつつ国会議事堂という権力の象徴

を見つめつ黒木。彼に対してどのような大きな圧力が今

後働いてくるのか?彼がその圧迫をどのように跳ね返し

ていくのか?熱い問いを観客の心に与えつつ、映画は河

辺公一の力感溢れるモダンジャズの音楽に乗って閉幕し

ていく。

 

 「反米」「反権力」のメッセージを語りつつ、単純ではな

い苦悶を、主人公の心の傷とともに描いていく。権力の

横暴に怒りつつも、自らの立場を正当化したり、「善」「正

義」にも置けない苦渋が、監督が人間を見つめる深い眼

差しと関わっている。

 

 ラストにおいて、国会議事堂を見つめる黒木の視線が

鋭い。


 

 鶴田浩二の現代劇の大傑作の一本である。


 

 ☆☆2013年1月7日・6月5日に加筆しました☆☆

 

                       

                           文中敬称略



 

                               合掌